ブルアカにドMを生やしただけ   作:ナギサ様の臀部

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おまけ
絆ストーリー/メモロビ


『こんにちは、先生』

『こんにちは、どうしたの?』

『シャーレの仕事というのは、中々大変なものという

噂を耳にしました』

『なので、手伝ってみようかと』

『?』

『えっと、まあ、手伝ってくれるなら嬉しいかな』

 

 

 

 

 モモトークで連絡が来てから数十分後、ムイがシャーレに顔を出した。

 

 来客ならばと多少荷物を整理しようとしていた先生だったが、大量の書類のせいでどう足掻いても散らばってる感が否めない。

 

「こんにちは! ……なるほど、これはこれは……骨が折れそうな量ですね。内容も厄介なものばかり……」

“え、えっと、無理に手伝わなくてもいいんだよ?”

「いえいえ、むしろ手伝わせてください! 行政官としての仕事が午前で終わってしまって、退屈していたんですよ!」

 

 山のように積み上がった書類を前にして、ムイはめんどくさがるどころか、嬉々として机と椅子を並べ、作業を始めてしまった。

 

 しかも、その作業スピードはとんでもなかった。

 

 書類の山はどんどん切り崩され、先生でなければできない仕事以外はどんどん消えていく。

 

 書類の形式などはトリニティと違うはずなのに、軽く確認してみるとミスの一つもない。

 

「……先生? まさか、生徒にばかり仕事をさせて、その間に自分は休もうだなんて考えていませんよね?」

“あ、ごめん。すごい速さだったから……”

「このくらいできなければ、ナギサ様にゆっくりしていただけませんから! というか休みたいのであれば休んでいただいて結構ですよ? 私にできそうなものは私が済ませてしまいますから!」

 

 流石にそれは申し訳ないので、先生もその後すぐに仕事にとりかかった。

 

 日が暮れる頃には仕事が片付き、先生はその日は久々にゆっくりと休めた。

 

 

 

 


 

 

 

 

『先生、今日はシャーレのお仕事は忙しいですか?』

『今日はそうでもないよ』

『そうですか……』

『実はナギサ様にお休みをいただいたのですが、何を

すればいいか分からなくて』

『忙しければその手伝いでもと思ったのですが』

『ちゃんと休もう!?』

『であれば、余暇の過ごし方というものを教えていた

だけませんか?』

 

 

 

 

 折角の休日に仕事をしようとしていたムイを、先生はとりあえず喫茶店に誘ってみた。

 

“ここのケーキはおいしいって評判なんだ”

「なるほど確かに……ナギサ様も好みそうな味ですね。トリニティの外はきちんと調べたことがありませんでしたが、今度色々試してもいいかもしれません!」

“……そっか!”

 

 喫茶店の次は、ゲームセンターに向かった。

 

“ムイはゲームとかするの?”

「それなりにしますよ! まあ見ていてください!」

 

 ムイが選んだのは、某有名な格闘ゲームだ。席に座って百円を入れると、ムイはスティックとボタンをそれっぽい姿勢で握る。

 

『YOU WIN!』

『YOU WIN!』

『YOU WIN!』

 

 連戦連勝。まさに鎧袖一触。ワンコインでプレイできる分を終えると、ムイはドヤ顔でピースサインを見せた。

 

“すごい!”

「こう見えて、トリニティでは負け無しなんですから! 反射神経や状況判断の訓練にもなると聞いて、昔頑張っていたんですよ」

“……そっか!”

 

 ゲームセンターの次は図書館に、その次は動物園にも行ってみたが、どこでもムイは仕事と結びつけてしまっていた。

 

 先生は今くらい仕事のことを忘れさせた方がいいかと思い、色んな場所に連れ回したが、ムイはナギサのことを考えている時が一番いい顔をしていると最終的に気づいた。

 

「ここは……廃業になった遊園地でしたっけ?」

“そうだね。都市伝説とかがたくさんあるんだよ”

「都市伝説……」

 

 もう日も暮れてきた帰り道、ムイたちは偶然潰れた遊園地の近くを通りかかった。

 

「つまり、ナギサ様の身に危険が及ぶ可能性があるということですか」

“えっ”

「遊園地の外に敵が出ないとは限りませんからね! 先生、今の私はシャーレ所属として扱われますよね?」

“あ、うん”

「では加減は要りませんね! ゴミはゴミ箱に、ゴミの発生源からゴミ箱に! 全部壊してあげましょう!!」

“ま、待って!? もう夜だから! 危ないから!”

 

 先生の制止も虚しく、ムイは廃墟に突撃して行った。

 

 幸運にもその日はシロやクロ、ゴズなどはお休みの日だったので、ムイも彼らも怪我をすることはなかった。居座っていたヘルメット団は蹴散らされたが。

 

 

 

 


 

 

 

 

『先生』

『どうしたの?』

『先生はCHAIRSについてどの程度ご存知ですか?』

『うーん』

『あんまり知らないかも』

『明日、トリニティで予定がありますよね』

『ちょうどいい機会ですし』

『よければ軽く説明しますよ』

『じゃあお願いしようかな』

 

 

 

 

「ようこそ先生! トリニティ総合学園情報局へ!」

“情報局?”

