〜遠坂樹side〜
――8月17日。天候は快晴だが、夏の猛暑で暑苦しい。
花火大会の当日の夕方頃。
俺達は全員浴衣姿で最寄り駅の改札口に集合していた。
参加者は俺・朔夜・廣仁・彰人・眞希に天宮さんの六名である。
さて、男連中が黒とか紺などの地味な色に対し、女性陣の浴衣は色鮮やか。
眞希が黄色の向日葵の柄が入った黄色や白の浴衣で、天宮さんが水色やさ白色など落ち着いた花柄の入った浴衣だった。
二人共、帯に扇子を差している所も風流で良い。これこそ日本の夏。和って感じが凄くする。
「男子〜?女子の浴衣姿を見て何か言う事は無いかな〜?」
と、眞希が何故か俺を見て、そう言って来た。
「うんうん。二人共似合ってるゾ。元気な眞希には黄色で夏っぽい向日葵が似合うし、天宮さんは落ち着いた感じのイメージと上手くマッチしてる。けど儚げで美しいと思えて美しいと思います」
俺は思った事を少し早口で言って見た。
すると天宮さんは照れた様子を見せ、眞希は機嫌を良くしながらも事細かく言い過ぎたのか、少し引いているようにも見えた。
何でだ。お前からコメントを言えって言った癖に。解せぬ。
「…まさか此処まで褒めてくれるなんて思わなかったので嬉しいんですけど…少し気持ち悪い笑みも浮かべてるのが残念かなと」
「なぁに!?気持ち悪い笑みを浮かべてるか俺!?」
俺が皆に確認の為に言うと、満場一致で肯定しやがった。
……マジかよ。流石に俺のニチャァ〜な笑顔が気持ち悪く思えて来たゾ()
「……樹の事はさて置き、そろそろ行かないと人が多くなるぞ」
「それもそうだね。それじゃあ逸れないように固まって行こう」
そうして俺達は花火大会の会場へと移動するのだった。
△ △ △
地元の街を両断している大きい川が、花火大会の会場になる。
花火師達は川に浮かべた船台に乗り込み、そこから盛大な花火を打ち上げる。
河川敷と堤防の上には様々な夜店が立ち並び、花火の打ち上げを待つ大勢の見物客達で溢れ返っていた。
「いやぁ〜流石に人も多いし、規模もデカいから色々あるな」
夜店には焼き蕎麦やたこ焼きと言った定番な物から、ラーメンやステーキ、中華等の変わり種まで、数多くの飲食店がこの花火大会の為に集結していた。
値段は少々割高だが、有名なお店は既に長蛇の列を成している。
「……何処から見て行こうか」
「ボクは食べ物とか食べて見たいな」
「まあ、花火が打ち上がるまでに少し余裕があるし、色々見て回れば丁度良いんじゃね?」
そんな訳で俺達も雑踏に混じりつつ、河川敷の夜店を適当に見て回っていた。
定番の綿菓子から始まり、金魚掬いやりんご飴、輪投げやかき氷など夏祭りに関連するのもは色々食べたり遊んだりして行った。
「お!射的があるじゃねぇか!少しやって行こうぜ!」
俺はそう言うと子供のようにはしゃぎながら射的屋に向かう。
その後ろを朔夜達が見守りながら付いて来てくれた。
俺は射的屋の店主に小銭を支払い、玩具のライフルを手に取る。
「見てろよ!絶対に当ててやらぁ!」
「……外すに一票」「あ、ウチも〜」
「ボクは当たると思う!」「えっと頑張って?」「がんば〜」
朔夜と眞希は後でしばく。それと他の皆は優しいなぁ〜。
さあ、俺のライフルが火を噴くぜ!
――ぱしんっ。
俺のライフル(意味深では無いよ?)から、乾いた音が鳴った。
それは本物のような人殺しを嘆く悲鳴じゃ無く、賑やかな夏の夜を彩るだけの、ただの音だった。
「よっしゃ!当たった!こりゃ幸先が良いな!流石いっ君さん!」
俺はお菓子を打ち落とした景品を指差し、子供のように飛び跳ねた。
こんな時ぐらい子供のように無邪気になっても良いだろう。
そう思いつつ、射的で次々と落とすいっ君さんであった。
△ △ △
それからも俺達は屋台を色々と見て回った。
「りんご飴、食べて見たいんだけど良いかな?」
「良いぞ!天宮さんのリクエストなら答えないとな!」
俺は天宮さんのリクエストに応える為、りんご飴の屋台に行く。
「すいません。りんご飴などを二つずつ下さい」
「はい、りんご飴などね。後ろのお友達はどうする?」
店の店主に聞かれた朔夜達は最初は遠慮したが、店主から色々とお願いされた事でみかん飴やぶどう飴などを購入して食べた。
「ん〜♪美味しい♪この独特な味が良いよね!」
「あ、何となく分かる。りんご飴って夏祭りとかのイメージがあるからな」
「そうそう!」
天宮さんと彰人は仲良さげに話していた。
それを眞希が『ウチだっていよりっちと仲良く食べたいのに…』と言っていたのは聞かなかった事にしておこう。
「あ、そうだ!藤澤君。そのぶどう飴とか少し貰っても良い?」
「ん?あーまだ口を付けて無いから良いけど…」
「有難う♪じゃあ頂きます♪」
そう言って俺の目の前で天宮さんは彰人が手に持っていた口にしていないぶどう飴を一個口に含めた。
「んん〜りんご飴以外も中々美味しいよ!」
「お、おう…それは良かった…」
「ん、如何したの?藤澤君?」
「あ、いや、何て言うか…」
んー?目の前で何を見せ付けられているんだ?
