〜遠坂樹side〜
「――今年の聖嶺祭、副実行委員長になりました。葉山颯吾です」
全校生徒の集まった講堂。
壇上で、葉山颯吾がマイクを通じて言った。
「1年生でこんな大役を任される事に大変緊張していますが……僕なりに精一杯頑張りますので、皆さんと一緒に楽しい思い出を作って行きたいと思いますので、宜しくお願いします!」
葉山颯吾が頭を下げ、生徒達から拍手が上がった。
其処に籠った熱量と、確かな期待──。
葉山颯吾は校内でも有名者だ。イギリス人と日本人のハーフでかなりのイケメンであり、文武両道で明るく男女問わず人気者だ。
そんな彼が文化祭で副実行委員長を務める事に、皆早くも興味を惹かれているらしい。
──九月中旬。
漸く残暑も鳴りを潜め、朝夕には秋の気配を感じるようになり始めた頃だった。
周囲に居る生徒達も大半が半袖シャツでは無く、長袖を身に纏っている。
空気は蒸し暑いが、時折開けられた窓から爽やかな風が吹き込んで心地良い。
今日に至るまで色々な事があったが、無事にバンドの練習は順調であり、他の皆もそれぞれの聖嶺祭に向けて着々と準備をしているようだった。
そうして今日の全校集会で、十月下旬に迫った聖嶺祭のスタッフ紹介を眺めている所だった。
「まだ一年生なんでね、皆さん協力してあげて下さいね。続いて──」
そうして、葉山颯吾の次に続いて――、
「──おはよう御座います」
凛々しい男子の声が、壇上から講堂に響いた。
見れば──高身長と短めでオシャレな髪。精悍な顔付きと引き締まった身体。
離れて居ても分かる『ハイカースト』のオーラを放つ人物。
「──今年の聖嶺祭実行委員長、
其の人物とはこの學園に於ける陽キャ界隈で有名な人物──葛城先輩だった。
彼は以前、藤澤彰人の紹介で少しカラオケを共にした先輩であり、それから連絡先を交換する程度には仲を深めた人だった。
え?何で陰キャを自称している彰人にそんな人が居るのかって?
俺も知らん。ただ小学時代からの付き合いらしいとかだってさ。
「オレが聖嶺祭を責任を持って皆と最高の聖嶺祭を作り上げて行きたいと思って居ます!だから──如何か宜しくお願いします!」
その刹那、講堂に響く盛大な拍手の嵐。
その音量には、期待と高揚がはっきりと籠っていた。
それ程までに葛城先輩は學園の人気者であった。
……まあ、葛城先輩のちょっとした話は此処までにするとしよう。
こうして、本格的に文化祭が着々と準備が進もうとしていた。
※ ※ ※
たん、たん、どん、じゃーん。べんべんべん。じゃらん、きーん。
さて、今日も昼休みに音楽室を借りて練習をし、俺達の演奏と共に楽器の音が鳴る。
音出しと調整。自分の楽器との対話。俺もチューニングをしてから音量を調整する。
「よし、こんな所かな。他の皆も準備は大丈夫そう?」
「……俺はいつでも行けるぞ」
「おう。俺も同じく」
男性陣は特に問題は無いようだが天宮さんは如何だろうか。
「あ、はい。少し緊張しますが……が、頑張ります!」
「お、おう。ただ少し肩の力を抜いておこうか」
天宮さんにそう言って、肩の力を抜かした。
……何と言うか天宮さんは演奏に問題は無いのだが、こう言った感じで何処か緊張気味な所が少し気になった。
「なぁ、良いか?天宮って如何してそこまで緊張気味になってしまうんだ?」
「え!?えっと……」
「おい、福澤……!」
「別にお前らも気にしていただろうが?天宮、お前のボーカルに問題はねぇ。けど自信無さそうに歌っているのは気になった。もう少し自信を持って歌っても良いと思うが?」
福澤泰晴はそう言って天宮さんを見た。
言われた天宮さんは『御免なさい…』と謝罪していたが……どう考えても天宮さんは謝る所では無いとは思うが……まあ、少し福澤泰晴の意見もある意味では分かるが。
「天宮さんが謝る事では無いぞ。福澤の意見も分かるが……。天宮さんのペースとかってものもあるだろう?」
「それはそうだけどさ?側から見てると自信無さげに歌っている所が見ていられねぇんだわ。如何にか出来ねぇのかって思っちまうんだわ」
「お前……!」
か弱い天宮さんに何て言う事を言いやがるんだコイツ!?
