〜藤澤彰人side〜
翌日。
俺は遠坂樹からの連絡を待ち、窮地は脱したとのメッセージが送られて来た事でひとまずの安堵の息が出た。
もし仮にこのまま朔夜の身に何かあれば友達として心配になるし、あの時アイツを助けられなかったとの後悔の念に駆られてしまう所だった。
(一応命は大丈夫だったようだが…原因は何だろうか)
全身を痙攣していたのは覚えているから脳か何かの異常か?
医療に詳しく無いから憶測で言うのは良く無いかも知れないが、何かが原因なのは間違い無いだろう。
――
そう判断した俺は自宅を出て、バスと電車を乗り継いで聖嶺學園へと向かうのだった。
〜移動中〜
聖嶺學園に到着した俺は1年C組に到着すると、早く来ていた遠坂樹と草薙廣仁が居るのを確認した。
俺が「よお」と挨拶をし、二人は少し重そうな雰囲気を醸し出していたが、挨拶だけは返してくれた。
「……それでアイツはどうだったんだ?」
俺が遠坂樹に聞くと、樹は少ししてから言った。
「……結果から言うとアイツは無事だ。ただ持病が悪化したみたいで昨日はアレから目を起こさなかった」
それから樹は昨日の事を部分的に教えてくれた。
先ず、二人が病院に向かった後に家族の人達が来たので事情聴取をした後、家族の妹さんから持病を持っている事を教えられた。
次にその持病については過去に交通事故を起こし、その際に脳に後遺症が残ってしまったようで、てんかん発作を起こすようになった事。昨日は薬は飲んでいたが、何らかの原因でてんかんを起こしてしまったのではないかと言う事だった。
「……つまり持病であったてんかんが原因だった訳か」
「そうみたいだな。後これは偶然起こってしまったものだから誰の所為でもないとだけ家族の人に言われたから二人共、変に責任を持ったりするなよ」
「「……うん、分かった」」
取り敢えず今は寝ているみたいだが、無事ならひとまずの所は…良かったと言えば良いのだろうか?
「……それで今日の放課後にお見舞いに行くつもりだが、二人はどうする?」
「勿論行くよ。だって大事な友達だからね!」
「俺もお見舞いには行かせて貰うよ。この目で確認しないと安心出来ないからね」
俺と廣仁は行く事を告げ、遠坂樹は「分かった」と言うとこれからの事について少し話し合うのだった。
「病院の場所については此処で…」
「成る程…」
それから俺達は授業を受けていたが、何処か朔夜の事が気になって授業の内容が頭に入って来なかった。
しかし、俺の場合はちゃんと授業の内容を理解しないと常人より馬鹿なので慌ててノートに書き写した。
それから俺達は昼食を食堂で食べ、午後の授業を受け、ホームルーム後に3人揃って朔夜の居る病院へと向かった。
道中、お見舞い用の個包装のお菓子・ゼリー・フルーツ等を購入して多摩地区内で大きめの病院に入り、手続きを済ませる。
三階に上がり、ある一角の病室の扉の前に立ち、ノックをする。
すると中から可愛らしい声で「どうぞ〜」と聞こえて来たので、俺達はゆっくり扉を開けて中に失礼した。
「「「失礼します」」」
病室に入るとベッドの上に朔夜が家族の人らしき女性と居た。
但し、朔夜は患者衣を着た姿で何処か弱々しく感じられた。
「……あー三人共来てくれたんだ。……その、有り難う」
「おう!取り敢えず起きたんだな!おはよう!」
「……おー。相変わらず元気だなお前は」
ハハッと遠坂樹を見て弱々しく笑う朔夜。
うーむ…何処か違和感を感じるような気がする。
「へぇ〜遠坂さんは昨日会ってるけど…この人達がお兄ちゃんの高校の友達さんですか!可愛い女子も居るなんてお兄ちゃん…」
「……一応言っておくが、廣仁は男子だからな?」
「え?嘘…んな訳…」
「えっと…御免なさいボクは男の子です」
「…………………え」
廣仁の姿を見て興奮していた家族の人だったが、廣仁の口から放たれた一言によって衝撃を隠せずにいた。
……初見の人は皆、こんな反応になっちゃうよね。
「えっと御免なさい…そもそも自己紹介がまだでした。私は東雲咲希と申します!お兄ちゃんがいつもお世話になってます!」
「いえいえ…あ!ボクは――」
と、自己紹介をし合った俺達は朔夜を交えて暫く雑談をしたが…
「……それと昨日は悪かったな。俺のてんかんの所為とは言え、折角の休日を無駄にさせてしまったみたいで」
やはり朔夜も昨日の事は気にしていたようだった。
しかし、これに関しては誰の所為でも無いので…
「いや、気にしなくて良い。何やかんやお前が無事なだけ安心してるからな」
「うんうん。だから気にするなって言われても難しいかも知れないけど…そこまで自分を責めないでね?」
「……嗚呼、分かった。有り難う」
そう言って朔夜は雨が降る外を眺めていた。
……今日の朔夜は何処か上の空な気がして仕方が無い。
「……朔夜?どうしたんだ?」
「……何がだ?」
「……いや、何か様子がおかしいように見える」
俺がそう言うと朔夜は「……そうか」とだけ答えるだけで会話を続けようとはせず、何処か様子がおかしいのは明白だった。
しかし誰も言おうとはせず、朔夜が「来て貰ったのに悪い…」とだけ言ってその日は少し早めに解散する事となった。
「大丈夫かな…」
「まあ、あんな事があったんだ。きっと色々思う事もあるんだろ」
「今日はもう早めに解散する事にしようか」
「そうするか」と決まったので、俺達はその場で解散する事になったのだが…
