静筆の魔術師 ~音と秩序の辺境譚~ 作:Magical forest
冒険者組合の中央支部に入ると、外見と同じように中も小綺麗で、ハーブなどを使って匂いなどにも気を使っている。
少し入った所に、受付カウンターや商談用の机などが用意されていて、壁一面に依頼書が貼ってあったり、荒くれ者の冒険者が出入りしたりする様子もない。まさに普通の事務所と言った光景だ。
「冒険者組合の支部って言うと、壁一面に依頼書が張り出されていたり、荒くれ者が出入りしていて、僕のような子供が来たら、ここはお前のようなガキが来る場所じゃないとか言われて、脅されて暴力事件が起きるような所じゃないの?」
「シュウ様の冒険者組合のイメージは偏りすぎです。親の手伝いで子供が依頼に来ることも良くありますし、そもそもルミエール公爵領で、公爵家の上級近衛2名を付けた人にそんな暴力事件を起こす冒険者が居たら、それはテロ行為です。」
「確かに。掲示板の方は?」
「獲物市場支部の方には汎用依頼としてそう言うのもあるみたいですが、基本的には冒険者組合は冒険者と依頼者をマッチングさせる組織です。無作為に早い者勝ちでは、依頼者と冒険者に合わせた人のマッチングは上手く行きません。新入りが多い、一般支部や獲物市場支部ならともかく、基本的に熟練冒険者を紹介される中央支部ではそのような物は無いのでは? 関係者に聞いてみますか?」
「サリナと申します。シュウ・ルミエール様ですね。指名依頼を出される冒険者は会議室に待機しておりますので、ご案内いたします。」
ちょうど受付のお姉さんが来てくれたので、僕は受付のお姉さんについて行く。
「冒険者の中央支部はすごく綺麗で清潔なのですね。」
「お褒め頂きありがとうございます。シュウ様のような貴族の方や、社会的地位の高い方が多くご利用されますので、清潔にさせていただいております。」
「中央支部には冒険依頼の掲示板とかは無いのですか?」
「さきほどの掲示板のお話ですが、近衛様のお話の通りです。中央支部の私達は、依頼者の依頼内容に合う冒険者を探して仲介させていただいております。獲物市場支部と一般支部には新人用に掲示板はありますが、ある程度のキャリアを積んだ冒険者であれば、依頼内容に応じて直接仲介させていただくのが普通ですね。」
「なるほど。」
確かにそうだ。難易度の高い依頼を張り出して、能力の足りない冒険者に争奪戦をされても、依頼者は困るだろう。
「こちらになります。」
僕は二階の会議室まで案内された。中には四人の女性達が座っていた。エルフ、普人、獣人、ドワーフとみごとに四種族が揃っている。
「こんにちは。私達は採取専用の冒険者グループをしている四風(しふう)の手です。私がリーダーのリオナになります。」
冒険者グループから僕に挨拶をしてくれた。魔法が一般的なこの世界では女性が冒険者をしている事も多い。特に採取系の冒険者には女性が多いらしいね。
「こんにちは。シュウ・ルミエールです。」
「それで、私達にどのようなご用件でしょうか。」
「こちらの植物を見てください。」
「ヤムナスとワルナスビですね。」
流石は、採取専門の冒険者グループ。ぱっと植物と花を見せただけで、品種を特定した。かなり信頼できるグループを紹介してくれたようだ。
「こちらのワルナスビについて、教えていただけますか?」
「はい。茎や葉に小さな棘がある植物で、小さくてかわいい実がなりますが、毒草です。やっかいな雑草で繁殖力は強い上に、実や草を食べるとお腹が痛くなって、酷い時には亡くなります。」
ワルナスビは地球にも生息している雑草だ。ほぼ正確にワルナスビの特徴を言い当てた。
「では、こちらのヤムナスをお願いします。」
「ワルナスビに似ていますが、ワルナスビよりも実が大きくて、食用の野菜として市場に流通しています。地下に小さな芋ができるようですが、繊維質でこちらの芋は食べられません。また葉や茎などにも毒はありませんが、繊維質で一般の雑草とそう変わりないので、食用とされる事もありません。」
ヤムナスは地球では見られなかった種類の野菜だね。小さなナスなんだけど、そこまで可食部が多い野菜でもない。これが品種改良されて行って大きなナスになっていくのかもしれないね。
「ありがとうございます。今回、四風の手の皆様にお願いしたいのは、ノルダ山脈の高地部分にこれらと同じような花をつけて、地下に芋を作る品種が生えていると思いますので、その芋と草の採取になります。おそらくその芋は毒があるとは思うのですが、現時点では不明です。依頼期間は2ヵ月。成功時の報酬は1.5倍。失敗時でもこちらの報酬をお渡しします。」