さて、授業が終了してクラスメイト達は慌てて食堂へ駆け出す人達で溢れ、俺達は蛇口などがある左側の廊下の端で話していた。
「それで樹さんや?他クラスを交えての勉強会はいつにする?」
「う〜ん。それが全員の予定がまだ出揃って無くてな。現在の所としては金曜日が5時間目で終わるからその日にしたいな」
俺は樹達の話を聞きつつ、ズボのカレンダーで予定を確認する。
……えっと現状は予定の空きは大丈夫そうだな。
俺はふと、スマホの通知にあった妹からメールが来ているのを確認した。
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咲希
『お兄ちゃん〜今日
さくやん
『了解した』
とあるアニメのキャラクターのスタンプを送信しました。
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「――って訳だけど朔夜?おーい聞いてるか?」
「……!?あー済まん。少し家族からメールが来てたから」
俺は妹とのLI◯Eに意識を割いていた為、樹達の会話を余り聞いていなかった事は反省しよう。
「……それで何だっけ?勉強会の予定がどうこうって話だったか」
「そうだな。朔夜は金曜日とかって予定は大丈夫か?」
「……それなら大丈夫だ。今の所は空いている」
「ほう。なら良かった」
樹は安心したように胸を撫で下ろし、LIN◯で関係各所に連絡をしていた。
そういや勉強会って名前の割に遊ぶ要素のイメージが強いが果たしてうちらはどうなるのだろうか。
ふと俺は気にしつつも、食堂に並ぶ列が進んだので前に進む。
さて、食堂の中に入った事で今日のメニュー表が見えて来た。
えっと何々?……何……だと!?俺が好きなラーメンがある!?
しかも俺好みのラーメン!!これは勝ったモウナニモコワクナイ…
俺は内心、ウキウキで軽やかにジャンプしたい衝動に駆られたが周囲の目があるので我慢し、手洗いをしてからお盆を持つ。
献立表はラーメンとおにぎりなどが付いているようだが、今の俺はラーメンを食べたい一心で焦っていた。
「えっと…どうしたの?何か焦っているように見えるけど」
「……済まない廣仁。俺はラーメンが食べたくて仕方が無い」
「え?……あーそう言えばラーメンが好きなんだっけ(笑)」
と、廣仁は俺のラーメン好きを思い出したのか笑った。
ああ、分かるだろう?目の前に好きな食べ物があって、それを今か今かと食べたい衝動に駆られるこの辛さを!!
……と、内心の俺はある意味で興奮していたのかも知れない。
見た目こそクールぶっているが、実際の俺はこんなもんである。
そうして食器の上にキラキラと輝くラーメンをお盆に乗せ、他のおにぎりなども乗せて空いている机に置き、皆で頂く事にする。
「「「「頂きまーす」」」」
俺は早速ラーメンを頂く。
……あゝ、店のラーメンには劣るが、それでもこの味は悪く無い。
寧ろお代わりしたいくらいには旨く、特に食べ応えがある麺が口の中で汁と共に広がって旨みが凝縮されているような気がする。
「……素晴らしい」
俺はついつい、そんな事を呟くのだった。
※ ※ ※ ※ ※
それから午後の授業を受け、俺達は下校時間までLIN◯で物語を作っては共有し、それぞれの時間を過ごしていた。
「……さて。これはそろそろ帰るわ」
「おう、そうか。んじゃまたな」「まったね」
「……じゃあな」
俺は荷物を持って教室を出て、昇降口に向かおうとした次の瞬間、樹の女友達の…望月眞希と鉢合わせした。
「あ…あんたは東雲君。……樹の奴ってまだ残ってる?」
「……ああ、丁度廣仁と一緒にいると思うが――」
「廣ちゃん♪いるのね♪……あ、有り難う。ちょっと行って来る」
