異世界パラド   作:ヒャル

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まずは農業から

「…さて、住人も増えてきたし都市開発を再開するか」

 

 ヨハンボルグの開発を始めて暫しの時間が流れ。脳内画面をゲームの俯瞰視点に戻し、住宅区画にカメラを向ける。

 住宅区画の家を選択すると、その家についての情報を得ることができる。最初に出会ったケントさんのグレード家の場合はこんな感じだ。

 

 

子供 0

ティーン 1

若者 1

大人 4

シニア 0

 

教育を受けていない 6

初等教育を受けた 0

中等教育を受けた 0

高等教育を受けた 0

 

 

 “子供”は10歳くらいまで、“ティーン”は所謂ティーンエイジャー、“若者”は20歳前後、“大人”は現役世代で“シニア”は定年退職後のお年寄りと考えておけば良いだろう。

 子供とティーンは働きに出ることはなく親の家で養われて暮らし、若者になると就職を初め、大人になると親の家を出たり他の大人と結婚して子供を作ったりするようになる。

 グレード家は扶養を受ける立場なのは末っ子だけで、両親と子供3人は労働者として街の発展に寄与でき、ついでに上の子供2人は親元から独立したり結婚して家庭を作る可能性があるわけだな。

 

 まあそれは置いておくとして、気になるのが『教育を受けていない 6』だ。

 ケントさんは家族全員学がないと言っていたが、それは謙遜でも何でもなくグレード家の6人は全員小学校すら出ていないのだ。

 

 住宅区画に立つ家にはレベルが1から5まであり、レベルが高いほど高学歴の人間が引っ越してくる。作ったばかりの家は当然レベル1なので、引っ越してくるのは全員初等教育を済ませていない「勉強?なにそれおいしいの?」な人々だ。

 これはただちに悪影響が出るわけではない。できたばかりの街にある商業区画の店や産業区画の工場で募集している求人はすべて初等教育なしの人材向けだからね。

 

 しかし、それがレベルアップしていくと話は変わる。店や工場のレベルは1から3までだが、1から2レベルに上がるとそれまで募集の100%を占めていた“初等教育なし”の割合は20%に激減。3レベルに至っては5%しかない。

 “初等教育なし“の住人しかいない状態で学歴持ちを求め始めるとどうなるか?求められる仕事のレベルが上がったことに学歴のない従業員たちがついていくことができずに作業効率が低下してデバフが入り、また応募条件を満たす失業者がいないので新しい従業員が入ってくることもない。その果てに待っているのは経営破綻だ。

 

 

 それを予防する為にはどうすべきか?――そうだね、教育だね。

 というわけで街に学校を立てていこう。

 

 学校の基本となるのは初等教育を行う『小学校』、中等教育を行う『高校』、高等教育を行う『大学』の三つ。

 学校の需要には住人の世代が関わってくる。小学校には“子供“が通い、高校には初等教育を受けた”ティーン“が通い、大学には中等教育を受けた”若者“が通う。先ほど述べた通り若者は就職を始める世代でもあるので、大学に行くか就職するかはその住人次第だが。

 

 街全体の教育状況は、教育タブを開くと確認できる。街全体での学歴の割合を確認できると共に、小学校・高校・大学のそれぞれで通学可能人数と定員――つまりは教育の需要と供給が確認できる。

 シンシア先生にからかわれて病院から逃げ出していた頃の話。まだ学校が一つもないので当然定員はゼロだったが、親に連れられた子供たちが引っ越してきているので小学校の通学可能人数が少しずつ増え始めていた。

 その需要に応えるべく、住宅区画の中でまだ家が建っていないスペースにこの街最初の小学校を設置した。小学校は一校につき300人まで児童を受け入れられるので、街の拡大に合わせて数を増やしていく予定である。

 

 ゲームならこれで教育は問題ない。しかし、現実となったこの世界ではそうもいかないだろう。……そもそも、小学校に通わせた子供が労働者になるのにいったいどれだけ時間がかかるだろうか?

 

 シティスカ星人の最も特異な点はその成長速度にある。特に成長が早いのは子供世代で、子供は生まれてから三ヶ月半でティーンへと変化する。つまり、9日で一歳分という恐るべきペースで成長していくのだ。

 ティーンになると成長速度は大幅に鈍化するがそれでも一ヶ月で一歳分のペースで成長し、生まれてから一年と経たずに労働者になれるという寸法である。

 だから、ゲームでは小学校を建てておけばそこに通った子供がそれほど時間をかけずに学歴持ち労働者となり、どんどん労働市場に学歴持ちが増えていくわけだ。しかし、この世界はゲームではない。

 

 ……住人たちがその要素すら引き継いでポップしている可能性もなくはなかったが、グレード家と2マス開けて隣のアスペン家(家族構成:子供1大人3)のロバート君はそんな恐ろしい速度で大きくなっていなかったので、住人たちの成長・老化速度は地球人類と同等と考えてよいだろう。

 

 

 教育を受けていない労働者ばかりが増えていく状況にはどのように対処すれば良いか?

