静筆の魔術師 ~音と秩序の辺境譚~ 作:Magical forest
「こんばんは。マテリア様。」
「こんばんは。異世界からの客人よ。」
「ちょっと待ってね。今、お茶とお茶菓子を出すから。」
僕は、炎の魔石でお湯を沸かすと、カモミール+ラベンダー+ローズヒップを軽くブレンドして、ローズヒップの薄い赤がマテリア様を思わせる『女神の調和ブレンド』と今、僕が勝手に名付けて、マテリア様に献上する事にした。
ちなみに、僕の部屋には簡易な台所が取り付けられているので、そこで調理している。
昼間のうちに小麦を練って、水でグルテンを抽出しておいて、小麦粉と水あめを混ぜて茹でておいた生麩に上から水あめをかけて、ある区画で増殖しまくっていたミントを乗せて、その上に女神マテリア様をイメージした赤クローバー(紫ツメクサ)のドライフラワーを乗せた生麩菓子を用意した。
水あめは、生麩を作る過程で抜けたでんぷんを集めて、大麦もやしと混ぜて酵素分解された汁を煮詰めたものだ。これはある程度の量を秘密裏にストックしている。
麩菓子は小麦からでんぷんを抽出する過程で残ったグルテンの再利用と言った所だね。
「どうぞ。」
「うむ。それでは、頂くとしよう。」
そう言って、マテリア様は生麩の菓子に手を伸ばした。
「すごい。まるでリンゴの果子ような甘さだ。いや、それ以上に脳天を貫くような強烈な甘さだ。それに、こちらのハーブティーもなんて優雅で深みのある香りと味わいだな。」
そんなマテリア様を見て、僕はドヤ顔をするどころか、スンとなっていた。
「どうした? 我のリアクションに不服そうだな。」
「もちろん不服です。マテリア様が水あめの甘みをリンゴに例えた時点で、察してしまいました。」
「どういう事だ?」
「つまり、この世界は信じがたい事に、人類が住むには過酷すぎて甘いお菓子を楽しむ余裕がないと言う事ですよ。ちなみに僕が作ったのは菓子です。マテリア様が発音したのは果子ですね。菓子の語源です。果物の身本体を指す言葉ですね。」
「それは何を意味するのかな?」
「この世界、食べるのに必死過ぎます。飢餓でも無いのに、毎年餓死とのチキンレースをするなんて、正気の沙汰じゃありません。」
「なるほど。もう少し丁寧に説明してもらえるかな?」
「その前に確認させてください。この状況はマテリア様やゼルナヴァス様が意図的に作り出した物ですか?」
「意図的と言うと?」
「つまり、自然との調和を取るために、わざと人口を制限しているという事です。人口の増加は魔獣などを排除して自然破壊を生みます。それを望んでいないのではないかという事です。」