〜東雲朔夜side〜
6月某日。天候は雷雨。
今日も今日とて俺は病院生活を余儀無くされ、病室で妹から借りたノートに小説もどきをシャーペンで書き出していた。
「……暇なもんだな」
今日も外側の世界では様々な色で満ち溢れた日常を送る人々が居るのだろうか。羨ましい限りだな。
「…………………………」
俺は小説を書いていたが、ふとある事を思って書き止める。
――嗚呼、これは良く無い考えだ。
だけどこれは俺にとって必要な想いでもあった。
病院生活で気が滅入ってしまい、変な事を思い出してしまった。
そう、これは今の俺を形成した過去の記憶である――
※ ※ ※ ※ ※
――あの日、俺はきっと生涯忘れる事の無い1日を過ごした。
それはきっと良くも悪くも俺の記憶に印象強く残る一日になったのだろうから。
あの日は何気無い一日だった気がする。
確か俺がディスティニーランドに行きたいと両親に頼み込んだ事で実現した休日だった。
『ディスティニーランドに来れた!』
『来たど〜!』
ディスティニーランドに車で訪れた俺達家族は受付で手続きを済ませ、入園と共にディスティニーランドに勢い良く入った咲希を見つつ、俺も目の前の光景に目を奪われていた。
様々なパークエリアが立ち並び、お城や火山などきっと一日中駆け回っても有り余る程の広大な敷地を見て俺は夢を見ているのでは無いかと錯覚してしまう。
だが、目の前に広がるのは現実。楽しい夢を提供してくれるディスティニーランドが俺達を待っていた。
『母さん!父さん!僕はお化け屋敷に行って見たい!』
『ええ〜!先ずはジェット・スペース・マウンテンに乗りたい!』
『こらこら。ちゃんと後で行ってあげるから順番にね?』
『『は〜い』』
そうして先ず向かったのは咲希のリクエストにあったジェット・スペース・マウンテンであった。
やはり人気があるのか、人の列でごった返していた。
『う〜ん。この様子だと結構待つかもね』
『それでも良い!絶対に乗りたい!』
『はぁ…まあホンテッドハウ◯にも行ければ良いか』
『まあまあ』
暫く俺達は列に並びながら会話をしたり、ゲームをしたりなどで時間を潰し、漸く俺達の順番が回って来た。
俺達は前後に分かれてジェットコースターに乗ると最初はゆっくり登って行き、降る際に一気に加速して俺は恐怖で叫んでいた。
『うわあああああああああああ!!』
『きゃああああああ!!』
恐怖する俺。全力で楽しむ咲希。
その背後で叫ぶ両親の声を聞きながら暫くジェットコースターの旅は続いた。
△ △ △
次に来たのはホンテッド・ハウスである。
所謂お化け屋敷であり、洋風の館をモチーフにした作りのもので、中から先客の人達の叫び声が聞こえて来るのは気の所為だろうか。
『お化け屋敷は人が演じているから怖くは無いからな』
『もうお兄ちゃん!夢の無い事を言わないでよ〜』
『そうよ。キャストの人だって頑張ってるのだから』
『お母さん?メタイ事を言っているのを自覚してるかい?』
此方もそれなりに混んでいたが、さっきよりはマシだった。
『ねぇねえお兄ちゃん知ってる?ホンテッド・ハウスには実際の霊が出る噂があるんだって』
『科学的に考えてお化けなどいる筈が無い(震え)』
『お兄ちゃん、声が震えてるよ〜?(笑)』
俺が実際のお化けを怖がっている事を妹に悟られないように強気で振る舞っていたが、実際にはバレバレだった。
『あ、ほらそろそろ行けそうだし、中でお化けに会えるよ(笑)』
『さ、咲希ぃ…お、お化けは実在しないんだからな!』
『お兄ちゃんも大変ね』
母さんが苦笑しながら俺と咲希の遣り取りを聞いていた。
俺は父さん腕に掴まり、何かが出て来ても盾にしようと決めた。
『父さん。正直な事を言うと怖いので一緒にいて下さいお願いします』
『お、おう…そんなに早口にならなくてもちゃんと居るから』
その後、俺達は手を繋ぎながらお化け屋敷を探索した。
内部ではとても暗く、支給されたライトの灯を頼りに進んで行くがキャストが演じるお化けに少し恐怖していた。
『さ、咲希!僕はこ、怖くなんか無いからな!』
『お兄ちゃん…怖いよ…暗いよ…』
『大丈夫よ二人共。お母さん達が守ってあげるから!』
中々進もうに進めなかったが、それでも勇気を振り絞って前に進んで行き、時にはお化けの演出だと分かっていてもつい驚いてしまって泣きたくなるのを我慢して咲希の前では強く居たかった。