「…………」
外に出て少し。
遠坂樹は傘を刺したまま東雲朔夜が居る病室の方を見上げて何かを思っていたのか、暫く無言だった。
※ ※ ※ ※ ※
〜東雲朔夜side〜
「はぁ…何でアイツらにあんな態度を取ってしまったんだろう」
俺は折角会いに来てくれた皆に対して素っ気無くしてしまった。
申し訳無いと反省するべきだが、どうしても気力が湧かない。
今は何をしたいとも思わず、LIN◯で謝罪の文章だけを送ると貰ったゼリーなどを食べながら妹の咲希と少しだけ話した。
「……なぁ、咲希。俺って何で生きてるんだろうな」
「突然何〜?ネガティブになっちゃって?お兄ちゃんはお兄ちゃんらしく幸せになる為に生まれて来たんじゃないの〜?」
「……そうか。幸せ、ねぇ……」
俺には幸せなんて言葉は相応しく無いと思ってしまった。
何せ俺は“大事な母親を犠牲にして”生き残ってしまってるんだからそんなクズは生きていても仕方が無いと思ってしまう。
最初は罪滅ぼしの為に咲希達を幸せにすると決心したが、その家族の中に俺は果たして含まれているのかどうか…
幸せとは何なのかを考えているうちに自分の存在に定義を何度も考えたが、結局は無意味に終わってしまった。
――結局、今の時間は余生の様なものにしか過ぎないのだから。
そう思えて来た中学生から今に至るまで、俺は自分の幸せよりも妹や父親の幸せを優先するようになり、本当の自分の事など考える事を避けるようになった。
過去から成長出来ず、明るい未来に蓋をして見ないようにする。
――そうやって身長だけが上がったのがそれが今の俺だった。
「……咲希。迷惑掛けてばっかりでごめんな」
俺はそうやって咲希の頭を撫でて謝罪した。
どうしても今はそんなネガティブな事しか頭に浮かばなかった。
「良いって。私はお兄ちゃんと生きていられたら良いんだから」
「……そこに親父は含まれていないんだが」
「あ、忘れてた笑」
あははと笑い合う俺達は、今は亡き母さんから見たら如何なのだろうか。
言い付け通り“大切な家族と仲良く暮らせている”かな、母さん。
俺は内心でそう思う事しか出来なかった。
※ ※ ※ ※ ※
〜遠坂樹side〜
それから俺は自宅に帰り、朔夜の事で頭がいっぱいだった。
何とかして朔夜を元気にさせる方法は何か無いだろうか。
ふと俺がそんな事を考えていた時だった。
「やあ!我が弟よ!そんな辛気臭い顔をして如何したんだい?」
そこには久し振りの登場となる我が兄・
「あー兄貴か。お帰り」
「おう!ただいま!そんでどうした?俺で良ければ話を聞くぞ?」
「んー……」
正直、兄貴に相談するか悩んだが、話したほうが楽だと思った俺は兄貴相手に色々感じながらも話す事にした。
「例えばさ…通院している友達がいるとして。何をしてあげれば元気になってくれるか分からなくてさ」
「ほう。その友達とは良く一緒なる誰かなのか?」
「まあ、そうだな。比較的一緒にいる事が多いって言うか」
「成る程な…」
兄貴は俺の話を親身に聞いてくれて少し安心感があった。
「その友達はいつ頃退院とかって分かるのか?」
「比較的良好らしいから早ければ一週間で退院するらしいって」
「そうか…それなら時間がある時に会いに行って話してあげたり、一緒の時間を過ごして見るのが一番じゃないのかい?」
「そうなのか?」
俺はついつい疑問になって兄貴に聞いてしまった。
果たしてそれだけで朔夜が元気になるのだろうか?
「例えば樹が熱を出して家で寝てるとするだろう?」
「うん」
「その間、家から出る事も出来ずに家族以外とは誰も話せないし、誰とも遊べない。それが毎日続くとなったら気が滅入ると言うか…人と話せない寂しさとか俺って何で生きてるんだろうって感じ易くなっちゃうと思わないか?」
「……分かりそうで分かりそうにないって言うか……」
まあ、これが病院だと家族や病院以外の人と話せない寂しさや思い切り遊べない不自由さなどを感じるし、何もしない毎日が続くと何で生きてるんだろうって思えてしまうのも何となく想像は出来るが…恐らく本人はそれ以上の苦しみを感じているのかも知れない。
「そこで友達である樹。お前が友達の話を親身に聞いて寄り添う。まずはそこだけでも相手は少なからず救われると思うぞ」
「……うん」
「後は前向きな言葉とか応援をするのは人によるかも知れないが、一応するだけは意味あるかもな。他には友達同士でメッセージを送ったりするだけでも相手の孤独を和らげる事が出来る筈だ」
「そうなの?」
「ああ。俺が仕事だらけの毎日でも友達との何気無いメッセージの遣り取りで少し精神的に楽になる所があるから実証済みだ」
……本当にそれだけで意味があるのかは分からないが、一応兄貴に相談しただけでも収穫はあったのかも知れない。
「……兄貴、相談に乗ってくれて有り難う」
「おう!このぐらいで良いんなら良いって事よ!」
俺と兄貴がそう話していた時だった。
突如、姉貴がリビングの椅子の上に立ち上がって叫び出した。
「キャァァァァァァ!?ゴゴゴゴ!?ゴキブリ!!」
「「ふぁ!?」」
我々遠坂家の天敵である【G】が現れた!
俺達は近付いて来る【G】に恐怖を覚えて逃げ惑う事しか許されていなかった!
「「「誰か止めてぇぇぇ!!」」」
こうして今日も遠坂家はGとの闘いが幕を開くのだった。