敗北の天才。   作:ひつまぶし太郎

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最終回ではないと思いますたぶん。
スキップされた試合結果
和久南…普通に一セット目化け物が暴れて勝ち。大地さんケガした時狂犬がキレた。
青葉…2試合目なのでずっとピンサー。サービスエース20本。でも試合展開には一切関わらず。



才能衝突

 

 

 

俺はバレーが好きだ。

大好きだ。

フルセットの試合をすることができなくても、バレーボールが好きだと言える。

練習試合で縁を持てた梟谷も音駒も、もちろん青葉城西も和久谷南も浄善寺もみんな素晴らしいチームだったと手放しで言い切れる。

 

そうだ。

俺はチームメイトが好きだが、相手チームも好きだ。

バレーボールを一緒にできる仲間が好きだ。

 

だからこそ俺には一人だけ、世界で一番嫌いな選手がいる。

 

才能も認める。

その努力も認めよう。

バレーへの愛だって痛いほど知っている。

 

それでも。

俺は、牛島若利だけは認められない。

チームメイトを省みない、個人を突き詰めたプレーを王道と思い込むその傲慢さを認められない。

 

これは嫉妬だ。

持たない者が目を焼かれるほどの天才に抱く、醜い嫉妬だ。

八つ当たりで、お門違いの嫌悪感なのは百も承知。

それでもやっぱり相容れないのだ。

 

『…俺と同格の才能を持ったやつがいる、と聞いて見に来てみれば。なんだその体たらくは』

『あ?』

『お前がいなくては勝てないチームに何の意味がある?そして、どれだけ才能があろうが最後までプレーできないお前に、俺は同格などと呼ばれたくはない』

『てめぇ…』

『ここに、見るべきものは何もなかった。失礼する』

 

さて、試合だ。

俺の大好きなバレーの時間だ。

と言っても、もう5セット目の中盤なのだけど。

 

「なぁ姉ちゃん」

「なに?」

 

一セット目は競り勝った。

そして、宣言した。

 

───俺は必ず戻って来ると。

 

「頭撫でて」

「いいけど…」

 

即答で頭に乗せてくれた手を、俺は目をつぶって受け入れる。

思えば、なぜかバレー部のマネージャーをしているうちの姉とも遠くまで来たものだ。

今や全国一歩手前である。

 

「…よし、元気出た」

「あっそ」

「元気百倍ワンパンマン。ちょっと牛島蹴散らしてくるぜ」

 

後ろで姉が小さく笑った気配がする。

なんてことない、いつものコミュニケーション。

 

それのおかげで補充できた気力で、ふらつきかけた身体を無理矢理持ち上げた俺は、大きく足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

『牛島、転倒───!?』

 

今まで表情を大きく動かすことのなかった牛島若利の顔が、大きく歪む。

尻餅をついて、信じられないものを見るかのように夢斗を見上げる姿は、周りの人間から初めて年相応に見えたことだろう。

 

「よぉ、挨拶代わりのブロックで尻もちつくなんてずいぶんとお疲れみたいだな」

「おまえ…は」

「そういやさ、俺があんたと同格みたいな事言うやついるじゃん」

 

君臨する。

敗北の天才が、常勝の天才を踏みつけて、嗤ってみせる。

 

「俺もあれ、大っ嫌い♡」

 

月島蛍の手が裂けて出血し、代わりに出てきたぼろぼろの弱者。

限界でないものはコートの中に誰一人いない。

それでも、誰よりも限界の先にいるその少年は、誰よりも強い存在感を放っていた。

 

その強さは、孤高にはほど遠い。

一人では絶対に勝てない敗者の咆哮。

 

だが、弱者が勝てないと誰が決めた。

 

「余裕なんだよ、牛若。俺がいないと勝てないチーム?いいや違うね、俺がいなくても勝てるチームに、俺が混ぜてもらってんだからなぁ!」

「一回のブロックでよく吠える…!」

「何百回でも決めてやるよ。お前にゃぜってぇ負けねー!」

 

ぼろぼろの鴉が翼を広げる。

それに応えるように、多くの鴉が翼を鳴らした。

 

 

 

 

 

限界と思ったその瞬間からの、一歩。

 

「は?」

 

悟り。

ゲスブロック。

画一化された才能による暴力。

高いやつが強いという常識。

 

それらを嘲笑い、読みと経験を振りほどく、天才の一歩。

視界の外。

地面を這うような、超低姿勢による最高速度の横移動。

()()()()()ことによる、高さの超越。

 

気づけば、逆サイドにいた。

全員が直前までレフトにいると思っていたはずの男が、ライトにいる。

 

「───なんっ」

「遅えよ」

 

味方すら振り千切る加速に追いつけるのは、ボールだけ。

呆気にとられる全員を嘲笑うように、一糸乱れぬ美しいスパイクが打ち落とされる。

 

