伊達工戦やろうとしたら1セット目の敗北の天才さんと2セット目の最強の囮さんが暴れすぎて何もできなかったのでカットになりました。
同級生の清水夢斗は天才だ。
同じく同学年ののやっさんもまた天才だが、夢斗の場合はそれを越しての天才だ。
心の底からそう思う。
間近で見てきたからこそ、余計に。
今は後輩が夢斗の代わりに試合に出ているが、その役目はこないだまでは自分だったのだ。
田中龍之介は、平凡だ。
周りの人間はいやどこが?と口をそろえていう負けん気があるのはさておき、少なくとも本人はそう思っている。
バーター。
清水夢斗の代理にもなれない端役。
お前が出てきてからの烏野が弱くて負けた。
そんな風に揶揄する声を、田中は確かに聞いたことがあった。
「…悪い、お前が出てたら」
「……………………うるへぇな」
エースが鉄壁につかまり、チームが沈んだあの日。
ぶっ倒れるようにベンチに引っ込んだ夢斗に迎え入れられるように、全員が下を向いていたあの瞬間に思わず口をついた言葉。
いつも通りタオルを顔にかけて、天を見上げる夢斗は口をへの字に曲げた。
「…俺が出てたら田中より活躍してた?旭さんもブロックに捕まらなかった?───ざけんなよ」
げほ、ごぼ。
そんな痛々しい咳をしながら、夢斗が立ち上がる。
「俺のチームメイトをバカにすんじゃねえよ」
田中龍之介は覚えている。
いや、きっと当時の烏野全員が覚えている。
「勝手に自分たちだけで負けた気になってんじゃねえよ」
血が滲むほど拳が握りしめられ、目に本気の悔し涙を浮かべながら、それでもこちらを真っすぐに見つめる敗北の天才の姿を。
「俺も混ぜろ、その後悔に。……置いてかないでくれ」
田中の胸に叩きつけられた、あまりにも弱々しいその拳に灯った熱を、忘れたことは一度もない。
●
「俺にトスを教えてください」
「……えー?お前も?つーかなに?俺セッターじゃないけど」
「…でもできますよね?」
「…………………や、できるけど」
月島がリードブロックのレベルを1段階上げて、わりと日向が捕まるようになった頃、夢斗は影山に絡まれていた。
「んー、今の影山にできるアドバイスなぁ…」
考えながらも、夢斗の動きは止まらない。
正確無比。
機械のように全く同じ姿勢から放たれるアタックは、それでもコースのあらゆる場所へと叩き落されていく。
「とりあえず次速攻で」
「はい」
CクイックにAクイック。
日向とは別の意味で、夢斗はトスの上げがいのあるアタッカーだった。
自分が思い描く通りのドンピシャ。
まるで自分が神の指揮者になったかのような錯覚を起こすほどの快音。
「──────!」
そして、直後上げる直前に夢斗の姿が掻き消える。
コートの端、めいいっぱい。
こちらを見てすらいない。
この世で一番美しい鳥は、こちらの手を離れて空を舞う。
そこに、ボールを届けることすら躊躇うほど完璧な飛翔。
それでも、本能がそこに合わせるようにしてボールを運ぶ。
───快音。
「いや教えることなんてあるか?………あれ、おーい?」
「…………」
余韻に浸る影山が現実に戻ってくるまで数秒。
死ぬような特訓が始まるおよそ三分前の出来事だった。
●
───旭さんは、ただ丁寧に上げるだけでいい。
ラリーが続いてきたら、力を抜いて、できるだけ助走の余力を残してやるくらいかな。
───大地さんは、意外とパワーもバネもある。
だから、堅実なだけじゃなくて速攻もできるし、少しネットから離してやれば冷静に決まるコースを選んでくれる。
あの人守備だけじゃなくてなんだかんだなんでもできるからな。
してみたいコンビネーションあるなら聞いてみな。
たぶんやってくれるよ。
───田中はどんだけブロックに捕まってても上げていい。
むしろ捕まれば捕まるほどあいつはギアが上がって相手のブロックを壊してくれる。
ブロック壊しゃあこっちは勢いに乗れるし、相手は田中と真正面からやり合おうとムキになってくれるから速攻も決まりやすくなる。
お得だな。
───月島は無自覚にセーブすることがあるから、時折いつもより少し高く上げる。
これだけで相手のブロックは最高到達点の修正を考えて、飛ぶタイミングに迷うようになって、月島単体でも決まるようになる。
あいつは色々考えるやつだから、その余力は残してあげたほうが楽しいぞ。
───日向?ああ、まだ無理。お前の意識改革もいるから。これまで通り普通の速攻と変人速攻の使い分けくらいでいいぞ。
できる、と思った。
同時にやはり手本として見せられたこの人の上げるトスは完璧で美しくて、少し嫉妬した。
だが、練習でできていたことも試合で実践しようとして悟る。
試合中、常に味方のパフォーマンスを頭の中で並べて、常に選手ごとの最適なトスを上げるシミュレーションをしながら相手の守備とブロックの計算をして、実際のトスを上げることがどれほど大変か。
元々相手を見ていなかったわけではない。
元々味方を見ていなかったわけでもない。
だが、完璧を求めるなら自分の細部に神を宿らせなくては追いつけない。
ボールの回転。
ついている汗と滑りやすさ。
場所の明るさ、音の揺らぎ。
味方がしている助走の距離。
自分のスタミナ、味方のスタミナ、敵のスタミナ。
ブロックの高さ、誰を意識しているのか。
点差と最善手。
相手が何をされた嫌なのか。
そして自分の理想ではなく、相手の理想。
セッターのあげたいトスではなく、アタッカーの打ちたいトスを丁寧にあげること。
処理する情報が三倍近くに膨れ上がり、同時にそれを高速で処理していくことで自分の冴えが上がっていくのが楽しくて、気が付けば鼻血を出しながらトスを上げていた。
そして、鼻血を理由に下げられたベンチで見ていて思う。
菅原先輩のゆとりのある堅実なトスで烏野が息を吹き返すのを見て、思う。
セッターは一人で全部する必要がないのだと。
日向に関して何のアドバイスもしなかったのも頷ける。
なぜなら、変人速攻はお互い他人任せの不完全な速攻だからだ。
それを悟ったのは、青葉城西高校に負けてから。
烏野 - 青葉
25 - 11
16 - 25
30 - 32
迫るものはあった。
何かが違えば勝つこともあっただろう。
途中、及川さんとピンチサーバーになった夢斗先輩のサーブの応酬で凄まじいスコアとなっているが、それでも、それはすべてたらればで。
烏野は負けた。
俺たちは、各々が悔しさを抱えながらコートを去ることになる。
1セット取られてから始まる烏野戦とかいう無理ゲー感。
なんでこんな化け物放り込んだんですか?(現場猫)