静筆の魔術師 ~音と秩序の辺境譚~   作:Magical forest

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建国王カイル・アリディアの生涯4

 

「ヴァレンツリァの石畳事件を引き起こした皇帝の考えとしては、亜人容認派を物理的に排除する事で、亜人弾圧派で国を一本化して、権力を高めると同時に、神人教の教えを強めて、その頂点たる皇帝の権威を高めようとしたのだと考えれます。また、同時に神人教を国教と定めて、女神教会を違法組織として弾圧し始め、帝国民には女神教会から神人教に改宗するように強制しました。」

 

「様々な国々を併合するまでは、女神教会の教えは、併合した国々の人民を帝国民として組み込むための便利な宗教であったのですが、全ての国を併合し終えた後では、階級社会を作るのに邪魔な存在となり、神人教を広めたかったのだと考えられます。」

 

「アホだね。」

 

「どうしてそのように思われるのですか? 皇帝の判断は冷血で、容赦無い物でしたが、バルグレイア帝国の統治者として考えると、合理的な面もあると思いますが。」

 

「皇宮内の政治闘争としては、妙手だった可能性はあるよ。この亜人問題が、皇帝と貴族との権力闘争に使われていたのは容易に想像が付くね。でも、これってバルグレイア帝国内の都合しか考えていないよね? そもそも、元の動機はカイル様の反乱にあったはずなのに、その問題は全く解決しないで、内部に余計な問題を増やして、さらに帝国の力を弱体化させているよね?」

 

「・・・バルグレイア帝国としては、それでも反乱に勝つ自信があったのでしょう。こんな事を引き起こしても、バルグレイア帝国の軍事力は非常に強い物でした。シュウ様の主張は、結果論としてカイル様が勝利したために、愚行に見えている可能性があります。」

 

「違うね。仮にカイル様が敗れたとしても、バルグレイア帝国はすぐに自壊していたはずだよ。だって、帝国人民の半数を占める亜人を排除して、さらに皇帝自身も交渉が不可能な人物だって分かっちゃたんだ。バルグレイア帝国の半分を占める亜人からすると、悪い境遇を抜け出すためには、皇帝を倒すしか方法が無くなってしまったよ。そして、女神教会の教徒達も同じだね。奇しくも皇帝は、弾圧された人達が自ら行える問題解決方法を、誰にも間違えが無い、明確に見える形で示してしまったのさ。弾圧される側の人間にとっては、皇帝の排除が第一条件になって、そこに妥協の余地が無くなっちゃったじゃん。」

 

「何よりも最悪なのは、弾圧される側の比率が大きすぎるよ。亜人達が帝国で優遇されていなかったとしても、帝国では亜人と女神教会の教徒を合わせると6割ぐらいには達していたでしょう? そうすると、少数が多数を弾圧する形になる。各亜人の種族は少数とは言っても、亜人というカテゴリーで合算すると、帝国の人口の半分にはなる訳で、半分+αを弾圧する事なんて、上手く行く訳が無いじゃん。」

 

「なるほど。では、どうして皇帝はそんな間違えを犯したと思いますか?」

 

「人民を数字としてしか見ていなかったのだろうね。そして、側近や周囲の人間は普人族ばかり。皇帝にとって、亜人は珍しい存在だったと思うよ。そんな状態で正しい判断が出来なかったのだろうね。アルノルト兄さんみたいに、普段から市中を歩き回っていたなら話は別だっただろうけど、皇宮の中の限られた人間関係しか無い人が、数値上の判断しかできない、実感の湧かない亜人に対して、共感する姿勢なんて無かったと思うよ。」

 

「・・・そう言う見方もありますね。若い皇帝でしたし、歴史家の間では神人教の教徒にそそのかされたという説が一般的ですが、シュウ様の意見の方が正しいように思えます。そう考えれば、ヴァレンツリァの石畳事件の後に皇帝が誰にも会わずに引きこもるようになったのにも納得がいきます。数値としてしか見ていなかった人達が虐殺される様子を見たら、それはショックでしょうね・・・。 面白いですね。シュウ様の意見は学説になりそうです。どうですか? その視点で史学論文を1本書いてみるのは?」

 

「そんな学説を出した所で、証明する方法もないし、ただの水掛け論になるだけだから、別にいいよ。それよりも、それからどうなったの?」

 

