何やってるんですか!?飛鳥さん! 作:駒鳥
すみません。タイトル詐欺です。
鱗滝左近次は出てきますが、見なよ…私の鱗滝さんを……という状況にはなりません。
第十話は嘔吐表現があります。嘔吐注意です
「ねぇ
さっきから顔色が悪いし、口を抑えてる。もしかして吐き気がするのかな。私は足が変な方向に骨折しちゃって少し痛いけど、飛鳥は叩きつけるように全身打ってるから相当な痛みだよね。それに疲労が重なってさっきみたいに気を失っても仕方がないかもしれない。
心配の目を向ける真菰に飛鳥は口を抑えながら洞窟の入口を指でさした。
「真菰、……吐いてきていいか…」
「…………背中さすろうか?」
「いや、大丈夫だ。女の子に情けないところを見せたくないし」
「さっきからずっと情けないよ。蹲ってるところとか、気を失ってたところとか、飴食べてえづいてたとことか。まだまだいっぱいあるよ」
「…」
今にも喉から上がってきた気持ち悪いものが出そうな飛鳥に真菰は追い討ちをかけて、飛鳥の顔色はネギの青い部分のようになってしまった。声も手も体も全部ガタガタと震えだし目も回っている。それなのに真菰は気がついてないと知らんぷりして話を続けようとした。
「……ハイテクル」
飛鳥は震える手を突き出して待てポーズして、真菰が黙ったのを見てから颯爽と真菰から離れていった。
真菰は、飛鳥のハイテクルというか細い声に情けないと思い少しの間肩をプルプルと震わせ声を我慢して笑っていた。
(んふっ。惨め……ふっ)
「おぇ、ゲホッゲホッ……おぇぇぇぇ……」
「聞こえてる! 飛鳥聞こえてる!! 」
少し遠いところから聞こえる飛鳥のえづき声は我慢してクスクスと笑う真菰の笑いの急所に当たってしまい、真菰は声を我慢するのをやめてしまった。
「あはははっ! あっはははは!! 」
「ぅあ……ゲホッおぇぇっ」
もう、めちゃくちゃだ。
▼
「「…」」
「飛鳥」
「真菰」
「あと少しで太陽が昇っちゃうよね?」
「もうじき最終選別終わるんじゃないか?」
二人とも汗だくだく。
別に決まった時間に来いとは言われていないが、大怪我をしている二人にとってはここを早く出たいという気持ちが馬鹿強いので、日が昇ればすぐ最初にいたところに行こうと決めていた。だが、それは叶わなかった。
「足痛い! 歩けない! 」
「体が、動かない……」
真菰は木の棒で体を支えて片足と棒だけで歩こうとするが、棒を握る手に力が入らず転けてしまった。
飛鳥は全身打撲。所々骨が折れていたり罅が入っていたりしてとても動けそうになかった。
という感じで、二人とも最終選別を終えれそうになかったのだ。せっかく手鬼から逃げ切れたのにこのままでは野垂れ死んでしまう。七日目の朝が終わり夜が来て二人だけ八日目に突入してしまうかもしれない。
飛鳥と真菰は汗びっしょり顔面蒼白、このまま死ぬのは嫌だという思考で頭がいっぱい。
どうにか動く術を考えようとも痛すぎて考えられない。
「どうしよっか」
「そうだ、薬草とか……無理か」
「薬草、薬草…………ねぇ飛鳥。あの飴玉舐めれば動けるかも」
「糞飴玉を舐めるのか? やめておいた方がいい。」
「いいから」
「私はとめたからな…………」
早く早く、と真菰は焦らす。なにか閃いたと思ったら、あの糞みたいな味がする飴玉を要求してきた。さっき食べて糞だとわかったはずなのになぜまた欲しがる? もしかして……と飛鳥は考えながらゆっくりと懐から巾着を出して真菰に渡した。
巾着を手に取った真菰は、すぐに飴玉を取りだして舐めた。嫌な顔をするわけでも、吐きそうになる訳でもなくただ普通に飴を舐めだした。
「はい飛鳥も舐めて」
「んぐっ!」
真菰はもう一粒飴玉を取りだし今度は飛鳥の口にねじ込んだ。そして吐き出さないように口を抑えてやった。もちろん飛鳥は顔面をもっと青くして手を剥がそうとするが、痛みのせいで手が上手く動かせていなかった。
なぜ突然真菰が飴玉を舐めたいと言い自分だけでなく嫌がる飛鳥にも舐めさせたのか。それは勝炎特性飴玉のとある効果に真菰は気づいていたからである。
眠気覚ましに飴玉を一度舐めた後、体が軽くなったような気がした。足の痛みも若干和らいだし、なんだか感覚が冴えていた。それだけでなくまだ色々とあったが、細かいことだったので別に気にしてはいなかった。
「うん。体が軽くなった! 凄いね、この飴玉」
「私は体が重くなったぞ」
真菰はみなぎるように力が湧き、握力も出てきて痛みも吹っ飛んだ。これで最初のところに戻れるようになる。
(あとは気合い)
「早く行こう……?」
