ブルアカにドMを生やしただけ   作:ナギサ様の臀部

4 / 28
救護/普通/正義/変態 とドM

 救護が必要な場に救護を。それが救護騎士団のモットーですが、救護を必要としない人に対してはどうすればいいのか。

 

 私がそんな悩みを抱えたのは、今から二年前。まだ私が一年生の頃のことでした。

 そして、その悩みを抱えることになった理由が、彼女そのものだったのです。

 

『あはっ、あはっ、あははっ、まだですよ! まだまだこんなものじゃないはずです! 弾幕薄いですよ!』

『おい、あいつ全然倒れないぞ!?』

『うぁぁぁぁ、弾丸の雨の中を歩いてる!』

『弾丸だってタダじゃないのに!』

 

 あの日、いつものように救護を必要とする声を聞いて飛び出した私を待っていたのは、嬉々として不良たちから弾丸の雨を浴びに行っている謎の少女──ムイさんでした。

 

 ライフル弾もグレネードも気に留めないどころか、まだ足りないなどと抜かす始末。私はどちらに救護が必要なのかも分からなくなりました。

 

 そして私が躊躇している間に、飽きたとばかりにムイさんが不良を気絶させてしまったのです。

 

『ま、待ってください!』

『……あっ、み、見られてた……!?』

『あ、貴女を救護します! 理由はもちろんお分かりですね!?』

『ちょっ、その前に聞かせて!? 見てたの!? いつから!?』

『問答無用ッ!』

 

 そのまま正義実現委員会が来てしまう前に去ろうとする彼女を引き留め、救護しようと襲いかかった……今思えば酷い出会い方でしたが、彼女のおかげで私の目指す「救護」は完成したとも言えます。

 

 当時はまだ、私の知る世界は限られた世界でした。

 

 痛みを……その、心地よく感じる……方がいるということは、よく知らなかったのです。

 

 ええ、はい。彼女にはそれを教えられました。彼女がうっかり喋ってしまった、とも受け取れますが。

 

 救護のために一度静かにしていただこうとした私は、盾で殴る度に動きが鋭くなる彼女に、次第に圧倒され、敗北を喫したのです。

 

『くっ……救護が必要な場に、救護を……それこそが私の理想だと言うのに……!』

『え、えっと、襲ってきたので反射的に対処しちゃいましたけど……もしかして単に心配してくださっただけでしたか……?』

 

 その後なぜか私に治療を施した時のことでした。

 

 私には丁寧に治療したくせに、彼女は自分の傷には雑に消毒液をかけるだけだったのです。

 

『あの、ムイさん? そんな雑な処置では傷が痛むのでは? それに、傷跡が残ってしまいます』

『え? それがいいんじゃないですか』

『はい?』

『あっ』

 

 彼女の趣味嗜好を否定するつもりはありません。ですが、彼女の考えは救護とは真っ向から反するものでした。

 それからというもの、私は目の前の要救護者が本当に救護を必要としているのかが分からなくなってしまったのです。

 

 救護が必要な場とは、主観で判断するものなのか、それとも要救護者の視点から判断するものなのか。

 

 少なくともムイさんにとっては、救護騎士団というものは必要のないものだったのですから。

 

 ……そんな悩みの原因だったムイさんですが、解決したのもまた彼女でした。

 

『救護ってのがどういうものかはよく分かりませんが、ミネさんが信じる道こそが進むべき道なのではないですか?』

 

 朝早くからランニングをしていた彼女が何気なく言ったその言葉が、私の中でつっかえていたものを吹き飛ばしてくれました。

 

『かくいう私も目指す姿を、進むべき道を見出したんです。お互いに頑張りましょうね!』

 

 せめてその時の彼女が、極地にでも行くのかと聞きたくなるような格好でなければ、この話もいい話で終わったのですけどね……。

 

 しかし、あのムイさんが今やティーパーティーの行政官……世界とは分からないものですね。いつの間に政治に興味を持ったのでしょうか。

 

 

 

 


 

 

 

 

 あの人は私がナギサ様にお茶会に呼ばれる時も、そうでない時もずっとナギサ様のそばにいました。

 

 ……そしていつも、私のことをじっと見つめてくるのです。

 

 いえ、別に悪意のようなものは無いんですよ。でも、行政官という立場ですから私のことを警戒しているのかと思えばそれも違うようで、ただただずっと観察してているのがすごく気になるだけで。

 

 そこである日、校内を歩いていたら偶然お会いしまして。意を決して尋ねてみたんです。

 

『あ、えっと、すみません。いつもいつも不躾に……』

『あはは、気にして無いので大丈夫ですよ。ただ、なぜ見つめられているのかが分からなくて』

『理由は……話せないわけではありませんが……笑いませんよね?』

『まさか! 笑ったりなんてしませんよ!』

 

 前置きにおかしなことを言いながら、ムイさんは指先を合わせて恥ずかしそうに言いました。

 

『その……ナギサ様が仲良くしたいと仰っている方がどのような方なのか気になってしまいまして……私とナギサ様は、あくまで上司と部下という関係ですから……』

 

