序章 付き合って下さい!?
夏休みが明け、二学期がやって来た。
俺こといっ君さんは電車に揺られ、通学していた。
耳にイヤホンを入れ、ボカロ曲『ラグトレイン』を聴きながら、疲れ果てた学生や社会人の人達を遠目から見ていると夏休みにもう少し味わっていたかったなと思うのは俺だけだろうか。
――まあ、それでも時間は刻一刻と流れて行くんだが。
ふと、そんな事を内心で思いながらいるとLINEに通知が来た。
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7:25 ┃┃┃┃ 【94%】
〈2 トークルーム 三
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いっ君さん
7:17『おはいっ君!』
さくやん
『おはよう』7:23
『今日も元気そうだな』7:24
廣仁
『おはよー』7:24
『相変わらず元気だよねこの人』7:25
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+ 【メッセージを入力】 AI ^_^ ️
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如何やら俺が朝に送ったメッセージの返信が来たようだ。
廣仁が何か言っているが、俺は元気が取り柄な人間だからな!
先ず、元気が無ければ満足に活動する事も出来ないゾ。
さて、そんな事を思っていると新たな通知が来ていた。
……えー何々?うげぇ……アイツから何か来てるよ。
『やあ、久し振りだね。學園に着いたら少し話があるから時間をくれないかな?』と。
△ △ △
さて、私立聖嶺學園に到着した俺は1年D組に来ていた。
このクラスに俺を呼び出した張本人が居る訳なのだが……
「やあ、突然呼び出して悪かったね。まあ、君なら来てくれるとは思っていたけど」
そう言って軽薄な笑みを浮かべるのは俺の腐れ縁──名は
奴とは幼少期時代から親の上級階級の交流で知り合い、それ以降ピアノコンクールで勝負をし合う時期があり、俺が才能を発揮して圧倒的な実力差で勝利した結果、何故か執着されてしまっている。
中学時代はクラスが違う事でたまに勝負を申し込まれ、その都度何らかの勝負をし、ギリギリ今の所は勝っている訳だ。
因みに俺はコイツの事は苦手だが、別に嫌いでは無い。寧ろ良く俺ばかり構って来る奴だなとは思ってるが暇潰しの相手にはなる。
「そんで今回は何の用だよ?いっ君さんとしては貴重な時間を使って来てるんだから下らない事では無いよな?」
「勿論。寧ろ今回は天才の君にだから呼び出した訳だ」
そう言って金髪に染めた劣化葉山みたいなエセイケメンは俺に対して言う。
「近々、この學園で言う聖嶺祭があるだろう?天才の君と共にバンドを組みたい。良ければ協力してくれないか?」
「は?何で俺が必要なんだよ?」
「何って単純明快な話だよ。バンドをやってみたいと思った訳さ。そしてただバンドをするだけでは面白味が無い。そこで俺より勝る君となら何か面白い事が出来るのでは無いかって思った訳さ」
つまり、コイツは面白いか如何かで俺を誘って来た訳か。
……えぇ、よりによってコイツとバンドをするのかよ。コイツにとっては良いのかも知れないが、俺にメリットが何もねぇよな。
「勿論、君に協力して貰うんだ。出来る事なら譲歩はしよう。俺は飽くまで君とバンドが出来ればそれで良い訳だからな」
「はぁ……例えば俺の方でメンバーや曲とかを選んで良い訳か?」
「メンバーは君の方に任せるが、曲は俺も意見はさせて貰うよ。特に問題無ければリーダーは君に任せようとは思うけど」
「如何してそこまでして俺と関わりたいんかね……」
「何って君と関わった方が面白いからだよ。ただそれだけさ」
そう言って福澤泰晴は不敵な笑みを浮かべて来た。
…………………………まぁ、バンドをして見るのは面白そうだし、やって見るのは有りかもな。
俺はかなり考えた末にそう決断した。
「……分かった。俺としても少し面白そうな話ではあるから取り敢えずメンバーはこっちで集めさせて貰うぞ?」
「嗚呼、先ずは話を引き受けてくれて有り難う。もしメンバーが難しかったらいつでも連絡してくれ。俺も少しなら当てがあるから協力させて貰うよ」
そう言われ、俺は『出来る限りはこっちでやってみる』と返すのだった。
△ △ △
「――つー訳でいっ君さんはバンドに入る事になりました」
俺は食堂で焼きそばパンを食べていた彰人達にそう言った。
「ほーん。お前ってバンドの経験ってあるんか?」
「無いゾ。だけど楽器ならある程度は弾けるが…練習しないと少し不味い気がするな」
「……まあ、素人よりかはマシなんじゃ無いのか?」
「確かにね」
俺の話題提供に朔夜達は乗ってくれたが、誘いは如何だろう…
「因みにバンドのメンバーを募集中なんだが、お前ら如何だ?」
「俺はピアノなら経験はあるが、それ以外は素人だから遠慮する」
と、先ず彰人に断られてしまった。
「じゃ、じゃあ廣仁は!?」
俺はテーブルの対面に座る廣仁に声を掛けたが…
「ボクも無理だよ。素人が一ヶ月で上手く弾けると思わないかな」
と、廣仁に断られ、俺は朔夜につぶらな瞳を向け…
「……中学に行けた時に少しだけ音楽の授業でドラムの経験があるから出来なくは無いぞ。俺で良いなら入るが」
「マジで!?」
やったぞ!?ドラマーを誘う事に成功したゾ!?
