高校生活二周目の彼女達が重すぎる件について   作:こーたろ

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第32話 澄川葉純が積極的すぎる

 

 とある9月の昼休み。

 校内には休み時間を謳歌する生徒達の笑い声が響いている。

 そんな中、校舎の4階……立ち入り禁止区域である屋上への入り口の手前スペースという、基本誰も生徒が来ない場所に俺は呼び出されていた。

 

 「智一君大変なの!」

 「はあ……」

 

 篠本さんに。

 そしてさっきからこの調子である。

 急に呼び出されたと思ったら、すごい勢いでまくしたててくるので、こっちがびっくりしている。

 綺麗なお顔が近くてどぎまぎしちゃうからちょっと離れてほしいかな……?

 

 「あ、あのね、寺岡君に、智一君が私の秘密を知っていることがバレちゃって、教えてほしいって」

 「なる、ほど?あいつ結構良いやつだから、言っても黙っててくれそうだけど」

 「そ、そうかもしれないけど!」

 

 寺岡とは中学の時からの知り合いだけど、全然悪いやつではない。

 カッコ良くて、運動もできて性格も良い。うん、やっぱ悪いやつだわ。けっ!ぺっぺっですわ!

 

 「と、とにかくそれでね、寺岡君が今度の体育祭の徒競走で、智一君に勝ったら教えてほしいって」

 「なんて簡単な条件。さすがに断ったんだよね?」

 「ううん、受けちゃったの!」

 「よし、じゃあ諦めて話そう」

 「なんで?!」

 

 なんでもなにも!

 寺岡は名実ともにサッカー部の次期キャプテン。運動神経も抜群で、足も当然速い。なんなら、多分クラスで一番速い。

 そんな奴に、良いとこ中の下くらいの足の速さである俺が勝負をしたところで、勝ち目がないのは明らかである。

 

 「ど、どうしても智一君以外に話したくないんだけど……ダメ、かな」

 「そ、そう申されましてもですね……」

 

 そりゃあもちろん、できることなら勝ってあげたい。

 けれど、正攻法で寺岡に勝つなんて不可能。それこそ運よくあいつがコケてくれることを祈るくらいしかやることがない。

 

 「お願い……!どうにかして勝ってほしいの……!」

 「うええ……」

 

 何か、あるだろうか。

 まあやりようによっては、できなくもない、のか?

 体育祭までは残り2週間ほど。

 

 「まあ、やれるだけのことは、やってみる」

 「ほんと!ありがとう……!」

 

 篠本さんは俺の手をばっ、と両手で握って、上下にぶんぶんと振っている。

 

 「期待はしないでね?あいつと俺の50m走のタイム1秒くらい差あるからね?」

 「うん!挑戦してもらえる、それだけでうれしいの!」

 

 本当にどうにかなるのかなあ?

 満面の笑みの篠本さんの期待に応えられる気がせず、思わずため息が出る。

 

 と、そんなタイミングでチャイムが鳴る。 

 これは、昼休みが終了して、そろそろ5時間目が始まるという予鈴だ。

 

 「あ、そういえば5時間目って全校集会だよね、行こう!」

 「そういえばそんなだったね」

 

 今日は学校にゲストを招いてお話を聞く、という中等部も含めた全校集会があり、5時間目に予定されていた。

 

 「早く早く!」

 「忙しいね……?」

 

 笑顔で手招きをする、篠本さん。

 本当に何故仲良くなれているのかわからないほどに、その姿はまさに正統派美少女だった。

 そんな美少女にお願いされているのだから、男としては頑張りたい所ではあるけれど。

 

 「寺岡に勝つ方法ねえ……」

 

 そんなの本当にあるのだろうか。

 ちょっと考えながら、早足で階段を降り始めた篠本さんの背を追って、俺も体育館へ向かうのだった。

 

 

 

 体育館で行われた全校向けの談話は、警察の方を招いて交通ルールの大事さを聞く、といった回だった。

 バスケ部とバレー部が同時に活動できるくらいうちの高校の体育館が広いこともあって、中等部と高等部どちらもの全校生徒が入っても、まだ後方には少しゆとりがあるくらい。

 

 談話が始まった。

 昼休みの直後ということもあり、眠そうな表情の生徒がちらほら。

 これを5時間目にやるというのは、ちょっと無理があるんじゃないですかね学校側さん……。

 

 30分強、動画が流れたり、警察のお偉いさんが話したり、という時間が過ぎ、ようやく終わりを迎える。

 正直俺も眠いよ。

 全体の司会を務めていた教師が、警察の方からマイクを受け取った。

 

 「ありがとうございました!最後に、中等部生徒会長澄川葉純さんより、感謝の言葉を贈らせていただきたいと思います」

 

 知った名前が聞こえてきて、一気に眠気が覚める。

 呼ばれて体育館の壇上に登ったのは、2つ結びのおさげが特徴的な、我が家に来る常連の葉純ちゃんだった。

 

 「本日は私たちのために貴重なお時間を割いていただき、本当にありがとうございます」

 

 葉純ちゃんが、普段見る姿とはかけ離れた、至極真面目、優等生然とした姿勢で、全員の前で堂々と話している。

 流石、といったところだろうか。昔から知っている身としても、鼻が高い。

 これは今度褒めてあげなきゃいけませんなあ。

 まあ、褒めたらどうせ「えっへん!葉純はなんでもできますからね!」って無い胸を張られることは目に見えているが。

 

 そんな、くだらないことを考えていると。

 