 つまり、それは、どういうことか。

 

 ざっくりまとめると、嫉妬ではないかという結論になりました。……至って普通の生徒に過ぎない私に? ここ半年で無名から行政官まで上り詰めたムイさんが? いやいやまさか。

 

『職権濫用と言われればそれまでですがらヒフミさんの過去の経歴、成績、寮の住所、普段の生活リズム、交友関係、愛用しているそのリュックのキャラクターについても調べてみたり……』

『ペロロ様についても調べたんですか!? いかがですか? この素晴らしいデザインは!』

『え? えっと……その、とても、個性的だと思います、よ? アングリーアデリーとか、可愛らしいキャラクターもいますし……』

『ですよね、ですよね! 良いですよね!!』

 

 途中で何か変なものまで調べられていたような気がしますが、モモフレンズ好きに悪い人はいません!

 それに、ムイさんはナギサ様からおそらくミカ様やセイア様と同じくらい信頼されていますから! 変なことはしないはずです!

 

 以来、今でも連絡を取っているんですよね。同好の士として!

 

 

 

 


 

 

 

 

 ムイさんを見て抱く印象は、時と場合によって様々に変化するでしょう。

 

 戦場で目にする彼女は強く、逞しく……時に変態ですが、彼女の武力に目が行くことでしょう。

 ティーパーティーで目にする彼女は手早く、ミスなく……時にドジることもありますが、彼女の知性や能力に目が行くことでしょう。

 

 ですが日常で目にする彼女は、どこか希薄なのです。何がと聞かれると返答に窮してしまいますが、どこか儚く、脆く、目を離せばどこかへ消えてしまいそうなのです。

 

 私が初めて会った彼女は、日常の中にいました。

 

『あの……その、大丈夫ですか?』

『……あ、私ですか?』

『え、あ、はい』

 

 その日、私は「立ち入り禁止のはずの鐘楼に誰かがいる」との通報を受けて現場に急行し、彼女と出会いました。

 

 鍵はなぜか開いていましたが、彼女が手に持っていた針金を見ればどうやったのかは大体想像がつきます。

 状況証拠を考えれば、このまま拘束しても良いのですが、私は今にも消えてしまいそうな彼女を見て、お話がしたいと思いました。

 

『ここは立ち入り禁止ですよ』

『……あっ、正実の人だ! ……まぁいっか』

『今気づいたんですか……というか良くはないでしょう。ピッキングですか?』

『そうですよ。やり方はネットで習いました!』

 

 隣に座って話し始めると、彼女は捕まると思って逃げるわけでも、嫌そうな顔をするわけでもなく、嬉しそうに笑いました。

 

 そもそもの目的からして悪いことを企んでいたわけではなさそうでしたが、普通後ろめたいはずの手段を堂々と話すものでしょうか。

 

『しかし、なぜこんな場所に? 高台からの景色が見たかった……というわけでもなさそうですが』

『間近で鐘の音が聞きたくて! 方法については……その……安価で決めたとは言えませんが、どうしましょう……

『こんなに近くで聞いたら耳がおかしくなりますよ!?』

 

 目的についても、当時の私には理解の及ばないものでした。まさか、トリニティ中に響き渡るような鐘の音を、間近で聞こうと思う人間がいるだなんて。

 

 時計を見れば、運悪く──彼女は最初から望んでいたのでしょうが、私にとっては運悪く、あと数分で鐘が鳴ってしまうような時間でした。

 

 しかし、押しても引いても彼女は動かず、時間だけが流れて行きます。

 

『ほら、もうすぐで鐘が鳴ってしまいますから! せめて屋内にしておきましょう?』

『えー』

『えーじゃありません! 動かないなら抱えて行きますよ!』

『なっ……それって、私が貴女に抱えられるほど小さくて、貴女は私を抱えられるほど大きいんだぞって言いたいんですか!?』

『そんなことは一言も言っていませんが!? というか、私はそこまで大きくありませんっ!』

『イヤミですか貴女ぁ!』

 

 そんな無駄なやりとりをしていれば当然、数分なんてあっと言う間に過ぎ去り──

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン!

 

 

 

 

『あ、あはっ、あははっ、思ってたより脳を揺さぶられるような音ですねっ! 何度でも聞けちゃいそうです!』

『こ、こんなのを何度も聞いてたまるものですか……!』

『わわわっ、抵抗しません! 今度は抵抗しませんから、時間稼ぎもしませんから、発砲はやめましょう!? 傷つけて弁償とかになったら私払えませんからぁっ!』

 

 それから、彼女とは時折会って話をしたり、お茶会をするような仲になりました。

 

 その際に問い詰めて知ったのが……彼女の、いわゆるその、癖というか、アレでした。

 

 色々と考えてみて、彼女が痛みを好む理由は、おそらく自分がここにいるという証明になるからだと私は結論づけました。

 痛みも、苦しみも、全ては生きているから感じられるものです。

 

