〜遠坂樹side〜
やあやあ、いっ君さんだゾ⭐︎
俺が体調不良で寝込んでから数日が経過し、無事に復活を遂げてバンド練習の最後の追い込みに入っていた。
一通り
「よーし、フルで通して見たけど問題無さそうだったよな?」
俺がそう聞くと皆は首を縦にして頷いた。
「特に聞いてて問題はねーし、寧ろ安定化してて良い感じだな」
「……ドラムとしての意見としてはもう少しテンポを上げても良いとは思うが、まあ今の演奏だけでも充分良いとは思うぞ」
「うん。もうワンテンポ上げても良さそう♪」
と、メンバー達からそう言った意見を聞けたので、もう一回演奏しようとしたが、時間が時間だったので今日は終了する事に。
俺達は片付けを済ませ、完全下校時間になる前に最後の最後まで準備に取り掛かる各クラスの様子を見てから外に出た。
「ふぅ〜。明日が文化祭って実感が漸く湧いて来たわ」
「明日が本番だしね。うぅ…緊張して来ちゃった」
「……路上ライブの時を思い出して見ろ。あの経験があるんだし天宮さんならちゃんと歌い切れるさ」
「……うん。有難う東雲君」
まあ、今の天宮さんならきっと大丈夫だろう。
──何せ俺達の演奏する舞台は後夜祭のライブな訳だしな!
「んじゃ、俺はこっちだからまたな」
「「「じゃあ、また明日!」」」
途中で福澤泰晴と別れ、俺達は少しの間雑談をしていると、ふと思い出した。
「あ、明日渚、何時頃に来るんだろう」
「……あー従妹だっけ?俺も妹達に来る時間帯聞かないとな」
「あ、私も妹のいさなに何時に来るのか聞かないとね」
そんな訳で下に可愛い妹や従妹を持つ俺達は各々連絡を取るのだった。
※ ※ ※
〜草薙廣仁side〜
現在、ボク達は明日の本番に向けてリハーサルを行なっていた。
「あ、次は朝比奈先輩だって」
「そ、そうだね……」
ボクの隣に居るのは同じクラスで実行委員の秋永椎奈さん。
明るい性格で良くクラスで皆を引っ張っていて、実は彼女に密かな恋心を抱いていたりするんだ。
って思っていると、話に出て来た朝比奈先輩が現れた。
「じゃあ、次は私だね。踊るんで宜しくお願いします!」
朝比奈なずな先輩は何だかアニメっぽい声でそう言った。
通称、なずな先輩は最近TikTokでバズった二年の先輩だった。
へえ〜こう言う感じの人かって初見の時は思ったよね。
何だかオタク文化が好きそうと言うか、何だか親近感が湧いた。
そんな事を考えている間にも、なずな先輩はスマホで音楽を再生する。
スピーカーから某ボーカロイドの曲が流れ出す。
可愛らしい歌声で紡がれる女の子の恋の応援ソング。
そうして、なずな先輩が踊り出す。
「お、おお……!」
その姿に──思わず感嘆の声を上げてしまった。
──ひらひらと翻るスカート。
──時折、此方に向けられる可愛いポーズ。
──笑うと口元に覗く白い八重歯。
一瞬たりとも目を離せなくなる程に──そのダンスはあざとかった!
