「…陛下、少々宜しいですかな?」
フィロフと亡命者の扱いについて少し話した後、ラヴェルダとイーリアの姉妹にシレーヌ王国に戦争を仕掛けて奴隷を解放することを伝えた。
「救世主殿、感謝する……!これで、皆も救われる!」
「ありがとうございます、何のお返しもできない我々にご慈悲を恵んでくださって…」
2人は喜んで感謝の意を伝えてきたが…どこか申し訳なさそうだった。
平和に過ごしていたパラド連合帝国に、どんでもない面倒ごとを持ち込んだという後ろめたさがあるのだろう。
閣僚会議では大したことはないと評価されたシレーヌ王国の軍備だが…それはこちらから見ての話。
諜報情報や彼女らからの話を聞く限りヨルデン世界の軍事技術レベルは19世紀前半から半ばにかけて程度…分かりやすい海軍で言えば帆船が普通で蒸気船は外輪式のものを海軍先進国が少数保有している程度、軍艦用の装甲やスクリューは形すら存在していない段階だ。
そんな彼女たちにとって15cm砲や魚雷を有する仮装巡洋艦は黒船どころではない悪夢そのものだろうし、こちらの文明が進んでいると言われても相応の被害は出てしまうだろうと気に病んでいるといったところだろうか。
「…海軍大臣から視察に来てくれないかと誘われているので、一緒に行きませんか?」
これは下手に慰めるよりこちらの方が上の軍を持っていると見て分かってもらった方がいいだろうと、軍の視察に2人を連れていくことにした。
第一次国土拡張計画で、砂漠開拓の後に湖のほとりに街を作ると言っていたのを覚えているだろうか。
マップ“プルシアンピークス”を使用して作られたグリタウの街。カスピ海並のサイズを持つ、ヴァラド大陸最大の湖に面したこの街はパラド海軍の現在の根拠地だ。
――そう、海軍である。
イメージしたのはボリビア海軍とソ連のカスピ小艦隊。
外部勢力に見つからない為、俺は海に面した場所まで国土を広げないようにした。…だが、海に面していないからといって、海軍を名乗れないわけではない。
ボリビアは太平洋戦争(19世紀版)で沿岸部を失い内陸国になった後も海軍を名乗っているし、HOI4では再現されていないがソ連はカスピ海にカスピ小艦隊を有しイラン侵攻に参加している。
――それなら、軍艦が動き回れるくらい広い湖なら海軍の拠点になり得るのではないか?
そのような仮説を基に巨大な湖のほとりに街を築き、HOI4のゲームシステムに切り替えてみたところ……造船所が建設できた。
こうして、海を持たないパラド連合帝国の海軍拠点が出来上がることになった。
とはいえ、ただ作れそうだったからというだけで造船所を作ったわけではない。
一つは、来たる外洋海軍創設に向け船乗りを育てる為。
ゲームでは海軍の練度は船ごとに設定されていたが、現実の海軍では新型戦艦の配備に当たって旧式戦艦から熟練の乗組員を引き抜いて配属させるということは普通に行われていた。
であれば湖に浮かべた軍艦で船乗りとしての知識を身に付けさせ、本物の海に浮かぶ軍艦の基幹要員とすることは可能なはずである。
そのような目的から、この湖に進水することになった駆逐艦は日本海軍の香取型練習巡洋艦のように、旧式でも一通りの装備を組み込みその運用を学べるように設計させた。
コリントス級量産駆逐艦
初期型駆逐艦船体
主機出力:パーソンズ式タービン34,000馬力(小型エンジンⅠ)
最高速度:34.0kn 航続距離:1,500km
武装
50口径12.7cm三式B型連装砲(両用主砲Ⅰ)
九三式13mm対空機銃(対空砲Ⅰ)
六年式53cm三連装水上発射管(魚雷発射管Ⅰ)
爆雷投下軌条(爆雷Ⅰ)
九三式水中聴音機(ソナーⅠ)
二式二号電波探信儀一型(レーダーⅠ)
従事人員:250人
生産コスト:1,012.50
両用砲、対空砲、魚雷、爆雷、ソナー、レーダーと一通りの装備は積んだが全て初期型、ベースとなる船体も日本海軍でいう睦月型のような戦間期型を選んだこともあり、コスト・建造時間は最新型の駆逐艦の半分以下になっている。
