異世界パラド   作:ヒャル

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第三章 大陸間戦争準備
諜報活動への布石


 シレーヌ王国を滅ぼし、奴隷にされていた人々を救出してから幾分かの日々が経った頃。

 保護した北方の王侯貴族の代表格から謁見の願いが届いていると報告があったので、会ってみることにした。

 

 場所は俺の家になっているホテル改装王城の応接室。流石に謁見の間みたいのは胃が痛くなるので作らせなかった。

 

 

「お初にお目にかかります、救世主様。アルガルヴェ王国王妃マリナ・アリアドナ・デ・エステバンと申します」

 

「ブレイス連合王国コールリッジ女伯ブランシュ・シーラ・オールディントンにございます。お目にかかれて光栄です、救世主様」

 

 パラド政府に保護されてから仕立てたのだろう真新しいドレスに身を包んだ、2人の妙年の女性が頭を下げる。

 

 外務省からの報告によれば、前者はアルガルヴェ王が入り婿だったことと当人の聡明さから事実上のアルガルヴェ女王と称され、ヴァラド大陸への脱出計画を立案し難民たちのリーダーを務めていた女傑。

 後者は反乱で夫が戦死した後指揮を引き継いで反乱を鎮圧したという経歴を持ち、避難民集団の中では戦闘要員のリーダー格だったという剛の者だそうだ。

 

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「これはご丁寧に。私はパラド連合帝国の指導者、皆からは“市長”や“陛下”と……貴女方からは“救世主”と呼ばれている者です。……まずは、お座りください」

 

 こちらが座っているのに立っていられると話しづらくてたまらない。相手が年上で高貴っぽい人物だと余計にそうだ。

 幸いラヴェルダとイーリアの姉妹の時とは違い、すぐに応接用ソファーに座ってくれた。

 

「女王シレーヌ率いる魔族を討ち滅ぼし我々を保護してくださったこと、改めてお礼申し上げます」

 

「どういたしまして。我らとしてもあのような存在が大陸の北方に居座っているのは不愉快でなりませんでしたから、無事に排除できて喜ばしく思っております」

 

 出来る限り穏やかに微笑みかける。

 

「皆様の身の上は伺っております。大変な苦労をなさいましたね…世話係から既にお聞きかと思いますが、我々は貴女方を客人として迎え入れる用意があります。もう心配はいりませんよ。遠慮も不要、提供させていただいた部屋を自分の家と思ってお過ごしください」

 

 現在、保護した王侯貴族たちに関してはこの城の客室か、近くに追加で建てた高級ホテルの客室に住まわせている。

 外務省の役人から衣食住その他を保証する旨は既に伝えてあるが、国の代表の言質を得ておいた方が安心するだろうとこちらからも念押ししておく。

 

「…はい。救世主のご温情に感謝いたします」

 

 しかし、2人の顔色は思うように明るくならない。

 

「…何か懸念されることが?」

 

「女王シレーヌ率いるネグス氏族はたしかに滅びました。しかし、果たしてこの大陸にやってくる魔族が彼女らだけでしょうか?」

 

「そうです。北の諸大陸に魔族がある限り、いずれまたこのヴァラド大陸にも上陸し貴国を脅かすのではないでしょうか」

 

 水を向けると、マリナもブランシュも次々と言葉を重ねてくる。

 

「…故に早く魔族を滅ぼせる大軍団を組織し、北の大陸から魔族を駆逐せよと?」

 

 腹の探り合いは得意ではないし、そのようなことをする必要が無い程にこちらが圧倒的優位なので直球を投げ込んでやると、2人の表情が凍り付いた。

 

「…我々を助けていただいたことには感謝しております。しかし、我々が望むのは決して、我が身の安全だけではありません」

 

 ブランシュが縋るような、しかし強い意志を宿した視線を向けてくる。

 

「我々の故国では魔族たちが我が物顔で闊歩し、残された同胞たちがその支配の下で苦しんでいます。彼らの蛮行を止める為に、どうか救世主様のお力をお貸し願えませんでしょうか?」

 

「彼らは他種族が自分たちと並び立つのを認めず、己の奴隷としてしか他種族の生存を許容しません。貴国の存在を知れば、間違いなくこの地にもその手を伸ばしてくるはずです」

