異世界パラド   作:ヒャル

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第一村人発見!

 公共サービスの設置も終えて住宅第一号を眺めていると、移住者が到着したのかその前に大型のバンが止まり、中年の夫婦とその子供と思しき4人の若者が降りてくる。

 

(…欧米人っぽい感じかな?)

 

 こちらの視線に気づいたのか、彼らは少し会話を交わした後父親らしき人物がこちらに歩いてくる。

 

「ハハハ、市長自らのお出迎えとは光栄ですな!私はケントと申します、市長!」

 

「…ええ、まあ、貴方方が最初の住民のようですからね。ヨハンボルグへようこそ!」

 

 ムキムキの身体に金髪碧眼というテンプレアメリカ人な容姿の男性とガッシリ握手する。

 

【挿絵表示】

 

 

「いやーしかし、ここは空気がウマい!まっさらな開拓地特有のこの雰囲気はたまりませんな!」

 

「はは、お気に召したなら何よりです。――こちらに越して来られる前にはどちらに?」

 

「ハハハ、そいつはトップシークレットという奴です。他の移民に聞いても誰も答えてはくれないでしょうな!」

 

「…そうですか、では仕方ありませんね」

 

 この世界の何処かからワープ移民してきた可能性も考えて出身地を聞いてみたが、返ってきたのは笑い飛ばすようで目が笑っていない返事。

 感情豊かな振る舞いは生身の人間にしか見えないが、能力によってポップしたシティスカ星人と見て間違いないだろう。

 

 アメリカ人っぽいのはベースにしたマーブルキャニオンがヨーロッパテーマのマップではないので、デフォルトのアメリカ風になっているせいだと思う。…新しい街を作る時は、ヨーロッパテーマのマップを使って住人がどうなるか実験してみるとしよう。

 

「そういえば、あのあたりの道路は周囲と違って斜めに走っているようですが、何かあるのですかな?」

 

「ああ、あそこは肥沃な土地に沿って道路を敷いたんですよ。農地や果樹園を作ろうかと」

 

「農場ですか!それは助かりますな!恥ずかしながら、我が家は誰も彼も学がなくてですな……無教養でも働ける職場ができるのはありがたいですな」

 

 バツが悪そうにケントさんが頭を掻く。

 

「ここは肥沃な土地も森林も多いですから、まずは一次産業に力を入れていこうと思っています。農作物にしろ畜産物にしろ、自分たちの街で必要分を用意できるならそれに越したことはないですからね」

 

「地産地消というやつですな。口にするなら何処の誰が作ったか分からん物より、同じ街の仲間が作った物の方が安心できると」

 

 地球だとちょっと露悪的な発言だと言われそうだが、ここではどこから来ているか分からない輸入食品よりはこの街で作られた食品の方を食べたいというのは同意できる。この世界の市場から流れてきていたとしても、正体不明のモンスターの肉という可能性だってあるわけだし。

 …まあそれを言うと、目の前のケントさんこそが産地不明の謎国籍人ではあるんだけど。

 

「肉と野菜、穀物に果物と来ると残りは魚ですかな。私は釣りが趣味なのですが、ここでは良い獲物は釣れますかな?」

 

「それは釣れると思いますが?これだけ太い川なら漁船も出せるでしょうし…開発が進んだら川岸に漁港を作るのもアリですね」

 

「ほう!ウチの娘の一人がシーフード好きですので、きっと喜ぶでしょう」

 

「そう言われれば、作らないわけにはいきませんね。いつになるかはわかりませんが…いずれ必ず、この街で獲れた魚が市場に並ぶようにすると約束しましょう」

 

「それはいい!ところで――」

 

「――――」

 

 

 第一村人であるケントさんとの会話をほどほどに切り上げ、今度バーベキューでもしようと言って別れた後は街を歩き始める。

 

「そういえばこの身体、酒は飲めるんだろうか?」

 

 転生前はサワー一杯で顔が真っ赤になるレベルの下戸で、美味しく酒が飲めた記憶がないが…

 というか、アルコール耐性以外にこの身体について知らないことが多すぎる。転生ボディに爆弾が埋まっていたという話は聞いたことはないが…そもそも王道通りなら転生特典がパラドゲーにはならない。

 

「…健康診断くらいは受けてみるか」

 

 現実になった以上、医療機関でそういうこともしてくれる……はずだ。

 それほど離れていないので、歩いて病院へと向かう。

 

「…やっぱり今は浮いてるなぁ」

 

 まだ街どころか村とも呼べないような規模の集落には、都市部にありそうな大病院は立派過ぎる…が、いずれこれが当たり前に思えるような都市に成長させたいものだ。

 

「こんにちは」

 

 ガラガラのエントランスホールを抜けて受付に声をかけると、同僚とおしゃべりしていた受付職員は弾かれたように立ち上がった。

 

「ぇ、ぁ、市長!?どど、どのようなご用件でしょうか!?院長は現在外出しておりますが…!」

 

「ああ、いえ…ただ健康診断の申し込みをしたいなって思っただけですから、そう硬くならず。あと、何か困ったことなどはないかと思いまして」

 

「けけけ、健康診断ですね!ととと、少々お待ちを……!」

 

 緊張し過ぎていて何だか申し訳なくなる。

 単なる市民と市長という間柄だけでなく、市立病院という俺の胸先三寸で予算の増減はおろか存続までもが決まる施設の下っ端職員であるという意識がそうさせるのだろうか…?

