静筆の魔術師 ~音と秩序の辺境譚~ 作:Magical forest
「このパンはどうやって作ったのだ?」
「実は作り方は普通のパンとそう変わりはないのですが、水の代わりに生酵母満載の発酵中のビールを使うと、生地を休ませている最中に、酵母が生地の中で糖を分解して無数の二酸化炭素の気泡をパン生地内に作ります。それがフカフカのパンの正体です。」
「なるほど。ビール工場からビールをパン屋に供給する事で、このフカフカのパンが出来ると言う事だな。」
「その通りです。」
「さっそく食べてみていいか?」
「その前に・・・。まず、このパンを開いて、中にバターを塗ります。 そしてこの余ったソーセージを乗せて、さらに野菜を挟んで、マスタードを塗ります。さあ出来ました。」
「何だこれは?」
「これはホットドックという食べ物です。マテリア様はマテリオンで初めて、ホットドックを食べた人(女神様?)になるのです。」
トマトが無いから、ケチャップは無いけど、かなり地球のホットドックに近い物ができた。
「なんだか良く分からんが、美味そうだ。それじゃいただくとしようか。 ぱくっ。」
ホットドックを食べたマテリア様が停止する。そして驚いた顔をしながら、僕に目を合わせた。
「ウマ~~~~~~~~ッ!」
今日一番の反応で僕も大満足だ。
「何だこれは!? こんなに複雑で美味い物を食べた事が無いぞ!!」
小麦を素焼きにしたビスケットとか、オートミールのミルク粥とか、魚の干物とか、素材の味だけを追求した料理が多いから、油がベースで掛け算されるうまみ爆弾の料理を食べたら、それはビックリする事だろう。
僕は、マテリア様が驚く姿を見て、とても幸せな気分になった。
「どうですか? 生きるための栄養の摂取にして、人生最大の娯楽である料理の味は? 料理は生きるための糧であるのと同時に、最大の娯楽であるのですよ。 こんな物を食べてしまったらもう、質素な食事に戻れないでしょう? こうして文化は発展して行くのです。」
「シュウは恐ろしい奴だな。今、お父様以上の恐怖を感じたぞ。こんなに美味い物を知ってしまったら人は・・・。」
「そう。食糧問題が解決しつつある今、余裕が出来た人間は、新たな美味い物を求め始めるのです。そしてその流れは社会全体で一気に広がって行くでしょう。」
「これが、文化の味・・・。私はこんな歴史に残る一品を食べたのか・・・。」
「ちなみに、歴史で二番目にホットドックを食べるのは僕です。」
そう言って、僕はホットドックを作って食べた。
「ウマ~~~~~~~~ッ!」
自分で作っておきながら、マテリア様と全く同じリアクションをしてしまった。
この日は酔っ払ったマテリア様と、とても盛り上がった。
そして、翌朝、ベッドですやすや寝ている僕と、酔いつぶれて僕に抱き着いて寝ているマテリア様を見た使用人とエルラ先生は頭を抱えるのであった。