静筆の魔術師 ~音と秩序の辺境譚~ 作:Magical forest
「独自に文献や記録などを調べてみましたが、カイル様の継火である可能性が高いと、私は考えております。」
「・・・続けてちょうだい。」
「まず、シュウ様の容姿です。髪や目に魔力属性が出るケースは多くありますが、黒髪に黒目。黒髪は少数ながら居ますが黒目はほぼ居ません。闇魔術の魔法使いも紫髪や紫目がほとんどです。黒目黒髪は非常に珍しく、実際、王家と公爵家の血筋にしか発現しない色と言っても良いほどです。そして、この2種類が揃うのは非常に稀で、ご存じのように、王家と公爵家の血筋でカイル様と同じくこの組み合わせを持つ容姿の方は概念属性を持つ可能性が高いです。」
「そうね。シュウが生まれて来た時に、彼を見た公爵家の人間はみんなその事を考えたわ。ただ、それはカイル様の継火の事を知っている人であればみんなそう考えるでしょうね。」
「はい。続いては、先日の5歳での魔力属性の検査になります。当然全て反応しませんでした。」
「そうね。私の母親であるヴァルト公爵も、孫の顔を見るために気になって見に来ましたものね。あの場でシュウの魔力が属性の検査に反応しなくて、3/4ぐらいが落胆して、1/4ぐらいが息を飲んで本当に面白かったわ。反応しない事の方が重大なのに、アルノルトよりも魔法の才が無いと勘違いした3/4の人達は、この事実を知ったらどう思うかしら?」
「カイル様の継火は王家と高位貴族にしか知られていません。私もこの公爵家の図書館に務めるようになってから、奥様に依頼されて蔵書を調べてから存在を知りました。高位貴族として教育されていない者たちは、自分達を守ってくれるアルノルト様に次ぐ守護者の登場に期待していたと思います。期待していた分、そのような反応をするのは仕方が無いかと。それから、風の魔法使いである私もシュウ様の強大な魔力を感じられる事もその一因です。」
「それで、他にあなたにシュウがカイル様の継火と確信させた事は無いの?」
・・・これは私に対するテストだ。おそらく公爵夫人はシュウ様がカイル様の継火だと言う事を確信している。今後、アリディア王国全体に多大な影響を与える可能性があるシュウ様の教育係として私が相応しいのか見ているのだろう。
「これまでアリディア王国に現れたカイル様の継火は四人。この四人は良くも悪くもアリディア王国に大きな影響を与えてきました。魔法の使い方を体系化して記号化する事で、一般人にも魔法が使えるように魔法を広めたリオネル・アリディア様や、魔導式の記述方法に気が付いて、魔道具を初めて作り出したドルガン・ストラヴェルク様、治療魔法に目覚めて癒しの聖女と謳われて公衆衛生に力を注いだ、公爵夫人のお母様で、現ヴァルト公爵であるエリシア・ヴァルト様、そして、四種族の死体解剖を行い、各種族で婚姻した場合の魔力の発現方法や肉体の強化原理を突き止めながらも、人体実験に手を出してしまい幽閉されて失意のうちに亡くなったザカリア・アリディア様。これら四人には大きな特徴があります。」
「その特徴とは?」
「幼い頃から非常に聡明で、発想が普通では無い事です。この四人は幼少期は例外なく周囲の子供と話が合わずに、図書館や自室に籠っていたようですが、とても聡明だと記されていて、その聡明さを伝えるエピソードが沢山残っています。これは今のシュウ様と非常に良く似た状況です。」
「なるほど。確かに、同世代の子と全く遊ばずに、図書館に籠るか、何かの読み書きしている子はシュウぐらいですものね。」
「シュウ様は、すでにアリディア王立総合学院の学生か、分野によっては教授レベルの知能や知識をお持ちです。同年代の子達と話が合わないのも仕方が無いかと・・・。このレベルの知能を持つ子供はカイル様の継火以外に考えられないと思います。」
「司書卿もお母様と同じことを言うのね。」
「ヴァルト公爵様が?」
「ええ。お母様はシュウが魔力属性の検査に反応しなくて、不当に扱われそうだったら、ヴァルト公爵家に連れて行く気だったみたいなの。」
「えっ、まさか? ・・・でも女神騎士団の近衛隊長であるセラフィオン・グレイアス様があの場に居たのって、ヴァルト公爵様の護衛じゃなくて・・・。」
「お母様は、自分一人の身ぐらいなら簡単に守れます。シュウの女神教会での魔力検査を見に来たのは、シュウが不当な扱いを受けるようならヴァルト公爵領に連れ出すためだったみたいね。荒事になっても大丈夫なように教会内に騎士を配置して。」
「対応を一歩間違えていたら、背筋が凍りますね。それでヴァルト公爵様はルミエール公爵領でのシュウ様の扱いに納得して帰られたのですね。」
「違うわ。」
「どういう事でございましょうか。」
「シュウとお母様がその前にお話しをしたのだけど、お母様の手に負えない天才だから、シュウの好きにやらせなさいって言っていたわ。お母様が子供の頃でもここまででは無かったそうよ。あと、シュウは概念属性らしいわよ。お母様には分かるって。」
さらっと告げられたえげつない事実に私はフリーズしかけた。
「しっしかし、流石に興味の向くままに好きなようにさせてしまうと、ザカリア様のように人道に外れた道を進んでしまうのでは無いでしょうか。」
「お母様は、シュウは信心深いタイプではないけど、性格は善性で善悪の判断も付くから、変な悪意のある環境で育てなければ大丈夫って言っていたわ。そしてそんな環境に置かれるようなら、流石にお母様が保護するそうよ。ただ、今の所、ヴァルト公爵家側から政略結婚みたいなのを仕掛けるのは辞めるって言っていたわ。」
「・・・・。一転して、ずいぶんと放任主義になられましたね。ヴァルト公爵様にとって、シュウ様との会談はそれほどまでに強烈な印象を残されたのでしょうか。」
「わからないわ。カイル様の継火同士で何か通じる物があるのだと思うけど、あいにくと私には分からない領域ね。」
「・・・・・・・。」
高位貴族のプライベートな心の内に踏み込む可能性があるため、また私は返事をせずに曖昧な笑みを浮かべた。
「司書卿、あなたの在り方はとても好ましく思います。これからはエルラと呼んでもよろしいかしら?」
「もちろんでございます。」
「これからは、私の事をレミアと呼びなさい。」
「畏まりました。レミア様。」
「エルラ、シュウの事をこれからも頼みますよ。これは公爵夫人ではなく、母親としての願いです。」
「誠心誠意お仕えさせていただきます。」
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「そう言えば、シュウは5歳の誕生日プレゼントとして、パイプオルガンを弾きたがっていましたね。」
「はい。魔力属性の検査時に女神教会にパイプオルガンがあるのを見て、非常に興味を示しておりました。」
「それで、私はシュウの願いを叶えてあげようと思うの。 お母様にお願いして、シュウが演奏できるようにパイプオルガンの講師を女神教会から呼んだので、一緒にシュウの練習の様子を見ていてくれないかしら。来週から公爵家に来てくれるそうよ。」
「畏まりました。謹んでお受けします。レミア様。」