旭さんの内面をこねくり回してたらだいぶ間が空いてしまいました。
…でもまぁほら、この小説ってこんな感じで間が空く前提のやつだから…クオリティも安定しないし…(言い訳)
とんでもない後輩が入ってきた。
最初の印象は、決して良いだけのものではなかった。
派手で華やか。
だが、敗北を宿命付けられたその体質。
そんな後輩に、何の迷いもなくエースと呼ばれることへの違和感は膨らみ続ける一方で、同時に後ろめたさも当然あった。
自分よりもうまいアタッカー。
それでいてサーブも、ブロックも、トスもできる。
どれだけ本人がその体質を克服するために限られた時間内での積み上げを行ってきたかを知っている人間に、嫉妬は許されない。
なぜなら、あの後輩を突き動かすその原動力こそが嫉妬なのだから。
彼と違って力がある。
彼と違って健康な身体がある。
彼と違って時間もある。
自分たちが彼に劣るのは、彼に費やした時間と労力に自分が及ばないから。
あの日、伊達工に敗北して、一度頭を冷やしたくてバレーを離れた。
それはトスを呼べなくなった自己嫌悪…だけじゃない。
───勝手に自分たちだけで負けた気になってんじゃねえよ
そうだ。
自分たちはあの瞬間、確かにあの後輩を置き去りにした。
あの後悔は、憐れみだ。
試合に出れなかったものへの向けてはならない感情だ。
『清水夢斗が出ていれば勝てた』なんて。
結果がどうあれ、自分たちは同じ目線で悔しがるべきだったし、その敗北の原因を出れなかったやつの体質に預けてはいけなかった。
そんな無責任な自分が嫌で、許せなくてバレーを離れた。
なのに、だというのに。
『旭さん、ブロックしてください。ぶち抜くんで』
平然と宣う後輩は、変わらなかった。
むしろその鋭さを前よりも増して、自分の後ろにいた。
美しいフォームから放たれた砲弾に吹き飛ばされた掌が熱い。
燃えるような痛みに、なぜか笑みが漏れた。
『吹き飛ばされて笑ってる…こわぁ』
『…ったく、そんなに俺がいなきゃ勝てないとか思うなら、俺が五百点取ってやりますよ』
『だから、もっかいトスを呼んでくれよエース』
この痛みを、東峰旭は忘れない
敗北の天才がエースと呼ぶにふさわしい人間として、何度だって壁を越えていこう。
『俺がエースって呼ぶ人、あんただけなんだから』
そんな決意で挑んだ伊達工との試合は、あまりにもあっさりと勝ててしまったせいでどうにも不完全燃焼感はあったが。
青葉城西で、結局十点差をサービスエースで取り戻してもらっておきながら負けた試合で、その決意はより強固なものになった。
果たして、そんな決意を胸抱いた先輩は、受験に集中するためにもう一度あるチャンスを諦めるのか、と言われたらそんなわけもなく。
「旭さん暇だから対人しません?」
「お前なぁ…三年の教室に来てまで言うことそれぇ?普通やめないですよねとか残ってくださいみたいなイベントが入るやつじゃないの…?」
「えー?うちのエースがバレー辞めるわけないじゃないですか。少なくとも高校の間は」
「…まぁ、そうなんだけど…ほら、あるじゃん?」
「あーもう!めんどくさい彼女みたいなこと言ってないで早く行きますよ!まじ暇なんすよ!」
(なんか東峰君が可愛い女の子に絡まれてる…)
(誰…?)
