異世界パラド   作:ヒャル

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第一章 はじまりの街ヨハンボルグ
異世界へようこそ、パラドゲーマー


「ぇ……ぁ、は……?」

 

 思わず間抜けな声が出てしまったが、きっと俺は悪くないと思う。

 気が付いたら、自分が何もない荒野に突っ立っていたら誰だってこうなるだろう?

 

「ここ……どこだ……?」

 

 キョロキョロと周囲を見回してみるが、あるのはどこまでも広がる雑草もまばらな地面。道路だの建物だのといった文明らしきものは見えない。

 スマホも持っていないようだしかなり絶望的な状況だが…何やら違和感。

 

「……体型が変わってる?」

 

 手元足元を見回していた時に感じた違和感の正体。運動不足らしく弛んでいた腹部が、引き締まったように凹んでいる。

 ぺたぺたと触りながら全身を探ってみると、アスリートのように程よく引き締まった細マッチョ体型になってるようだ。

 

「まさか異世界転生ってやつ?いや、それにしたってもっとマシな場所にポップさせて欲しいものだけど」

 

 いや、どんな場所がポップに適しているとか知らないが。

 

「…とりあえず現地人を探すか」

 

 こういう異世界転生ものは、困っている現地人に出会ってそれを助けて…みたいな導入が王道だったような気がする。ほとんど読まないから知らんけど。

 乏しい異世界転生ものについての知識を脳から引っ張り出しつつ、物音の聞こえる方角へと歩き出した。

 

 

「…誰もいねぇ」

 

 物音の源だった大河にまでたどり着いたが、人の姿はなかった。何なら文明の痕跡すらなかった。

 

「この水も飲んで大丈夫かわからないし、このまま野垂れ死になんて嫌なんですけど……」

 

 どうしてこうなった。

 異世界転生なら最初に神様からの説明イベントがあったり、なんかすごいチート能力貰えたりするものじゃないのか。

 

 何故こんな事態に巻き込まれたのか…そもそもこんなことになる前、自分は何をしていたんだ…?

 

(たしか、Europa UniversalisⅣをカスタム正教国家で遊んでて、神聖ローマ諸侯を死にかけの皇帝諸共『神の御心のままに!』してセーブして寝たんだっけ…?)

 

 ――そう思い浮かべたのがトリガーになったのか、脳内にある文字列が浮かび上がる。

 

 

“Europa Universalis“

 

 

(これ……ゲームと同じ色や装飾のEuropa Universalisのタイトル?)

 

 Europa Universalisはスウェーデンにある戦略SLGの大家、Paradox Interactive発売の国家運営系戦略SLGだ。ナンバリングにもよるがだいたい東ローマ帝国滅亡前夜から19世紀初め頃までプレイできる。

 ついでに別のものも選べますよとばかりにその上下に矢印アイコンも出ているが、とりあえず“Europa Universalis“を選択してみる。

 

「お……おぉ……!?」

 

 一瞬のロード時間(?)の後に表示されるマップ画面。そのデザインといい、横にある様々なボタンといい紛れもなくEuropa UniversalisⅣ……EU4のゲーム画面だ。

 

「これ、明らかに地球にある大陸じゃないな…ここが現在位置ってことか?」

 

 EU4のマップは、ゲーム開始時は常に首都のある場所にカメラが初期配置される。領地なんてものはないので、多分現在位置が表示されているのではないかと思う。

 それによると、現在俺がいるのは縦長な大陸の内陸部、やや北よりの未入植地のようだ。というか新大陸ポジなのか、未入植地ばかりだ。

 

「でも、この大陸しか表示されてないし…」

 

 EU4は大航海時代前夜から始まるゲームなだけあり、最初から見れるのは自分がいる地域だけでそれ以外は未知の領域として隠されている。例えば西欧国家なら最初マップに表示されるのはヨーロッパ+地中海沿岸だけで、南北アメリカ大陸やアジア、アフリカ等をマップに加えるには探検家を雇って探検させるなどの作業が必要になる。

 その仕様を引き継いでいるのか、現在脳内マップに表示されているのは大陸1つとその周辺海域のみ…ここかどんな世界か知りたいのに、これでは不便に過ぎるし現状で探検するのも無理だ。

 

「ならば…」

 

 最初の画面に戻って、EU4の上下にあった矢印ボタンを選択してみる。

 

“Victoria”

 

“Stellaris”

 

 予想通り、他のパラドゲーのシステムも使えるようだ。

 表示されるパラドゲーのタイトルを流し見しつつ、目的のタイトルが出てきたところで上下操作を止める。

 

「これだ、“Hearts of Iron”!」

 

 目当てのゲームを選択すると、先ほどのEU4とはまた別のシステムのマップ画面が展開される。

 

 Hearts of Iron、通称HOIもまたEUと同じくParadox Interactive開発の戦略SLGだ。俺が一番やり込んでいて理解が深いゲームでもある。舞台は第二次世界大戦前後の時期で、既に全世界が繋がっている時代なので未知領域というものはない。

 

「よし、予想通り!」

 

 よって、Hearts of IronⅣがベースになっているらしいこちらのシステムに切り替えたことで、マップ画面で他の大陸も見られるようになった。

 

「…惑星全体がほぼ無人の土地だったらどうしようかと思ったけど、他の大陸はちゃんと文明が繁栄してるっぽいな」

 

 この世界は地球より陸地が少ないうえに配置が偏っているようで、北半球に南米大陸くらいの大きさの大陸2つとその付属諸島、それらに囲まれるようにそれより小さい大陸1つが密集しており、南半球には北米大陸くらいの大陸が1つ。あとは絶海の孤島が少々、といった程度だ。

