――7月某日。
今日は一学期の終業式があった日で、現在は式典を終えて生徒達は夏休みの事で浮かれていた。
因みに俺こといっ君さんもそんな一人であった。
「あぁ〜明日から夏休みかぁ…」
「ボクは遠坂君に連れられて夏休み前から色々と行ってるけどね。
……まあ、楽しいから良いんだけど」
「……さぞ廣仁を連れている樹は気持ち悪い笑みを浮かべているんだろうなぁ…」
「失礼だな!?」
俺・朔夜・廣仁の三人で雑談を交わしていると、教室の扉が開かれて彰人が姿を現した。
「あ、いたいた。お前ら少し良いか?」
「「「……俺達?」」」
俺達は話を中断して廊下に出ると、彰人の他に眞希と天宮さんの二人が立っていた。
「やっほ〜」「あ、どうも…」
「おう!眞希と天宮さんか」
――はて?何の用だろうか?
「明日からの夏休みの事でさ?皆、いつ空いてるか聞きたくて…」
「あー成る程。それで呼んだのか」
「……何で俺達も何だ?」
朔夜がそんな疑問を投げ掛けると、眞希が答えた。
「折角なら皆で行けたら良いねって話をしててね〜」
「……あー成る程」
そうして俺達は夏休みの日程の事で暫く話した。
例えば7月中は何処に行きたいとか、8月なら花火大会だよねとか色々話していると…
「夏って言えばやっぱり、海だよね〜」
眞希が海に行きたいと言うと、俺達は大きく反応を示した。
──海。つまる所、水着姿を拝めるってコトッ!?
「海……水着……」
男性陣が期待を膨らませる一方、天宮さんは顔を曇らせていた。視線は自身の身体へと向けられている。
「あ、もしかしていよりっちは海に行きたく無い……?」
天宮さんの様子に気付いた眞希は不安そうに声を掛けた。
すると、天宮さんは首を横に振った。
「ううん。皆で行きたいとは思うんだけど…水着は少し恥ずかしい……」
如何やら水着姿になる事に躊躇しているらしい。
もしかすると自分の身体を貧相だと思って自信が無いのかも知れないが、別に俺達はそんな事を気にする事は無いのだがな。
「あー水着の上から着れるパーカーとかもあるし、それを着れば良いんじゃないのか?」
「え?そんなのがあるんだ……?」
天宮さんは『余り海に行った事が無いから良く分からない…』と言っていたからか、驚きながら話に食い付いた。
だから俺は笑顔で頷く。
「確かあった筈だ。なあ?眞希?」
「うん、あるね〜!そっか…それにすれば良かったんだ!」
俺のバトンパスで、眞希は元気良く何度も頷いた。
そして、何かを思い付いた表情をし、笑顔で口を開く。
「あ、ならさぁ〜皆の予定が合えばで良いけど放課後に水着を買いに行かない?新しい水着も欲しいし」
「何で今日?随分と唐突だな」
「あれ?樹って基本暇なんじゃないの?」
……まるで人をいつでも暇な人間だと思っているな?
