静筆の魔術師 ~音と秩序の辺境譚~ 作:Magical forest
ビール工場建設の話はとても上手く行った。
家族にビールを振舞った後に、父が貴族会議でビールを振舞い、苦いと言う人と病みつきになる人に別れたものの、新たな酒造であるビールをルミエール公爵領で生産していく事には全会一致で承認された。
ワインやリンゴ酒などのお酒は、公爵であっても常飲できるような物ではない。
・・・まぁ、今の公爵家であれば常飲も可能なのだけど、部下の貴族の手前、そこまで羽目を外した生活は出来ない。
みんながビールを飲めるようになれば、自分も大手を振ってアルコールを飲めるようになる。大麦が余ったのち、安く大量に生産できるビールはルミエール公爵領の新しい事業として最適だった。
さっそくハイデル子爵が責任者として任命されて、郊外の水源近くにビール醸造工場が建設される。
土魔法士が魔法で砂を砂岩にして、壁と発酵槽が合っという間に出来ていく。この世界の建築能力はとても中世の水準とは思えない。
特にコンクリートが不要な事が大きいだろう。土魔法によって砂から砂岩に固化するので、乾かして固める時間が不要だ。
ビールを煮沸する巨大な鍋も取り付けられる。前の世界では見られないような、怪力の持ち主達が砂岩でできた窯に鍋を置いて行く。
窯には巨大な炎の魔石が設置されて、煮沸できるようになっている。
工場は2階構造になっており、二階で仕込みを行って、一階で熟成させる構造だ。
工場は次のような感じで稼働する。
まず、各地の農業指導員の元に、大麦農家が発芽後に乾燥させたモルトが納品される。発芽から乾燥までは各地の大麦農家や他の農家の手伝いで作成される。
そして、納品されたモルトは、2階で粉砕されて60~70度のお湯と混ぜながら合わされて、モルトから糖が溶け出した麦ジュースになる。
そこから振いにかけてモルトを取り除いて純粋な麦ジュースにする。この時に、モルトにまだ糖分が残っているので、上から少量のお湯をかけて攪拌させてさらに糖分を抽出する。
この麦ジュースを煮沸して、一緒にポップや各種ハーブを投入して苦みと香り付けを行う。
煮沸が終わったら、二階から菅が繋がっている一階の発酵槽に麦ジュースを流して、冷ますと同時に適温になったビールに、出来上がっている他のビールから酵母を移植してあげる。
そして、1~2週間自然発酵させて、樽に詰めればビールの完成だ。
工場には5000リットルの発酵槽が14個設置された。 つまり発酵に2週間かかっても1日に最低5000リットルはビールが生産される。
ビール1リットルあたり 0.5 kg 麦芽が消費されるから、一日に2トン~2.5トンぐらいの大麦を消費した。
これは、1ヘクタール(100×100m)の畑の大麦を1日に消費するに等しい。バカなの?
ジャガイモが軌道に乗っているからと言って、いくらなんでも作り過ぎである。明らかに需要の見積もりを間違えている。
僕は建設される巨大工場を見ながら、このビール工場が爆死しない事を祈った。
そして、ビール工場が完成して、竣工式が行われる。そして、完成した第一号のビール樽は、祭壇に上げられて、女神マテリア様に捧げられた。
そうしたら、あの暇神が本当に顕著しやがった。
「ありがたくもらって行きますよ。」
そう言って、酒乱暇神女神という世界の女神のダメな所を圧縮したような女神は、ビール樽を丸ごと持って行った。
もちろん、みんなポッカ~ンである。
後日、マテリア様が獣人族の少数民族のお祭りに参上して、ビールを振舞ってどんちゃん騒ぎをした事を知って、僕は爆笑するのであった。
この事件を機に、このビールは女神ビールという商品名が付いて、この事件はルミエール中に轟き、それそれはありがたがられた。
結果、このありがたいビールは爆売れ。翌年には工場が3棟に増設されて、日産15000リットルもの生産量になって、大麦が小麦以上の価格になる未来が来るとは、この時の僕は知る由も無かった。