静筆の魔術師 ~音と秩序の辺境譚~   作:Magical forest

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女神マテリア様はわりと暇神5

 

「私のせいだとな?」

 

「そうです。この世界の人々は死んだらどうなると思っていますか?」

 

「それは魂が吸い上げられて、生まれ変わるな。」

 

「そうです。神様が実際に現れて、それを保証しているのです。だから、この世界の人々は意地汚く生に執着するよりかは、倫理的な行動と死を選びます。」

 

「それが何か悪いのか?」

 

「それが周り回って、食糧問題に繋がっています。地球では猛毒があるこんにゃく芋を食べたり、飢餓の際には、死ぬリスクを冒して彼岸花から抽出したでんぷんで飢えを凌いだりしました。そう言った生き汚さがこの世界の人々に見られません。例えば洞窟に閉じ込められたとして、先に亡くなった人の体を食べて自分は生き残ろうとしますか? 前世ではこれはとても大きな倫理的な問題でしたが、それでも生き残る事に対して理解を示す層は一定数居ます。」

 

「なるほど。こちらの世界に仲間の死体を食べてまで生き残ろうとする人はいないな。」

 

「それはとても倫理的で素晴らしい事なのですが、同時に飢えた時に生を簡単に諦める事に繋がります。なぜなから死んでもマテリア様に救われて、再び生まれる事ができるからです。この世界において、仲間の死体を食べて生き残る禁忌を犯して地獄に墜ちるぐらいであれば、潔く死ぬ選択肢は正しいのでしょう。」

 

「別に地獄は無いのだがなぁ・・・。」

 

「えっ?無いのですか?」

 

「無いぞ。魂のエネルギーを次の生に利用するだけで、悪人を更生する必要もない。私も地獄について話した事は一度もないが、人間にとっては地獄という概念は便利なんだろうな。」

 

「なるほど。話が逸れましたが、その死への淡泊さが食生活の多様性を妨げています。それはマテリオンで発酵食品が極端に少ない事でも示されています。腐った物を食べて生き残る価値をこの世界の人はそれほど認めていないのでしょう。」

 

「なるほど。神が近いと言う事にそんな弊害があるとは思わなかった。」

 

「結局、こう言った要因によって、食糧は足りずに人口問題は解決できていませんね。だから、それを解決する食物が必要になります。」

 

「その食物に心当たりはあるかい?」

 

「その心当たりの前に、そもそも、元が発展した人類やそれが育んだ生態系がベースなのであれば、もっと人類に都合の良い形の植物が残されていても良いのでは? マテリア様のような存在を作り出せるようなった人類が、植物の品種改良をしていないとも思えないのですが。」

 

「例えば、家畜が逃げ出して、自然界で子孫が100年生きたとしたら、100年後の子孫は、元の家畜のままだと思うかい?」

 

「いや、過酷な自然界を生き残るために、先祖帰りをして自然に適用するのでは?」

 

「そう言う事だな。 栽培植物が野生化したら、人の助けは無くなのだから、元の野生で生きていた頃の特性を取り戻す。だから、この世界には人間に都合の良い因子を眠らせた植物は存在するが、人間に都合の良い植物は自然界でとっくに淘汰されている。」

 

「うーむ。植物の品種改良は下手をすれば何千年もの時間をかけた大事業ですよ? 僕の代で解決できるとも思えませんが?」

 

「その場合には、先鞭をつけてもらえるだけでも助かる。どちらにしても、君はもっと進んだ社会で答えを知っているのだ。時間を短縮する事も出来るだろう?」

 

「それはマテリア様にも出来るのでは?」

 

「私は生命を生み出す事はできるが、生命を導く事は基本的には禁止事項なのだ。」

 

「その割には、かなり自由を満喫しているように見えますが。」

 

「それはそうだ。暇だからな。でも、この世界の人間にこう言った事は教えていないし、私自身は導いてもいない。そもそも、生命や魂の仕組みを知っていても、私はこの星の文化しか知らないのだ。他の世界で人間がどうやって食糧問題を解決しているかなんて、全く知らない。」

 

「何という説得力。つまり僕は、世界を渡ったイレギュラーな魂による裏技アイテムみたいな物なのですか。だから僕にだけは裏事情をペラペラと話せる。でも、それなら僕を介してマテリア様が人類を導くのも可能では?」

 

「最終的にどうしょうも無くなって、滅ぶぐらいならそういう事をしても良いだろうが、今はその時ではないな。これは創造神の論理みたいなものだ。この論理が崩れた創造神に導かれた人類が宇宙に飛び出してもやって行けると思うかい?」

 

「無理ですね。少なくとも神頼みするのではなくて、自分の事は自分で解決できないと、結局どこかの段階で滅ぶ事でしょう。上手く出来ていますね。」

 

「出来ているというか、長い試行錯誤の末にそうなったという所だろうが、そう言った事情があると思うので、君以外にこんな話はしないし、そもそもこんな話をマテリオンの人類は理解できなくて、誤解だらけの訳の分からない神話ができるだけだから、君もこの話は他の人に言いふらさないで欲しいな。」

 

「そうなると、結局魂って何なんですか?」

 

「エネルギー純度が高い知的情報の塊だな。生きている間に蓄えられた情報純度が高いエネルギー体を子供として引き継いで、次の世代がよりエネルギー純度が高くなれば社会や技術は発展して行くし、逆に生きていて変化が無くて、エネルギー純度が逆に劣化していくのであれば、今のように緩やかな衰退を迎えていく事になるね。そう言った人間を形作る情報の核かな?」

 

「この話を理解できないと言う事は、私がその段階にまで情報のエネルギー純度が達していないという認識で良いのでしょうか?」

 

「例え話みたいな形で概念を理解できても、この話については本質を理解できていないようだから、そう言う事だろうね。とは言っても、今の君の魂はマテリオンの人類よりもはるかに情報のエネルギー純度は高いよ。」

 

「結局、そうやってエネルギー純度が逆に劣化して、衰退を迎え始めたのがマテリオンの今という訳ですか?」

 

「魂のエネルギーとか、そういう高次レベルの話ではなくて、単純に社会的、物理的な要因から進歩が止まって枯れ始めている感じだな。そこの庭に野生で生えたアサガオのように、花をつけ始める前に水が足りなくて枯れ始めているのがマテリオンの現在地と言った所だろう。」

 

「観察日記を付ける小学生としてはションボリでしょうね。」

 

「小学生? 観察日記? なんだそれは?」

 

「うーむ。こういう向こうのローカル文化的な話は通じないのですね。地球のごく一部のローカルなネタなので気にしないでください。」

 

「他の世界の文化や料理などは全く知らない。申し訳ないけど、別の星で通じる冗談を言われても答えられるほど、私は全知全能では無いよ。」

 

「そもそもマテリア様自身が食糧問題の解決策を知らないのでは、人類の導きようが無いですね。 それで結局、マテリオンの人類ってあとどのぐらいで滅びるのですか?」

 

「わからん。このまま続けばこの生活が何千年と持つかもしれないが、大規模な火山の爆発でもあれば、加速度的に状況が悪化してあっと言う間に絶滅だろうな。」

 

「そう言う天変地異は事前にマテリア様が教えてくれないのですか?」

 

「それは、人類が自分で乗り越えるべき障害ではないのか? そもそも食糧問題すら自力で解決できないで外部から君を呼び込むような人類に、私が教えた所でなんとかなるのか?」

 

「ごもっともです。」

 

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