「・・・論文を書かないのは勿体ないですね。 その後は、シュウ様のご想像通り、亜人達は、自分達の待遇を改善するためには、バルグレイア帝国の国体を破壊する以外方法が無いという事を悟り、バルグレイア帝国から距離を取り始めて、カイル様の反乱軍に加わる人や、帝国の内部で破壊工作や、帝国の統治に協力しない者が大量に出始めます。また、辺境の地に居た女神教会の騎士団も腹をくくり、カイル様の反乱軍に加わります。これは、カイル様が普人族である事も大きく影響していると思います。」

 

「しばらくすると、鍛冶や職人として、亜人の中でも優遇されていたドワーフですら、帝国内の処遇に耐えかねて、氏族が続々とカイル様の反乱軍に加わるようになり、一気に、亜人全体+女神教会 VS 帝国軍と言う非常に規模が大きい内戦に突入します。」

 

「うん。これに関しては自業自得だからどうしょうも無いよね。せめて、カイル様の反乱を鎮めた後にヴァレンツリァの石畳事件を起こしていたなら、違う結果になったかもしれないけど、完全に順番を間違えているね。反乱分子の受け皿がある状態ならみんな、そこに集まっちゃうよね。」

 

「帝国軍は、それでも勝てると見越していたのでしょうね。なにせ、自分達が指揮する貴族は魔法が使えるのですから。」

 

「まぁ、大体こういう時には、自分達が軍が負けるなんて想像しない物だよね。ノアの大森林で連敗を重ねているのに。」

 

「ノアの大森林の件は、森林の中で不意を突かれて魔法が使えなかっただけで、軍と軍の戦いになれば勝てると思っていたようです。」

 

「その結果の連戦連敗だよね。帝国軍、弱すぎない?」

 

「すでに、ノアの大森林で大きな損害を被っていたのもありますが、それ以上に戦術が被っていた事が敗北に繋がったようです。」

 

「どう言う事?」

 

「帝国軍の基本戦術は、騎士で攻撃を受け止めて、攻撃が止まった所で貴族の魔法で大損害を与える戦術でした。対して、カイル軍も獣人の大将軍たるログス様が前線を固定して、カイル様の魔法で一気に前線を崩壊させる物でした。魔法の運用を重視する点で、結果的にどちらの軍も似た戦術になっていたのです。その結果、勝敗は魔法の威力で勝った方で決まります。そして魔法の威力はカイル様が圧倒しました。」

 

「いよいよ、カイル様の術式魔法が戦場で炸裂するんだね!」

 

「ノアの大森林で何度も戦闘はしていたようですが、正規の戦場で帝国軍の前にお目見えするのは、初めてになりますね。 カイル様の術式魔法によって、帝国軍から飛来する魔法は全て打ち消して、反対に帝国軍に術式魔法から発せられた、七種の自然魔法を次々に叩き込みました。それはもう、全ての魔法種の嵐のような光景だったそうです。」

 

「すげぇ。やっぱりカイル様だけ居ればいいんじゃないかな?」

 

「今に伝わるログス様のお力があってこそ、カイル様が力を振るえたのだと思います。ログス様の逸話は沢山ありますし、みんなログス様の武勇を褒めたたえております。これは、カイル様だけではできない偉業では?」

 

「そうだね。少し性急すぎたかもしれない。カイル様だけが活躍していたら、数多の将軍や武将の逸話が残っているはずが無いものね。それで、帝都ファルヴァスの前に反乱軍が迫って、最後の決戦である、ザヴェリア盆地の戦いになるんだよね?」

 

「その通りです。帝都ファルヴァスを守るためにバルグレイア帝国が用意したのは、なんと20万もの軍勢。それに対して、カイル様はわずか4万の精鋭で戦いを挑みます。」

 

「20万もの敵兵を前に、カイル様は戦うか引くかを悩み続けて、みんなの命を危険に晒す戦いをなかなか決断できずにズルズルと月日が経って行くんだよね。この優柔不断な態度、まさしく決められない男、カイル・アリディア様の面目躍如の瞬間だよ!」

 

「演義や、他の歴史書を見ても、家臣は喧々諤々の大論議、そしてカイル様はその様子を見ながらも、ずっと悩み続けるまま時間が過ぎて、そして、愛する4人の妻の後押しがあって初めて決戦を決断する名シーンなのですが、史学編纂科時代に当時書かれた資料に目を通すと、私はまた違った視点を持ちました。」

 

「何か違ったの?」

 

「それは、カイル様が自らが、わざと決断を先延ばしていたのではないかという視点です。」

 

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