 

「…お二人の意見はよくわかります。我々としても、魔族との共存が可能だとは考えていません。しかし、現状で海に出たばかりの我が国には北の大陸まで押し渡る為の海軍がないのです」

 

 2人の懇願を抑え、こちらの事情を滔々と述べる。

 

「少なくとも軍備拡張に2、3年はいただきたい。その間に大海を押し渡る為の海軍と、三大陸を征する為の陸空軍を建設します。その暁には、我々は北の大陸へ向け解放の軍を進める所存です」

 

「…本当ですか?」

 

「ええ。既に軍には大軍拡の準備に入らせています。…そして、貴女たちにもご助力を願いたい」

 

「私たちにできることが、あるのですか…?」

 

 圧倒的に技術力で劣る自分たちにできることなど無いと思っていたのか、2人が驚いたような顔をする。

 

「我々には国力こそあれど、北の大陸についての知識があまりにも足りない。故に、北からの来訪者である貴女たちに教えを請いたいのです」

 

 事実、ゲームシステムから得られる情報だけでは色々と足りないことが多すぎる。現地人による生の声が聞きたいというのは、外務省を中心にたしかにある声なのだ。

 

「我々としては、軍に先立って北に諜報員を送り込みたいと考えています。可能なら現地の抵抗組織を支援し、あるいは重要人物の救出などを行いたいとも。その為に、貴女たちの力が必要なのです」

 

「…あ、ありがとうございます!我々にも、出来る限りの協力をさせていただきます…!」

 

 ……開戦前のラヴェルダとイーリアたちのように、その場に跪く2人をまた助け起こしてやらねばならなかった。

 

 

 北に諜報員を送り込みたいというのは嘘ではない。活用するのはHOI4の諜報システムだ。

 

 HOI4では、まず30日間民需工場5個を割り当てることで諜報機関の創設が行われる。そして創設から30日が経過すると最初の諜報員が自動的に雇用される。

 諜報員は雇って自国に待機させているだけでも防諜要員として自国を守ってくれる。だがその本領は潜入にあり、他国の大都市に送り込むことで現地に諜報網を広げてくれるのだ。

 

 諜報網は広がれば広がるほどその国についての情報を得られるほか、そのパーセンテージに応じて様々なスパイ作戦が可能になっていく。

 スパイ作戦には様々な種類があり、その名の通りな“暗号の解読”、その分野の情報を更に獲得する“市民行政府/陸軍/海軍/空軍への浸透”、浸透を行っている時にその部署の技術を盗み出す“産業/軍事/海軍設計図を盗む”と“航空産業の青写真を盗む”。

 現地抵抗組織を利用した工作の足掛かりとなる“抵抗運動との接触を試みる”とそれを前提とした抵抗組織を援助する“レジスタンスの強化”と抵抗組織の破壊活動標的を誘導する“産業/資源/インフラへの妨害工作”。

 捕まった自国の諜報員を救い出す“捕縛された諜報員の救出”、相手国を降伏しやすくし戦後の統治を円滑にする“協力政府の準備”、諜報員に潜入されている時に偽の陸軍24個師団の存在を誤認させる“偽情報の植え付け”、厳しい条件を満たした時にクーデターを起こさせる“クーデター工作”、宣戦布告と共に3日間湾港攻撃と戦略爆撃にボーナスを与える“連携攻撃”。

 ゲームの一部の国では“トロツキーの別荘を襲撃”など特殊な作戦も発生していたので、パラド連合帝国でもこれら以外のスパイ作戦が発生するかもしれない。

 

 スパイ作戦の方にも、諜報網の拡張を前提としないスパイ任務というものもある。防諜任務や諜報網の構築も任務の一種だ。

 それ以外の任務には民主主義などのイデオロギーを支援する“イデオロギー支持工作”、安定度の戦争協力度を低下させる“宣伝活動”、諜報員を使って国内のレジスタンスを掃討する“レジスタンスの掃討”、資源の輸出量を増やすよう仕向ける“貿易の制御”、不可侵条約や同盟の締結を行いやすくする“外交的圧力がある。

 …魔族領で共産主義のイデオロギー支持工作をやったら、魔族たちがプラカード持って『万国の労働者よ団結せよ!!』とデモを始めるんだろうか…シュール過ぎる。

 

