逆行ハリー・ポッター   作:C E L I C A

1 / 4
0,2回目の死

 守りたいものがあった、守れないものがあった。

 

 傲慢だと分かっていても、やはり思い浮かべてしまう。セドリック、シリウス、リーマス、フレッド、ダンブルドア先生、……そして、スネイプ先生。

 

 数え切れないほどの人々が、私のために、ヴォルデモートを倒すために、魔法界を守るために、命を落とした。

 

 過去は変えられない、変えてはいけない。息子たちの騒動で身に染みて分かっているけれど、それでも。

 

「ひどい顔をしているぞ」

 

 いつの間にか、ベッドで寝ている私の傍らに、ドラコが立っていた。エメラルドグリーンのローブを着ていて、呆れた表情の奥に見える心配な感情を隠している。

 

「やあ、ドラコ。いつの間にかそこにいたんだ」

 

 私が若干おどけた口調で話すと、ドラコはぶっきらぼうな声で返しながら、病室の中を意味もなくウロウロと歩いた。

 

「『やあ』じゃない! もうすぐ君の家族が来るんだ。

そんな泣き顔じゃ、きっと心配させてしまうぞ」

 

「ご忠告ありがとう」

 

 私は軽く言葉を返し、杖を一振りする。すると、真っ白なハンカチが現れた。

 

───

 

 無意識に出ていたらしい涙が引っ込み、ドラコが病室から退室すると、

 

「ハリー!!」

 

 ジニーが真っ先に病室へ駆け込んだ。そのすぐ後に、ジェームズ、リリー、そしてアルバスが続く。

 

「みんな来てくれたんだ、ありがとう」

 

 そう私が言うと、ジニーたちの顔が一瞬歪む。どうしたんだろうかと疑問に思う前に、ジニーが泣き崩れた。

 

「ハリー……、どうして……あなたが、こんな病気に……どうしてなの……」

 

 言葉にならない嗚咽が交じる。子供たちは一生懸命にジニーを慰めるけど、彼らも何かをこらえているように見えた。

 

 やめてくれよ。また、涙が出てしまう。

 

「どうして、あなたが、正体不明の病気なんかに……」

 

 しばらく、みんなで号泣した。

 

───

 

 みんなの涙が落ち着いたころ、私は1人1人に大切な言葉を託していた。

 

「リリー」

 

「はい!」

 

 元気よく答える。だけどその顔には、さっきの涙の跡が光って見えた。

 

「幼い君を遺して逝くのは、本当にすまない。

でも、父さんがいなくなっても、強く、生きるんだよ。みんなが支えてくれる」

 

「はい!」

 

「ジェームズ」

 

「うん」

 

 ジェームズは珍しく、真剣で真面目に答えた。

 

「父さんがいなくなった後は、ジェームズが父さん代わりだ。

大変なこともたくさんあるだろうけど、ジェームズなら、できる」

 

「……うん、任せておいてよ」

 

「アルバス」

 

「はい」

 

 アルバスはいつも通りに見えた。あの事件から1年、アルバスは以前よりも遥かに成長した気がする。

 

「今までお互いに理解し合えていなかったこともあるけど、最期に言葉をかけられることが、父さんは嬉しい。自分なりの道を進むんだ」

 

「はい……」

 

 アルバスの声が、少し震えて聞こえた。唇がふるふるとしている。

 

「最後に、ジニー」

 

「……」

 

 ジニーは返事をしなかった。そんなジニーを、本当は力いっぱい抱きしめたかったけど、病気のせいで痩せ細っている私には、それができない。

 

「今まで、ありがとう。

私がこうしてここで穏やかに死ねるのは、いつもジニーが隣にいたお陰だよ。

本当に、ありがとう」

 

「……」

 

 ジニーは、力いっぱいに頷いた。きっと、口を開けば、また泣き崩れてしまうと思ったんだろう。

 

 私はもう一度、家族全員を見て、眠りについた。

 

 また、全てが消えた。

 

───

 

 ()()()ともなると、この場所の様子も落ち着いて観察できた。

 

 不自然にありながら自然にある靄は、見慣れた駅をより白く、光り輝くように見せている。()()あった気味の悪い赤子─ヴォルデモート─はいなくなっていて、私は1人、ホグワーツの制服を着込んでこの場所に立っていた。

 

 制服?

 

 もう一度格好を見る。間違いない、ホグワーツの制服だ。まだグリフィンドールの赤色のネクタイはなく、新入生が着る黒いものではあるけれど。そこでやっと、私が41歳の中年から、11歳の少年の姿に若返っていることに気がついた。

 

「ハリー、久しぶりじゃな」

 

 私は、くるりと振り向いた。

 

「先生……お久しぶりです」

 

 ダンブルドア先生は、まるで元からそこにいたかのように、静かに立っていた。

 

「この格好は……?」

 

 私がホグワーツの制服に指を指しながら尋ねると、先生は無言で手招きをし、ゆっくりと歩き出した。身軽な身体の私はすぐに追いつき、並んで歩き出す。

 

「今度こそ、私は死んだのでしょうか?」

 

「あぁ、その通りじゃ。間違いなく」

 

 先生は大きく、そして確実に頷いた。

 

「では、この格好は?」

 

「結論を焦らずに行こう」

 

 先生は黙々と歩き出し、私は同じく無言で歩くしかなかった。しばらく歩くと、

 

ボーッ、ボーッ

 

という音が聞こえた。汽笛の音だ。

 

 私が霧の中で目を凝らすと、私たちが歩いているホームの両側に、それぞれ1台ずつ、紅色の蒸気機関車が停まっていた。ホグワーツ特急だ。しかし奇妙だったのは、2台の汽車が、それぞれ反対方向を向いて停車していたことだ。

 

 ここで初めて、先生は私の質問に答えた。ただし、その答えは抽象的だった。

 

「1台は先へと向かい、もう1台は前へと戻る」

 

 先生は、それぞれの汽車を指さしながら答えた。

 

「どちらを選ぶかは、君次第じゃ」

 

 先生の答えは抽象的だったが、()()()の私はその意味が何となく分かった。でも、不安がどこかにあった私は、先生に確認したかった。

 

「前へと戻るというのはは……過去、ですか?」

 

「君は何も心配せんで良い。もう一度、君らしくおれば良いことじゃ。

ここにも、前にも、先にも、過去や未来はない」

 

 先生は、相変わらずキラキラと光る目で言った。他にも訊きたいことはあったけど、私は直感的に、もう彼は何も答えないだろうと悟った。

 

「では、私はあちらの方へ」

 

 先生は黙って頷くと、最後まで両目を輝かせて私に手を振った。振り返そうと思ったそのとき、先生は目の前から消え去っていた。まるで、元からそこにいなかったかのように。

 

 霧が濃くなっている。私は、霧で周囲が見えなくなる前に、選んだ方の汽車へ乗った。

 

 汽車の中は誰もいなかった。私はすぐそばにあったコンパートメントに入ると、窓際に座った。だが、霧が既に周囲を覆い尽くしていて、先程まで立っていたホームすら見えない。

 

 ボーーッッ。

 

 汽笛の音が遠くに響く。その響きに包まれるように、私は静かに目を閉じた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。