需要があるかはわかりません。
こないだ、うちのエースとリベロが帰ってきた。
そこに特段の驚きはない。
なにせ奴らはバレーボールが大好きなのだから。
大好きなものからいっとき離れることはあっても、忘れられるはずもない。
それに、継続した高負荷の筋トレという俺にはちょっと向いてないタイプのトレーニングをしてもなお追いつけないパワーとタッパを持つエースの復帰は、つまり最高の練習相手の復帰を意味していた。
「旭さん、ブロックしてください。ぶち抜くんで」
「えぇ…お前もうちょっと言い方なんかない…?」
「?」
「はっはっは!さすが清水!やっぱお前はそうでなくっちゃなぁ!」
「…なんだよもっかいトス呼んでくれエースって言えば良いのか?」
「何回もいじんじゃねーよ!お気に入りか!?」
「うん」
「くっ…」
お前その清水さんそっくりな顔でまじまじ見んじゃねーよ、とノヤが言った気がしたが無視。
練習練習。
貴重な合宿期間。
時間は無駄にはできないのだ。
「あ、ちょうどいいから月島も飛んでよ」
「なんで僕が…」
「…?怪我すんのがこえーの?」
「………………やります」
「ちょろ」
●
基本的に、清水夢斗にそこまでのパワーはない。
だから彼は、身体の使い方を学んだ。
誰よりも早く、誰よりも正確に。
並の筋力でも、100%ロスなくボールに乗せられるなら、それは時に力自慢の攻撃を容易く超える。
常に100%。
重力を制し、指の先までをナノ単位で操り、空間を支配する。
それができて初めて、清水夢斗は試合に出れる。
少なくとも、本人はそう思っていた。
「──────ッ!!!」
ぼご、と。
古くなっていたボールが破裂する。
自分のアタックをブロックしようとして力負けした福永を、夢斗は静かに見下ろしていた。
福永をというか、相手を吹き飛ばした瞬間に螺旋丸の修行に使ってたゴムボール並の破裂をしたボールを見つめて一言。
「やべ、壊しちった…」
「壊しちった…じゃねーよ!化物か!?」
驚愕で目を見開くと言うか、普通にドン引きする音駒の代わりに田中が突っ込むも、化物は相変わらず平然としていた。
「えっと、この場合ってどうなるんですか?」
「あー、それはだな」
監督でありながら、まだまだバレーボール初心者な武田の言葉に、烏養は頭の中の情報を噛み砕いて伝えていく。
ボールデッド。
いわゆる試合中断。
反則やその他の理由でプレーが止まることを指す。
ルールブックには当然ボール破損時の取り決めも記されているが、このルールを適用している瞬間を烏養はその目で初めてみた。
というかボールがプレー中に破裂する瞬間を初めて見た。
やばこいつ、みたいな感想はとりあえず胸にしまった。
「サーブからやり直し、だな」
これほどの素養がありながら、体質の問題で試合に出続けられない。
その勿体なさに、一番歯がゆい思いをしているであろう本人を慮って、烏養は思わず歯を食いしばった。
「まさか俺のボールブレイカーが暴発しちまうとはな」
「なにそれかっこいい!」
「ちなみに別名ボールデッドモンスターとも呼ばれていて」
「おい、清水。まずは備品を壊した謝罪だ。な?」
「壊れるのが悪いみたいなとこないですか?」
「こら!」
当の本人は、後輩の日向とはしゃいでキャプテンに怒られていたが。
●
(ああ…あれはダメなヤツ)
音駒の頭脳、研磨はネット越しに夢斗を観察しながら思考を組み立てていく。
先に本人からは聞いている。
活動限界というその枷の話を。
オールマイトかな?みたいな研磨のサブカル脳はさておき、実際問題この化け物の対策は急務だった。
時間制限がある。
…それがどうしたというのだろう。
この化け物が攻略できずにいるということは、確実に1セット目を持っていかれることを意味する。