 第一に挙がるのが、農業と林業の推進である。

 

 Cities: Skylinesには通常の産業区画の他に産業エリアというものがある。

 産業エリアでは農業・林業・鉱業・石油産業のどれかを行うことができる。原料をすべて輸入するのでもなければ対応する天然資源――農業なら肥沃な土地、林業なら森林、鉱業なら鉱石、石油産業なら石油が必要になるが、産業エリア限定の様々な施設が建設でき独自のサプライチェーンを構築することで多額の収益を期待できるのだ。

 そしてここが重要なのだが、産業エリアではエリアがレベルアップして新たな施設が開放されたりエリアのバフがかかったりすることはあれど、各建物がレベルアップすることはない。つまり、教育を受けていない人材のみを募集する農業と林業はどれだけ成長しても学歴持ち労働者を求めることがないのだ。

 ケントさんが農園を作ると聞いて大喜びした理由もこれでよくわかるだろう。

 

「そしてここが我が街最初の産業エリア“ハイランド農地”になります、と」

 

 目の前に広がる農場群を前に呟く。

 

 産業エリアは輸送トラックを吐き出す中核施設…農業なら農場本館を建てると生成され、関連施設を建てたい区域へと塗り広げて範囲を指定する。

 産業エリアの施設には天然資源がある場所に配置して生産を行う“採取施設”、採取施設の生産物をより換金性の高い商品に加工する“加工施設”、生産物を貯めておく“貯蔵施設”、エリア全体にバフを与える“補助施設”の4種類がある。

 

「しかし、どこまでも農地が広がる光景というのは壮観だね…」

 

 そして、眼前には基本となる採取施設・農地の中でも最大規模となる“大きな農地”が実に24個も並んでいる。使用する土地のマス目で言えば大きな農場が8×16で128マス、ランドマークとして存在するエッフェル塔も12×12で128マスと言えばその広さがわかるだろうか。

 そして、この農場ですら、マップ“マーブルキャニオン”が有する肥沃な土地のごく一部でしかないのだ。このまま開拓を進めていけば、今後新たな街を次々と作ってもその分の人口すら養ってくれることだろう。

 

「おや、市長。視察ですかな?ご苦労様です」

 

 農地を眺めていると、トラクターから降りてきたケントさんに声をかけられた。

 

「ええ、そんなところです。牧場の方も見ていこうかと」

 

「そうですか!牧場の方で働いている娘も、市長がお越しとなれば喜ぶでしょうな!」

 

 農業エリアの加工施設は“小さな牧場”“大きな牧場”“製粉所”“牛舎”“搾乳室”“食肉処理場”の6種類あり、種類問わずトラックで農作物が運び込まれれば製粉所以外の5つは畜産物、製粉所では小麦粉に変換される仕組みになっていた。

 しかし現実となった今ではゲーム的な処理ではなくなり、製粉所には小麦のみが運び込まれ、牧場2種と牛舎に飼料用に作られた農作物だけが送られ、その3種から必要に応じて動物が搾乳室と食肉処理場に送られるという現実的なシステムになっているようだ。詳しいことは現場で勝手にやってくれているので知らんけど。

 

「この農園を拓いて暫く経ちましたが、如何ですか?」

 

「いやはや、まさか引っ越してきて早々にこんな大農園で働けるとは思いませんでしたな!農具なども必要なものは要望すればすぐ用意してもらえますし、良い職場だと皆喜んでおりますぞ!これも市長のお力ですな!」

 

「それは良かった」

 

 …ちなみに産業エリアには1から5レベルまであり、大きな農地はレベル5にならないと建設できないのだが…ゲームとは違う仕様なのか、マイルストーン解放以外が条件となっている施設もすべてはじめから建設可能になっている。

 施設の中には解放条件が厳しいものもあるので、これはとても助かる。…特に裁判所なんかは、犯罪率50%以上を5週間維持しないと解放されないというマゾ仕様だ。ヨハネスブルクはネットのおもちゃにするものであって、実際に住みたいと思うほど酔狂ではない。

 

「妻も子供たちもこの農場で働けて大変感謝しております!ああ今度、農場の皆でバーベキュー大会をやる予定でしてな、市長も是非お越しください!」

 

「…ええ、予定があえば、是非」

 

 ……何より親しくなった住人たちが犯罪に巻き込まれて、命を落とすような事態は絶対に避けたかったから。

 彼らはもう、ゲーム上のデータではないのだから。

 

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