「何とか立てるが、走れる状態じゃない。頭がぼんやりしているし、さっきより痛みがはっきりしているような気がする……」
「うーん、まぁ大丈夫。飛鳥ならやれるよ。ほら、行こう?」
「酷い」
飛鳥は足をズルズルと引き摺りながら真菰の後ろを歩いた。
これは、飛鳥が最終選別に行く前のこと。
厨房からは音程が外れた気味が悪い鼻歌が聞こえた。その声の持ち主は飛鳥の育手、
小さな鍋に入っている液体を木べらでゆっくりと混ぜ、時折変な調味料やそこら辺で取ってきたかのような汚れている葉っぱを入れて、熱しながらさらに混ぜる。
『これも、こっちも、全部いれよ』
最初は綺麗な透明色だった液体は、今や調味料達のせいで綺麗さを失って鼠色と褐色の流れ模様になっていた。
鍋の中でぶくぶくとやばい色をしたどろどろの液体が煮え立って、泡が弾ける度に糞みたいな臭い匂いを厨房に撒き散らす。勝炎の鼻はちゃんと機能していなくて、糞のような匂いがする液体を、頭の中では甘い匂いに置き換えていた。
『こんなもんか? 一粒味見してみるか』
少し形が歪な飴玉を一粒手で摘んで、口の中に放り込んで舌で転がす。
『うん! 美味い!! 』
勝炎は味覚障害であった。
この飴玉は人を選ぶ。人によって、臓器の動きを活発にしたり、血の流れを良くしたりする。逆に吐き気を起こしたり、頭痛や腹痛を起こしたりすることがある。
真菰は上記に当てはまり、飛鳥は下記に当てはまってしまった人だ。だから真菰は力がみなぎったとか、体が軽いなど良い効果を発揮したのだ。 飛鳥は可哀想にも、頭痛と痛みが濃くなる効果を出してしまった。
「早い……もう少しゆっくり歩いてくれてもいいじゃないか」
▼
「お帰りなさいませ。おめでとうございます。ご無事で何よりです」
(無事じゃない……)
と黒髪の少年に心の中で突っ込みを入れる。
飛鳥達は何とか痛む体を動かして、最初の場所に戻ってこれた。真菰がぐんぐんと早歩きで進んで行ったおかげか、日が少し頭を出す頃には着くことができたのだ。
『痛い……痛い』
『飛鳥、ちゃんと歩こうね?』
途中で真菰の片足代わりに支えている棒で殴られそうになったり、つまづいて顔面を打ったりもした。もう歩きたくないとなんだ思ったか。でも、諦めず生きて戻ることができた。
呻きを我慢しながら、黒髪の少年の説明を聴いた。
黒髪の少年の声は何故かすごく落ち着く声だなと、飛鳥は最初会った時のようにもう一度思う。飛鳥や真菰よりもしっかりしていて本当に子供なのかと不安になるほどだった。
隊服を支給するために、体の寸法を測り。階級のことについて説明され、階級を手の甲に刻まれた。
そして、上から烏の鳴き声が聞こえたかと思って上を向けば、最終選別を突破した人数分の烏が頭の上で飛んでいた。少年によると、この鳥達は特別で喋ることが出来る、連絡用だと言う。
「カーッ、カァァァ」
いつの間にか肩に乗っていた。乗り心地が悪そうに時々ぴょんと跳ねて首を傾げたりする。この様子のせいで一見、普通の鳥に見えた。
「カァァ……髪ガボサボサ、汚イ」
「酷い」
喋ったかと思ったら、急に罵倒してきやがった。
飛鳥の頭をつつきながら、汚イ汚イと何度も言う。喋り慣れていないのか、言葉はたどたどしく不自然だった。
「ではあちらから刀を造る鋼を選んでください。鬼を滅殺し、己の身を守る刀の鋼はご自身で選ぶのです」
そう言った少し後に、次々と合格者が鋼を選んでいく。自分で選べと言われても鋼の何が違うのか分からなかった。ほぼ全部同じだろ、と合格者全員が思った。うーんと唸って結局分からずじまいで手に取る者もいれば、どれでもいいと言うように素早く適当に選ぶ者もいる。真菰も選び終わって飛鳥が最後の人になった。
沢山ある鋼を見ながらこれかな、と一番”汚れていた”鋼を飛鳥は選んだ。
「飛鳥、ありがとうね」
「どうしたんだ、急に? どこか痛むのか」
「感謝の言葉をちゃんと素直に受けとって欲しいな。失礼だよ」
「……どいたしまして? なんのことについて感謝を述べているのか知らないが」
重い体にさらに重い荷物を”二つ”乗っけて、帰路に着く。二人ともふらふらと上手く歩けていない。睡魔が襲ってきて今にも倒れそうだし、ちゃんとまともな食事が取れなかったのでお腹が減っていた。
両肩に乗っている荷物がもっと重く感じた。
本当だったら一つだったはずなのに、飛鳥は自分の優しさのせいで自分を苦しめることになってしまった。少しだけ後悔したけれどまぁいいやと思う。だって隣で歩いている人が必死に頑張って歩いていたら、重い荷物を持ってあげたくなるだろう?
