〜遠坂樹side〜
翌日の火曜日。
世界は何事も無かったかのように人々に平等として1日が訪れる。
今日もまた聖嶺學園での日常が始まる。
しかし、今週いっぱいは朔夜は入院で欠席する為、一人だけ欠けた状態でホームルームが始まり、いつも通りの授業を受けた。
――アイツが居ないだけで少し寂しいものだな。
きっとそう思っているのは少人数で、大多数は東雲朔夜の存在を一瞬だけ思い出すが、そのうち忘れて過ごすのだろう。
それは当たり前ではあるのだが、認識している俺達から見るとそれは何処か悲しいようにも感じてしまえた。
国語科の入澤先生の授業を聞きつつも、ぼんやりと外を見て朔夜の事を考えながら想いに耽っていた。
――アイツ、寂しく過ごして居ないだろうか。
……ああ、これは駄目だな。
今は目の前の事に集中しないと行けないのは分かっているのだが、朔夜の寂しい表情が頭に浮かんでしまって集中出来ない。
「ええ〜此処はこうであり、この文を説明するに――」
……ヤバイ。少し別の事を考えてて余り聞いて居なかった。
慌てて俺は授業のベースに追い付こうとページを開き、ノートに書かれている内容を書き移して行く。
「では此処の問題を遠坂…お前、今回は解けるか?」
「はい!やれるだけやって見ます!」
「……出来れば正解を答えて欲しいのだがな」
そうして俺は見事に自信満々に答えたのだが、違うとの一言。
――クソッ…やはり俺には国語とは相性が悪いようだ。
俺は席に着き、余りの恥ずかしさに手で顔を覆ってしまった。
ああああああああああああ!!何でいつも違うんだよぉぉ!?
思わずのたうち回りたくなったが、その衝動を抑えると俺は真顔で前を向くと正解を言った彰人に賞賛の拍手を送った。
「え?ええ?」
「どうした遠坂。いつもおかしいが今日はそれ以上だぞ」
「いえ。いつも正解を導き出す彼に賞賛の拍手を贈っただけです」
「「真顔で拍手を贈る君(遠坂)に恐怖を覚えそうだ…」」
そんな事がありつつ、国語は余り手が付けられずに終わった。
……やはり朔夜の事が気になり過ぎてしまうのが良く無いか。
そうして休憩時間。
俺は廣仁に抱き着いて甘く優しい髪の匂いをくんかくんかと鼻で吸って頭を
「え、えと…樹君…いや遠坂君。一体どうしてしまったの?」
「くんかんくんか…すぅ〜はぁ…ヨシ!いっ君さんは直ったぞ!」
「……気持ち悪過ぎて頭のネジが取れて直って無いに一票」
彰人が俺を見て引いていたが、今更気にする事は無い。
何故なら主人公補正とかでどうとでもなるのだから。
「あー…コイツのツッコミ役とか朔夜が居たらどれだけ良かった事か悔やまれる…早く退院してくれ…」
「えっと…そろそろ辞めてくれると助かるんだけど…な〜んて」
「くんかくんか…え?何て?もっと吸っても良いって?」難聴
俺は廣仁に抱き着いたまま会話に参加する事にした。
「……もう何でも良いや。それよりこの後の授業は何だっけ?」
「えっと確か…」
廣仁が次の授業を思い出そうとしていた時だった。
廊下から1年B組の人たちが移動教室でウチの前を通り掛かった。
その中には勿論、見慣れた女性陣の姿もあり…
「げぇ…あんた廣ちゃんに何やってるのよ」
「その廣ちゃんの匂いが良いから吸ってみろ」
「……誰がそこまで変態な事をする奴がいるのよ」
――此処に居ますが何か?