俺はベースギターを置き、福澤泰晴に詰め掛かろうとした所…俺の腕に天宮さんの両手が強く掴まれた。
「だ、大丈夫……だから!如何しても自信が付けられない私が悪い事は自覚してるから…喧嘩しないで……!」
「天宮さん……福澤、お前言い過ぎな所があるから気を付けろよ」
「俺は正論を言ったまでなんですがね?……まあ悪かったよ……」
お互いに少し冷静になるが、とてもじゃ無いが練習を再開するような雰囲気にはなれなかった。
「……なあ、こんな時に言うのはアレなんだが」
「如何した朔夜?」
今まで沈黙を保っていた朔夜から声を掛けられ、俺達は一斉に朔夜の方に視線を向けた。
「……俺も天宮さんの演奏には文句は無いが、自信無さげな所は目に余っていたのは確か。そんで天宮さんを巡って口論になったろ?要は如何すれば天宮さんの問題を解決するかって話になると思うが一つだけ案が無い訳じゃ無いんだが……意見良いか?」
「おう、俺は良いが……」
俺がそう言うと他の二人も取り敢えず頷いた模様。
それを見た朔夜が『……じゃあ』と口を開く。
「……SNSに動画を上げたり、路上ライブとかは如何かなって思ったが駄目そうか?」
「え、SNSはちょっと抵抗があるって言うか……」
そう言ったのは天宮さんだった。
まあ、顔出しとかしたら変な人が天宮さんに付き纏いそうだし、少し抵抗があるのは分かる。しかし一人で無ければ良いと思った俺は一つ提案見てみた。
「俺達全員で路上ライブして見ては良いんじゃないか?管轄している所に許可は必要かも知れないが、許可が降りるまでの間はひたすら練習した上でリハーサルみたいな感じで色んな人の前で演奏してみるのは良いかなと俺は思うが」
「……あー全員で路上ライブか。それなら他の人が撮影したとしても天宮さん一人じゃねぇし、俺達も居るからある程度は大丈夫か」
「俺も別に面白そうだし良いが……天宮はどーなんだよ?」
俺達は天宮さんに賛否の確認を取る為、視線を向けると…
「み、皆が一緒なら……多分大丈夫だと思う」
そう言って天宮さんは控えめに笑ってくれた。
良し、と思った俺は直ぐに必要な許可の確認などをする為にネットで調べ、別の日に必要な手続きを取る事にしたのだった。
※ ※ ※
〜藤澤彰人side〜
ある日の夕方、俺は事前の許可を頂いた上で望月さんを和太鼓部の見学に誘い、神楽坂雅紀や先輩達と演奏をしていた。
──カッカドン!カッカドン!ドッカドッカドッカドッカ!カッカカッカカッカカッカ!ドッカドッカドッカドッカ!