そう言って望月眞希さんは1年C組に急ぎ足で向かって行った。
……悪いな廣仁。悪気は無いんだが、つい言ってしまった。
背後から「うわわわ!?」と言う可愛らしい悲鳴が聞こえたが、俺は知らない振りをして、そのまま自宅に帰るのだった。
〜移動中なう〜
東亰都多摩地区の某所に位置する住宅街。
其処の一角に佇む至って普通の家が俺達「東雲家」であった。
「……ただいま」
俺は鍵を開け、扉を開けると俺たち東雲家の靴に加え、来客と思わしき靴が二足揃えてあった。
「……あーそう言えば来てるって言ってたけ」
「あーお兄ちゃん〜おかえり〜」
と、その時だった。
妹の咲希が俺の声に気付いたのかリビングから顔だけを覗かせた。
それから咲希に続いて黒髪ボブの少女が姿を現した。
「咲希ちゃんのお兄さん…お邪魔しています…」
「……おう、いらっしゃい。いつも咲希と遊んでくれて有り難う」
「いえ…寧ろ私の方が明るい咲希ちゃんに助けられています」
「もう諷歌ちゃんそんな事を思ってくれていたんだ〜♪有り難う〜!」
「え?うわっ!?」
咲希に頬擦りされているのは、咲希の親友の
彼女は咲希と同じ中学校の同級生で、中1の頃からの友達らしく、今年も同じクラスになった事で更に仲が深まったらしい。
……何て言うか物静かで大人しいけど良い子そうなんだよな。
明るい咲希と大人しい諷歌ちゃんのコンビは相性が良いんだろうと俺は見ている。
て言うか頬擦りって…俺の目の前で百合の世界を咲かせないで?
可愛いけど見ているお兄ちゃん、普通に困っちゃうから。
「……まあ、楽しんで行ってくれ」
「え?お兄さん助けて下さい…」
「……この状態の咲希になったらもう…諦めてくれ」
「み、見捨てないで下さい…!」
と、切実に助けを求められているが、兄の俺にしてもこの状態の咲希を止める事は無理なので諷歌ちゃんには諦めてもろて。
……とも思ったが、可愛い歳下の少女からの救援要請を受けて、何やかんや俺はお人好しが働いてしまい、咲希を止める。
「……咲希。そろそろ諷歌ちゃん困ってるから止めて差し上げろ」
「ええ〜?諷歌ちゃんの頬って柔らかくて気持ち良いんだよ?」
そう言って咲希は諷歌ちゃんの頬擦りを止める気配が無い。
寧ろ擦り過ぎて熱が出るんじゃないかって言うぐらいには徐々にスピードが速まっているようにも見えた。
「さ、咲希ちゃん!?キスしちゃうって…!?」
「ええ〜?別に同性だからしちゃっても大丈夫でしょ?」
「そ、そう言う問題じゃない…!?お、お兄さん見てるから!」
慌てる諷歌ちゃん。ニヤニヤとしながら頬擦りをする咲希。
……うーん。これはどうしたら正解なのだろうか。
※この後、暴走する咲希を何とかして止めました。
〜閑話休題〜
さて、暴走した咲希を止めて諷歌ちゃんにお礼を言われたが、兄として当然な事をしたまでなので、気にしないでくれと言った。
「……全く反省したか?」
「は、はい申し訳ございませんでした…」
「え、えっと…もう大丈夫だから」
「諷歌ちゃんは優しいなぁ〜」と頬を赤くして言う咲希。
えっと…もしかして咲希って百合の道に行こうとしていない?
咲希は仲の良い友達が出来るとスキンシップを良くするんだが、少し暴走してしまう癖があるので制御が利き辛いので注意だ。
まあ、満面の笑みでイチャイチャしている所は可愛いので兄としては暫く見ていたいのが実情だったりするが…。
「それでお兄ちゃん、今日は少し遅かったけど何かしてた?」
「……あー少し小説擬きの方を」
「え!?お兄さんって小説書けるんですか…?」
と、諷歌ちゃんが大きく反応を見せて来た。
お、おう…もしかして少し興味あったりするのか?