俺は指を自分の方に刺すと、眞希はドン引きした表情をしていた。
……何だよコイツも本当は廣仁に猫吸いならぬ廣吸いをしたいと言わんばかりに鼻息を荒くしている癖に。
「遠坂君。流石に可哀想だから辞めてあげた方が良いよ?」
「くっ…天宮さんに言われた以上は仕方無いな…」
眞希の隣に居た天宮さんに言われた俺は仕方無く、廣仁を解放すると、廣仁は彰人の背後に隠れてしまった。
彰人は廣仁と頭を撫でて「怖かったね…」と慰めていた。
「それで俺達に何か用でもあったのかよ?」
「い〜やぁ〜?ただあんたの所で廣吸いをやってるのが気になったから来ただけよ」
と、眞希な少し羨ましいような、何処か複雑な表情をしながら廣仁を見た後に天宮さんに「そろそろ行かないと…」と言われ、二人はそのまま別の教室に向かって行った。
その後、少し廣仁から距離を取られてしまった俺は心に傷を負いながらも後悔はせず、想像で廣吸いをやって興奮していた。
……自分で何をやっているのだろう。(賢者モード)
真顔になった俺はそのまま次の情報の授業に挑んだ。
教師の後藤宏晃から「検定を受ける人は〜」と言う言葉を聞き、試しに制限時間の中でどのぐらい打てるのかを試してみた結果…
――345文字までしか打てなかった。
検定で上位を獲る為には400文字以上は必要な為、まだまだ実力不足だと言う事が発覚した。
スマホだと早く打てるが、パソコンになると余り速く打てないのが難点だなと感じた俺でした。
LIN◯小説でやる感覚とパソコンでやる感覚が慣れずに苦戦を強いられながらも何とか情報の授業に喰らい付いてやった。
△ △ △
さて、授業は何事も無く終了して今は昼休みである。
俺達は食堂で今日のメニューである食材を頂きながら、途中で合流した神楽坂雅紀と葉山颯吾と雑談を交わしていた。
「そうか…これから一週間は東雲君が居ないのか…少し寂しいな」
「彼とはそんなに話した事は無いけど知ってる人が居ないって言うのは少し変な感じもするね」
――多分、今頃朔夜は一人で病院食を食べている頃だろうか。
早く放課後になって朔夜に会いに行きたいな。
仲の良い友達が一人居ないだけで心が落ち着かない。
「出来れば放課後にお見舞いに行きたい所だけど…場所が遠いし、塾も相まって中々行けそうに無いから代わりに宜しく頼むよ」
「おう。任された」
神楽坂雅紀から託されたので、一刻も早く放課後にならないかなと俺は内心で思うのだった。
〜カット〜
それから午後の授業を受けた俺達はホームルームを終えた。
その瞬間、俺は廣仁達に別れを告げるとそのまま昇降口まで走り、外履に履き替え、校門を抜けて丁度来たバスに乗って行く。
「えっと朔夜に…“これから会いに行くわね♡”っと」
――気色悪いメッセージを送り付けて完了。
さて、これで突然来ても問題無いだろう。
あら?直ぐに返信が来たわね(唐突なお嬢様口調)
俺がスマホを見ると『帰 っ て 下 さ い』と来たので俺はニヤつきながら『あら、それは照れ隠しかしら?』と送った。
まあ、本人からしたら冗談だと思っているのかも知れないが…
――実 際 に 会 い に 行 く わ よ ♡
内心で『俺って気色悪りぃな』と思いつつ、割とツボに入ってしまったので暫く笑いそうになるのを我慢するようにした。
くくっ…お姉口調で会いに行った時の反応が楽しいだ…笑
そうしている間にバスは駅に着き、俺はまだ慣れない病院までの道のりをスマホで一応検索しながら進んで行く。
えっと…こっちをこうか…
俺はそのままのペースで朔夜が入院する病院へと向かった。
※ ※ ※ ※ ※
病院に着いた俺は受付で手続きを済ませ、3階の一角に位置する病室に行き、扉の前でノックをする。
すると内側から朔夜の声で『どうぞ』と聞こえたので、俺は――
「会いに来たわよ♡」
「帰れ」
「酷いっ!?」
盛大なボケをかました結果、朔夜に突っ込んでくれた。
そのお陰か朔夜の様子も幾分か昨日よりは表情が柔らかかった。
「……まさか本当に会いに来るとは思わなかった」
「だから言ったじゃな〜い。貴方の為なら会いに来るって」
「……いつまで気色悪いオネエをしてるつもりなんだよ」
「あら?酷いわね。オネエだって心は乙女なのよ?」
「……もうダルイって」
案外オネエ様を気に入ってしまった俺はそのままのマイペースで朔夜との会話を楽しむ。
「それでね朔夜ちゃん」
「朔夜ちゃん!?……せめて呼び捨てにしてくれ頼むから」
「んん!!朔夜。貴方に会いたくて早くこの時にならないかなと待ち侘びていたの…だけど漸く貴方と再会出来たわ!」
「……んーそうか。良かったね」
遂に朔夜はツッコミを放棄する事にしたらしい。
いやあの…ツッコミ役不在とか地獄過ぎるからお願いやって!
「何のその軽い返し!ワタシはこれでも本気で想っていたのよ!」
「……目がマジなんだよ。怖いって」
「この目を見なさい!ワタシは冗談など言っていないわよ!」
俺は本気で朔夜の目を見つめる。
すると朔夜は気恥ずかしいのか目線を逸らしてしまう。
それでも俺は朔夜の顔を手で当て、じっと見つめる。
「「……………」」
――目と目が合う〜瞬間、好きだと気付いた〜♪
なーんて言う古き良き曲が流れそうな雰囲気になってしまった。
だが、此処までなってしまった以上は今更引き返せない。
ワタシ、やるわ!
