青春の楽園   作:鷹と暁

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第1話 雨の日の授業風景

 さて、今日は朝から雨が降り続く。

悪天候の為、グラウンドでの運動が出来ないので体育祭での授業となっていた。

 

「うへぇ〜おじさんには体育はキツいよぉ〜」

「……俺とお前の年齢は同じだった筈なんだがな」

 

 いつも通り樹の奴が体育に拒否反応を見せていたが、俺が一生の手を引っ張りながら体育館に連れて来た事で諦めたのか、素直に体育に参加する意思を見せた。

 

「はぁ〜分かりました分かりました〜参加すりゃ良いんしょ?」

「……廣仁。例のアレ(・・・・)を見せてやれ」

「うん」

 

 俺が廣仁に視線を送ると、廣仁は樹の前で両手でガッツポーズを取ると、可愛らしく「ボクも頑張るから一緒に頑張ろ?」と首を傾げた。

 すると――

 

「いっしゃぁぁぁぁぁ!!やってやらぁぁぁ!!」

 

 と、このように奥底に眠るやる気を漲らせて覚醒した。

これは俺が廣仁に教えた「遠坂樹のやる気の起こし方」である。

 まず、樹の前で廣仁が可愛らしいポーズを取ると共にやる気を出す一言を言う事で必然的にやる気を覚醒させるやり方である。

 

「うおしゃぁぁ!!うおしゃぁぁ!!うおおおおおおおおお!!」

 

 なお、樹のやる気を最大限解放する為、制御が効かなくなるのでやる際には注意が必要だ。

 

「……また遠坂が暴れてるんな」

 

 と、体育教師の周々木が呆れたように遠坂樹を見ていた。

……ええ。多分今回も保健室送りになる気しかしません()

 

「ヨシ、遠坂がやる気になっているうちに授業を始めるぞ」

 

 そうして周々木の招集と共に生徒達がクラス毎に列を作る。

 体育委員会の生徒達が生徒を点呼し、確認を終えた所から教師に報告を取っていた。

 

「良し。んじゃ今日も体育をやって行くぞー。今日やる内容は準備体操やらランニングをした後に発表するから楽しみにしとけ」

 

 ニヤッと笑った周々木に陽キャや体育委員会の生徒達が大いに反応を見せた。

 かく言う俺達は静かにしているか、明らかに嫌そうな表情をしている陰キャのどちらかしか殆ど居ない。

 

 まあ、こんな時って陽キャと陰キャで反応が分かれるよな…

っと内心思いながら体育委員が前に広がり、俺達も両手を伸ばして手と手がぶつからない範囲に広がってから準備体操が始まる。

 

『ラジオ体操第一〜♪』

 

 日本国民なら誰もが一度は聞いた事があるだろう例の音楽が鳴ると同時に全員で準備体操し、腕を伸ばしたり、足を前に出して手を床に付けたりなどをし…後半の方ではジャンプしながら全身を使ったり、少し楽しくなって余分に体力を使ってしまったが…

 ――まあ、この程度ならまだまだ序の口だな。

 

「さて、次はランニングを行うぞ。列に並んで上手く走って来い」

 

 次は教師の背後に並びつつ、上手くタイミングを合わせて列を成してランニングを行う。

 途中、運動靴の紐が解けてしまった為、外に寄って運動靴の紐を結び直す。

 

 ――よし。後ろに並んで走り直すか。

 

(……体調的にはまだ大丈夫そうだな)

 

 一応、俺は薬の影響で日常生活を送ったり、それなりの運動であれば問題は無いが、激しい運動をする時には相談が必要と言われている為、自分の体調を見ながら運動を行っている。

 

 と、思っていると…

 

はぁ…はぁ…ぜぇ…ぜぇ…と最後尾の方を走っている遠坂樹が居たので樹の後ろに並ぶ形で走り、話し掛けて見た。

 

「……大丈夫か?」

「ぜぇ…ぜぇ…大丈…夫…に…見え…るか…?」

「……うん。全然大丈夫じゃ…無さそうだな」

 

 ――コイツ、体力無さ過ぎじゃ無いですか?

