(ねー、なんであの人試合でないの?)
(一セット目あんなに強かったのにね)
(代わりに出た人かわいそー。これで負けたら自分のせいってことみたいになるじゃん)
(同情とか?)
(あー、3年生だからってこと?ありそー)
顔面にバレーボール叩き込んでやろうかコイツら。
そんな苛立ちも、動かない身体の奥底に沈んでいって意味はない。
…俺は、この瞬間が何よりも嫌いだった。
ブロックに捕まるエース。
精彩を欠いていくセッター。
顔を曇らせ、口数の減る先輩たち。
いつもあんなに元気な同輩たちもだんだんと沈んでいく。
その反面、観客席から聞こえてくるヒソヒソ声だけは増えていくのだからやってられない。
「…………………チっ」
ああ、本当に。
何もかもがうざったい。
嫌いだ。
大嫌いだ。
───ただ見ているしかできない自分の弱さが、俺は本当に大嫌いだった。
●
「月島。お前に覇王色の覇気を教える」
「……………はぁ?」
しゅん、とウキウキで近づいてきた先輩の顔が露骨に沈んだのを見て、月島は反射で出た失言にあとから気がつく。
「すみません、普通に意味がわかんなくてつい」
「……他の先輩への態度とちがくない?」
「やだなぁ、信頼してるんですよ」
「なら尊敬してるところ言ってみろよ」
「………」
「せめて一個は出して?」
ムカつくなこいつ、と露骨に顔を出しながらも、まぁいいかと流すことにしたらしい。
この先輩の無駄口を叩きつつも、時間を無駄にはしない効率的なところは嫌いではなかった。
むしろ、必要なことだけを伝えてくる先輩とのコミュニケーションは嫌いではなかった。
懐かれたのか、最近無駄口が増えた気もするが。
自分より少し背の低い先輩はそのまま月島の腕を掴むとネットの前に引きずり出した。
「月島は身長が高い。…なのに、旭さんも俺もあんま止められたことないよな。なんでだと思う?」
なんでと聞かれても。
「才能の差ってやつですよね」
「…………………お前さぁ」
至極当たり前のこととして口にした答えは、先輩にとって気に食わない物だったらしい。
マネージャーの清水さんとそっくりな顔を不服そうに歪ませると、肩を小突かれた。
への字の口もとからは、露骨にため息まで吐き出される始末。
なぜそこまで不服そうにするのか月島にはわからない。
自分には東峰のような身長とパワーも、清水のような正確無比な身体操作を行う才能もないのだから。
これが才能の差と言わずに何というのだろう。
才能を理由に逃げるつもりはないが、差を直視しないのもまた愚か者のすることだ。
「バカ。おたんこなす。お前はホントに分かってないな、やれやれ」
「やれやれとか口にするの恥ずかしくないんですか?」
「うっさい!…いいか?お前は頭と目が特別いい。よく見て、よく考える選手だ」
「………」
「それでいて背まで高い。最高だ。逸材なんだよお前」
「言っている意味が───」
わかりません、と続けようとして、その先輩の真っ直ぐな瞳を前に言葉が喉から出てこれなくなった。
「パワーとかバネとか、ごちゃごちゃいらねーから。俺の真似をしろ。研究しつくせ。そうすりゃそれだけでお前は最強の壁になる」
気持ちいいぜ、ドシャットは。
そう言って笑う先輩は、やけに大きく見えた。
「なんせ俺は才能に満ち溢れた超スーパエリートなフルアームズでパーフェクトなオールラウンダー大明神だからな。お手本には最適ってわけよ」
「すみません何を言ってるのか分かりません」
「お前俺のスマホとおんなじ事言うのやめろよ」
●
散々見てきた。
届かない存在を追いかけるなんて馬鹿らしい、という考えを一度捨てる。
化け物や敵わない存在ではなく、手本として認識を改め、観察しなおす。
見る。
相手のボールを待つ姿勢、スタートの切り方、走り方、飛び方、空中での姿勢。
見る。
改めて、本当にすべてが美しかった。
無駄がない。
そぎ落とされ、突き詰められたその動作を前に、目が眩みそうになるところを踏みとどまる。
憧れるな。
実現しろ。
見る。
コートの真反対まで走り抜けた日向の変人速攻に追いついて壁として叩き落とすところを。
見て、真似る。
腰は少し低く。
かかとは上げて、手は広く。
真似る。
走り出しは静かに。
踏み込みは深く。
踏み出した1歩目からトップスピードに乗るその踏み切り方。
そして移動に使った勢いを殺さずに、重力を振り切るその飛び方。
真似る。
空中では手を少し前に。
決して気持ちよくは打たせない…だけじゃない。
止めてみせるというプレッシャー。
真似る。
何度も失敗しながら、その度に情報を修正していく。
確かに、バネもパワーもいらない。
ただ真似るだけで自分の完成度が上がっていくのがわかる。
そして同時に、身長に言及した意味も。
月島蛍はあの先輩よりも背が高い。
つまり、理論上。
同じ速さで動けるなら、自分は先輩よりもブロックがうまくなる。
とは言え相手コートにいるセッターは天才で、最強の囮とエースの揃ったチームを前に何度も弾き飛ばされ、何度も振り切られる。
それでも真似る。
学んで、砕いて、取り込んで、越えろ。
疲労で頭が余計な思考を排除していく。
冴え渡り、コートの隅まで自分の意識が届くのがわかる。
そして、その時は来た。
「ぐぅ、クソ…!」
「…………………なる、ほど」
耳が痛くなるほどの静寂が心地良い。
吹き飛ばされかけた。
手のひらが焼けるように痛い。
完璧なトス完璧な踏み込みだった。
だが、読み切った。
音駒の時のように目線に釣られることもなく、最強の囮に釣られることもなく。
ボールの位置。
点差、ローテ、守備位置。
相手の心理…だけじゃない。
重心移動。
自分の身体を操るために学んだその理屈が、相手の姿勢や足の位置から次のプレーを予測するための一助になる。
これまで…というか今日既に何十本とはじき飛ばされてきた本気の東峰の打ち込みを、何度も振り切られてきた天才のトスを捕まえて、自分が相手のコートにたたき落した。
「───たしかに、これは。気持ちいいですね」
「だろ?」
たかが部活。
限界を知るのは今も怖い。
でも、自分のこれまでの努力が報われ、限界を一つ超える感覚は嫌いじゃなかった。
「夢先輩!俺は、俺はなんかないんですか!?」
「んー、見聞色の覇気とか?」
「えー!月島は覇王なのに!?」
「いやいや、見聞色さんだって強いんだからな?」
バレーボールが好きだ。
そう全身で語る二人の会話を聞き流しながら、月島は笑った。
今なら少しだけ、その気持ちがわかる気がした。
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思いついた話を投げ込んでいく方式なので皆様の需要に応えれることは稀かと思いますが、たくさん感想や評価もらえるとモチベになるのでよろしくお願いします!(いつもの乞食)