一通りの演奏を終え、俺達は汗を手で拭いでいると…
パチパチパチパチ…
望月さんの拍手が第二音楽室に響いた。
「良かったよ〜!」
望月さんの感想にひたすら明るい和太鼓部の部長が嬉しそうに微笑んだ。
「おぉ〜!俺達の演奏を聴いて嬉しい感想を頂けるとはな……。しかもこんな可愛い女子からなんて…藤澤、お前良い子を連れて来たなぁ〜!!」
「そうっすね。望月さんは可愛い子だとは思いますよ」
俺がそう言うと望月さんは少し照れた様子で髪を弄っていた。
普段からツンデレってないで素直に可愛い所を見せれば良いのに……と思ってしまったのは此処だけの話だ。
「それじゃあ今日は此処まで。じゃあまたな!」
そう言って今日の和太鼓部は解散となり、俺は神楽坂雅紀と望月さんと一緒に出た。
「お疲れ〜」
「お疲れ様。神楽坂君もお疲れ。どんどん調子が良くなってね?」
「お疲れ。そうかな?まあ、君が連れて来た望月さんが可愛くてつい頑張りたくなってしまったのかも知れないね」
「それは同感」
俺達が素直にそう言い合うと、望月さんは顔を赤くして『可愛いって言い過ぎだ〜!』ってデレていた。
如何やら望月さんは素直に褒めると顔を真っ赤にしてデレるようだ。遠坂の前でもそうすれば良いのに…。
「それじゃ俺達は着替えて来るけど……この後は如何する?」
「じゃあ一緒に帰ろ〜」
「おう。じゃあ校門前で集合でオケ?」
「オケオケ」
俺と望月さんで確認し合い、俺は神楽坂雅紀と男子更衣室に入ったのだが、何故か神楽坂雅紀にニヤつかれたのだが…。
「な、何だよ?」
「いやぁ〜?あんな可愛い子と帰る仲なんだなって思っただけだよ」
「別にお前が思ってる仲じゃねぇよ。ただ仲の良い友達なだけだ」
「本当に?」
「本当だ」
神楽坂雅紀とはある程度お互いに本音を言い合う仲ではあるが、異性の事について話す事は全然無かったからか珍しく神楽坂から揶揄われていた。
「いやぁ〜望月さんな。勉強会の時に知り合ってはいるけどまさか俺が知らない間に関係が発展しているとは思わなんだ」
「だぁ〜かぁ〜らぁ〜!望月さんとは普通に仲の良い友達なだけで向こうは好きな人が居るんだから!」
「……それって遠坂君?」
「……多分な」
望月さんの恋愛話は色々複雑なので余り言わないでおく。
「ふぅ〜ん。まあ遠坂君ならイメージが付くな。彼って男女問わず仲良くしてるし、俺みたいな奴でも優しくしてくれるんだ。そりゃモテてもおかしくは無いだろうな」
「まあ、色々あるらしいとな。詳しくは言わないが」
「そっか」
俺はパッパッと制服に着替えて神楽坂雅紀とそこで別れた。
……さて、望月さんが待っている事だし、早く行かないとな。
俺は荷物を抱えて急いで校門まで向かうと既に望月さんが居た。スマホをイジっていたが、俺を見つけるとスマホをポケットに仕舞って手を上げた。
「よーす。さっき振り」
「おう、さっき振りだな。待たせたか?」
「いーんや?良い暇潰しが出来たし、問題無いよん」
それならまあ、良かった方なのか?
まあ良いや。それよりと思い、俺は望月さんの歩くペースに合わせて帰路を目指して行く。
「そういや、気になったんだけどさ?望月さんって告白云々の事を言ってたけど文化祭の時に告白とかしないの?」
「は、はぁ!?な、何を言って来るの!?ウチがアイツに告白出来る度胸が無いって分かってる癖に!?」
「いやーさ。今の望月さんを見てると俺もウカウカしてられねーなと思ってしまってさ。あのまま行くと天宮さんが遠坂と付き合う可能性が日に日に上がって来てる気がして仕方が無いんだよ」
「……それはそうかもだけどさ……」
最近、遠坂樹と天宮さんの距離が気の所為か以前より近くなって来ているのを見ている限りひしひしと伝わって来る気がするのだ。
このまま卒業まで言わずにと思っていたが、玉砕覚悟で告白しようかなと思って来ている俺が居た。
「それで俺、近々玉砕覚悟で告白しようかなって思っているんだ。告げられずに後悔するんなら、した後悔の方がまだマシだって思えて来たんだよな」
「マジか……あんたがいよりっちの事を好きだって事は以前に聞いたから分かっていたけどマジでする気なの?」