(絵面がやべーな)
(美少女尊い…)
烏野の3年生達は、春高を目指して再び体育館へと足を踏み入れた。
●
「影山」
「あ?」
「───…ぎゅん!って方の速攻…おれ、目え瞑んの辞める」
「へぇいいじゃんやれば?」
「「えっ」」
赤点を取るような馬鹿ではないので、俺は普通にテストをパスして。
ついでにバカな後輩と同級生たちの勉強会に毎日付き合って。
なんか新しいマネージャーも入ってきて。
全員赤点回避してさぁ遠征だ、となった初日。
朝から元気に飛び回っては負けてを繰り返してきた日向が唐突にそんなことを言い放った。
「…なんで言った方の日向まで驚いてんのかしらんけど、お前らの赤点速攻はそろそろどうにかしたいと思ってたんだよね。ようやく意識改革ができたみたいで大変よろしい」
赤点速攻、と言われて悔しそうな顔をしながらも黙り込む2人を見て俺は満足げに頷く。
どうやら青葉城西に負けたあの試合は、無駄ではなかったらしい。
いいじゃん。
幸い試合に出ないけど罰ゲームは受けるという方法で、最後の一試合を余すことなく楽しむために取っておいた体力があるので、全力で暴れる準備はできている。
かわいい後輩たちのために一肌脱ぐのも先輩の役目だろう。
…あと、なんかこのまま放置すると喧嘩とかしそうだし。
「手本見せてやるよ。でもいったんアタッカーで無双してからな。さすがにフラストレーション解放させてくれ?」
相手は梟谷。
相手にとって不足はない。
「おうおうおう!さっきまでベンチにいたのに俺等を相手に無双宣言とは生意気な2年だ!…2年だよね?」
「そう聞いてますけど」
「よー、散々見てきたぜあんたのスパイク。羨ましいぜ、何もかも凄くてよ」
「お、おう…」
喧嘩売ってるのにそこでなんで照れる?
「でも、俺のがつえーから。なんならうちの先輩たちのほうがすげーから。覚悟しろよ」
「こら清水!他所に喧嘩売るのやめろっていつも言ってるだろ!」
大地先輩に怒られ引きずられながらもカッコつけ続けた俺は、そのあと田中にクソ煽られて顔を真っ赤にする羽目になるわけだが、まぁ些細なことだろう。
試合だ試合。
●
清水夢斗の所作に無駄はない。
強豪の集まるその体育館で、彼は全員の目を釘付けにしていた。
「…あー、よし。気持ちいいなおい。なんでそれが日向にはできなくなるのかしらねーけど」
ドンピシャのトス。
新しく入った音駒のリエーフと同等の最高到達点。
割れんばかりの床とボールの衝突音。
既に5本目だと言うのに、ブロックは間に合わなかった。
リベロは届かなかった。
圧巻、という言葉がここまで似合う男も珍しい。
「よし、満足したし俺がトスあげるから影山は見てな」
「……………………ウス」
「うは、超嫌そ〜。ま、1回見せたらすぐ元のポジションに戻るよ」
傍若無人。
他のチームもいる練習試合で許されていい暴挙ではなかったが、その暴挙を許してしまえるだけの説得力が直前のアタックにはあった。
見て、測って、研究し、奪う。
烏野は弱く、周りが全員格上であるのだから、師であると思えと武田先生はいった。
ならば、全員の視線を独り占めにする男が、技を盗まれる側になるのも当然の話。
ようは、お前の勝手を許すから、お前の持つ手札をもっと見せろという。
貪欲な選手たちと監督たちによる暗黙の了承。
それを鼻で笑いながら、夢斗はコートの真ん中で伸びをした。
「日向、お前いつも通り突っ込んでこい。目ぇかっぴらいてな」
「押忍!!」
異様な空気の中、烏野からサーブが放たれ返ってくる。
とんでもない才能を見せられてテンションの上がった木兎のスパイクを、当然のように夢斗がブロックで触れて、少し崩れたレシーブが上がった。
「こうやんだよ、トスは」
完ぺきなセットアップ。
ボールに吸い付くように指が添えられ、音もなくトスが走る。
飛び出した日向と、何一つ無駄にしないために睨みつけていた影山、そしてその試合を食い入るように見ていた選手たちは見た。
「ボールが、止まった…?」
「うおおおおおおお!すっげえええええええ!?」
「っかー!セッターやらせても超一流とか腹立つな本当に!」
全てを振り切った日向の真正面で、ボールが止まった。
アタッカーの最高到達点をボールの最高到達点にするセットアップは、本職のセッターたちすら唾を飲み込むほど美しい。
当然、まだ頂での戦い方を身につけていない日向のボテボテの速攻は普通に拾われ、今度こそ木兎のスパイクが全てをねじ伏せて決まったわけだが、それでも。
───雛鳥と金の卵の進化は、もう間近。
それを予感させる絶技は、強豪たちの中で烏野への警戒心をさらに上げさせるのに十分だった。
試合で活躍しないからどれだけ才能は持ってもいいだろと思ってる作者です。