 北半球の諸大陸は様々な国家があるのか、国が色で別れて表示されるHOI4マップではカラフルになっている。一方、南半球の大陸はほぼ全域が未入植地で、北端部に小さな国が1個あるだけだ。

 

「まあ、実際に行けそうなのは物理的に一国だけなんですけどねぇ」

 

 現在俺がいるのは南半球の大陸――ヴァラド大陸というらしい――なので、文明を求めるならこのぽつんと1個だけある国に向かう他ないだろう。

 HOI4はマップ上の国を選択することで、その国についての情報がある程度わかるので早速調べてみる。

 

「どれどれ……」

 

 

シレーヌ王国

 

安定度:30% 戦争協力度:100%

 

国民精神

孤立した疑似国家

外交ができない

―――――――――――――

この国は他国の目が届かない海の彼方で密かに建国された。他者に知られても独立を維持できる力を身につけるまでその存在を隠蔽し続けるこの国が他国と国交を結ぶことはない。

 

匪賊王国

徴兵可能人口:+2.0%

師団攻撃:+5,0%

一日あたりの政治力コスト:+8.0

降伏限界:-30%

―――――――――――――

我々は略奪し支配する者であって統治する者ではない。効率的な国家運営など知らず、知ろうともせず、ただ喰らい貪るのみである。

 

いびつな技術発展

兵器および装備研究速度:+15%

火砲研究速度:+15%

車両研究速度:+15%

産業研究速度:-50%

電子工学研究速度:-50%

―――――――――――――

魔族の軍事技術にかける興味は強く、逆に民生分野はおざなりにされている。

 

原始的奴隷制

資源の採掘効果:+5%

安定度:-15%

―――――――――――――

多くの魔族国家がそうであるように、人類を奴隷へと堕とし過酷な労役を課している。その成果はより優れた資源の産出量となって表れているが、虐げられる人類が我らに心服することはないだろう。

 

 

 ……大航海時代の海賊国家かな?(

 

 これでは接触したが最後「馬鹿な獲物がエサになりに来たぞ」と襲ってきそうなので、絶対に関わらないようにしないとマズい。

 となるとゲームの機能が万全に使えるなら、それを使って自前の勢力を立ち上げるしかないとして…頼るべきは他大陸の国家群。海の遥か彼方なので関係を結ぶのは大変だが、こちらの準備が整う前にあの蛮族が攻めてくるリスクを考えれば大国の傘の下に入っておきたい。

 

「ええっと……比較的近いのは東の大陸の南部か?…どれどれ」

 

 

――――――――――――――――

 

 

「……まともな国家一個も残ってないじゃん」

 

 結論。この世界は蛮族に支配されている。

 

 いや、シレーヌ王国の“戦争協力度”100%の時点で嫌な予感で嫌な予感はしたのだ。

 戦争協力度はその国の国民がどれほど戦争への協力を考えているかの指標で、50%を境にバフとデバフが切り替わる。

 上昇させるには戦争プロパガンダを打つなど色々な方法があるが…“国際緊張度”、つまり世界にどれだけ戦火が広がっているかの指数が高くても上がっていく。

 

 そして今の国際緊張度は、戦争協力度を40%上昇させる上限の100%…地球で言えばスペイン内戦や日中戦争程度ではまったく足りず、世界大戦が始まり数多の国が巻き込まれ滅びていってようやく到達できる数値だ。

 加えて言えば、今はどこの国も戦争中ではないので世界大戦規模の戦いが起こり、それが終わって間もない世界ということになる。

 

 

 これ、アカン奴だとフレーバーテキストや他のゲームシステムの情報、特にEU4でのゲーム開始時に表示されるその地方の最近の歴史解説なんかを調べ回ってこの世界について理解を得た。

 

 ――突然この世界に小ぶりな大陸が異世界転移し、現地住民は驚きつつも平和的接触を図るが、相手がステラリスのマローダー勢力みたいな奴らだったせいで失敗。

 異世界マローダー“魔族”は大ハーンがいたわけでもないが異世界転移で覚醒モードに入ったのか、世界に対する戦争を初め無人のヴァラド大陸を除く北の両大陸を完全征服。現地人は奴隷にされた。

 そして各国が乱立しているように見える東西大陸は、実際のところは旧国境に沿って切り分けた土地を有力部族たちが分割統治しているからそう見えるだけで、全て支配階層は魔族。全勢力が同陣営にいるという実質大陸三個を統一する異世界マローダーがいるような状態だ。

 

 そして北のシレーヌ王国とやらだが、魔族の侵攻に怯えた現地国家が滅亡前にこっそり出した避難船が宗教的聖地として禁足地扱いだったヴァラド大陸北端部に上陸してひっそりと入植を開始。

 それを魔族の小部族が発見し、自分の国が欲しいその部族がマローダーらしく他の部族に知らせず独断専行で襲撃してそのまま縄張りにした模様だ。そのせいで国土が全部非中核州とかいうわけわからんことになってるよ…

 

「…まさか、この魔族に支配された世界を救えってこと……?」

 

 相手がこんな巨大国家連合モドキだと普通の戦闘力チートでは蟷螂の斧ということは理解するが、何故チートがパラドゲーなのか。あとついでに何故自分なのか。

 色々と言いたいことはあるが…やるしかないのだろう。

 

「何も行動しなければ奴隷にされるかサバイバル失敗で野垂れ死ぬだけだし…生きる為に自勢力つくるなら相手を滅ぼせるくらいにならないとこっちが滅ぼされるし…」

 

 ブツブツ呟いて自分を奮起させつつ、再びゲーム選択画面に戻って今使うべきゲームを選択する。

 

 

“Cities: Skylines”

 

 

 

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