そして――、
「ちーっす、樹達、何の話してるの?」
「こ、こんにちは…」
1年B組から眞希と天宮さんがやって来た。
「あー実は文化祭でバンドをする事になってさ?ボーカル以外は揃った所なんだよね。何処かに歌える人いねーかなって所」
「ふーん。樹ってバンドに興味あったけ?何か意外な感じ」
「あー…色々あったんだよ」
まあ、福澤泰晴の事は別に言っても良いんだが、眞希は兎も角、他は関わりが無いコイツらに言ってもピンと来ないだろうしな。言わなくても良いだろと俺は判断した。
「へぇ〜色々ね…まあ良いけど。なんならウチがボーカルしようか?カラオケで89点台叩き出せる自信があるのは樹なら知ってるっしょ?」
「また中途半端な点数を出して来たな…なら今日の放課後に皆でカラオケに行って見るか?」
俺がそう言うと皆が「カラオケ?」と言う反応になったが…
「……まあ、少しぐらいなら良いぞ」「ボクも」「俺もかな」
と、男性陣。
「なら認められるように高得点出してやら!」
「私も頑張って出してみようかな…」
と、眞希と天宮さん。
「なら放課後にカラオケ行くゾ⭐︎」
こうして俺達は放課後にカラオケに行く事になった。
△ △ △
さてさて。放課後になって俺達は駅から3分くらいの場所に立つカラオケ店にやって来た。
俺は手慣れた様子で受付を済ませ、6人がすっぽり入れる部屋に通された。
「んじゃ適当に座ってくれ」
俺は自然と廣仁の隣に座り、廣仁は俺を見て苦笑していた。
何故笑うんだい?俺は君の事が好きなだけなのに。
そうして入り口側から俺・廣仁。中央に朔夜と彰人。壁側に天宮さんと眞希が座った。
「良し、一番手は貰うわよ」
眞希がデンモクを操作し、大画面のスクリーンに曲名が表示される。
最近流行りのアイドルグループの曲だった。アップテンポでノリやすいメロディ。カラオケを盛り上げるには最適な曲だろう。それから眞希はマイクを二本取り出した。
「これ歌いたかったんだよね。いよりっちもどう?」
「うん!」
そうして眞希と天宮さんは歌い出したのだが…あれ?眞希はともかく、天宮さんって声が綺麗に通っていてソプラノボイスで凄く良い……。
バンドのボーカルに彼女が歌っていたらはっきりとした綺麗な歌声が舞台から観客に響き、盛り上がる事間違い無い。
俺は不思議と天宮さんを意識し……聞き惚れていた。
そうして眞希と天宮さんが歌い終わり、点数がスクリーンに表示された。
――九十六点だった。滅茶苦茶高いが、正直もう少し上でもおかしくないと思えてしまった。
「あ、天宮さん!」
「は、はい!?」
「貴女の声に聞き惚れました!俺と付き合って下さい!!」
すると眞希から『えええええええええ!?』と叫び声が響いた。
彰人は信じられない目で俺を見ているし、朔夜と廣仁は驚愕して俺を見ていた。
「え、ええ!?な、何で…」
「天宮さん!貴女と一緒なら何だって出来る気がするんです!例え困難な事だろうと手伝って見せます!なので良ければ!」
「え、ええっと……よ、宜しくお願いします?」
「「はぁああああああああああああ!?」」
俺の勧誘が成功したけど、眞希と彰人に部屋の外に連れ出されて詰められてしまう。
「ちょっと!?バンドの勧誘なんでしょう!?何で告白みたいな流れになってるんのよ!?」
「そうだぞ!?それにお前…俺や望月さんが天宮さんの事が好きな事は知ってるだろ!?え?何?宣戦布告か何かです?」
「え?単にバンドへの勧誘なだけですけど…はて?」
――はて?一体何が問題なのだろうか?
俺が首を傾げていると、天宮さんが部屋の扉から顔だけ出して顔を真っ赤にしながら俺達を見ていた。あら可愛い。
「え、いよりっち?如何したの?」
「え、えっと遠坂君…///この後お時間があれば家に来て貰う事って可能でしょうか?」
「え、ええええええ!?」
今度は俺が少し叫ぶ番だった。
まさか天宮さん家にお呼ばれするとは思わなかったぜ。
「はぁ!?あんたがいよりっちの家に……」
「こ、これが主人公補正の力なのか……くっくそっ!!」
うっわぁ…(ドン引き)天宮さんガチ勢が怖い…
天宮さんも苦笑しちゃってるじゃんか。
「……お前ら楽しそうだな」「これも青春なのかな?」
部屋の中から朔夜と廣仁が俺達を見てそう言っていた。
他人事だからって色々言いやがって。
こうして俺達は急遽、天宮さん家にお邪魔させて貰う事になるのだった。