静筆の魔術師 ~音と秩序の辺境譚~ 作:Magical forest
------------ エルラ・ミュリス視点 ------------
シュウ様との会話を終えた私は、図書館から自室に戻り今日のシュウ様の発言や、行動などを細かく報告書として記述していた。状況によっては、この報告書が重要な歴史的資料となる可能もあるので、否が応にも気合が入る。
しばらく、報告書を書いていると、私の部屋の扉がノックされた。
「は~い。はっ。」
扉をノックしたのは侍女長で、私はそのまま中央近くの豪華な部屋の前に連れていかれて、部屋の中に招かれた。
部屋の中には、ルミエール公爵夫人であるレミア・ルミエール様が座っていた。
私は急いでカーテシーをしながらお辞儀をして、挨拶の口上をする。
「緑陰より静かなる光を運ばれるリュミエール公爵家の至宝にして、閣下の良き伴侶、レミア・ルミエール様、臣下としてお呼びいただき、感激の極みでございます。」
「司書卿、こちらが勝手に呼び出したのだし、堅苦しい挨拶は不要よ。さあ、かけて頂戴。あなたはシュウの先生なのだから、遠慮は不要よ。」
「はい。ありがとうございます。」
ひぇ~。なんで私なんかが、公爵夫人に呼び出されているのよ。こんなのビビりまくるわ。
私は緊張しながら、紅茶をいただく。 おそらく最高級品の紅茶なのだろうけど、全く味が分からない。
「ごめんなさいね。昼間にあなたを呼び出しちゃうと、シュウ絡みって事が分かって、屋敷内でいらない噂を呼びそうだったから、こうして夜に呼び出させてもらったの。」
「お気遣いいただき、恐縮です。」
「シュウの様子はどう? 属性検査が反応しなくて落ち込んでいた?」
「落ち込んではいませんでしたが、概念属性だった場合には、魔法がいつ発現するかは分からないため、めんどくさそうにはしていましたね。あと、自然属性の場合にはアルノルト様と同じように冒険者登録をして、冒険しようと思っていた節がありますが、それは諦めたようです。少なくとも、現在の実力で冒険者になっても魔獣に食べられて人生を終えるぐらいの想像は付いているようです。」
「相変わらず、達観しているわね。剣術の練習の方も、先生に言われた通りに、黙々と型を繰り返しているそうよ。それで、騎士団の評価は実直で真面目という評価だったわ。先生の方も、本当に言われた通りに行動するから、評価に困っていたわ。それと、アルノルトと比較されても、全く反応せずに流すそうよ。」
「シュウ様はアルノルト様に対抗心を持っていないので、特に気にしないと思います。あの年で個を確立していますし、むしろそんな事で煽る人間が居ても面倒に思うだけだと思います。」
「そうね。その煽ったのはアルノルトの取り巻きの若い騎士なんだけど、シュウに流されたのが気にくわなかったみたいで、アルノルトに比べてシュウは大した事無いみたいな事を触れ回っていたみたいなの。アルノルトを信奉しているのはいい事なんだけど、主君を持ち上げるために、その弟の評価を落とそうとするのは違うと思うわ。まぁ、その若い騎士にはしばらく遠い場所で勤務してもらう事にして、アルノルトにも取り巻きの教育はしっかりするように言っておいたから、そういう事は、今後は無くなると思うのだけど。」
「シュウ様にお気遣いいただき、ありがとうございます。」
怖っ。公爵夫人怖っ。っていうか、騎士団の訓練であのシュウ様を煽ったの!? バカじゃないの? 自分はアルノルト様に重用されているから大丈夫とでも思ったのだろうか? アルノルト様の取り巻きになるぐらいだろうから、どこかの貴族の子供だろうけど、シュウ様の立ち位置が分かっていなさすぎる。それは左遷させられても仕方が無いわよね。
「シュウは運動が苦手に見えるのだけど、司書卿の目から見てどう思うのかしら? 剣術の稽古は止めさせた方が良いと思う?」
「いえ、シュウ様は剣術の稽古を気に入っているようです。子供のうちから適度に体を動かす事で、運動神経の発達と体の成長が促されるらしくて、週に数日の剣術の授業は健康と成長に良いと言って、積極的に参加されていますので、本人が辞めたいと言わなければ、そのまま続けて良いのではないでしょうか。」
「・・・・どこの老人かしら? そういえば、王国の引退した元騎士団長がそんな事を言っているのをお酒の席で聞いた事があるわ。今でも剣を振るうのが健康の秘訣だそうよ。」
「なるほど。子供のうちから将来の健康まで考えるとか、すごく達観していますね。さすがはシュウ様です。」
「貴方は、シュウの先生なのだから、そこまであの子をおだてなくて良いわ。あれはあれで変な子供なのだから。アルノルトの後にシュウが生まれて来て本当に良かったわ。順番が逆だったら、本当に問題が複雑になって大変な事になっていたでしょうね。」
「・・・・・・・・。」
公爵夫人による、あくまで私的な家族内の話をウィットな冗談で言っただけなので、部外者の私は何も言わずに微笑んでそのまま流す。
「司書卿、あなたはとても信頼のおける人物のようですね。深い知性を持っている上に、礼儀もわきまえている。あなたをルミエール公爵領に招けて、とても光栄に思いますよ。」
「ありがとうございます。」
良かった。なんとか合格点をもらえたみたいだ。
「それで司書卿は、シュウがカイル様の継火だと思いますか?」
来た。本題だ。
「独自に文献や記録などを調べてみましたが、カイル様の継火である可能性が高いと、私は考えております。」