高校生活二周目の彼女達が重すぎる件について   作:こーたろ

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第37話 澄川葉純が上手すぎる

 暑すぎもせず、寒すぎもせず、過ごしやすいという言葉が一番合う秋が俺は大好きである。

 朝も夕方も、割と歩いていて気持ち良いし。

 そんな気持ちの良い空気の休日に、俺はとある場所まで来ていた。

 

 「さて、ここか。けっこう大きいな」

 

 あらかじめ教えてもらっていた場所まで、電車を乗り継いでここまで来ていた。

 目の前に広がるのは野球場。それもだだっ広い敷地にグラウンドがあるような場所ではなく、ちゃんと内野席にスタンドがあるタイプのしっかりとした野球場だった。

 

 葉純ちゃんが今日は中学での最終試合ということで、応援に駆け付けたのだ。

 もう既に試合は始まっている時間。中からは応援の声やら選手達の声やらで盛り上がっている。

 

 内野席のグラウンドが見える位置に顔を出すと、少女達が試合を行っているのが見えた。

 

 「葉純~!いけるよ~!」

 「葉純頑張れ~!」

 

 どうやら、ちょうど葉純ちゃんの打席だったようで。

 良かった、と思いちょっと離れた位置から葉純ちゃんの打席を見守る。

 

 相手の選手が投じたボールを、葉純ちゃんが右打席で迎え入れる。

 振り抜いたバットが、快音を残した。

 

 ボールは天高く舞い上がり、そのまま、外野の選手の頭も超えて。

 ソフトボール用に仕切られたフェンスの上を、ゆうゆうと超えて行った。

 

 「え~……えぐすぎでしょ」

 

 俺には到底あんなバッティングはできない。

 そもそもバットにボール当たんないから。

 

 「きゃ~!」

 「葉純~!」

 

 応援席からも黄色い声援が上がっている。

 文武両道な葉純ちゃんは、男女問わず人気が高い。

 

 優雅にダイヤモンドを一周した葉純ちゃんが、観客席に向けて手を振った。

 

 

 守備側に回っても、葉純ちゃんの活躍は続いた。

 内野の要ショートを守る葉純ちゃんは、打球が飛んできても冷静に対処して。

 ソフトボールは野球に比べてホームから1塁までの距離が短いからもっと焦りそうなものだけど、余裕をもってアウトにしていた。

 

 ……なんでそんなに詳しいのかって?

 葉純ちゃんに言われて色んな試合の動画だけは見たからね。頭でっかちってやつだよ。

 

 「お兄」

 「うわあ、なんだ、有紀音か」

 「なんだって何よなんだって」

 

 端っこの方で大人しく観戦していたのに声をかけられてびっくりする。

 そこには、おそらく紫水ヶ丘中学のチームカラーであるえんじ色のシャツを着た有紀音が立っていた。

 

 「なんで、そんな端っこで見てんの」

 「なんでっておま、そりゃあ別に前に行く必要がないからじゃろ」

 

 ただでさえ、葉純の風評的に俺の存在なんて一番いらないんだから、なるべく見つからない所で見るのは当然だろう。

 むしろよくわからないソフトボール好きのおっさんだと思われていた方が都合が良いからな!

 

 「はぁ……終わった後は声かけてあげなよ?」

 「え?いやもうそろそろ帰ろうと思ってたけど」

 「絶対ダメ」

 「なんでや」

 

 別に感想だったら今度会った時に話せば良いし。

 そんな誰かに見られる可能性がある所でわざわざ話かける必要ないでしょ。

 

 「とにかくダメだから。試合が終わるまではいるように」

 「ええ……」

 

 それだけ言い残すと、有紀音はつかつかと応援席の方へ歩いていってしまう。

 ……仕方ない。この不審者スタイルあと30分くらいは続けよう……。

 

 見事、試合は勝利で終了。

 まあ、これは公式戦だけれど、夏の大会が本番ではあったようで、3年生最後の試合みたいな感じらしく、勝ち負けはそれほど重要ではないらしい。

 

 「ありがとうございました!」

 「「「「ありがとうございましたー!」」」」

 

 葉純ちゃんの挨拶に続いて、選手全員が挨拶。

 おお、これがキャプテンというやつか……。

 

 グランド整備が入って、選手たちもクールダウンを始めたので、さて、俺もそろそろ……。

 

 「智一君!」

 「うっそだろお前」

 

 声をかけられてまさかと振り返ってみると、フェンス越しに笑いかけてくるのは、もちろん澄川葉純その人で。

 え、試合終わったばっかりだよね?いつから気付いてたの?

