北からの亡命者
シレーヌ王国の逃亡奴隷が我が国へと亡命してきた。
北方大陸の旧王族でもある彼女らは、奴隷とされた同胞たちの救出を懇願している。
この件について政府としての公式声明はまだ出していないが、世論はシレーヌ王国に対する怒りを抱くことだろう。
・我々にできることは何もない
安定度の基本値-5.00%を得る。
戦争協力度の基本値-5.00%を得る。
・奴隷の救出作戦を立案しろ
ディシジョンシレーヌ王国での奴隷救出を解禁する。
・軍を動員して解放戦争の準備だ
シレーヌ王国に対する戦争目標として併合を得る。
ラヴェルダとイーリアの姉妹の話を聞いた後、HOI4画面でイベントが発生。
これは軽々しく選択して良いものではなさそうなので、閣僚会議を招集させた。
Hoi4の閣僚枠は政治経済や外交等に関わる“政治顧問”が3枠、主に軍事ドクトリンの研究を促進する“理論家”が1枠、その名の通りの陸軍長官・海軍長官・空軍長官が1枠ずつ、陸海空が混ざっている長官以外の軍人枠の“軍最高司令部”が3枠、という具合になっている。
しかし、これでは現実になったときあまりにも政軍の割合が軍人偏重過ぎる…ためか、それとも俺がHOI4だけでなくHOI2もやり込んでいた影響なのかはわからないが、この国の閣僚システムはHOI4のものに一部HOI2のものを付け足した形になっていた。
HOI2の政府閣僚は10枠あり、最初からすべて任命されているがその効果はバフデバフが入り混じりバフしかない大臣もいるがデバフしかない国賊もいる。
そして国王などが入る“国家元首”と首相などが入る“政府首班”はイベント等以外で入れ替えできないが、それらを除く8枠は国民不満度の上昇を代償に解任して別の人物を任命できる、というシステムだった。
そしてこの国の閣僚システムは、HOI4のものをベースにHOI2に存在する役職の枠が追加されたもの。
その内陸軍大臣・海軍大臣・空軍大臣は陸海空の長官枠と被っているので追加されず、国家元首と政府首班は先ほど述べた通り自由に任免できないので俺とクリスティーナで固定されている。だが残る外務大臣・軍需大臣・内務大臣・情報大臣・参謀総長の5枠が自由に任命できる枠として追加された。
ついでに言うと、明らかに閣僚ではない理論家と軍最高司令部は勿論、政治顧問の3枠も政府顧問や特命大臣のような立場で正規の閣僚というわけではないらしい。
すなわち、今回のような閣僚会議に出席するのは
国家元首 俺
政府首班 クリスティーナ・ヴァーサ
外務大臣 ボクダン・フィロフ
軍需大臣 ヒャルマル・シャハト
内務大臣 アルフレート・フーゲンベルク
情報大臣 ウィリアム・J・ドノヴァン
参謀総長 ドワイド・D・アイゼンハワー
陸軍大臣 アラン・ブルック
海軍大臣 嶋田繁太郎
空軍大臣 イタロ・バルボ
の計10人となっている。
「…では、情報省より仮想敵国、“シレーヌ王国”について説明させていただく」
クリスティーナによる開会の辞と議題の説明の後、情報大臣のドノヴァンが説明を始める。
「知っての通りかの国は、北方で暴れている魔族のはぐれ者が勝手に国を名乗り、その上で北半球の魔族たちに干渉されぬようその存在を必死に隠している。故に連中に姿を晒したとしても、海路で物理的に北に通報されぬ限りは我々の存在が魔族の本軍に伝わることはないと想定される」
この辺りはこれまでに情報共有している範囲の話なので、全員静かに頷く。
「連中はどの程度の軍備を有しているのだ?推定で陸軍は1~2個師団、駆逐艦以上の艦艇は1~2隻、航空戦力なしと聞いているが」
「現地の諜報員の努力、そして亡命者の助力もありより具体的な情報が集まった。航空機はやはり有しておらず、軍艦と言えるのは第一次世界大戦期相当の仮装巡洋艦が1隻のみと判明した」
仮装巡洋艦……本来軍用ではない貨客船に火器を備え付けた一種の武装商船。
元より正規の軍艦を持てないようなはぐれ部族であるから、手持ちの船に火器を据え付けて軍艦と言い張っているのだろう。
そんなものでも、仮装巡洋艦とは
「話にならんな。その程度、我が空軍が簡単に沈めてくれよう」
「それは困りますなぁ。海のものは海軍の担当とさせていただきたい。バルボはん、ここは我が海軍航空隊に手柄を譲ってくれませんかな?」
「手柄争いはよそでやってくれたまえ。元より、あのような国擬きに纏まった艦隊など維持できまい…それより、肝心の陸軍はどうなのだ?」
牽制し合い始めた海空大臣をしり目に、陸軍大臣のブルックが続きを促す。
「陸軍も想定より弱体だ。苛烈な統治により多くの装備と人的資源を弾圧と監視に割いており、まともな軍部隊と言えるのは近衛軍と銘打った一個師団のみ。それも、中身は歩兵三個大隊のみという名前負け甚だしい有様と言える」
