〜遠坂樹side〜
やあやあ、皆のアイドルこといっ君さんだゾ⭐︎
いつも通り体育で廣仁に格好良い所を見せようとして張り切り過ぎた結果、意識がふらっとして倒れ込んでしまったぜ…ハハッ。
まあ、今は少し休んだ所だし、保健室を後にして教室に戻らないと行けないな。
「──あ、れ……?」
目を覚ました直後、俺は直ぐに以前に気付く。
起きた瞬間に先ず感じたのは、とんでもない寒気と関節の痛み。
「か……身体が、怠い……」
取り敢えず体育を抜けた時に眞希に水筒を持って来てくれたので水を飲もうと置かれているテーブルに向かおうとするのだが、ベッドから起き上がるだけでも相当厳しい。
この時点で嫌な予感はしていたが、一先ず水を飲んで一息着いてから保健室の養護教諭を呼び出した。
「あ、起きたのね。……あら?もしかして」
「何か寒気と関節の痛みがします。体温計をお願いします」
「分かったわ。楽にしてて」
そう言って養護教諭に体温計を持って来て貰い、現在の体温を測る事にした。
頭痛や喉の痛み、咳等の症状は無いが、恐らく風邪か何かだろう。
10秒程で体温を測り終え、未だぼんやりとしている視界の中、目を凝らしてデジタル表示された数字を見る。
──39.6。
「……うわぁ」
「間違い無く風邪辺りだね。担任の先生とかに連絡しておくから、取り敢えず大人しく休んでてね」
そう言って養護教諭は少し離れて何故かスマホで連絡をし始めた。
養護教諭は『あ、のぞみちゃん。おたくの遠坂君が風邪か何かで寝込んじゃってね。お家の人と連絡してくれる?』と言っていた。
そうして連絡を終えた養護教諭が此方に戻って来た。
「……前園先生と仲が良いのですか?」
「うん?まあ、のぞみちゃんとは良く飲みに行くからね。特別仲が良いのは確かね。一先ずお家の人連絡が行くようにお願いしたから安静にしておいて頂戴ね」
「あ、はい。それと今日、家族は色々あって連絡が付けるか如何か分かりません」
「え?そうなの?」
実は今日に限って姉貴は大学のサークル活動で友達の家に泊まるらしく、兄貴は仕事が多忙で残業をする日々が続いている。恐らく今頃も其々の活動が忙しく連絡が取れるかは分からない。
「一応、暫く休めば一人でも帰れそうなので休んでおきます」
「しかし、体調不良の生徒をそのまま帰らすにも……」
その時だった。
保健室の扉がノックされ、廊下から聞き覚えのある声がした。
「失礼します。遠坂君の様子を見にに来たんですが……」
「あー遠坂君のお友達?今、起きているんだけど……」
「あれ?眞希に天宮さん?如何したの?」
保健室に来たのは、天宮さんと眞希だった。
「あれから放課後まであんた、顔を見せないから心配になって見に来たんだけど……体調不良?」
「遠坂君!大丈夫なの?」
「あー……眞希の言う通り風邪っぽい。ただ喉の痛みとかは無いから疲れとかから来た奴だろうよ。移したら悪いから今日は──」
俺が言おうとした所で、眞希は心配そうに言って来た。
「あれ?そう言えば今日って碧唯さん達は?」
「両方とも忙しくて今日は夜まで帰って来ない可能性があるな。兄貴なら深夜まで家で待てば帰って来るが……」
「だ、駄目だよ!明らかに体調の優れない遠坂君一人で帰らす訳には行かないよ!」
そう言ったのは天宮さんだった。
眞希は少し驚いた様子で天宮さんの方を見ていたが、天宮さんは続けて言った。
「だから私が遠坂君を連れて帰るね」
「ま、待っていよりっち!?それならウチも行く!」
「は、はぁ……?」
ちょっと待って……辛うじて意識はあるから会話は出来るけど、この二人お俺ん家に来ようとしていないか?
この際、可愛い女子達にお世話されるのは全然良いのだが、そうなるとこの二人の帰りとかが心配になって来るのだが……
「あ、安心して。友達の家で泊まるって家族には伝えるから」
「「えっ!?まさかの泊まり掛け!?」」
俺達は天宮さんの発言に驚いていた。
待て待て待て!?今日の天宮さん一体如何してしまったんだ!?