「……小説と言っても園児の絵描きみたいなレベルだがな」
「…もし良かったら見せて頂いても良いですか?」
「あ、私も私も〜!ねえねえお兄ちゃん良いよね?」
……此処まで言われたら、少し見せたくなるのが俺である。
LINEを開き、コピペしたのを妹の咲希のメッセージに送信した。
「……少し長めで悪いな。改行とかはしてあるから読める方だとは思うんだが…」
俺の執筆した◯INE小説を読み始める中学三年生の二人。
「ふんふん…」
「…………これがお兄さんの小説……」
咲希は面白そうに、諷歌ちゃんは興味深く読んでいる。
……何と言うか少し気恥ずかしくなって来た感じがする。
「ふ〜ん…何かのアニメとかを参考にしてるの?」
「……き、基本は現実で起こった事を参考に書いてるぞ」
「……なんて言うか…まだまだ精進して頑張れ!」
――うぐっ!?
実の家族から言われる言葉が一番効くんだよ…
下手に賞賛されるよりかはマシだが、家族の言葉を聞くと容赦無い一言が来る為、覚悟はしていたが少しダメージを喰らってしまった。
さて、一方の諷歌ちゃんはと言うと…
「私は面白いと思いますけど…」
「本当か!?」
「え!?えぇ…まだまだな所はあるかも知れませんが、読む分には面白いとは私は思いますよ?」
――この子は天使か何かか?
指摘も受け止めるが、この子は大事にしようと思う俺だった。
「……諷歌ちゃん。毎日お味噌汁を作ってくれないか」
「……え?えっと……私で良いんですか?」
「ああ。君でなくては困る」
「………お兄さん……」
俺は諷歌ちゃんの目に視線を送る。
対する諷歌ちゃんは頬を赤らめながらも俺の想いに応えてくれ――
「はいはい〜。二人とも?少し落ち着いてね〜!」
ニュッと妹の咲希に俺と諷歌ちゃんの頬を引っ張られた。
「うにゅ!?」「ふへ!?」
「全く私が居ないとすーぐ二人だけの世界に行こうとするんだから気を付けてよね?」
おっと…兄の俺とした事が諷歌ちゃんの優しさに甘え込んでしまう所だった危ない危ない…。
――と言うより俺達兄妹をオトス諷歌ちゃん、何て子なの!?
「……わ、悪い」
「い、いえ…」
「「……………………」」
つい押し黙ってしまったが、まだ俺は帰って来たばかりである。
その為、「少し部屋に行く」と言ってその場を後にした。
そうして自室に来て鞄を置いた俺は内心で――
(――なぁにやってるのぉ俺ぇぇぇ!?)
歳下の少女に向かって何口走ってるんだょぉぉぉ!?