 

 つい、そう思ってしまう程にはコイツは弱過ぎた。

それこそ寧ろ全力で応援したくなってしまう程には…

 

「……はぁ。仕方無いな」

「……え?」

 

 俺は樹の手を掴み、一緒に走る事にした。

どうせ後少しで終わるんだからこのぐらい良いだろう。

 

 そうして少しして走り終わり、俺と樹は最後尾の方で走り終わると肩で支え合いながら舞台の方へと戻って行く。

 それはさながら戦場で生き抜いた戦友を支え合って生還するかのように見えたが、此処は平和な体育の授業である。

 体育教師の周々木は最初のランニング程度で何故そこまでになると呆れながら見ていた。

 

「はぁ…遠坂と東雲は少し休んで居なさい。他は少し休憩したら取って置きのサプライズを披露してやろう!」

 

 体育教師の周々木の言う通り、俺達は舞台の上で休憩を挟む事にして体育の授業を見ていた。

 樹の場合はいつもの事だが、俺の場合は學園側からの配慮を頂いている事は周囲も知っているので気にされる事は無い。

 

「ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ…俺はもう…駄目みたいだ…」

「……体力が無いだけだろ。どんだけ貧弱なんだか」

「う、うるせぇ…ぜぇ…ぜぇ…世界が真っ白に見える…」

 

 周囲は既に休憩を終えたのか、周々木の説明を聞いていた。

話を聞く限りバスケをするみたいで華麗なシュートを決めていた。

 

「先生!今みたいにするのはどうすりゃ上手くなれますか!」

「ほう?確かE組の善積だったか。それはだな――」

 

 1年E組の善積恭將が周々木に質問し、レイアップシュートを見せてあげて色々答えていたが、そこは別に良い。

 俺が気になったのは隣で羨ましそうに見つめている樹だった。

 

「……俺も体力に自信があればあんな動きも出来るんだろうな」

「……お前はもう少し体力を付ける所からだな」

「う、うるしゃい…くそっ噛んだ」

 

 何か噛んでいる奴がいたが、気にしない事にした。

 

「……お前なら体力が付いたら上手く練習すりゃ行けるんじゃね?見て覚える速さに自信はあるだろ?」

「そりゃ見たら比較的覚える方は早いけど…でも俺のは感覚頼りだから余り人に教える事は苦手だぞ」

「……そうじゃねぇ。俺が言いたいのは動ける奴が諦めるんなって事を言いたいんだよ。正直、体力が無いだけでやろうと思えばお前はやれるんだから勝手に諦めるんなって言いたいんだよ」

 

 ――俺と違って、お前は何にでも成れるだろ。

と言う気持ちは内心で押さえ付けて置く事で表に出さなかった。

 

「朔夜?お前に何があったのかは知らないが…お前だってやろうと思えば出来なくは無いだろ?」

「……俺は制限付きなのは知ってるだろ?俺は病院からそれなりの運動は認められているが、余り無理というか酷使をし過ぎる場合は禁止と言われてるんだ。だから“全力”でやれるお前が羨ましい」

 

 と言って俺は少し自分勝手に言い過ぎたかも知れないので、内心反省しつつ、樹の方を見た。

 樹は俺の顔を見てから「そうか…」と何か言いたげだったが…

 

「……まあ、お互いに無理は出来ねぇ訳だし、出来る範囲でやって見るのはありなんじゃないのか?」

「……まあ、結局はそうだな。この後のバスケも少しだけやって終わりにするか」

「寧ろドッチボールの時は良く動けた方だよな」

「あの時は体調的にも比較的良好だったんだが、最近は少し良くは無くてな…はぁ〜こんな身体じゃ無ければ良かったのに…」

 

 そう愚痴りながらも俺達は俺達のペースで休憩を挟んだ後にバスケを開始し、近くのゴール付近からジャンプしながらボールをゴールに狙う。

 レイアップシュートは、リングに向かって走りながら、ランニングジャンプでボールをリングに置くようにして得点を狙う。

 「ドリブル」「ステップ」「ジャンプ」「リリース」「狙う場所」の五つを意識しながら行うのが良いだろう。

 

 ――因みに俺は余り詳しく無いから専門的な事はググるなりしてくれよな。

 

 と、俺は誰に訊かせるでも無く、そう解説しながらシュートを決めて、遠坂樹にドリブルなどのコツを教えると、樹は行った。

 

 先ず「ドリブル」でゴールであるリングに向かってドリブルをしながら近付く。

 

 次に「ステップ」でリングの3歩手前くらいで、右からの場合は右足、左からの場合は左足で踏み込み、もう片方の足でジャンプ。

 

 その次の「ジャンプ」で真上に高くジャンプし、ボールをリングに近付ける。

 