「あー、もしかして私が摘み食いするだけだって思ってる?大丈夫大丈夫。そんな酷い事はしないよ?ちゃんとお返しにりんご飴をお裾分けしてあげる。はい、どうぞ!」
そう言って天宮さんは笑顔で彰人にりんご飴を差し出した。
「え、い、いや…」
「?」
「……………」
暫く何かに葛藤していた彰人だったが、目の前のりんご飴の先端を少しだけ齧っていた。
「どうどう?美味しい?」
「ん……りんごの味がする」
「あはは、それはそうだよ、りんご飴なんだもん」
天宮さんが可笑しそうに笑っていた。
それに彰人は頬を赤くしながら笑っていたが…
……あのぉ?俺達の目の前でイチャつかないでくれます?
隣の眞希さんが彰人を凄い形相で見ているんで。
「うぎぎぃ!!あの野郎!いよりっちの頼みじゃ無ければ…!」
「はいはい、ステイステイ」
俺は般若に成り掛けている眞希を落ち着かせるのだった。
△ △ △
「わぁ!?美味しそうな匂いがする!」
「おっ!廣仁の頼みならイカ焼きとかでも買って来るぞ!」
「……相変わらず廣仁に対する愛だけは凄いよなお前」
俺は廣仁の望みを出来るだけ叶える為に貢ぐ事も厭わない!
「眞希ちゃん!藤澤君!次の夜店に行ってみよ!」
「え、えっといよりっち?これで五つ目の屋台だよ?大丈夫?」
「大丈夫♪いつもはちゃんと運動とかは人並みにはしてるから…今日は特別なチートデーなんだよ♪」
「……女子ってそんなものなの?」
隣では彰人が女性陣の『甘い物は別腹〜』みたいなのに困惑中。
大丈夫だ彰人。俺もその辺の事は良く分からないから。
――と、その時だった。
そういう時間帯なのか、入口から大量の人が押し寄せて来た。
瞬間的に、周囲の人の密度が一気に高くなる。
「おわ!?」
「……廣仁!」
朔夜は小柄な廣仁の手を掴み、離れないようにし、
「眞希!」
「きゃ!?」
俺は眞希を抱き寄せる事で離れないようにし、
「天宮さん!」
彰人は咄嗟に手を伸ばす。
どうやら天宮さんを見失う前に何とかその手を掴み、引き戻す事に成功したようだった。
「あ、有難う…///」
「別にお礼は良い。天宮さんが無事ならそれで」
「う、うん…あの…逸れないように手を繋いでいても良い?」
「っ!?」コクコクッ
あれ?何か恋愛フラグ的なのを目の前で見ている気がする。
っと思っていたら俺に抱き付かれた眞希が顔を真っ赤にしながら、ポコポコと手で叩き、抗議して来た。
「あ、悪りぃ」
「助けてくれたのは有難う…けどいつまで抱き寄せてるのよ!
こ、これじゃあ側から見ればカップルにしか見れないじゃない…。イヤ、アンタトダッタラショウライテキニハソンナカンケイデモワルクハナインダケド・・・」
ん?後半の方これが小さくて聞こえなかった。
俺って難聴系主人公になるつもりは無いんだけどな?
「よし、お前ら!そろそろ人も多くなって来た頃だし、見渡しの良い場所に移動するゾ」
川に浮かぶ船台から、大輪の花火が次々と打ち上がる。
赤や青、黄色や緑。夏の夜空を彩る様々な色の打ち上げ花火は、暗い水面にも鮮やかな光を落としていて。
川を行き交う納涼船の篝火や混じり合い、それはとても幻想的な光景だった。
俺達は川に架かる大きな橋の上で横並びになって、夜空と水面を埋め尽くす光と音の芸術を楽しんでいた。
「うわぁ〜……めっちゃ綺麗……何か感動しちゃって泣きそう…」
「こりゃ今年もすげぇな。見に来た甲斐があったもんだ」
「凄いね…」
「ああ…」
「……最高の思い出がいっぱい出来たな」
「ボクも今年の夏休みは沢山、皆で楽しんだと思うよ」
俺達がそう言い合っていると空気を震わせる程の振動と音、そして後から風に乗って来る火薬の匂い。
打ち上がってから暫くした後も、まだこの余韻が残っていた。
打ち上げ花火やナイアガラ、スターマイン等、花火大会を盛り上げる為に職人の方々が各々趣向を凝らした仕掛けにただただ感動していた。
最後にありったけの花火が夜空に打ち上げられ、かなりド派手な音と光の余韻が残る中、見物客達による大きな拍手が沸き起こったのだった。