 「……あれさ」

 「……宮の……そうだよね」

 

 ……こそこそと、同級生の何人かがこちらを見ながら小声で話しているのが聞こえてきた。

 男女問わず、複数人から明らかに、軽蔑の眼差し。

 まあ、慣れたものだ。別に仲の良いメンツ以外にどう思われても、なにも思わないし。

 

 「……」

 

 隣の女子列に立っている泉さんがそいつらにガンを飛ばしている。

 だ、大丈夫だよ泉さん、俺気にしてないから……。

 

 そんなことより葉純ちゃんのありがたいお言葉、ちゃんと聞けや。

 俺なんかどうでも良いんだから。

 

 

 

 

 5時間目が終わって。

 中等部の生徒が先に出て、高等部の生徒が後からそれに続くという形で、全校集会はお開きとなった。

 

 お手洗いに行きたかったので、クラスの列からは離れて、一旦体育館近くのトイレに寄ってから自分の教室に向かうことに。

 ちょっと遅れて体育館から外に出れば、ほとんどの生徒はいなかったけど。

 視界の端に、先ほど立派に全校生徒を代表して感謝の言葉を述べていた生徒が1人で立っているのが目に入った。

 

 ……目に入ったけれど、俺は見なかったことにしてそのまま教室へ向かおうとする。

 

 「智一君」

 「……」

 

 スルーしようと思ったのに、声をかけてきおった。

 今度家で会ったら注意しないと……。

 

 「なんで無視するんですか!」

 「ほげ!」

 

 思い切り腕を引っ張られて、体勢がつんのめる。

 流石ソフト部、力強いな!じゃなくて。

 

 焦って周りを見渡すも、早々に皆教室に向かったのか、生徒の姿は無い。

 それを、確認してちょっと安堵する。

 

 葉純ちゃんと向き合えば、丸いほっぺたがぷっくらと膨れて、不満のご様子。

 

 「あのね、俺は君にフられてる設定なわけ、それなのに仲良く話してたらおかしいでしょ?」

 「私智一君フったことなんて人生で一度もありません」

 「いやまあ実際は違うけど……」

 

 だとしても、あんまりこう、学校で俺と一緒にいるのを見られることは、葉純ちゃんにとって良くないと思っていたから。

 校内で見つけたとしても、話しかけたりはしなかった。

 

 「私、もう中等部生徒会長の任期が終わるんです」 

 「まあ、そうだね?」

 

 生徒会選挙は10月。

 そこで新しい生徒会長に引き継ぐため、葉純ちゃんの任期は終わる。

 

 「じゃあ、もう別に良いですよね。私も、どう思われようが」

 「ええ……いや流石にまずいんじゃ……」

 

 いくらもう生徒会長じゃなくなるとしても、周りからの風評に関わるだろう。

 たしか、葉純ちゃんはこのまま高等部に上がると言っていたはずだし。

 

 「ゆきちゃんが言ってました。『私はお兄の妹であることを嫌だと思ったことなんか一度も無い』って」

 「……あいつ」

 

 有紀音のツンデレ具合にも困ったものである。

 そんなことお友達に言ったらブラコン認定されちゃうでしょうが。

 葉純ちゃんは、ゆっくりと俺の腕を掴んでいた手を離した。

 

 「私も、智一君と一緒にいることを恥ずかしがるような人になりたくない」

 「そうは言っても……」

 「えいっ!」

 「ええ?!」

 

 元気の良い掛け声と共に、がばっ、と葉純ちゃんが俺に抱き着いて来た。

 これはまずいですよ?!

 

 「葉純ちゃん、流石にこれはまずいかなーって……!」

 「わわわわたしはこれくらいどうってことないですけどね、お姉ちゃんなので」

 

 絶対にどうってことある震え方してるけど?!

 胸の内で、葉純ちゃんが真っ赤になってぷるぷると震えている。

 流石にこれは俺と葉純ちゃんが、とかに関わらず、普通に見つかったらまずいので一度葉純ちゃんを落ち着かせて、体勢を元に戻した。

 

 「全く、急にどうしたのよ」

 「だって……私が話してる時、見えたんです。智一君の姿が」

 

 話している時、ということは先ほどのことだろうか?

 ……え、壇上から?目良すぎない?

 

 「すごく、寂しそうな顔をしてました」

 「……」

 

 同級生にこそこそと陰口をされていた時だろうか。

 寂しそう……?

 

 「智一君はもう少し、自分を大事にしてください。智一君は平気って言いますけど、智一君がバカにされているのは、私が……私とゆきちゃんが、悲しみます」

 

 上目遣いで見つめてくる葉純ちゃんの瞳は、僅かに揺れていて。

 ……わざわざそれを言うために、待っててくれたのか。

 

 「わ、私はこれくらいへっちゃらですから。高校に入ったら覚えておいてくださいね!嫌って言われても会いに行きますからね!」

 

 では!と律儀にもぺこりとお辞儀をして、葉純ちゃんは中等部の校舎がある方へ駆けていく。

 

 「自分を大事に、ねえ」

 

 最近そういう言葉を聞くことが増えた気がする。

 泉さんにも、似たようなことを言われたし。

 

 ……別にそんなに変なこと言っているつもりはないのだけど。

 頭を数度掻いてから、俺も教室への道を歩くことにした。

 誰もいない廊下は、考え事をするのには最適で。

 

 ふと窓の外を見れば、誰もいないグラウンドに鳩が1匹、呑気に歩を進めていた。

 

 

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