あーこれはやった…黒歴史が増えてしまったかも知れねぇ…
俺は頭を抱え、彼女達とどう顔を合わせれば良いんだと悩んでいると、コンコンっと扉にノックされた。
「すみません」と言う諷歌ちゃんの声が扉越しに聞こえて来た。
「……どうかしたのか?」
「いえ…さっきの事で。さっきのお兄さんの作品に少し興味が湧いてしまったので、良ければもう少し話を聞きたくて…」
そう言う諷歌ちゃんは緊張していたのか、耳まで赤くしていた。
……そんな顔をされるとこっちも顔を赤らめてしまうのだが。
「……そうか。諷歌ちゃんって読書とかはする方なのか?」
「……実はライトノベルとかを少々」
「……そ、そうなんだ。実は俺もラノベとかは読む方なんだ」
途端、諷歌ちゃんの目は明るくなった気がした。
多分、趣味が合う者同士。気が合って喜んだのだろう。
「な、なら…有名どころの「王子様とお嬢様」とかは?」
「……確か元は少女系漫画だけど、ある時を境に男性の層でもウケるようになって有名になった作品だよな?」
「……!そうです!特に私は「おうじょ」が好きで…!」
因みに「おうじょ」と言うのは王子様とお嬢様の略語である。
「で、では「あの春」とかは…!」
「……!分かるぞ。「あの頃の春に戻って」だよな?タイムリープ物でサラリーマンの主人公がある時に青春時代に戻るアレ!」
「ですです!」
「……ほう。では俺からも良いか?例えば――」
そうして暫く俺と諷歌ちゃんはラノベで語り合い、以前より仲が深まった実感がした。
「お兄さんがまさか此処までとは思いませんでした…」
「……俺もだ。……そのさっきの話なんだが…」
「あ、はい。どう言うきっかけで作る事に?」
「それは――」
俺は諷歌ちゃんに昔話を含め、伝える事にした。
元々、文芸部に入ろうとしたが、廃部になっていた事。
その代わりに遠坂樹と言う友人からLIN◯小説を提案された事を伝えた。
「……成る程。そう言うきっかけで始められたんですか」
「……ああ、大体そんな感じだがな」
俺がそう言うと、諷歌ちゃんから「あの…」と聞かれ、
「……少しズレるかも知れませんが、その…高校に入って友達と一緒の趣味でするのは……楽しいですか?」
と、訊かれた俺は普段の日常を思い出し、笑みを浮かべながら、
「……そうだな。高校に入ってから意外と楽しいな。皆で同じ事をしたり、時には馬鹿をしたりとかあるけど…意外と気に入ってる」
「……そうなんですか」
ボソッと「やっぱり高校ではちゃんと青春出来るかな…」と呟いているのが、聞こえたので俺は言ってあげた。
「……何に悩んでいるのかは分からないが、自分がしたいと思った事を諦めずにやり切った後は、意外と何とかなるもんだよ」
「……そうなんでしょうか」
「……ああ。俺がそうだったんだから、諷歌ちゃんも諦めずにやれば多分大丈夫だ。何なら俺が応援してあげても良いけどな」
ハハッと笑う俺に諷歌ちゃんはじっと俺の目を見つめて来た。
真剣な目付きに俺は内心で少し戸惑ったが、諷歌ちゃんは真剣そうに俺に言って来た。
「……ならお願いがあります。時々で良いので、小説やこう言った話し合える時間を頂いても良いですか?」
「……それは良いけど何でか聞いても?」
「……はい。うちは家族の中で母親は優しいんですが、父親が厳しくて勉強一番にしなくちゃ行けないんです。流石に毎日同じ事の繰り返しに嫌気が差して…けど」
と、言って俺を見つめて来た。
「……けどこうやって咲希ちゃんや同じ趣味のお兄さんと話せる時間だけはリラックス出来るんです。唯一の癒しの時間と言うか…。なので本当に時々で良いんです。またこんな話とか出来たら良いなと思っているんです」
それは諷歌ちゃんの本音そのものだった。
勿論、それが全てでは無いのかも知れないが、それでも俺はそんな彼女の願いに応えたいと思ってしまった。
「……こんな俺で良ければいつでも話し相手にはなってあげるよ」
「本当ですか!!やった!!」
そう言って彼女は満面の笑みを浮かべ、笑っていた。
年相応に笑う彼女の笑顔は何処か可愛らしさを感じさせていた。
「これから宜しくお願いします…お兄さん」
「……おう」
そんな二人の会話を扉越しに聞いていた咲希は…
(何か私が知らない所でお兄ちゃんと諷歌ちゃんが仲良くなっているんですけど!?いや、それは良いんだけど私も入れてよ!!)
と、自分の知らない所で楽しそうな事をしている二人に微かに嫉妬心を感じた咲希は扉を勢い良く開け――
「二人して何楽しい事をしてるんだ!!私も入れてよ!!」
「「うわ!?咲希!?(咲希ちゃん!?)」」
と、朔夜の部屋にダイナミックに突入するのだった。