まあ、内陸で船を大量建造しても仕方ないとグリタウに建設された造船所は2つのみであり…造船所2つだけの生産スピードでは半年でこのコリントス級駆逐艦一隻と、つい先日完成した最低限の装備だけ積んだ潜水艦一隻を建造するのが限界だった。
ゼーレーヴェ級量産潜水艦
初期型潜水艦船体
主機出力:スルザー式ディーゼル2,500馬力(潜水艦用エンジンⅠ)
最高速度:14.8kn 航続距離:2,000km
武装
一五式53cm発射管4門(魚雷発射管Ⅰ)
従事人員:200人
生産コスト:480.00
「嶋田殿、あのフネが貴国の主力艦なのか?」
「いえいえ。たしかに現時点ではあのようなフネしか作れておりませんが、海に出た暁にはあれより遥かに巨大で強力な軍艦を作る予定ですなぁ」
「あれよりも遥かに……か。いったいどのようなフネが……」
ラヴェルダは嶋田に盛んに質問を繰り返している。イーリアの方はラヴェルダの後ろをついて回っているだけだが、圧倒されている様子だ。
…だが、今回の主役はフネの方じゃないんだよね。
「さあ、そろそろ訓練が始まりますぞ」
嶋田の言葉から間もなくして、上空にスマートな機体が舞い始める。
…造船所を作った第二の理由。それは、航空機の訓練の為の標的艦を作るためだ。
海に出る為にはシレーヌ王国を滅ぼさねばならない。しかし、その際に北に通報されてしまえば北方で三大陸を征した巨大な魔族の軍勢に存在を察知され、侵攻を受けるかもしれない。
故にシレーヌ王国を攻めるのならその海上船は一隻残らず沈めねばならず…外洋に出られる海軍を持たない以上、それが叶うのは航空戦力だけだ。
「ふふ、陛下の御臨席を賜って皆張り切っておりますなぁ」
海軍航空隊が対空砲を撃ち上げる駆逐艦に模擬弾を叩きつけ、海中へ逃れようとする潜水艦を急襲する。最高速度700キロを超える航空機たちの演舞に、姉妹はぽかんと口を開けて見入っている。
「…これが、わが国の力の一端です。少しは、安心していただけましたか?」
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「…………」
救世主様にお姉様共々賓客として扱っていただき、その居城に滞在を許されたわたしは…ある想いを胸に、長い廊下を歩いています。
伝説の理想郷……パラド連合帝国に足を踏み入れてからの時間は、私にとっては驚きの連続でした。
ヴェネティ共和国で見た最新式だという蒸気自動車より、遥かに素早く快適な自動車。こうそうまんしょん?と呼ばれる見上げるような高層建築物の並び。それらが王侯や富豪の為のものではなく、一般民衆に普及しているものだというのですからとんでもないことです。
その軍備も、軍事に疎い私でも私たちが知るものと隔絶していると本能で理解できます。
湖に浮かんでいた、あの強力な大砲を積んだ悪魔のような魔族の船とも戦えそうな船に、水中に潜ることができる船。そして、とてもすごい飛行機。
そう、飛行機。魔族たちが有し、ヨルデン大同盟の各国が対抗しようと開発を急がせたのに結局形にできなかったという、空を往く乗り物。
それを所有しているということは、私たちと違って、パラドの軍は空を奪われて戦わずに済むということ。その性能も、お姉さまは『魔族のものより、ずっと速い』とおっしゃっていました。
キャロルさんという護衛の方のお話では、今はまだ数が多くないもののいずれ何千という数を空に送り込む予定だそうです。
…ともすれば、それは魔族以上の脅威にもなり得る力ではありますが…あの方が全権を握っている限りは、そのようなことは起きないのではないかと思います。
救世主様。
無人の大地であったこの地に一人降り立ち、その力をもって街とそこに住まう人々を生み出し、理想郷を築き上げたというお方。