 

 とはいえ、諜報員の努力だけではできることに限りがある。諜報活動の効率を高めるには、諜報機関を拡充しその機能を高めることが必要になるのだ。

 

 “諜報機関支部のアップグレード“で各部門の強化を行える。かかる時間は創設と同じく30日間だが、使用される民需工場の数は項目によって異なる。

 他国の情報の精度が上がる“情報”、防諜やレジスタンス掃討の効率を上げる“防衛”、各スパイ作戦にバフを与える“作戦”、諜報員の能力を上げる“諜報員育成”、暗号を解読しやすくしたり解読されにくくする“暗号部門”の5部門があり、特に重要なのは情報と暗号部門の2つだと俺は考えている。

 

(情報部門の強化はシレーヌ王国の軍備を探るのに役立ってくれたからな…)

 

 “情報”部門は“経済/民間”“陸軍部門”“海軍部門”“空軍部門”の4項目あり、強化することでその分野のより詳しい情報を探れるようになる。

 シレーヌ王国の場合は空軍の人的資源がゼロであったから空軍が存在しないこと、軍艦の設計とそれが1隻しかいないこと、陸軍の師団編成とそれが1師団しかいないことなどを探り出してくれた。

 

 “暗号部門”は“暗号部署の創設”“無線傍受班”“機械による解読支援”“政府暗号学校”“機械による暗号化支援”の5項目あり、前者3つは敵国の暗号を解読するのに必要な日数を短縮する効果。後者2つは敵国が自国の暗号を解読するのに必要な日数を延ばす効果。かかる日数が長すぎて解読するのは無理だなと諦めさせられれば儲けものだ。

 

 “防衛”部門は“受動防御”と“対パルチザン任務”の2項目だけだ。“受動防御”は敵諜報員の活動を妨害しスパイ作戦の実行に必要な日数を引き延ばすものだが、そもそも魔族国家群にパラド連合帝国は発見されていないからスパイが送り込まれることはないはずだし、“対パルチザン任務”はレジスタンス掃討作戦の効率を上げるものだが、レジスタンスが発生するような占領地もない。だから、防衛部門は後回しでいいだろう。

 

 “作戦”部門は5項目あり、“青写真の窃盗”は敵国の技術を盗み出すスパイ作戦へのバフ。“携帯無線通信機”は真珠湾攻撃的な開戦と同時に湾港攻撃や戦略爆撃へのバフを与える“連携攻撃”の強化。“隠顕インク”は青写真の窃盗と同じく技術窃盗作戦へのバフと共にスパイによる情報収集でのバフにもなる。“可塑性爆薬”は破壊工作や敵国内のレジスタンス活動を強化し、“自殺薬”は捕らえられた自国のスパイの自害成功率を上げると共にスパイを見つかりにくくする。

 技術的には魔族よりこちらが進んでいると思われるので青写真を盗む機会があるかは疑問だが、北方の東西大陸には全域にレジスタンスがあると思われるので可塑性爆薬は是非手を付けたいところだ。そして諜報員のせいで我がパラド連合帝国の存在が露見するのも避けたいので、潜入作戦を行う前に自殺薬も開発させておきたい。

 

 “諜報員育成”は敵国の国民や占領下にある友好国の国民を諜報員としてスカウトしやすくなる“現地訓練施設”、諜報員募集時に様々な諜報バフがある特性“コマンドー”を付与する“コマンドー作戦訓練”、敵国のスパイの捕縛率と捕らえたスパイから得られる情報にバフを与える“尋問技術”、貿易への干渉や外交的圧力の任務の効率を上げる“外交訓練”、プロパガンダやイデオロギー指示工作の効率を上げる“心理戦”の5項目がある。

 とりあえず最優先で取るべきは募集時に影響するので諜報員採用してから取っても無駄になってしまう“コマンドー作戦訓練”だろうか。コマンドー持ちなら潜入中に見つかりにくくなる上に暗号の攻守、破壊工作にバフが入るのでとりあえず付与させておいて損はないし。

 

 

 いずれにせよ、諜報員は潜入させるなら現地人になりすますことになるし、その為には現地の文化について知らなければならない。その為にも、現地出身の避難民たちの協力は必要不可欠だ。

 

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