――大丈夫。お化けなんか実在しない…
俺が強気になって少し前に進もうとしたところ、片脚を化け物によって捕まり、俺は絶句してしまった。
そして――
『で、出たぁぁぁ!?』
俺は妹の前で情け無くなり、兄としての威厳を失う瞬間だった。
△ △ △
お化け屋敷で精魂尽き果てた俺は暫くベンチで休憩し、それから人が集まっている所が気になり、見に行ったらショーが開催されていた。
『わあ…◯ッキーが手を振ってる!』
『本当だ…凄ぇ』
俺と咲希は目の前で繰り広げられている豪華絢爛なショーを見て思わず本音が漏れ出た。
多くの人達に夢と希望を与えてくれるディスティニーランドのメインキャラクターである◯ッキーが俺達の前に来ると手に握ってくれて思わず感激してしまった。
『わ、私…◯ッキーと手を握れたよ!』
『良かったね◯ッキーと手を繋げて。良い思い出になったね』
『あの雲の上の◯ッキーが夢と希望を与えてくれたんだね』
ディスティニーランドの◯ッキーマウスはやはり偉大であった。
△ △ △
そんな幸せな一日を過ごし、このまま時が過ぎるのだと誰もがそう思っていた。
遊園地の帰り道。
俺達家族は高速道路を避け、一般道を利用して帰路を辿っていた。
妹の咲希は遊び疲れて寝てしまい、かく言う俺は寝る気も然程しなかったのでゲームをしつつ、時折母さんの話に付き合っていた。
『ねぇ、朔夜。今日はどうだった?』
『えっとね、楽しかったかな。特に遊園地のお化け屋敷とかが…』
『あ〜あそこは狡いよね。急に死角から驚かしてくるんだから』
『『あはは』』
そうやって俺達は雑談に花を咲かせていると、父さんが背後から迫り来る車に警戒しているのが見えた。
『何だ後ろの車…さっきから煽り運転なのか知らないが…』
すると後ろからブゥーとクラクションを鳴らされ、父さんが『ふざけるなよ』とイラついているのが分かった。
『貴方、相手はカスなんだから放って置きましょうよ』
『それは分かってるんだがな…何か嫌な予感が――』
その時だった。
急に煽り運転をしていた車が真横に接近すると、ガッシャアン!とウチの車を勢い良く突き飛ばしたのだ。
『は――?』
ウチの車は暫く前後左右に回っては衝撃に襲われ、そのまま奥の電信柱にぶつかり、横転した形で止まった。
車体は既にボロボロ。燃料が漏れ出し、いつ爆発してもおかしくなかった。
『うぅ…痛いよ…助けて…』
『ぐっ…あ、足が…母さん。朔夜、咲希…無事か…!』
『うう…』
俺は父さんの声は微かに聞こえたが、意識は既に遠く。
この辺りから衝撃で頭を打って記憶が無かったが、此処から先は咲希や父さん…いや、親父から聞いた話も交えて語ろう。
俺は気を失い、咲希はシートベルトをしていたお陰で然程飛んではいなかったようだが、打撲などの傷が目立っていたとの事だ。
そして母さんは――空気の入れ替えで窓を開けていた事が災いして外の物と頭をぶつけ、当たった箇所が悪かったのか即死だった。
親父は反応しない母さんを揺さぶったりしたが、軈て死んでいる事に気付くと光景に絶句していた。
しかし、社内に燃料の臭いが充満し始め、その事に気付いた親父は咲希と意識を失っていた俺を急いで救出し、爆発する前に車から脱出してすぐに母さんを乗せた車は大規模な爆発をしたと云う。
そうして親父は目の前の光景に呆然としていたが、俺と咲希の存在に気付くとすぐに警察と救急車を呼んで――。
それからは大人のやる事だからと言われ、事件の犯人は捕まったとかとは聞いたが、聞かされた俺には母さんの死だけしか頭に響かなかった。
――母さんの死。
それは余りにも突然の事で、俺も咲希も…そして親父でさえ理解を拒み、今でさえ母さんの話は親父の前ではタブーとなっている。
そしてこの時に俺は頭を強く打った事で後天性のてんかんを患う事となり、普段は薬で対処しながらの生活を余儀無くされた。
そうして東雲家の日常が一変し、母さんの葬式が終わった後。
俺は母さんの仏壇の前でこんな事を吐露してしまった。
――何でこんな俺が生き、母さんが死ななくちゃならないんだ。
母さんは何も悪く無いじゃないか。それなのに何で何で何で!?何で母さんが煽り運転なんかに巻き込まれて死ななくちゃ行けなかったんだよ!?ふざけるんじゃねぇ!!