 ってかこっち来て大丈夫なの?

 

 「どうでしたか?!」

 「……カッコ良かったよ、流石だった」

 

 もう観念して、とりあえず正直な感想を話す。

 すると葉純ちゃんは満足そうな笑みを浮かべて。

 

 「今日の夜ごはんはから揚げを所望します!」

 「ふぁ?!今日来るの?ってかから揚げ?」

 「では!」

 

 俺の困惑を全て無視して、チームメイトの元へ走っていく葉純ちゃん。

 こっちは完全にお手上げ状態である。無敵すぎるだろ。

 

 その後ろ姿を、しばらく見送ってから。

 

 「……鶏肉買いに行くか……」

 

 家に帰る前に、行くところができてしまったのだった。

 

 

 

 

 その日の夜。

 

 ちゃっかりお風呂入って来た後に、うちにやってきた葉純ちゃん。

 

 「やっぱり智一君の料理はから揚げが一番好きです!」

 「そりゃなによりですよお嬢さん」

 

 当然のように家に来た葉純ちゃんは、今目の前で嬉しそうにから揚げを頬張っている。

 小さい頬にどうやって入ってるんだってくらいいっぺんに食べてるけど。

 

 「お兄途中で帰ろうとしてたんだよ?ひどくない?」

 「ひどい!どうしてですか!」

 「いや、ほら俺の事知ってる人に見られてもさあ……」

 

 から揚げにレモンを絞りながら、ちゃっかりチクっている妹。許せん。

 

 「ゆきちゃんマヨとって」

 「え、マヨ?どう考えてもレモンでしょ」

 「私はマヨで食べたいの!」

 

 から揚げの味付けで揉め始めてくれたので、なんとかこれ以上の追及はまぬがれたようだ。

 ちなみに俺はマヨに七味派である。

 

 「お兄の味付けただでさえ濃いんだからマヨなんてかけたら塩分過多だよ」

 「それが良いの!疲れた身体にエネルギーが入る感じするから!」

 

 勢いよくから揚げをたいらげていく葉純ちゃん。

 まあ、喜んでくれるなら良いんだけど。

 

 「ほいひいれふ!」

 「飲み込んでからしゃべりなよ葉純」

 

 幸せそうにから揚げを頬張る葉純ちゃんを見ながら、昼間のカッコよさとは全然違うな、なんて思うのだった。

 

 

 食べ終わった皿を洗ってから居間に戻ると。

 

 「すぅ……すぅ……」

 

 血糖値スパイクを起こした葉純ちゃんが、椅子に座りながら眠っていた。

 ……昼間はあんなに頑張っていたのだ、疲れたのだろう。

 寒くならないように、ブランケットをかけてあげた。

 

 「お兄、葉純おんぶして送っていってあげて」

 「え?いや、しばらく寝かせてあげた方が良くない?」

 「親に21時までには帰ってきてって言われてるらしいから」

 

 時計を見ると、現在時刻は20時半。

 確かに、もう今から帰らないと21時には間に合わないだろう。

 

 「おんぶしながら歩けるかなあ……」

 「葉純が重いって言いたいわけ?」

 「いや全然そんなことないけどさあ……」

 「いいから行って」

 

 有紀音に促されるまま、葉純ちゃんを背負うことに。

 どうしてこんなスパルタな妹になってしまったのだろうか。

 

 「じゃ、よろしく」

 「はいはい」

 

 ねぼけたままの葉純ちゃんを、ひょい、と背中に乗せてみる。

 ……軽すぎるだろ。こんな軽い身体で、よくあんなに打球飛ばせたな?

 

 

 

 外は少し肌寒いものの、上着を着ていれば問題ないくらいの気温だった。

 さて、少し遠いけど頑張りますか。

 

 「……としかず、くん」

 

 起きたかな、と思ったけれど、どうやら寝ぼけているだけのよう。

 まああんなに頑張ったんだし、今日くらいは許してあげよう。

 

 「すき……」

 「……」

 

 その「すき」が、何に向けられたものか、分からない程鈍感ではないつもりだけど。

 葉純ちゃんはまだ中学3年生だし。

 それになにより、俺は単純に昔から近くにいるだけの男だから。

 

 とりあえず、聞かなかったフリをした。

 この先の彼女の人生に、俺が必要とは限らないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ごめん葉純ちゃん限界」

 「ほげっ?!なんですか?!敵襲ですか?!」

 

 結局家まで運ぶことはできずに、途中で葉純ちゃんを下ろして一緒に帰ることになるのだった。

  

 

 

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