真菰は、荷物のせいで上手く体の安定が取れていなかった。負傷した片足を支える棒を片手に持って、肩には重い鞄。片足が使えなければ上手く歩くことすらできない。溜息をつきながらゆっくりと歩く。真菰の状態は、今にも倒れそうで見ていられなかった。飛鳥もふらふらして倒れそうなのは同じだが両足はちゃんと着いている。
『……貸してくれ』
ゆっくりと遅く歩く真菰に、手を差し出した。何かを欲しがるように、偶に手を振って訴える。
『え? 何を? 』
『鞄をだ』
『…………わ、わかったよ 、 ?』
そう真菰が言うと、肩にかかっていた鞄を掻っ攫っていった。そうしてもう片方の鞄がかかっていない肩に乗せてさっきよりもずっと遅い速度で歩き出す。真菰も遅れないように、さっきより少し早くなった速度で飛鳥の後ろを歩いた。
『真菰の家まで着いていこう。その足では一人で帰るのが心配になるからな』
『確かに……途中で倒れちゃったりするかも。でもね飛鳥。女の子を家に送るってあれだよ。うん』
『嫌なら一人で歩けばいい』
『嫌って言ってないよ? 飛鳥が先に言ったんでしょ。送ってあげるって最後まで言ったことは守ってね』
『あぁ』
という感じで、荷物が重くなってしまった。
「今のことも、手鬼から助けてくれたことも……ありがとう」
「手鬼……あ」
「どうしたの? 」
「あの黒髪の少年に手鬼のことを言い忘れていた…………」
「あ……………………」
▼
「私ノ名前ハ、タマダ。タマ様ト呼べ」
「飛鳥の鎹鴉偉そうだね」
「タマ様。これからよろしくお願いします」
「私ハ、
「真菰の鎹鴉は私の鴉よりも可愛げがあるな」
「うん。よろしくね、双葉さん」
▼
目の前の状況に私はどうしていいか分からなかった。何か言うべきなのか黙って空気となるべきか、それとも同じように泣けばいいのか。邪魔をするのも良くないと思って帰ろうとした。後ろからは、よく戻ってきたとか啜り泣く声が聞こえる。真菰の師範っぽい人物と真菰が泣きながらぎゅっと抱きしめあっていた。
…何故天狗のお面を被っているんだ?という疑問はあったがその様子を見た途端に疑問はどこか風へと一緒に飛ばされてしまった。
痛む足を動かしながら私は来た道を戻る。前よりも、もっともっと遅い足取りで歩く。真菰の荷物が無くなったはずなのに、体は重く鉛のようだ。
「お、お客さん? でもすごいボロボロだ!」
「大丈夫か!? 」
俯いていた顔を上へと上げて見れば、そこには二人の少年がいた。……私よりも背の高い少年。ちょっとムカついた。 多分だけどこの子達が真菰の弟弟子達のようだ。手にはボロボロになった木刀、汗をかいて張り付いた前髪、皮膚に着いた泥。修行をしたのだとひと目でわかる。
慌てている真菰の弟弟子達になにか声を掛けようと思った。
「私は大……丈、夫…です。う」
声を出した途端に凄く激しい痛みが私を襲った。一部が痛いとかではなく、体全部が痛く感じた。
飛鳥が膝を着いてペタンと座り込んでしまったその様子に、真菰の弟弟子達は更に慌てることになった。
「うわぁー!やばいやばい、錆兎どうしたらいいの!?」
「落ち着け義勇! えっと、あ、う…いや、どうしたらいいんだ!! 」
「うるさい……」
飛鳥は膝を着いて座ったまま意識が無くなってしまった。疲れていたのだから仕方がない。真菰の荷物も持って更に体に負担をかけることになったのだから、仕方がなかった。
真菰と真菰の師範はまだ抱きついて二人して泣いていて、真菰の弟弟子達は気絶した飛鳥を、死んだと思い込み更に慌てた。
「死んだぁ! 」
「生きてる生きてる! 勝手に殺すな義勇!! 」
人物紹介〜
継国飛鳥(つぎくに あすか)
主人公
全身ボロボロ
真菰(まこも)
友達
鱗滝さん大好き
一心勝炎(いっしん しょうえん)
育手
えっ、帰ってこない
鱗滝左近次(うろこだき さこんじ)
冨岡義勇(とみおか ぎゆう)
錆兎(さびと)
明治コソコソ噂話〜
鎹鴉は雄の鴉は男性隊士に、雌の鴉は女性隊士が基本となっているそうですが、飛鳥の鴉は雌です。特に意味はありません。
名前はタマという猫みたいな名前。
真菰の鴉の名前は双葉。
性格は双葉の方が可愛いです。
次回・目に焼き付けてね。鱗滝さんを!!