 更に「リリース」で、ジャンプの最高点でボールをリングに置くようにリリースする。

 

 最後に「狙う場所」を意識させ、バックボードの四角い枠内を狙う事でボールがリングに吸い込まれるように樹のボールは入った。

 

「やった…やったぞ朔夜!俺でも出来たぞ!」

「……お、おう。良くやったな」

 

 本当に嬉しそうに満面の笑みを浮かべた樹を見て俺は教えて良かったなと思った。

 

「良し!もう一回行って来るってあらぁ〜!?」

「……某マックスドナルドのキャラか何かかよ」

 

 ドンッ!と派手に転倒した樹を見ていつも通りだなと感じた。

成功しては何処かで派手に転ぶ。これが樹クオリティーであった。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 さて、2時間分の体育が終わった後は現国と歴史であった。

「運動後に眠くなるような授業が続くな〜」と隣に並ぶ樹は言っているが、俺も少しは賛成しそうになったが黙って置く。

 

「いや〜現代文の小説問題ってさ?どうすりゃ良くなるの?」

「…話を聞く限りお前達もL◯NEで物語風味な事をしてるんだろ?それなら分かると思うんだが…」

 

 と、言うのは得意というよりか興味がある藤澤彰人君であった。

 

「先ず『場面設定を整理』する。次に『登場人物の心情を反映した言動や描写に着目』する。最後に『その心情に至る変化に着目』する事だな」

 

 そう言って彰人は例題を出した。

 

「例えば『外に遊びに行きたい』と言うセリフがあったとしよう。病気の時にベッドで言うのと、難しい授業を受けている時に言うのとでは、その言葉に込められた心情はかなり違うと思わないか?」

 

「確かに意味が違って来るね…」

 

 と、廣仁が関心そうに聞いていた。

対する遠坂樹は何とか追い付いて行こうとしていたが…

 

「このように『いつ』『何処で』『誰が』『どうした』等をしっかりと把握する事が心情を把握する事に必要な要素になると思う。

んじゃ俺のメモ用紙を参考に図として書くぞ?」

 

 そう言って彰人は紙にシャーペンで問題を書いた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

問題:登場人物の心情を反映した言動や描写に着目する

 

A「花子は有り難うと言い、太郎の手を握った」

B「花子は有り難うと言いつつ、目をそらした」

C「花子は有り難うと言った。太郎との間には冷たい風が流れた」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「この3つの文にはどれも「有り難う」のセリフがあると思うが、A・B・Cは単純に「感謝している」とは言えない事が分かるか?

このように登場人物の心情は、直接的な描写だけで無く、「動作に表れたもの」「情景描写」などにも着目し、其々の表現が具体的にどういった心情を表しているのかを注意する事が必要になり訳だ」

 

 つまり、直接的な描写だけでは無く、動作に表れたものなどにも目を向ける必要がある訳か。

 

「そして最後に『その心情に至る変化に着目』する事だな。

例えば『太郎が、花子を責めた。花子は泣いた。』と言う文があったとして、すぐに『太郎の言葉に花子が傷付いた。』と判断しては行けないぞ。

 何故なら花子がその発言に至るまでの前後にどんな言動をしていたかを整理する事が大切だからな」

 

 例えば〜と彰人は例えを言う。

 

「それまでの状況で『花子は自分が失敗しそうな予感はしていたが、何も行動していなかった。』とあったらどう思う?」

「うーん…『花子は自分が情けなくて泣いた』可能性とか?」

「そうだ。このように登場人物の発言そのものに囚われる事無く、前後の言動や出来事にも注意する事が必要になる訳だな」

 

 そう言って彰人は『以上の3点は全て、傍線部とその付近だけを読んで心情を決め付けては行けない』と言う点で共通している訳だから、これらの3点に気を付けながら正解を導き出す事を心掛ければ小説の読解に対する苦手意識が無くなって行く筈だ、と纏めた。

 

「……正直言って俺達の小説擬きは幼児の絵描きに等しいな」

「まだまだ勉強する必要性がある訳だな」

「奥が深いからね。俺としてもプロの方々には感服するよ」

 

 そう言って彰人の話を聞いた俺は少し考えてしまった。

どうやればもう少し今のクオリティを上げる事が出来るのかと。

 ……つい、そう思ってしまったのだから。

 

 ザァザァ…と外の雨の勢いは止まる事を知らない。

俺は雨空の外を見てつい、ため息を吐いてしまうのだった。

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