「そ、それならウチだって母さんに樹が倒れたから泊まり掛けで面倒を見て来るってメッセージを送るし!」
そう言って天宮さんと眞希はそそくさとスマホを取り出し、其々の家族に連絡しようとしていた。
「ちょっと待ちなさい貴女達。心配する気持ちは分かるけど、遠坂君は体調不良だし、ご家庭に迷惑を掛けてしまうわ」
「で、でも……!私は遠坂君を放ってなんかいられません!」
「落ち着いて頂戴。それなら彼が落ち着いた頃にお見舞いに行けば良いでしょう。今、貴女達が来ても恐らく迷惑にしかならない」
「……!」
養護教諭は天宮さんを宥めようとし、天宮さんは養護教諭を睨み付けていたが、暫くして少し冷静になったのか、俺を見つめた。
「……遠坂君。後日お見舞いに行っても良い?」
「あ、ウチも後日行っても大丈夫?」
「あ、ああ……その頃には多分落ち着いているだろうし、うん」
天宮さんと眞希にそう言い、二人は俺の目をまじまじと見た後に納得して貰えたようで、保健室を出て行った。
「少し待ってて。のぞみちゃん先生が送って行くらしいから」
「え?良いんですか?」
「良いも何も体調不良の生徒を放っては置けないと思うわよ」
そう言う訳で前園先生に送って貰う事になりました。
△ △ △
それから俺は、前園先生が車を出してくれる事になり、遠坂家に向かう事になった。
「すいません。車なんか出して貰って」
「状況が状況だからね。仕方無いよ。それよりご家族の人と連絡は大丈夫なの?」
「あ、はい。一応連絡だけは取れました」
あれから姉貴と兄貴に其々連絡が通じ、今から担任の車に乗って自宅まで帰るって事を伝えた。
「そう。あ、そう言えば最近はどう?何か困っている事があるならいつでも相談に乗るから言ってくれても良いからね」
「困り事ですか……寧ろ高校に入ってから毎日が楽しいので特にこれの言ったものが……いや、一つだけありました」
そこで俺は前園先生に相談してみる事にした。
「最近、仲の良い友達から好意を持たれている気がするんです。ただ俺がそれに応えられるかと言うと自信が無くて……」
「あら、恋愛相談?」
「先生……俺はマジで困っているんですって」
今日の天宮さんの様子やら眞希の何処と無く俺を見る目が好意のそれだと言う事には薄々気が付いていた。
だからと言って俺は二人の好意にとてもじゃないが、直ぐには返せる気がしなかった。
「……正直俺は友達の方が良いと思っています。恋愛なんて過去の挫折でとてもじゃ無いが、誰かを幸せに出来る気がしません」
「……過去に何かあったような発言だね。聞いても良いの?」
「……大丈夫です。昔、好きだった子を襲おうとした悪党を懲らしめた結果、周囲に勘違いされた上、好きだった女子にも別の男が出来て俺は浮いた存在になっただけのつまらない話ですし」
一言で言えばそれだけの話だ。
中学時代、俺は隣の席になった女子に一目惚れした。それから俺は如何にか友達になれたが、その女子は人気が高かった。
そんな中、中学生の身で性欲に忠実なイケメンが好きだった子を狙っていて、無理矢理犯そうとする画面を目撃した俺は止めに掛かったのだが、逆に相手に殴られた。
俺は彼女を守ろうと必死に抵抗し、相手を病院送りにするまで殴った末、相手が周囲に助けを求めた結果、俺は逆に立場を悪くし、彼女は恐怖でまともに言えず、現場を見た第三者達から俺が悪者に仕立て上げられ、以降俺は孤立する事となった訳だ。
その後、好きだった女子は現場を見た通報した第三者の別の男子に好意を寄せる事となり、その二人は無事に付き合う事となった。
……ただそれだけの苦い恋愛を経験した中学時代の話だった。
「それは中々大変だったね……。その経験があるから遠坂君は誰かと付き合う事に躊躇いがあるんだね?」
「……ええ。それに俺には
「ええ!?ウチの生徒に居るの?えっと…別のクラスの天宮さんや望月さん?」
俺は赤信号で車を止めている前園先生にその人の事を告げた。
すると前園先生が信じられない目で俺を見て来た。何でだ?
「は、はぁ!?」
「いや、何で驚くんですか?」
「え!?ええ!?貴方──」
「あ、先生。青信号ですよ」
何故だろう。先生の俺を見る目が変わったような気がする。
て言うか……
「何て言うか…女子達が可哀想と言うか…」
「何でです?天宮さんとか眞希は関係無いでしょうよ」
「この人マジか…」
そんな話をしつつ、暫く車を走らせて俺の実家がある町田市に入って我が家の前に来た訳だが……
「……何で兄貴と姉貴が此処に居るんだ?」
「何故って大事な弟が倒れたからって聞いたからに決まってるだろ!会社には事情を話したら直ぐに解放して貰えたからさ」
「……私も同じ。サークルに言ったら『弟さんを優先してあげて』って言って貰えて急いで帰って来た」
「……二人共、有難う」
その後、色々と姉貴に色々世話をして貰い、俺は自室のベッドに横になっていた。
「……さて、聖嶺祭まで少し余裕があるとは言え、早く完治させないとバンド練習とかあるしなぁ……けど今は療養が大切か」
そう言って俺は自室でパジャマに着替え、オフトゥンに包まって眠るのだった。