静筆の魔術師 ~音と秩序の辺境譚~ 作:Magical forest
「ははははっ。シュウ芋と呼ばれる事がそんなに不満なのか。」
僕の部屋を訪ねて来た、暇神女神である、マテリア様が笑う。
たっぷりと塩が効いたポテトフライやソーセージを肴に、僕の作った自家製ビール飲むという大層なご身分である。
「しかし、やはりビールは美味いな。」
「そんなにビールばかり飲んでいたら、マテリアビールとか名付けて売り出しますよ?」
「別に良いぞ。私の公認と神託を下そうか? 信徒が増えそうだ。」
「アル中の信徒が増えるだけですがね。」
「自分の名前が付くのは名誉なことでは無いか。その名前がある限り、未来永劫シュウの業績は語り継がれる。」
「前世のマドレーヌやサンドイッチみたいな話ですかね。しかし、ありあわせの材料で最高のお菓子を作ったメイドのマドレーヌ・ポルミエに比べて、トランプゲームに熱中するあまり、トランプゲームをしながら食べられるサンドイッチを作ったギャンブル狂のサンドイッチ伯爵の業績?は称えられるべきなのですかね?」
「それもまた人生を彩る話のネタであろう。」
そう言って、マテリア様はビールをグビグビと飲む。まさしくアル中女神である。
「マテリア様はワインとかの方が好まれると思いました。ワインは昔からありますし、まさに女神のお酒だと思います。」
「ワインは良いのだが、みんなワインと一緒に大麦や小麦のミルク粥を奉納するのだぞ。あの組み合わせが本当に美味しいと思っているのか?あの組み合わせで食べるぐらいなら、その辺の土着宗教が捧げてくれる、野焼きの羊とかの方がはるかに美味しいぞ。」
「あの風習は、大麦や小麦のミルク粥はマテリア様が創られた大地の恵みを体現する宗教的に非常に重い食べ物ですよ。贅沢な物を食べて、食糧が無くなって飢え死にしないように、普段から質素を心掛ける素晴らしい教えです。」
「教えはいいのだが、ワインを出すなら別の組み合わせがあっても良かろう。向こうもがんばって捧げものをしてくれるので、文句は言えないが。」
「食べられるだけで御の字の世界では、これから新しい風習を作っていく必要がありますね。」
マテリア様は素焼きのジョッキに入ったビールを見る。
「このビールがシュウの次の一手という訳か。」
「そうですね。ジャガイモの栽培が軌道に乗り、小麦や大麦収量は去年よりも少々減る程度です。その結果、無発酵パンにする小麦はまぁまぁですが、食味が悪い大麦の価格は暴落するでしょう。大麦は成長が早く、乾燥や寒冷に強い穀物ですが、食べる物を選べる時代に突入しつつある今、大麦の市場価値は激減しつつあります。しかしその利用方法としてビールがあればどうでしょうか? 生産量は少なくなっても大麦は作られ続けるはずです。まずはそう言う戦略の1年目という訳です。」