神の如き超人的な方なのか、それとも聖者の如き潔癖無私な方であるか……色々と想像していましたが、実際に会ってみた感想は予想とは大きく違いました。こう言っては失礼かもしれませんが、むしろ小市民的な…小さな善意に感謝し、自分も周囲に対してそうあろうとするような…そんな人柄であると感じました。
しかし…驕り高ぶって当然の立場にあってもその性質を変えないということは、善性に大きく寄った人柄でもあるのでしょう。私たちのことを物珍しそうに見ている感じがありましたが、そこにあるのはあくまで好意…異物に対する隔意を感じ続けてきた私には、そのことが良くわかります。
「市長!私、勉強会で小学校の卒業認定試験に合格したよ!」
「市長!お久しぶりですな。宜しければ、また今度バーベキューでもしませんかな?」
思い返すのは、民衆からも慕われ、それに気軽に声を返すお姿。
あのような方であれば、こちらがその善意を裏切らない限り、きっと不利益をもたらすことはない。むしろ対価を用意できずとも、その善意によって利益をもたらして下さる。……あるいは、奪われた故郷を取り戻すことすら。
――だとしても、私は……
「…どうされました?イーリア様」
「…クリスティーナ様。私は……」
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『陛下。今後、保護した北方の王侯貴族の娘たちが陛下の寵愛を求めてくることも多々あるでしょう。一人にあまり偏った寵愛を注ぐことは望ましくありませんし、すべてを娶る必要はありませんが……私としてはどんどん受け入れて、どんどん子を作るべきだと思っております』
閣僚会議の後、そんなことを言ってきたフィロフ。
『聞く限りでは多くの王家や諸侯の当主と跡取りが討死し、断絶状態になっているとのこと。それを再興させるとなれば、誰が跡を継ぐかでどこも揉めるでしょう。…そこに、陛下の血を引く子が候補者に昇れば誰も反対できない。違いますかな?』
『こちらとしても、陛下のお子を王や貴族当主の地位に押し込めれば支配力を強化できる。国民も、陛下の子を君主として送り込み我が国の支配下に置くことができるとなれば、縁のない遥か北方の地への出兵に賛成意見も出ることでしょう』
『通常であれば短期的には良くとも将来的には跡目争いからの国家分裂になりかねませんが…陛下は不老であらせられる。故にそのデメリットは無視できます。悪くない話だと思いますぞ』
その言葉を思い返している……否、そうして現実逃避している今……俺の身体は、自室でイーリアに押し倒されていた。
「…っ、こんなことをしなくても…奴隷にされた方々はきちんと救いますし、貴女たちを見捨てたりは、しませんよ……?」
「…傲慢だと、恥知らずだと、思うがままに罵ってください。しかし……ただ救世主様の善意におすがりし、身を委ねるだけというのは……耐えられないのです」
俺に馬乗りになったイーリアは、縋るような目でこちらを見下ろす。
「魔大陸が現れて以来…私たちは、あらゆる希望を摘み取られてきました。そのせいもあり…とても、臆病になってしまいました」
「理由が欲しいのです。救世主様が私たちに厚意を示して下さる、確固たる理由が。繋がりが欲しいのです。流浪の身である私たちと、貴方様の理想郷を繋ぐ確固たる繋がりが」
「そして、今の私に差し出せるものといえば、この身体だけ……それとも、ご迷惑ですか?」
「迷惑という訳では、ありませんが……」
美しいエルフに迫られるというのはこの上ないご褒美なシチュエーションではあるが、このまま流されて良いものか…
「……反応してる。私のこと、ちゃんとそういう目で見てくださっているんですね…」
というか警備上完全にここまで素通りだったはずはないのだが、この夜這いはクリスティーナ公認…ってコト!?(
「大丈夫です。いずれ嫁ぐ身としてそういう教育も受けていますから……知識は、きちんとありますので。では、失礼します…」
えっあっちょっまっ――
市長殿がまた喰われておられるぞ!(
本編執筆が詰まった時に、こういう本編で出せないシーンの番外編執筆しようかしら(ぐるぐる目)