蕨傭兵奇譚   作:e.shock

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東京の夜は、霧がかかり、幻想的な光景を生み出す。街灯の下には、影が伸び、まるで人の形をした悪夢が這い寄るかのようだ。私は、この不気味な都市の一角で、奇妙な事件に巻き込まれることになった。

 その晩、私は友人の紹介である「副」という名の小さな劇団の公演を観ることにした。この劇団は、一般的な舞台とは異なり、観客を巻き込むスタイルで有名だった。特に、その異常な舞台設定と奇妙な演技が私の興味を引いたのだ。

 公演が始まると、薄暗い舞台の上に立つ俳優たちは、まるで生ける人形のように不気味に動き回る。彼らの目は異様に生気を失い、まるで何かに取り憑かれているかのようだった。その中でも、一人の女優が私の視線を強く引きつけた。彼女の名は「須賀あかり」。彼女は、演技を超えた異常な存在感を放っていた。

 劇が進むにつれて、私は次第に不安を感じ始めた。台詞の中には、何か暗示的なメッセージが潜んでいるように思えた。観客たちの中には、まるで洗脳されたかのように彼女に夢中になっている者が多かった。公演が終わり、拍手が鳴り響く中、私は興奮と恐れに包まれていた。

 その後、須賀あかりの演技に魅了された私は、劇団の裏側に潜入することを決意した。彼女の魅力の裏には、何か恐ろしい秘密が隠されているのではないかと、直感したからだ。深夜の街を歩きながら、私は劇団の稽古場へと向かう。

 稽古場は、古びた倉庫の一角にあった。そこには、安っぽい舞台装置が散乱し、いたるところに異臭が漂っていた。私は静かにドアを開け、中に入った。すると、目の前には須賀あかりが立っていた。彼女は、まるで私を待っていたかのように微笑んでいた。

 「来てくれたのね」

 その声には、妖艶な響きがあった。私は思わず息を呑んだ。彼女の目が、まるで私の心の内を読んでいるかのように鋭く輝いている。彼女が手招きをすると、私は無意識のうちに彼女のもとへ進んでいった。

 「私たちの芝居は、本当に特別なの。演じることで、あなたも一緒にこの世界に引き込まれるのよ」

 須賀の言葉に魅了され、私は彼女の言葉に従った。だが、彼女が語る内容は次第に不気味さを増していく。人々が彼女に魅了され、狂っていく様子を詳述されるにつれ、私は恐怖を覚えた。この劇団は、ただの芝居ではなく、何か恐ろしい儀式を行っているのではないかと。

 その瞬間、劇団の他のメンバーが集まってきた。彼らは無表情で、須賀の周りを取り囲み、まるで彼女を崇めるかのように見えた。私はその異様な光景に、言葉を失った。須賀あかりの目が私を捉え、まるで私の存在を知っているかのような不気味さを感じた。

 「あなたも、私たちの仲間にならない?」

 彼女の言葉は、甘美でありながらも、どこか背筋を凍らせる響きを持っていた。私はその誘いを断り、逃げ出そうとしたが、他のメンバーが私を取り囲んで道を遮った。彼らの顔は、まるで変わり果てたもののように、笑顔を浮かべていたが、その目には異常な光が宿っていた。

 「逃げる必要はない。私たちはあなたを必要としているの」

 その言葉が、私の心に冷たい刃を突き刺した。私は必死になって抵抗しようとしたが、心のどこかで須賀あかりの魅力に引き寄せられているのを感じていた。脳裏には、彼女の演技が映し出され、私の意思を蝕んでいく。

 その時、私は気が付いた。周囲の人々が口にしているセリフの中に、何か魔法のような力があったのだ。彼らの言葉が、私を縛り付け、心を侵食していく。私はその場から逃げることもできず、ただ須賀の目に魅了されていく。

 その後、私は劇団の一員として迎え入れられ、日々の稽古に身を捧げることになった。しかし、私の心は徐々に曇り、他のメンバーと同じく、須賀あかりに完全に心を奪われていった。彼女の演技は、私を異次元の世界へと誘い、現実を忘れさせていく。

 だが、ある晩、私は夢の中で彼女の過去に触れることになった。須賀あかりは、実際にはかつての名女優であり、成功を収めたが、ある事故によって精神を病んでしまったのだという。彼女は、失った自分を取り戻すために、舞台の上で他者の心を巧みに操る力を身につけていた。

 その真実を知った私は、恐怖に駆られた。彼女の周りに集う人々は、彼女の異常な魅力の虜となり、次第に精神を蝕まれていく。彼女は演技を通じて、人々の心を食い尽くしていたのだ。

 私は、このまま彼女の手中に落ちるわけにはいかない。心の奥底で、自己を取り戻す決断をした。夜明け前、静かな稽古場を抜け出し、須賀あかりから逃れようとした。その瞬間、背後から彼女の声が響いた。

 「逃げるの? あなたには私が必要なのに」

 振り返ると、彼女は目を輝かせ、まるで私を手招きしているかのようだった。私は恐怖に駆られ、逃げるように倉庫を飛び出した。だが、まるで影が追ってくるかのように、須賀の幻影が私の背後に迫りつつあった。

 私は逃げ続け、とうとう街の闇に飲み込まれた。冷たい風が頬を撫で、夜の静けさが私の心を覆った。だが、心の奥にある須賀あかりの呪縛は、決して消え去ることはなかった。彼女の魅力、彼女の存在は、私の心の中で、いつまでも生き続けるのだ。

 その後、私はこの都市で別の人生を歩むことになった。しかし、須賀あかりの影が私の心に刻まれ、夢の中で彼女が囁く声が、今もなお耳に残っている。それは、私が逃れられない「副」としての存在であり、彼女の魅力から逃れることのできない宿命を象徴していた。私の心に秘められた奇譚は、暗闇の中で静かに息を潜め続けるのだった。

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