 

「…こらこら、緊張し過ぎよ。市長が困っているでしょう」

 

「シンシア先生……!」

 

 騒ぎを聞きつけたらしい女医の先生が階段を降りてくる。

 

【挿絵表示】

 

 

「この病院で内科医をしておりますシンシア・タウンゼントと申します。初めまして、市長」

 

「ええ、初めまして。シンシア先生」

 

 他の職員たちと異なり気負った様子もなく、こちらに歩み寄ってきたシンシア先生と握手を交わす。

 

「市長のお相手は私がします。貴女たちは手続きの方を進めておいて」

 

「は、はいっ!」

 

「結構。…市長もそれでよろしいかしら?」

 

「ええ、喜んで」

 

 

「…気を悪くしないでもらえるかしら?あの子たちも悪い子ではないのよ、患者もいなくて気が緩んでいたところに突然市長がいらっしゃったから…ね?」

 

「あはは…事前に連絡でもしておくべきでしたかね」

 

 手続きは受付の職員たちに任せて、俺は別室でシンシア先生とお茶をしている。

 

「でもシンシア先生は緊張されないんですね?」

 

「だって、市長が厳しい人なら医療予算を大幅カットしているでしょう?将来的にはともかく、現状ではこの病院の数割の機能で十二分に対応できる状態なのだし」

 

 ゲームでは各種公共サービスの予算を50%から150%まで増減でき、それによってその系統の施設の効力が増減するようになっている。

 今の街の規模では、病院どころかより低ランク施設の診療所でも過剰なくらいで、予算を最低まで絞ってもなんら支障は出ないはずだ。

 

「たしかに今は過剰ですが、私はこの病院の全スペックが必要とされるほどに街を大きくするつもりです。その時になって慌てて予算を戻したところで、すぐに元通りのスペックを発揮できるわけでもないでしょう?」

 

 ゲームなら予算を戻せばすぐ効力が元に戻るが、現実になった以上予算を戻してもすぐに人員が補充されるかわからないし、されてもすぐ一人前レベルの技能になるか不透明だ。予算を下げなければならない理由もないし、とりあえず各種公共予算は100%のままにしておくつもりである。

 

「ほら、やっぱり優しい。こちらとしても助かっているのよ?患者が少ないなら少ないなりに研修会を開いて職員のスキルアップを図ったり、在宅医療などの新しいサービスを導入したり…そういったことをするにも、予算は必要だから」

 

「そういうこともされているんですか」

 

「ええ、院長が出かけているのもその調整」

 

 ゲームでは過剰な予算はそのままドブに捨てるのと同義だったが、現実となった分その辺は融通を利かせて役立つように予算を消化してくれるようだ。…逆に言えば悪い方向性にお金を使う可能性もあるわけだから、将来的には監査も必要になるか…?

 

「まあ、医療関係者が暇なのは良いことなのだけどね。それだけ市民が健康ということだし、こちらも家に帰れないほど多忙よりはマシというものだし」

 

「……住宅街は開発が始まったばかりですが、どちらにお住まいですか?」

 

 そういえば、商業でも産業でもない施設は住民を雇用することはなく、存在しているのか不明な職員は人口に加算されず住宅区画に家を持つこともなかったはずだが…

 

「住所?ええっと……」

 

 シンシア先生が取り出した身分証にあるらしい住所を読み上げる。

 現実となったことで、病院の職員も住宅区画に住む市民となったようだ。…他の施設も同じだろうから、ゲームの時に比べてより広い住宅区画が必要になりそうだ。

 

「そういう市長はどこにお住まいなのかしら?市長の公邸がある、というような話は聞いたことがないけれど」

 

「……あ」

 

 そんなものはない。

 市長とはプレイヤーであり、操作としてはCS版で道を歩いたり車を走らせたりして街を見て回る機能はあるが、どこかの家に住んで生活するような機能はない。

施設としても、中世の街づくりゲームなら領主の館というものがあるのかもしれないが、Cities: Skylinesに市長の家という施設はないしついでに市役所というものもない。税務署はあるが。

 

「…まさか、家がないの?」

 

「あはは、恥ずかしながら……」

 

 住所不定・市長なんてギャグでしかない。

 

「そうなの……良かったら、私の家に居候する?これでも医者だから良い家に住んでいるし、一人くらい住人が増えても何の問題もないわよ?」

 

 シンシア先生が静かに身体を寄せてくる。ふわりと甘い香水の香りが鼻腔を満たし、女性特有の柔らかい感触が――

 

「ほ、ホテルを建設してそこで厄介になりますので!からかうのは勘弁してください…!」

 

「あら、残念。でも一人が寂しくなったら何時でも言ってね?歓迎するから」

 

 くすくすと蠱惑的に微笑まれる。あ、遊ばれている…!

 このままだとまたからかわれそうだから、長居は無用とばかりに立ち上がる。

 

「もうお帰りかしら?」

 

「ええ、宿泊施設を建設しなければなりませんし」

 

「そう。またいつでも歓迎するわ…なんていうのは病院では縁起が悪いわね。今度プライベートで会いましょう?」

 

「え、ええ。喜んで」

 

 俺は逃げるように病院を後にした。

 

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