俺には家に帰ってゲームしたり、アニメを見たり、漫画を読んだり忙しいんだゾ。
「いっ君さんだって予定があるんだゾ。アニメとか――」
「へぇ〜?来ないんだ〜?良いの?折角ウチらの水着姿を見られるチャンスなのに、本当に良いんだ〜?」
俺が断る雰囲気を出すと、眞希は意地の悪い笑みを浮かべ、挑発的な視線を向けて来た。
「いや、眞希なら兎も角、天宮さんまで引き合いに出すなよ……」
しかし、そんな視線を向けられた俺は呆れたように言いながらも天宮さんの反応が気になったので、自然と天宮さんに視線が向く。
その視線に釣られた天宮さんは、顔を真っ赤にして俯いてしまい、慌てて眞希が言った。
「わわっ!?ごめん!!さっきのはコイツを釣る為の餌で言っただけだから、本当は水着姿にならなくて良いからね!?」
天宮さんに恥ずかしい思いをさせてしまった眞希は慌ててフォローに入る。
すると天宮さんは照れながらも、ニコッと可愛らしい笑みを浮かべた。
「だ、大丈夫だよ…。少し想像して恥ずかしくなっただけだから……」
「そ、そっか…なら良かったぁ……」
天宮さんが大丈夫そうなので、眞希はホッと胸を撫で下ろす。
そして、ふと思い出したかのように眞希の視線が再び俺に向けられた。
「それであんたは来るの?来ないの?」
「……まあ、行ってやらん事も無くは無いが……」
「……あんたって何やかんやムッツリスケベだよね」
「はぁ!?いっ君さんの何処がムッツリスケベだ!」
そうして俺と眞希は『ムッツリスケベか否かどうか』で口論になるが、朔夜と天宮さんに直ぐに止められるのだった。
△ △ △
それから放課後になり、俺達は聖嶺學園を後にし、いつものショッピングモールに向かった。
「にひひ〜それで?樹さんはウチらの水着姿を楽しみにしてる?」
「う、うるせぇ…期待はしてるけど」
「へぇ〜?」
眞希に少し顔を真っ赤にしつつ、しかしニヤニヤとしながら俺の反応を見て楽しんでいた。
――くそ…コイツ俺がムッツリスケベだとか好き勝手言いやがって…分からせてやりたい(小並感)
それから俺達はショッピングモールに到着し、中へ入って行く。
眞希達の後を付いて行き、軈て水着を売っている店に辿り着いた。
「俺達はどうする?」
「一応新しいのを買っておくか。少し身長も上がった事だし」
「……俺は良いかな。まだサイズが合うのがあるし」
「ボクは見ておこうかな…め
俺は特に変えなくても良いが、他の皆は新しく新調するようだ。
そうして女性陣はと言うと…
「ウチらは新しいのを買うよね?」
「うん。折角なら新しい水着を買って着てみたいな…」
天宮さんは照れたように可愛らしい笑みを浮かべた。
そうして俺や朔夜を除く眞希達はそれぞれ気に入った水着を選び、更衣室に入って着替えていた。
(……何やかんや眞希達の水着姿を見れるのは嬉しいな。いっ君さんだって男の子ですし?そりゃ興味はありますよ)
俺は内心、ドキドキしながら眞希達の着替えを待っていた。
そうして暫くすると眞希が着替え終わったのか、更衣室のカーテンを開いて見せて来た。
「どう?似合ってるかな?」
眞希が現在着ているのは、上下ともに黒色の大人の水着。
如何やら眞希は可愛さでは無く、セクシーさを求めて来たようだ。
「うん……エロい」
「ふふ〜ん。やっぱりムッツリスケベじゃん?……けどこれを着て海に行くのは恥ずかしいから他のも試してみようっと///」
そう言って眞希はカーテンを閉め、別の水着に着替え始めた。
……やっぱりアイツも恥ずかしいんじゃねぇかよ。
軈て少ししてから天宮さんが着替え終わって出て来た。
「えっと…どうかな?」
「………………」
天宮さんは恥ずかしそうに耳まで赤くし、体をモジモジとして落ち着きが無く、若干涙目で俺達を見つめていた。
「えっと…」
俺達は天宮さんの可愛さに言葉を失っていたが、軈て吾に戻ると爽やかな笑みを浮かべながら言った。
「うん、エロ可愛くて似合ってるよ!」
「〜〜〜〜///」
俺がつい失言を言ってしまい、天宮さんは顔を真っ赤にし、バッとカーテンを締めてしまった。
「あっ…」
――俺は一体何を言っているんだよ!?
なぁにが“エロ可愛い”じゃボケ!?天宮さんに何を言ってる!?