「ああ、もう覚悟は出来ている。これで関係性が変わってしまうのが少し怖いけど……これからも望月さん、変わらず居てくれるか?」
俺が少し不安そうに望月さんを見ると、望月さんは『馬鹿だなぁ〜』と笑っていた。
「そんなに不安にならなくて良いって。半年近くあんた達と一緒に居るんだし、結果は如何あれ、これからも一緒に居てやるって。
まあ?ウチの恋を応援してくれるあんたには玉砕した後、ウチが慰めてあげるから心配するなって」
「その時はお世話にならせて貰いますわ」
なんて事を話しながら駅前を歩いていた時だった。
少し離れた場所からアコギで演奏している音が聞こえて来た。
「演奏?近くで誰かがやっているのかな?」
「さぁ?けど気になるし……行って見ない?」
「そうだな」
俺達は演奏している方まで近付くとそれなりの人集りが出来ていて、少し空いている所から前に向かうと其処には──、
「「「〜〜〜〜〜〜♪♪〜〜〜!!」」」
見覚えのある顔触れ──遠坂樹を中心に天宮さん達が駅前のロータリーの一角で歌って、演奏をしていた。
東雲朔夜が撮影係を務め、福澤泰晴がアコギで演奏し、遠坂樹と天宮さんが男性パートと女性パートで分けて歌っていた。
「えっ!?何でいよりっち達が……」
「分からない……けど思い切った事をしたなこりゃ」
何でこうなっているのかは分からないが、天宮さんを見ていると最初の方は緊張していそうだったが、徐々に慣れて来たのか笑顔を見せて歌い始め、ソプラノボイスがロータリーに響き渡った。
一方、遠坂樹は上手いとも音痴とも言える何とも中途半端な歌声で観客達の視線が二人に交差していた。
だけど最後まで全員が楽しそうに演奏しているのが印象だった。
そうして演奏がひと段落し、観客達からまばらな拍手がされ、遠坂樹が『有難う御座いました!』と言った後に観客達は解散した。
その隙に俺と望月さんは遠坂樹達の元に駆け込んだ。
「いよりっち!?路上ライブなんかして如何したの!?」
「えぇ!?眞希ちゃん!?それに藤澤君も……」
「お前らマジで路上ライブとか急に如何したんだよ?」
俺が気になった事を聞いてみると遠坂樹が言ってくれた。
「あーお前らか。何でって言われても本番を想定して緊張を解す為に路上ライブすっかってなっただけなんだけどな……」
「その有言実行がすげぇな?天宮さんは兎も角、お前の歌声って音痴とも上手いとも言えないから中途半端なんだよなぁ」
「うるせぇ!!」
俺達がそう言い合っていると、天宮さんが遠坂樹の袖を優しく引っ張っていた。
「え、えと…遠坂君に皆。今日は私の為に路上ライブしてくれて有り難う!最初は緊張したけど……歌っているうちに緊張が解れて、私のペースで歌えるようになってたよ。福澤君も演奏有難うね」
「……良い練習になったんなら俺としては良いって事よ。つーか、俺としても良い思い出になったし、遠坂の積極性にマジ感謝だわ」
福澤泰晴がそう言いながらアコギを仕舞っていた。
「……俺は撮影をしていただけだったが、以前と比べると天宮さんの歌声がはっきりと聞こえた気がするし、今回のは成功だな」
「うん。東雲君も撮影有り難う。そして何より遠坂君!私の隣でずっと一緒に歌ってくれて有難う!私、貴方のお陰で沢山助けられちゃってるけど……何かお礼とかしたいな」
そう言って天宮さんは上目遣いで遠野樹を見上げていた。
「いっ君さんとしては天宮さんと一緒に歌いたかっただけだし、そんなに気にしなくても良いゾ。それにまだ聖嶺祭はまだまだだから天宮さんがもっともっと成長する所を見ていたいゾ」
「そっか……まだ本番はこれからだし……うん、頑張るね♪」
何処と無く遠坂樹と天宮さんが良い雰囲気になっている気もしなくは無いが、取り敢えずの所は撤収しないと行けないか。
「それじゃあ邪魔したな」
「おう、見てくれてサンキューな!」
「あ、いよりっち。一緒に帰ろう〜?」
「うん!少し待っててね!眞希ちゃん!」
こうして本番を想定した路上ライブが終了したようで、俺達はそこで解散となるのだった。