 ……叶うなら、彼女がそんな悲しい方法で自分の存在を確認しなくても良くなるような友人に、私がなりたいものですね……。

 

 

 

 


 

 

 

 

『あら♡』

『あ、こんにちは、ハナコさん。今夜はちょうどいい気温ですし、露出日和ですね』

『……あら?』

 

 ムイさんとの出会いは、ある晩私が水着で校舎内を徘徊していた時のことでした。こんな時間までティーパーティーのお仕事をしていたのか、彼女がちょうど帰宅するタイミングで遭遇してしまいました。

 

 私の頭の中では、彼女の異色としか呼べない経歴と、妙に落ち着いた対応についての疑問がぐるぐると回っていました。

 

 半年前までは無名だったとはいえ、それはきっと爪を隠していただけ。その半年で行政官にまで上り詰めたのですから、私についても当然ご存知のはず。

 

 ……そのはずですが、通報するわけでも交渉を持ちかけるわけでもなく、彼女は当然のように世間話をしながら一緒に散歩をし始めました。

 

『もしかして、私が正実に通報すると思いましたか? 大丈夫ですよ、誰にも言いませんから』

『……何か目的が?』

『疑り深い方ですねー……スレで聞いた通りの方ですが……では、こういうのはどうでしょう?』

 

 しかも私の疑いに対してどうするかと思いきや、突然銃を床に置き、制服を脱いでしまったのです。

 

 下着姿になった彼女は、おそらくはたから見れば私よりも不審者でしょう。それでも、たかが私の疑いが杞憂であることを証明するためだけに、彼女はそんな奇行に走ったのです。

 

『ほら! これなら私が通報しても、一緒に捕まっちゃうだけです!』

『……』

『ヤですね、そんなに見つめないでくださいよ、これでも恥ずかしいんですから』

『あ、いえ、その……』

 

 畳んだ服と銃を抱え、バレリーナのようにくるくると、ムイさんは爪先立ちで器用に回りました。大きく広げた翼が翻る姿は、まるで本当に神話に出てくる天使のようで、思わず見惚れてしまうほどでした。

 

 両手と翼で下着を隠す様など、同性の私も思わずドキリとしてしまいました。

 

『うーん、良い気分ですね! お外で下着姿なんて、新鮮です! このまま校舎一周とかしちゃいますか? スリリングで楽しいですよきっと!』

『貴女は……いえ、そうですね♡ 今日はそういうのも、悪くないかもしれません♡』

 

 この人は普段見ているような方々とは違う。私はそこでようやく、そう確信できたのです。

 

 二人だけの、誰にも見られてはいけない秘密の散歩。心が躍りますね♡

 

『疲れてしまうでしょう? 優秀なのは事実だとしても、期待ばかりを向けられては』

『……』

『……もうっ、そんな目をしないでくださいよ。はっきり言って私、政治のことはさっぱりなんですよ? 別に派閥に入る入らないとか、そういう話がしたいわけじゃないんです』

『……では、土江さんはどんな話がしたいんですか?』

 

 昂っていた心に水をかけるような質問に、私はついムイさんを睨んでしまいましたが、彼女は気にした素振りも見せずに脱いだ服の中から携帯を取り出し、地図アプリを開きました。

 

『え? おすすめの徘徊ルートの話ですよ!』

『……はい?』

『正実の巡回もそうですが、注意すべきはたまにいる私みたいなティーパーティー生ですね。あと、礼拝堂などの近くにはシスターフッドも出没しますから、その辺りを考慮しつつ開放感のあるルートと言えば──』

 

 なぜ、図ったかのようにあの場で遭遇したのか。

 なぜ、突然私と同じように脱ぎ出したのか。

 なぜ、行政官という立場にありながら政治が分からないなどと言うのか。

 

 心の底から見せるような笑顔で地図を指差す彼女を見て、私は理解できました。

 

 きっと、同じなんです。

 

 これまでは爪を隠していたのではなく、意図的に隠されていたか彼女自身が逃げ続けていただけ。

 

 こうして脱いでいるのは私のように、このトリニティに辟易して、捕まっても良し捕まらなくても良しな遊びを思いついたから。

 

『──というわけなんですよね! やはり、何かあった時のためのカバーストーリーも大事ですから、そういった点も踏まえてですね……あの、ハナコさん? もしかして聞いてませんか? わ、私だけ張り切ってましたか……?』

『……そんなことはありませんよ、ムイさん♡ 大変参考になるお話でした♡』

 

 そうでもなければ、わざわざ監視カメラの配置や夜遊びに出かける方々まで考慮した徘徊ルートなんて考えるわけがありません。

 

 こうして私は、共通の苦しみを理解できる仲間を得たのでした。……彼女はティーパーティーとして、苦しみとも向き合っているので、私とは異なりますが。




救護→椅子になりたいとは知らない。
普通→ムイについて詳しくは知らない。
正義→ただのドMだという発想がない。
変態→ただのドMだという発想がない。

次回更新日は今のところ未定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。