静筆の魔術師 ~音と秩序の辺境譚~ 作:Magical forest
「そしてゼルナヴァス様が長い年月を永遠と共に、砂となったオルグレアの世界を守っていると、エルデザル様がまた訪ねて来ます。」
「女神マテリア様の降臨だね。」
「そうです。再び降臨なされたエルデザル様の胸には小さい女の子の赤子が居て、エルデザル様の子のマテリア様だと紹介されます。そして自分と同じ創造の力を持つ神の子だと話して、ゼルナヴァス様にマテリア様を育てるように言います。」
「ゼルナヴァス様が父神になった瞬間だよね。」
「はい。ゼルナヴァス様はとてもマテリア様を可愛がって、それはそれは大切に育てます。そしてマテリア様の成長と共に、砂だけった世界に雨が降り、大地に山が出来て、徐々に緑を取り戻し始めます。 そして、生命が生み出されて新たなる世界であるマテリオンが生まれます。」
「長い間、砂だけだった世界に居たゼルナヴァス様にとってはとても感動の瞬間だっただろうね。」
「そうだったと思われます。ゼルナヴァス様はマテリア様を大変可愛がり、マテリア様も父神であるゼルナヴァス様を慕います。 黄金の髪を持つマテリア様の左側の前髪の一房が黒いのは、ゼルナヴァス様から与えられた権能であるのと同時に、ゼルナヴァス様を大変お慕いしている証明でもあります。」
「その辺のエピソードを見ていると、マテリア様が明らかにファザコン気味で怖いんだよね。」
「流石に、創造神様をそのように言わないでください。あまりにも不敬ですよ。」
「はい。」
「そして、再生された世界で再び普人族が生まれて、多様性を尊ぶようになったゼルナヴァス様のアドバイスを受けて、さらに亜人と呼ばれるエルフ族、ドワーフ族、獣人族が生まれます。」
「この辺がゼルナヴァス様の怖い所だよね。」
「なぜですか? すごく慈愛に満ちたお方だと思いますが。」
「たぶん、そう言った面もあると思うのだけど、それ以上に世界のバランスを確認するための措置だよ。」
「どう言う事ですか?」
「これだけの四種族が居ると、種族間での力関係が出て来るね。現に、バルグレイア帝国がそうだったじゃないか。ある種族が他種族を迫害しはじめるのを、ゼルナヴァス様が介入する判断条件にしていると思うよ。だから、バルグレイア帝国で普人族が他種族を迫害し始めたタイミングで、カイル様にゼルナヴァス様の加護を与えられたのさ。」
「・・・・頻繁に与えられるマテリア様の加護と違って、ゼルナヴァス様の加護を与えられた人間は歴史上でもカイル様を始祖として、五人も居ません。そして、まさかそう言う理由でゼルナヴァス様は加護を与えられるのですか? ・・・でも、加護を与えられた人はみんな種族の平等を重んじて来た人物。 ヴァルト公爵様もエルフが流行り病の元凶としてアリディア王国内で立場が悪くなる寸前に治癒魔法で・・・。まさか・・・。でも歴史の流れを考える辻褄が合う・・・。」
「神様の考えまでは読めないけど、少なくとも、ゼルナヴァス様は自身の体験から他者を迫害した末に何が起こるのかは良く理解していて、そう言った事態を未然に防ぐように深い手を打っているように僕は思えるね。 カイル様もきっと同じ事を感じてこの国を作ったのではないのかな? カイル様は優柔不断王だけど、その辺はしっかりしていたと思うよ。」
「相変わらず、シュウ様はカイル様に辛辣ですね。」
「話を戻そうか。マテリア様の加護はわりと多くの人が持っているのだよね?」
「そうですね。マテリア様は若い女神らしくかなり活発で、気に入った人に加護を与えていきますね。多くの人が人生で数回はマテリア様のご尊顔を見る機会に恵まれます。それからわりと話好きで、例えば山の中で焚火をしている時にフラフラとやって来て、こういった創世記の話などをされるそうです。」
「普人族は女神教会を作るけど、他の種族は自然崇拝でマテリア様を崇めるのはそういった理由だよね。」
「教会を作っても作らなくてもマテリア様にお会いできる機会は変わりませんからね。それなら高いお布施を払って女神教会を作るよりも、自然崇拝で自然と共にマテリア様を崇めた方が良いですね。」
「でも、これだけ神様が近い世界で、なぜ神人教なんて宗教が広まってしまったのだろう?」