それは美味しくない。
せめて攻略の糸口だけでも今回の練習試合で掴んで帰りたかった。
とはいえ、ボールを破壊して平然としている化物は、先程よりもギアを上げて好戦的な笑みを浮かべている。
プレーは静かで美しいのに、その灼熱はあまりにも喧しい。
「さ、こーい!!」
猛虎のサーブが放たれ、狙われたにも関わらずセンターの真上に緩やかに上がるボール。
そして。
「力技だけだと思った?」
直後に放たれるAクイック。
ブロックがなかったわけじゃない。
その隙間を埋めるようにリベロの夜久もいた。
だが、誰も触れられなかった。
存在感とは裏腹にあまりにも静かなそのプレーは、その緩急に脳が錯覚を起こして反応がいつもより遅くなる。
あるいは、セッターの影山すら反応が置いていかれそうになっていた。
紛れこんで、悟られない。
意識から抜け出し、早くしなやか。
その軽やかさは猫のそれとはまた違う、鴉のそれ。
力でねじ伏せるために磨き上げられた翼と、強靭な爪による上空からの奇襲。
その翼の手入れは完璧で、羽音が一つもしないというのが問題だった。
圧倒的な視野によって打ち分ける能力も持ち合わせた選手としての完成度を前に、飲まれかけた音駒全員を現実に引き戻したのは黒尾だった。
「はいはい呑まれない。取り返せばいいだけでしょ?どんなに一人が強くたって、チームとしては俺達のほうが強いんだって忘れんな」
その宣言通り、彼は一人時間差で1点を即座に取り返してみせる。
それでも結局、怪物清水夢斗の攻略方法は見つからず、彼以外を崩して取るという消極的な案を持って第1セットは終了した。
(これが、ラスボス…)
攻略してみたいと思わせる翔陽とは真逆の、こいつとはやりたくない感。
ステータスの暴力とでも言うべき隙の無さ。
研磨はそれでも諦めず最後まで観察を続けていた。
●
「あー…しんど」
2セット目。
日向が色々試していたり、もう一回!とリベンジをやっていたりするのを、俺は一人コートの外から眺めていた。
苦痛だった。
ずり落ちたタオルを直すために腕を持ち上げることすら億劫になる身体の重さも、目の前で楽しそうにバレーボールをしている仲間を見せつけられるのも。
どれだけ点を取ろうが、どれだけスーパープレイをしようが、俺はいつだって試合に勝てたことがない。
チームとして勝てるならギリギリ許せる。
そういう時なら、死にかけながらでも笑顔を見せよう。
だが、負けた時。
俺に対する申し訳なさを見せるチームメイトの顔が俺は何よりも嫌いだった。
「おい、夢斗!なんだそのご褒美タイムは!?」
「姉からの膝枕は別にご褒美じゃないんだよなぁ」
なので、嫌がらせも兼ねて俺はベンチで姉に膝枕をされることにしていた。
ははは、悔しかろう?
俺がこんなに苦しんでるのにお前らが何も苦しまないなんて許されないんだから、この光景は絶対に見せつけるんだぜ!という割と最低な気持ちを込めて、俺は満面の笑みで田中にサムズアップした。
「ぐわぁぁぁムカつく!!」
「田中集中!」
結局試合にはトータルで負けたが、俺はチームメートへの勝利を手にすることができた。
それだけでも、この練習試合に価値はあったと言えるだろう。
たぶん。
知らんけど。
少なくとも、その日のうんちは快便だったしよく寝れたのでオーケーということにする。
「人の膝枕使っといてその感想は何?」
「弟に喜ばれても嫌でしょ」
「まぁそうなんだけど…」
「?」
思いつきを脳死で出力してるせいでローテがあってるかの確認が大変。
化物出場中は1年生ズのどっちかがスタメンから外れてます。
そんな感じの誰得小説ですが、もし気が向きましたら感想や評価頂けると嬉しいです。