「――申し訳御座いませんでしたぁ!!」
俺は見事にやらかしてしまい、天宮さんに聞こえる声量で思い切り謝罪するのだった。
それから結局、何着か試してその中から気に入った水着を眞希達は選び、レジへと向かって行ったのだった。
△ △ △
水着を買い終えた眞希達はその後、ショッピングモールで色々と見て周り、現在はゲームセンターでエアホッケーで遊んでいた。
2対2の勝負形式で、俺と眞希VS彰人&天宮さんに分かれ、マケットを手に持ち、プラスチックの円盤を打ち合っていた。
俺と彰人でじゃんけんをし、俺が勝ったので先制点を打った。
しかし天宮さんにガードされ、すぐ天宮さんはマケットで円盤を打つと、その円盤は俺達のゴールに吸い込まれて行った。
「「いえーい!」」
彰人と天宮さんはハイタッチし、喜び合っていた。
「あー1点取られたな…取り返しに行くか」
「このまま黙っていられるウチらじゃない!」
俺はゴール下の穴から出て来た円盤を手に取り、強力な一撃を以て相手の隙を突いてシュート!
そしてそのまま相手ゴールの中に吸い込まれて行った!
――超エキサイティング!!
「なっ!?」
「藤澤君!私達も負けていられないよ!」
お互いに白熱し合って点を取られては奪い、奪われては奪うのを繰り返して行った。
今度は彰人が斜めから円盤を打ち、壁の反射で不規則に軌道を描いて円盤は此方側のスペースに入り込んで来た。
俺は打とうとしたが、円盤を掠ってゴールに入ってしまう。
「ああああ!?眞希!済まん!」
「大丈夫!まだまだ巻き返せるから!」
俺と眞希はお互いに次の一手を考え、
「藤澤君!!頑張れば勝てるかも!」
「おう!勝てるビジョンが徐々に見えて来ましたなぁ〜?」
と、彰人に煽られて俺は内心でイラつき、覚醒した。
――ふふふ。この俺に本気を出させるとは…やりますねぇ!
そうして此処から本格的に白熱し過ぎて、途中から全員が黙ったままガチの勝負をし始め、彰人に点を入れられた時は俺は思わず『ふぁ〜き◯〜!!』と叫んでしまう程にはガチになり過ぎていた。
「「「「はぁ…はぁ…」」」」
全員が互角の勝負を渡り合い、既に肩で息をしていた。
……制限時間的にもこれが最後。絶対に勝ってやらぁ!!
俺はゴール下に出て来た円盤を取り、かなり集中して打つ位置を考える。
何処だ?何処から打てば勝てる…考えろ考えろ……
……………………………!!此処だっ!!
俺は一瞬の隙を突いて円盤を打つと、円盤は真っ直ぐに向かう。
軌道を予測した彰人は咄嗟にマケットをゴール前に置き、防御の構えを見せた。
軈て円盤とマケットは衝突し、円盤は宙を浮かび、そのまま何回転かすると床に転がり落ち、更にそれと同時に時間切れとなった。
「………あああああ!!最後に一点取れると思ったのに!?」
「うわぁ〜マジどんまい!」
俺と眞希はギリギリ10対12で敗北してしまった。
如何やら彰人達の方が上手だったようだ。認めるしか無い。強い。
「やった…!」
「ふぅ…何とかギリギリ勝てて良かったぁ…」
天宮さんと彰人は勝利を分かち合い、天宮さんが喜びの余り彰人に抱き着いてしまった。
「〜〜〜!?」
「わ、わぁ!?ごめんなさい!?つい喜びの余り…!」
「我が人生に一片の悔い無し…」チーン
「「「「「彰人/藤澤君!?」」」」」
彰人が好きな人に抱き付かれて昇天してしまった…
……まあ、うん…彰人、気持ちが分からないでも無いぞ?
俺は天に召されて行く藤澤彰人を見つつ、そう思うのだった。