敗北の天才。   作:ひつまぶし太郎

7 / 8
結局のところ、2人ともお互いに嫉妬しているみたいな。
短めです。


隣之芝生

 

 

自分は恵まれている。

牛島若利はそう思う。

 

誰もが自分を天才だと持て囃す。

 

誰よりも練習してきた。

恵まれていることに驕らずに、積み重ねを怠ったつもりはない。

 

…だが、あの日。

チームメイトが何気なく口にした、自分と同格の選手が烏野にいる、という話を真に受けて何の縁もゆかりも無いその試合を観に行ったことを、牛島若利は後悔している。

…している、と思う。

もはや何度も問い直しているのに、牛島はその答えを見つけられずにいた。

 

知らなければよかったのか。

それとも、知れてよかったのか。

自分の中で永遠に解消できないわだかまりが生まれてしまった原因。

 

清水夢斗。

 

「…あれが、同格?」

 

目を疑った。

そして、軽々しく同格だなどと宣ったそのチームメイトには懇切丁寧に説明しなくてはならないと思った。

 

だってそうだろう。

 

『しゃおらぁぁぁあ!菅さんの丁寧セットアップで余裕あるから丸見えなんだよバーカ!』

 

目の前で、当たり前のように異常なプレーが行われる。

スパイクを打ってブロックに当ててから、その跳ね返ったボールを改めてスパイクとして打つなんてのは、高校生に許されていい所業じゃない。

 

あれは、違う。

恵まれた環境で、弛まぬ努力をしてきた。

それはきっと、一歩一歩階段を踏みしめるような努力だった。

だが、清水夢斗のプレーから滲み出るそれは、そんなものを鼻で笑うかのような精緻な積み重ね。

コピー用紙をただひたすらに積み上げて、校舎よりも高く積むような、無謀を実現してきた麒麟児。

 

手足を自在に操るのではない。

そんな規模の天才ではない。

空間を支配し、君臨する絶対王者。

思い描いたとおりに身体を操り、ボールを操り、飛翔する。

重力すらひれ伏すその鴉は、コートの誰よりも美しかった。

 

完璧、という言葉こそが相応しい。

どんなコンディションでも変わらない最高打点と最高到達点までへの早さ。

まるで天井からコートを見下ろしてるかのような動き。

一歩一歩の無駄のなさ。

細部にまで宿るバレーボールへの愛。

 

その日、牛島若利は敗北した。

誰よりも努力し、誰よりも恵まれたからこそ理解したその頂を見て、清水夢斗という天才の狂気の沙汰の努力に心が折れた。

 

同時に、失望もした。

その神の宿った試合が、フルセットで見れないことを憎みすらした。

なぜ。

なぜだ。

なぜ、なんでそんな体たらく。

もっと見たい。

もっと魅せてくれ。

そう切望しても、清水夢斗のいない烏野は鉄壁に阻まれて地に落ちた。 

ほんの数分、自分の脳がもう彼の試合を見れないという事実の理解を拒んだ。

 

気付けば、激情を抑えきれずに相手の傷口を踏み躙るような言葉を吐き捨てて、牛島はその日ぶっ倒れるまで夢斗のプレーを反芻しながら練習に打ち込んだ。

 

だからやっぱり、牛島若利は清水夢斗が嫌いなのだ。

誰もが羨むその才能を持ちながら、誰よりもコートのなかに焦がれるその敗北の天才が、牛島若利は認められない。

誰よりもバレーボールに愛されているのに、誰よりもコートに嫌われたその少年を見ていると、恵まれた立場で足踏みをする自分のことを許せなくなるから。

 

そのうえで、改めて牛島若利は思う。

烏野との試合は、楽しかった。

でも勝ち逃げは許さない。

絶対再戦する、と。

 

 

「───えっくし!なんだぁ、誰か俺の噂でもしてんのかな」

「ほら、ティッシュ。あと、そりゃあ噂で持ちきりでしょ。試合中に怪我でも何でもなく、ただの体力切れで、しかも煽りながら気絶して救急車に運ばれたんだから」

「あざ」

「ありがとう、でしょう」

「はいはい」

 

救急車で運ばれ1週間入院することになった清水夢斗は、ちーんと鼻をかみながら思う。

 

うちの姉って過保護だよな。

鬼の形相で泣きながら怒るチームメイトたちからのお説教のあとだから染みるぜ、と。

あと、先生が一番怖かったな、と。

 

 




これにて白鳥沢周りは終わりです。
つまりはまた次の更新まで間が空きます。
感想とかもらえると飛び跳ねるのでよろしくお願いします。

主人公「体格いいし強いしカッコいいからムカつく。あとケンカ売られたから嫌い」
若利「世界一上手いバレーボールプレイヤーの試合が1セットしか見れないとかムカつく。あとそんな化け物みたいな努力と進化されたら自分が止まってる気がしてきて惨めになる」
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