これまで日向だけが見せていた、マイナステンポの移動速攻。

清水夢斗のその変幻自在さは、あまりにも痛烈だった。

 

誰よりも苦しいはずだ。

体力切れで身体が動かなくなる極度の虚弱体質を克服したわけでもないのだ。

視界は明滅していて、呼吸を繰り返しても酸素は足りない。

口の中は血の味がして、手は微かに震えている。

 

それらすべてを悟らせないように、不敵に笑う少年はさらに自分への過酷を強いた。

そんな体調で、地面スレスレの超低姿勢からのハイジャンプなど正気の沙汰ではない。

 

だが、それでも笑うのはバレーボールが好きだから。

そんなたった一つのシンプルな理由で、彼はどこまでも馬鹿になれる。

 

「ナ、ナァァァイイスキィー!?」

「馬鹿野郎!普通にシンクロ乱すな!」

「はっはっはー!1点勝ち取ったりぃ!ナイスだ影山ぁ!」

「ウス!」

「やべぇ聞いてねえぞこいつ!」

「疲労のその先にいるせいでハイになってんだもう!目がキマってやがる!」

 

普通に前を横切られた田中が騒ぐが、それすらも燃料にして地べたに落ちた天才が拳を振り上げる。

直後、主将から拳が振り下ろされたわけだが。

 

「落ち着け、な?」

「…いてぇ。いやいや、落ち着いてますよ大地先輩」

「ほんとかよ…」

「ただ、あー全員足遅れたなって思ったんで全力で飛んだだけでーす」

「ははっ」

 

ほらほら悔しかったらもっと気合い入れてくださぁーい、と身体の痛みを隠してへらりと笑う後輩の頼もしさ。

それに身体の奥から熱が上がってくるのを自覚して、思わず沢村は笑った。

 

「勝つぞ烏野───!」

「「「「「「「「「「おう!!!!!」」」」」」」」」」

 

コートの外からも中からも罵声(信頼)を浴びながら、誰よりも楽しそうに笑うバレー馬鹿。 

そこには、コンセプトの差が大きく出ていた。

全員が攻めて貪欲に一点を取る烏野。

圧倒的な高さのエースのシンプルな強さで点を取る白鳥沢。

 

エースという頂点がいながらも、全員が横並びの烏野か。

エースという頂点を支えるようなピラミッドの白鳥沢か。

 

これはコンセプトのぶつかり合いなのだ。

 

(それでも、勝つのは俺だ)

 

───砲撃が撃ち落される。

 

圧倒的な積み重ねを続けた、天才による努力の一撃。

もう一人のバレー馬鹿による、最強のスパイク。

 

ここに来てなお、ブロックが落ちるのを空中で待てる完成された美しさ。

 

「…ワン──チぃ゙!」

 

それを旭が根性で触り、わずかに浮いたボールを。

 

「オーライ」

 

敗北の天才が叩き落した。

レシーブもない。

トスもない。

スパイクを打ち込んだ直後の、ブロックに触れたのを見てフォローからレシーブに意識を切り替え足を下げたその瞬間を狙い澄ます、再現性のない絶技。

 

清水夢斗による、ダイレクトアタック。

 

完膚なきまでに研ぎ澄まされた、儚い消える直前の美しさ。

それは、桜に人が惹きつけられるのと同じ理屈なのだろう。

牛島の雄々しくて誰もが勝利を託すエースとは真逆の、エースには決してなれない男の、命がけで次に繋ぐただの1点。

 

耳が痛くなるほどの静寂を切り裂くように、夢斗が吠えた。

 

「しゃおらぁぁぁぁあああああ!どうだこら!俺が上でお前が下ぁ!俺がいないコートでイキってるだけの凡夫ぅ!」

『───な、なんだぁぁぁぁああああ!?』

「だ、ダイレクト…」

「先輩のスパイクを…?ブロックに触れただけで…!?」

「化け物───!」

 

じゃ、あとは任せた。

せいぜいうちの超強い仲間を倒してみろよバーカ。

 

顔をゆがませるゲスモンスターと牛島を盛大に嘲笑いながら、言うだけ言った清水夢斗は普通にぶっ倒れた。

 

…勝者烏野。

その表彰台には、一人の選手とマネージャーが足りなかったが。

 

命がけでつないだその一点差を、帰ってきた月島含めて全員が守りきりそこから勝ち切ったその結末は、瞬く間に知れ渡る。

 

 

烏野は、全国への切符を手に入れた。

コンクリートに咲く花は、確かにその美しさを見せつけたのだった。

 

 




毎回ほぼ最終回くらいのノリなので感想とか慈悲で頂けると幸いです。
ちなみに主人公は普通に救急車で運ばれました。
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