静筆の魔術師 ~音と秩序の辺境譚~   作:Magical forest

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ソフィア先生は感動で訳が分からなくなる2

 

------------ ソフィア・ルメイユ視点 ------------

 

自己紹介の後、オルガリンの組み立てをシュウ様は熱心に見ておられました。 男の子だからオルガリンの構造に興味があるのでしょうか?

 

会話から何をやっているのか分かっていそうでしたので、試しに何をしているのか聞いてみた所、

 

「つまり隣り合った鍵盤同士をa0 × (2^(1/12))^(n)と、a0 × (2^(1/12))^(n+1)の周波数で振動するように中の木琴の質量と形状を調整しているんだ。」

 

私はシュウ様が何を言っているのか理解できませんでした。

 

貴族であっても大人になってから四則演算ができる程度です。5歳児が高度な数学を理解できている事に驚くと同時に、私にはシュウ様が正しい事を言っているのか全く理解できませんでした。

 

「何か、音楽の真理に触れるようなすごい事を言っているみたいですが、全く理解できません。」

 

「学園に入学したらこの子は、絶対に嵐を呼ぶわよね。」

 

学園で想錬の探究家の異名を持ったエルラ先輩。私が学園に入学した時にはすでに4年生だったので、1年しか面識がありませんでしたが、既存の概念に囚われない斬新な説と、フィールドワークと入念な調査に裏打ちされた緻密な調査は、歴史の定説を次々と覆す、まさに才女の中の才女と呼ばれた天才でした。また、風魔法の達人で魔導応用科に入っていても主席を取れたのではないかと噂されていました。

 

彼女の論説は教授でも太刀打ちができず、公開討論会で名だたる論客を次々と論破した実績は右に出る者はいませんでしたが、その男勝りで攻撃的な論調から教授陣や王都の歴史家から嫌われて、王都で官職が得られずに出身地のリュミエール公爵領に戻ったのを聞いたのですが、まさかリュミエール公爵家で司書をしながらシュウ様の家庭教師をしているとは知りませんでした。

 

エルラ先輩は、前に一度だけお友達とお茶会にお呼びした事はありましたが、当時は男勝りですごく尖っていて、お友達に仕方が無く付いて来たという感じで、とてもお茶会を楽しんでおられたとは思われませんでしたが、今のエルラ先輩はとても優しくて親しみやすくなっており、その変化に驚きます。きっとシュウ様との交流があっての事なのでしょう。

 

今の彼女であれば王都に戻れば大変な噂になると思うのですが、明らかに王都での活動にも興味が無さそうで、シュウ様の会話を楽しんでいるようです。

 

この後から始まったシュウ様のオルガリンのレッスンですが、意外な事にとても素直で、教えた事を何度も反復して体に身につけて行っているようでした。

 

効率的な学び方のような物が理解できているようで、基礎的な内容を疎かにせずに、何度も繰り返して体に覚えさせていきます。

 

エルラ先輩と話が合う子なので、もっとアクティブにグイグイと来るかと思ったので、この実直な練習スタイルに驚きましたが、とても好感が持てました。

 

基礎を疎かにしない子は上達速度も速いです。いや、まるでオルガリンの申し子かのごとく一瞬で楽曲をマスターして行きました。

 

正直な話、シュウ様は私の教えた事を全く逸脱しないで何度も反復練習をして完ぺきに自分の物にしていくので、私自身がシュウ様の個性や力量を把握できませんでした。

 

シュウ様の演奏を聴いていると、基礎と楽譜に実直な演奏者に見えるのですが、普段のシュウ様との会話を見ていると、そんな演奏スタイルには疑問しか湧きません。

 

後ろでエルラ先輩も見ておられますが、テーブルに腰を掛けてゆっくりと本を読んでいるだけで、何もしてきませんでした。

 

結局私にとって大切な事は、女神教会でのパイプオルガンの演奏デビューに向けてシュウ様が恥をかかないように私がきっちりとシュウ様にパイプオルガンの演奏を教え込む事です。

 

そうして、三か月が過ぎて、ついに女神教会でのパイプオルガンのお披露目となりました。

 

長男のアルノルト様が次期公爵と決まっているルミエール家のような家では、長男のお披露目パーティーは盛大に行いますが、次男以降の子は余計な家督争いを起こさせないためにも、差を付けてパーティーなどは開催しない事がほとんどです。

 

むしろ、次男にも盛大なパーティーをやる場合には、長男が家督を継ぐのは怪しいと暗にメッセージを送っている事になります。

 

そんな訳で、次男のお披露目というのは控えめにやるのが習わしなのですが、シュウ様の場合にはそのお披露目に女神教会でのパイプオルガンの演奏が選ばれました。

 

普人族であり、女神教会とつながりの深いヴァルト公爵家から嫁いだレミア様のお子様という立ち位置として、ルミエール公爵家とヴァルト公爵家との友好を示す意味でもとても良い選択だと思います。

 

実質的なお披露目会を兼ねた演奏会なので、ルミエール公爵家の一族や街の有力者の方々も沢山御出でになりました。

 

その中でシュウ様は貴族らしい堂々とした演奏を見せます。

 

教会に参拝した方々の合唱も盛り上がり、堂々とした挨拶も見せて最高のデビューとなったと思った矢先、シュウ様は突然、女神マテリア様と私に曲をプレゼントされると話し始めました。

 

そこから私は驚愕の演奏を体験する事になります。

 

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