静筆の魔術師 ~音と秩序の辺境譚~ 作:Magical forest
「神人教の初代教祖であるノヴァリス・カルディスは、元は日常的な行動をしながらでも女神マテリア様を崇拝しようと、神と人をいつでも繋ぐ、『誰でもできるお気楽女神崇拝術』みたいな所からスタートしたのですよ? だから神と人を繋ぐ宗教で、神人教です。」
「何、その怪しい勉強法とかダイエット法みたいなのは・・・。」
「もちろんウケはそんなに良く無くて、ウケて信者を獲得するために、段々主張を過激化させて行って、滝からダイブ崇拝やバンジージャンプ崇拝など、だんだんとエキストリーム崇拝に傾斜していったようです。これにはマテリア様も大変喜ばれて、ノヴァリス・カルディスに加護を与えたりしています。」
「相変わらず、マテリア様の加護は適当に与えすぎだよね。」
「面白い人には善人、悪人を問わず加護をお与えになりますからね。その加護も、ちょっと運がよくなったり、魔力が強くなったりで、女神様のお気に入りマークが体のどこかに発現するだけですからね。」
「とはいっても、加護をもらった極悪人や連続殺人犯であっても、熱心な女神教の信者だったりするから、意味不明だよね。」
「人間の二面性ですよね。そんな人間の二面性を女神マテリア様はこよなく愛しているようです。ですので、マテリア様はわりと痴話げんかとか大好きみたいですね。」
「けっこうゲスいよね。この女神様。」
「だから、創造神様をそんなに悪く言ってはいけません。」
「ごめん。ごめん。それで、神人教はどんどん主張が激しくなって、普人族至上主義になって行くんだ。」
「はい。ノヴァリスは、実際に女神マテリア様にお会いになられて、同じ普人族の容姿である事に感嘆して、こういった主張をするようになって、それが普人族の信者を増やして、それをバルグレイア帝国が統治に組み込んで利用したようですね。ただ、ノヴァリス自身はわりと冗談で話していた事が、後年深刻な種族差別につながって行き、それを深く後悔して止めさせようとしましたが、投獄されてしまい、最後は失意のまま生涯を終えたようですね。」
「何と言うか、自業自得というか、ちょっとかわいそうと言うか・・・。」
まるで、視聴者の盛り上がりに答えて、主張や行動を過激化させていく、迷惑系Youtuberやインフルエンサーのようだ。少なくとも、ノヴァリス自身のマテリア様への崇拝は本物だったと思うけど、承認欲求モンスターの代償が、ヴァレンツリァの石畳事件にまで繋がったかと思うと、本当に笑えない。
「結局、神人亜人を大きく差別し始めた段階で、ゼルナヴァス様が動いたようで、歴史上で最初にゼルナヴァス様の加護を受けたと思われる、カイル様が生まれる事となります。」
「黒目・黒髪で、自然魔法を使えない概念属性の魔法使いが初めて歴史に出て来た瞬間だね。」
「そうです。明らかに概念属性の魔法は、従来の自然魔法とは一線を画します。自然魔法は明らかに女神マテリア様の権能であり、それと違う概念属性は、ゼルナヴァス様の権能としか考えられません。何よりも、加護だとしたら、マテリア様の加護よりも圧倒的に強い力になります。」
「結局、ゼルナヴァス様は自らを邪神と名乗っているけど、元の役目通りに世界を調整するようになったんだ。」
「ゼルナヴァス様は一度は失敗されたかもしれませんが、今では世界の調和を守る父神様です。女神マテリア様と違って世界に降臨する事はほとんどありませんが、この世界で高い尊敬と崇拝を集める父神様ですよ。」
「うん。とりあえず、僕が概念属性の魔法に目覚めない事を祈るよ。頼むから種族差別とか、人類の危機みたいなのに巻き込まないで欲しいよ。」
「相変わらずですね。でも、あの演奏はマテリア様も大変気に入られたようですし、私も生まれて初めて音楽で素晴らしい感動を覚えました。アルノルト様の前にも降臨されたようですし、そのうち、シュウ様の前にも、マテリア様が訪ねて来るのではないでしょうか?」
「それは冗談でもちょっと怖いね。それじゃ、今日もありがとう。エルラ先生。楽しかったよ。」
「私も楽しかったです。」
「それじゃお休みなさい。」
「お休みなさい。シュウ様。」
そう言って、僕は図書館を離れると、帰りに体を洗って、自分の部屋に戻る事にした。
そして、自分の部屋のドアを開けると、中から何やら神々しい気配がした。
そっと中に入ると、僕のテーブルの上に、腰まである長い金髪の髪を三つ編みにして、緑の目をした若い女性が座っていた。 その女性は白を基調としたワンピースドレスとブーツを身付けていて、ところどころに赤色のワンポイントが入っていて活発な様子が伺える。 なによりも目を引くのは、輝く黄金の前髪の中に、左側にかかる一房の黒髪が美しいアクセントとなっている事だ。
「やあ、異世界からの客人よ。この世界を楽しんでくれているかな?」
「丁度いい所に降臨してくれたね。僕も女神様に聞きたい事があったんだよ。」
今日の話題の中心だった、この世界の創造神である女神マテリア様が僕の部屋に降臨していた。