予想外の破壊力に周囲に居たスタッフからも
「これはこれは……」
「可愛いな〜流石」
「そりゃバズるわ」
何だろうな……自分が可愛く見える瞬間をきっちり把握していると言うか。
かなりの技術を駆使して「kawaii」を演出しているんだけど、その努力を此方に見せない感じ。
良いな、これ。永久に見ていられる……。
試験勉強で疲れた時に無限リピートでずっと眺めていたい……。
なずな先輩、推せる……。
そうして暫くして踊り終わり、なずな先輩は楽しそうに、
「良々〜けど本番はこれ以上のパフォーマンスでしたいなぁ〜」
可愛らしいアニメ調のトーン。
転がるような楽しそうなニュアンス。
着崩した制服に、全身に散りばめられた鮮やかなアクセサリー。
其処に居るだけでポップでファンシーな空気を放つ先輩だった。
「流石、なずな先輩だなぁ〜私もあんな風にバズれるダンスとか出来たら良いのに」
「あ、秋永さんだってきっと個性の良さを分かってくれる人が居るって!ボクは秋永さんの良さを無理に崩したく無いなって思って言うか……アハハ……何を言っているんだろうね」
ボクは変な事を言っていないか不安になったけど、秋永さんは微笑んでくれた。
「そう?天使様にそう言われるんだったら無理にしなくても良いのかな〜?あはは!草薙君、有難うね?」
「う、うん。あはは……」
良かった〜変なふうに思われなくて。
気の所為か秋永さんのボクを見る目が変わった気がするけど気の所為だよね。
だってボクってこんな見た目だし、男として見られないよなぁ…
──勝手に喜び、勝手に落ち込む草薙廣仁であった。
※ ※ ※
〜藤澤彰人side〜
俺はクラスでの最後の準備を終え、クラスの連中と話していた。
「いやはや、遂に明日になってしまいましたな〜」
「それな。どれくらいの人達が来てくれるんだろうな?」
因みに俺が話している相手はクラスメイトの
普段は大人しい性格で遠坂グループには所属していないが、時折話す関係の眼鏡陰キャ……俺と同じ陰キャ同盟の盟友だった。
……え?お前は陽キャに居る方だって?うるせー!俺の性根は陰キャ卒業出来てねーんだよ!馬鹿にするなー!
……っと思っていると、廊下の方に望月さんが俺を見て手招きをしていた。
「お?彼女さんに呼ばれてますな?」
「彼女じゃねぇよ……ただの女友達なだけだし」
俺は揶揄って来る小柄な今泉の額にデコピンし、悶絶している隙に荷物を持って、望月さんに近寄った。
「悪りぃ。クラスメイトと話してたわ」
「いや、それは大丈夫だけど……あれ、大丈夫なの?」
望月さんは悶絶している今泉の方を見ながらそう言った。
……んー、放置しておいて大丈夫じゃねぇんですかね(適当)
「そんで用事ってのは?」
「あー…それね。明日、あんたと一緒に回りたいなって思って事前に許可を取りに来た」
「許可?別に無くても……あー時間の確認ね?」
「うん」
俺と望月さんは聖嶺祭の午後から自由時間となっている。
それまでの間、適当に誰かと行くか一人で回るか考えていたが、望月さんからお誘いを受けるのなら話は別だ。
「オーケー!オールオッケー!全然予定が空いてるし」
「良かったぁ……本当はいよりっち達と行こうかなと思ったんだけどあの二人の雰囲気が……ねぇ?」
「あー……最近また仲が深まったのか一緒に居るしね」
後夜祭の軽音&有志バンドとして出演する予定の二人は、最近また仲を深めつつあり、俺達にとっては危惧しているものだった。
「明日の文化祭が終わって少ししたら……告白するつもりだけど上手く行くかな」
「成功か失敗かはさて置き、望月さんの強引さですれば案外、意識を持ってはくれるんじゃね?」
「そうかな……余りガツガツ行き過ぎるのも引かれるんじゃ…」
「恋愛ってのは駆け引きが大事とは聞くが、望月さんの場合はもう少し積極的に行っても良いと思う。……まあ、それは俺にも言えた話だけどさ」
望月さんって、どうも肝心な所で自信を無くすからなー。
もう少し自信を持って行っても良いとは俺は思うな。
「あはは…ウチらって案外似た物同士だよね。まあ、好きな人は違うけど」
「それな。まあけど、出会った当初はこんなに仲良くなれるとは思っていなかったもんだけどな」
「本当それ〜。けど知り合えたのがあんたで良かったよ。こんなウチの弱い所、好きな人にだって余り見せたく無いし」
多分、見せているような気もしなくは無いとは思うが、この際気にしないでおこう。
「ま、と取り敢えず明日だな」
「……うん、明日」
そう、俺達にとって明日は良くも悪くも運命が決まる日だ。
……結果は如何あれ、俺達は其々の欲しい人を手に入れる為に動き出すのだ。
このグループの関係性がどう変わるなんか俺にも分からない。だけどやるしか無いんだ。明日は皆、平等に訪れるのだから。
「……それじゃ、駅まで送って行くよ」
「……うん。有難うね」
こうして、俺は望月さんを駅まで送る事にしたのだった。