俺は拳を強く握り締め、煽り運転をした犯人を恨んだ。
俺達一家を滅茶苦茶にした奴は老人…いや、老害だった。
クソジ◯イが何で車なんか運転してるんだよ!とも思った。
殺してやりたい。だけどそれをしたら俺も老害と同じになる。
それだけは心の底から嫌だった。だから心の内に殺意を留めた。
感情を抑え込んだ俺は、母さんの仏壇の前で泣く家族を見て、ある事を決意した。
――残った咲希と親父だけは俺が守らないと。
そう思った俺は怒りや殺意どころの話では無く、これから残った俺達が生きる為にどうするべきなのかを優先する事にした。
そこから俺は感情を出来るだけ抑え、勉強などを集中して取り組み、周囲との関係を断絶してでも家族の為だけに一生懸命になった。
家族を大事にし、自分の事は何も考えないようにした。
だって両親にディスティニーランドに行きたいと言った俺が言わなければそもそも出掛ける事も無かったんだから。
――そう考えれば、俺が母さんを殺したようなものだよな。
極論に聞こえるかも知れない。だけど結果、それが事実だ。
現実がそう答えたんだから俺は自分を殺す事にした。
その結果、明るい過去の俺から消極的な俺が出来上がった訳だ。
※ ※ ※ ※ ※
「………………………………………………」
俺は過去の事を思い出し、暫く虚無感に襲われていたが、すぐに意識を切り替え、小説もどきの書き出しを再開する。
――この小説の趣味も、厨二時代に心の内側を解放したいと思ってしまった俺が、つい書き出した内容から始まった訳だが。
まさか形を変えて、LIN◯に書くとは思わなかったな。
それも高校で出来た友達と共有し合って書くのは意外と楽しいとは思えるが、これ以上我儘を言っても良いのだろうか。
確かこれのキッカケって俺が呟いた事を遠坂樹が『なら書こう』と決まり、流れる形でこう活動している訳だが…
「……これって“我儘”に含まれるのかなぁ」
そんな事を気にする俺だったが、文章は書き止まらない。
寧ろイメージ力だけはかなり舞い降りて来る為、一度集中すると納得出来るまで終われないのが俺の悪癖だ。
「……何か自分を殺すと言いながら趣味を書いてるって矛盾してるように思えて来たな」
一体俺は何をしたいのだろう。
過去から停滞し続けている俺に生きる資格は無いのは分かってはいるが、同時に生きたいとも思えてしまうのは何なんだろう。
このよく分からない疑問に何度も考えたが、よく分からず、ただ生きて来た。
きっとこれからも自分の想いを殺して生き続けるのだろう。
ただ漠然とそうなのかも知れないし、違うのかも知れないとも思えてしまう。
「……俺ってこんなに面倒臭い人間だったんだな」
と、自分の事なのについ笑えてしまった。
俺って何でこんな事で笑えてしまうんだろう。
「……はっ」
あーもう辞め辞め!
これ以上面倒な事を考えても仕方が無いし、気分を変えるか。
……とは言っても気分転換になるような事ってあったけか。
俺がそんな事を思っていた時だった。
病室の扉からノックがされ、俺が『……どうぞ』と言うと――
廊下から遠坂樹が満面の笑みを浮かべて現れたのだった。