〜東雲朔夜side〜
――樹と本音で語り合ってから数日後。
俺は漸く病院生活と別れを告げ、退院する事が出来た。
「お兄ちゃん、漸く退院出来たね〜」
「……おう。心配掛けて悪かった。それと色々世話を掛けたな」
「別に今更でしょ?それに何かお兄ちゃんが途中から何処か明るくなったから心配は余りして無いよ。多分明るくなったのは遠坂先輩辺りが元気付けてくれたのかな?」
中々鋭い我が妹である。
アイツとは腹を割って話した事で俺は少しだけ自分を許せるようになり、徐々にだが明るい未来のイメージを作れて来たと思う。
「……そうだな。アイツには色々と世話になったし、後でお礼を言わないとな」
「そうだね〜私からもお兄ちゃんがおせわになりましたって言いたいけど連絡先持ってないからウチに連れて来てよ」
「……機会があったらな」
俺と咲希はそう話している間にも、手続きを済ませた親父が病院から出て来た。
「……朔夜。もう大丈夫そうだな」
「……ああ。親父にも迷惑を掛けた。悪かったな」
「……別に良い。お前が無事ならそれで…本当に良かった」
親父は最後の方に普段は言わない本音を吐露した。
……やっぱり親父にも咲希にもかなり迷惑掛けたよなぁ。
「……それと母さんの墓の事だが。これから一緒に行くか?」
「え…親父。あんなに嫌がってたのにどうした」
「……咲希に色々言われた。流石に私もそろそろ現実を見るべきだなと思ったまでだ」
どうやら俺が居ない間にも東雲家で色々あったらしい。
まあ、それはさて置き。俺達は家族総出で母さんの墓参りに向かうのだった。
△ △ △
寺に墓参りしに来た俺達は、前回と同じく本堂にお参りしてからお墓の掃除、お供え、焼香、合掌礼拝して近況報告をした。
今回は今まで過去から目を背いて来た親父も含めて家族全員で母さんの墓参りに来ているのが前回の違いだった。
「……今まで悪かった郁恵。お前の死を受け入れる事が出来ずに過去から目を背いて来てばかりだった…けど、俺はもう朔夜の事故を機会にもう少し家族を見るようにしたよ」
「……親父」「パパ…」
「……お前達にも散々迷惑を掛けて来たな。何か詫びをしたい」
交通事故以来、今まで家族に必要以上に接して来なかった親父が此処まで変わるとは、咲希の奴一体何をしたんだ?
俺は咲希の方に視線を移すと、咲希は俺に説明をした。
「……何をしたら親父が此処まで変わったんだよ咲希」
「えっと…お兄ちゃんが持病で病院に運ばれた後、パパに色々と本音でぶつかったのが大きかったのかな…」
咲希が何て説明したら良いのか分からずにいると…
「……朔夜。お前が病院に運ばれたって聞いて、もしかして何かあったんじゃないかって思えて、仕方が無かった。それに今まで余りお前と接して来れなかった後悔から頭が真っ白になっていたんだ。
そしたら咲希から色々と言われてな。『過去は変えられないけど未来は変えられる。お兄ちゃんは生きてるから会いに行くよ』って言われてな。そしたら色々と考え方が変わったと言うか…」
親父は俺の目を向きながらそう言った。
どうやら親父には親父なりに色々心境の変化があったようだ。
奇しくもそれは俺も樹と同じく言われた事が影響しているようだが。
「……そうか。親父にも色々とあったんだな。俺と同じく」
「……?何かあったのか?」
「……友達に色々と言われた。詳しくは恥ずかしくて言えないが」
「……そうなのか」
俺と親父はそう言いつつ、母さんの墓場に向き直って…
「……郁恵。そう言う訳だから今度からは定期的に会いに来るよ」
「……母さん。俺も色々あったけど変われた。だから未来に向けて生きて行こうと思うよ」
「ママ。私もこれから色々あるけど頑張って行くから天国で見てて!」
――きっと、天国で母さんが俺達を見ていてくれる。
それなら心配の無いように前向きに生きて行かないとな。
俺達東雲家は母さん──東雲郁恵にそれぞれ言うと、お供え物を持ち帰って寺を後にするのだった。
△ △ △
それから俺達は親父と近場に出掛けたり、友人達に『無事に退院した』とメールを打ったり、遊びに来た稲葉諷歌ちゃんにかなり心配されてしまったが…
「……心配掛けて悪かった。俺はもう大丈夫だから」
「…かなり心配したんですからねお兄さん」
そう言って諷歌ちゃんは頬を膨らませていた。可愛い。
けど心配かけたのは事実なので、そこは反省したいとな…
「……悪かった。何か詫びに何でも聞いてやるから」
「…本当ですか?なら連絡先を交換しませんか?」
そう言う訳で諷歌ちゃんと連絡先を交換したりもした。
※ ※ ※
そうして月日は流れ、聖嶺學園では期末考査に挑み、その結果が廊下の壁に張り出されていた。
俺達は結果を見に人混みを掻き分け、その結果を見ていた。
「……49位か。まあまあだな」
「うへぇ〜朔夜ってすげぇな」
遠坂樹は俺の結果を見てすげえ奴と言った目で見ていた。
……別に病院生活ではする事が無かったし、勉強する方が暇潰しになっただけなのだがな。
「それでいっ君さんは…51位か。朔夜に勝てなかったか」
「……C組では上位陣なんだから誇れば良いのに」
「俺より上の奴に言われたく無いです」
まあ、それもそうか。
因みに俺の横にいた廣仁は身長が小柄だったので、俺が廣仁を持ち上げる事で少し視線を感じたが、この際気にしない。
「わっ!?えっと有難う……結果は54位だったようだけど」
「……別に良い。何か困ったら俺に頼れ。心配掛けた分、何かお礼したいから」
「別にそこまで気にしなくても良いのに…けど有り難う」
俺は廣仁を地面に戻し、そう言い合うのだった。
そして遠坂樹は知人の結果が気になったのか知らないが、他の順位も見ていた。
「えっと神楽坂が1位、葉山が7位…天宮さんが21位で眞希の奴が23位か。んで彰人は58位で善積が81位か…」
「それぞれのクラスでの結果はあれど、かなり良い方ではないか?少なくとも他の同級生達には勝てたのだし」
そう言う彰人は少し複雑な表情をしていたが、1年C組の中ではそれなりの順位を出せたのか、そう言うのだった。
さて、期末考査を見終わった俺達は教室に戻って、これから先の事を話していた。
「……これから少し本格的に水泳の授業に暫くしたら夏休みか。
特に夏休みは何して過ごそうかな」
俺が珍しく自分から話題提供すると、遠坂樹は目を輝かせながら言った。
「じゃあさじゃあさ!夏休みは何処かに出掛けない?例えば――」
「それなら〜」
俺が話題を出し、他の皆とわいわいしながら雑談を交わすのを見て俺は内心で思った。
――樹のお陰で俺は前を見れる気がする。有難う。
と、俺は楽しむ遠坂樹の顔を見てそう思うのだった。
そうして長かった梅雨は明け、本格的に夏へと時期は移ろうとしていた。