「東雲朔夜!」
「……何だよ」
「私、貴方の事が――」
俺が続きを言おうとしたその瞬間だった。
突如として扉が開き、廊下側から妹さんの姿が現れたのは…
「お兄ちゃ…」
「好きよ!!」
「「…………………え?」」
※その後、誤解を解くまで気不味い雰囲気に包まれました。
〜閑話休題〜
「んん!全く遠坂さんって面白い人だよね〜」
「そうか?そっかぁ…あはは…」
はい、どうもいっ君さんです。
ふざけていたらまさかの妹さんフラグが発生してしまった為、暫く気不味い雰囲気になりましたが、如何にか俺の威厳を犠牲に最小限に済みました。
因みに妹さんの背後にもう一人居たみたいだが、彼女の方には余り聞こえなかったらしく、少しだけ痛い目に遭うだけで済んだぜ。
「……私は稲葉諷歌です。その東雲…朔夜さんとはその…友達です。遠坂先輩、宜しくお願いします」
「お、おう宜しく…」
どうやら彼女は妹さんの親友らしく、朔夜とも友達で、今日は朔夜のお見舞いに来たらしいのだが…俺と鉢合わせてしまったと。
「それで遠坂先輩は朔夜お兄さんと仲が宜しいようで…」チラッ
「……一応言っとくが、俺と樹は普通の友達なだけだからな?」
「そうだぞ。俺の恋愛対象は可愛い子なら誰だってウェルカムなだけの至って普通の男子高校生だゾ」
「ふ、普通…なのかな?」
年下組は困惑してしまった!
このいっ君さんは廣仁と言い、可愛い子と言い、可愛い生物ならついときめいてしまう哀れな性癖の持ち主だと想ってくれて良いぞ。
「あ、そうだ。さくやん。何かしたい事とかって何かあるか?」
「……さくやんって何?……して欲しい事か……んー」
暫く朔夜は考え込み、そしてある事を思い付いた。
「……実は暇でする事が無いんだよ。何か暇を潰せそうな事とかって無いか?」
「そうだな…それって何でも良いのか?」
「……ああ。俺が居ない間の學園での事とかでも何でも良いぞ」
「それなら…」
と、俺はある事を思い出した。
「実はこれは今日の出来事なんだけどな?」
「「「……………」
俺の話に三人は集中して聞き始めた。
「体育の教師に周々木って言うのが居るんだけど。その周々木が女子生徒と空き教室の隅っこで話しているのを目撃したんだよね」
「……あーいつも体育で迷惑掛けてしまってる周々木先生ね」
体育教師の周々木先生は生徒と仲が良く、男女問わず生徒達から慕われている教師であり、互いに友達感覚で話す事もあってか絶大な支持を集めている人物であった。
「その時の周々木の体勢が女子生徒に向けてプロポーズする時のような体勢をしていた所為か、見方を変えれば告白してる感じでさ。
その時、他の先生達も通り掛かって一緒に見ていたら、視線に気付いた周々木が顔を赤くして言い訳を始めちゃったんだよね。
『わ、わわわわたしは至って真面目な話をA子さんと対面で話していただけです』って」
その時の周々木の言い訳の内容が誤解を与えても仕方が無かった内容であった為、寧ろ俺や先生達はニヤニヤと盛り上がっていた。
そんな青春の1ページでありました。
「……あの先生。何やってるんだよ」
「やっぱりお兄ちゃん達の學園って面白い事がいっぱいだね〜笑」
「……毎日が充実してそう」
三人がそれぞれの反応を見せ、偶然とは言え見て正解だったなと思った。
――周々木、ネタにしてごめんなさい。
「高校ってお兄ちゃんが毎日充実してる感じがしてたけど、他の人から聞いても面白いのなら是非入って見たいかも〜♪」
「……実は私もそう思えて来た。受験の事ばっかりで気が滅入っていたけど入った後の楽しみを考えればやる気が出そう」
「そりゃ良かった。是非とも俺達の後輩になってくれ」
と、俺は先輩風を吹かせて行った訳だが、成績をもう少し上げないと行けないよなぁ〜とも思えてしまった。
カッコよく面白く、尚且つ頼れる先輩を目指さないとな!
「……まあ、俺が居なくても面白い事が発生している訳だな」
「何を言ってるんだ?朔夜が居ないと俺を止めてくれる奴が居ないじゃないか」
「……………………………………そうだったな。主に廣仁が犠牲になるんだったな」
一瞬、ネガティブ思考になったように見える朔夜だったが、俺がそれとなくボケを与えたら突っ込んでくれた事で気を直した様だ。
そうだよな主に朔夜がストッパーにならないと俺の餌食になるからなぁ〜廣仁が。
そんな感じで落ち込みそうになる朔夜に対してそれとなくふざけてボケを与え、ツッコミ役になって少し笑う朔夜を見て、これは毎日来た方が良いなと思った俺であった。