「であればまず負けはないか…それよりも治安維持部隊の方が、現地の人類を肉の盾にしないかどうかの方を心配すべきか。何せ相手は野蛮な魔族だからね、文明的な相手と思わない方がいいだろう」
そう言ってブルックが腕を組んだ。
「それなら、敵国家元首のシレーヌは実務能力こそないが配下からの人気だけはある。奴の身柄を抑えれば残党は荒っぽい抵抗はすまい」
「ならば陸軍の攻勢開始と同時に、降下猟兵による斬首戦術を挑めば良いだろう。所詮は航空機の一機も持たぬ連中、空軍は思うがままに動き回れる」
「唯一の懸念点は仮装巡洋艦に逃げ出されては困るということですなぁ。入港している時を狙って動かねば。他の船が北に逃げ込んで報告してもいけませんから、海上に出せるだけの航空隊を出すべきでしょうかな」
「…待て待て、あまり勝手に話を進めないでくれ。そもそも、開戦すると決定されたわけでもあるまい」
割り込んできた冷や水を浴びせるような言葉に、熱を帯びていた軍人たちの会話がピタリと止まった。
「…軍需大臣はシレーヌの人々は見捨てるべきだと?」
「そこまでは言っていない。だが軍という暴力装置は政府によって振るわれるという大前提を忘れてもらっては困る。苦しむ弱者を救うのは確かに義だろう。だが、他民族に虐げられる同胞を救えと言って他国に押し込み強盗を繰り返した末に世界の敵になった男もいるのだ」
シャハトに誰もが同じ扱いをされたくない男のことを連想したのか、軍人たちは皆苦々しげな表情を浮かべた。
「…私も介入自体に反対するつもりはないが、鬱憤が溜まっているところに分かりやすい悪役が出てきて興奮しているように見えるぞ。“ソヴィエトの善良な子供たちを救え”と叫んでボルシェビキを肥え太らせた馬鹿な国もいるのだ。聞こえの良い言葉にばかり流されていると共産主義者のような連中に足を掬われる」
「ま、ま、軍需大臣も内務大臣もそのあたりで。彼らも話し合いに熱が入っただけで、別に暴走して軍を動かしたわけではないのですから。それよりもまず、介入の是非について話し合うとしましょう」
外務大臣らしくフィロフが仲裁に入り、話の軌道を修正する。
「私としては介入に賛成ですな。かの地には北の大陸の国々の、王族や貴族の血縁者が数多く逃れてきていると聞いております。それを救い出し我が国に引き入れれば、将来的に北の大陸へ勢力を伸ばすにあたって力となってくれるでしょう。それに、北の大陸の文化や風俗についても現地出身者に聞くのが一番ですし。内務大臣はいかがです?」
「…ここで一切の介入を行わないとなれば、世論の反発は必至だろう。メディアを使っての誘導にも限界がある。連合帝国の臣民は豊かであるがゆえに、文明国の仕草を身につけているのだ。ここは介入すると共にその成果を大々的に宣伝し、プロパガンダを打つべきだろう。政府への支持も更に強まるし、勝利の後に行わねばならない軍拡にも弾みがつく」
フィロフとフーゲンベルクは開戦に賛成で、俺とクリスティーナは決断する側だから基本的に進行役と見届け役に徹する。軍人たちと情報大臣は開戦を前提に話し合っているくらいなので、明確に開戦に賛成していないのはシャハトのみとなった。
「…開戦に反対するつもりはない。だが連合帝国内にはまだまだ低い生活水準に苦しみ、政府の開発を待つ地域がある。他国民よりも自国民を優先すべきであり、まだまだ内地開発に多大な予算が必要だということを忘れないでもらいたい」
「要は軍事費を増やし過ぎるな、ということでしょう?連中を潰してこの大陸周辺を聖域となし、沿岸部に出られるようになれば陛下のお力でたくさんの大都市を生み出せる。そうなれば経済力も税収もうなぎ上りでそう心配はいらないのでは?」
「湖軍から海軍になれてはしゃぎ過ぎそうな連中がいるのでな。今の内に釘を刺しておいて損はないだろう?」
「これは手厳しい。まあ、否定はできませんが…最終的には海軍一同、陛下の御裁定に従うでしょう。そもそも予算だけ貰っても、造船所を作るところから始めなければ何も作れませんしなぁ」
「そもそも陛下のお力は想定できないことが多すぎて、あまり頼ることを前提としたくないのだがな…」
ごめんて。
その後は軍人たちによる戦争方針についての説明が行われたが、これは事前に対シレーヌ王国の戦争計画が策定されていたこともあり質問や意見はなかった。
それが終わるとクリスティーナは列席者を見回し、最後にこちらを見たので小さく頷く。
「――全員異議なしと認め、これを以って閉会とします」
ニア 軍を動員して解放戦争の準備だ