「はい! ナギサ様が、CHAIRSと統合する形で私に管理を一任してくださった組織です!」

 

 先生はその日、仕事を終えたタイミングを見計らったかのように現れたムイに連れられて、情報局の部屋まで案内された。

 

「CHAIRSの話し合いは基本的にスレッド上で行われますが、密談できる場所が必要になることもありますから、基本的にはそういう場合に使う場所ですね」

 

 部屋にはたくさんのパソコンやモニターが置かれていたが、ムイにはその役割はよくわからないらしい。

 

「CHAIRSは、正式名をティーパーティー直属特殊部隊CHAIRSと言います。私はあくまでナギサ様の椅子であると認識していますが、実際はティーパーティーの椅子というわけです」

“た、多分椅子ではないと思うよ……?”

 

 どう説明してもムイはCHAIRSを椅子に結びつけるが、流石にそんな扱いはないだろうと先生は訂正する。

 

 ムイから椅子になりたいという夢について聞いたことはあるものの、椅子というのはあくまでそういう心構えという話で、まさか物理的な話とは先生も思っていなかったのだ。

 

「で、CHAIRSは主席から十席までの十人が固定メンバーで、それぞれに役職が割り振られているんです。部下は任務のたびに必要に応じて配置されます」

 

 先生の訂正はスルーして、ムイはCHAIRSの説明を続ける。

 

「主席である私は……実は特に役割が無いんですよね。象徴がどうとか、戦力になるとかという話でしたが、他の皆さんに比べるとあまりに……その……お飾りというか……」

“ムイは行政官だから、ちゃんと貢献できてるよ”

 

 だか早速なぜかネガティブムード。

 

 ミカの起こした騒動の時もそうだったが、CHAIRSにおける主席の役割はさほどないのだ。動くのは次席以下の部隊なので、主席は指示を出すだけで、代わりは誰にでも務まるのだ。

 

 実際には、ムイ以外ではCHAIRSの誰も言うことを聞こうとしないのだが。

 

「ですが次席はアプリの開発からハッキングまでできるコンピュータのプロ、三席は少し話せば大体の人に何でも許させる交渉の天才、四席は三日あれば他所の学園の機密情報を持ち帰れるスーパー工作員……」

 

 しかしそうとは知らないムイは、仲間の役割を列挙していく。

 

「五席は様々な火器を使いこなす戦闘のプロ、六席は戦車の扱いなら誰にも負けないエリート砲兵、七席は重症を負っても三日で動けるようにしてくれる名医……」

 

 一人ずつ並べるごとに、声のトーンが下がっていく。

 

「八席はどんな物資も頼めば用意してくれる凄腕の運び屋、九席はヘリコプターを乗り回して難しい任務も難なくこなすエース航空兵、十席は無茶な注文に答えて端末を量産してくれた一流の技術士……」

 

 最終的には頭を抱えてしまった。

 

「あれ、私の価値って一体……?」

“で、でもムイがいなかったら、CHAIRSがCHAIRSとして纏まることもなかったんだよね?”

「それは……まあ、こんな言い方はアレですが、私が皆さんを結びつけたという見方もできますね」

“なら、やっぱりムイはCHAIRSの主席だよ”

「先生……」

 

 ムイは先生の言葉で、ようやく自分の価値や意味というものを──

 

「でも役割が無いことに変わりはありませんよね??」

 

 ──見出せなかった。

 

 

 

 


 

 

 

 

『こんばんは、先生』

『こんばんは、こんな時間にどうしたの?』

『先生がナギサ様と二人きりでお会いしたという話を

耳にしました』

『今からそちらに向かいます』

『決してデスクから動かぬよう』

『えっ』

『……ムイ?』

『……ちょっと!? ムイ!?』

 

 

 

 

 メッセージに既読はつかない。どうしたものかと考えるが、先生は動くなと書かれているので何もできない。

 

 すると、携帯に電話がかかってきた。しかしその相手はムイではない。

 

『もしもし、先生。私です。次席の五十鈴ルイです』

“ル、ルイ? 今ムイから変な連絡があったんだけど……”

『申し訳ございません、先生。我々にはもうどうしようもありません』

“えっ”

『ご武運を……』

“ま、待ってルイ! もう少し詳しい話を──”

 

 だがルイの電話は、残念ながら何の参考にもならなかった。

 

 何か非常事態が発生していることは分かるが、それ以上のことは理解不能である。

 

 そしてその時──シャーレの窓ガラスをぶち破って誰かが飛び込んできた。

 

 

 

 

 ──先生、こんばんは!

 ──窓ガラス代は後ほど弁償しますが、その前にお話しましょうか!

 

 ──風の噂で聞いたことですが、ナギサ様と二人きりでお会いしたというのは……。

 

 ──そうですか。事実ですか。

 

 ──え、この武装ですか? ああ、いや、勘違いしないでくださいね?

 ──別に、先生を襲撃しに来たわけではないんですよ。

 

 ──ただ、何とも形容し難い感情に突き動かされまして。

 

 ──いてもたってもいられなかった、というやつですね。……私、何してるんでしょうね……。

 

 

 

 

 窓ガラスをぶち破って入ってきたのは、フル装備のムイだった。

 

 その装備は、カタコンベに乗り込んだ時とほぼ同じレベルだ。嫉妬で先生を始末しに来たにしても、過剰と言わざるを得ない。

 

「ご、ごめんなさい……荒ぶる感情を抑えきれず……」

“あ、うん”

「ご、後日連絡してくだされば、すぐにでも弁償いたしますので! で、では、今日はこの辺りで!」

“あ、うん”

 

 ムイは嵐のように去って行った。

 

 部屋に散乱したガラス片の惨状を見て、確かに嵐だったなと、先生は思った。

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