何やってるんですか!?飛鳥さん! 作:駒鳥
「
「…………生きてます」
「…」
つんつん、と木の棒で飛鳥の頬をつつく
木の棒でつつかれている全身ボロボロの飛鳥。
それを気にせず遠くで刀の手入れをしている槇寿郎。
一番最初にぶん投げられた時は反応が遅れ地面に突っ込んでしまった飛鳥だが、それも最初だけだった。後から段々と慣れていき、空中での安定も取れていた。
だが槇寿郎に一回も真剣を当てられなかったのだ。
槇寿郎は器用に飛距離を変えたりして飛鳥を手こずらせた。これのせいでまた顔面から突っ込みそうになったり、槇寿郎に真剣で攻撃じゃなくて体で体当たりしそうになった。
何度やっても槇寿郎に当てられない。
槇寿郎は強かった。さすが炎柱。
「やっぱり槇寿郎は強いなー。多分俺でも無理だから諦めた方がいいかもな」
「じゃあなんでこんな修行しようとか言い出したんです? 」
「……月の呼吸が使いやすくなるかと思って」
「…………そうですか」
確かに、と飛鳥は頷いた。
月の呼吸の型には素早さがいる。月の呼吸は刀を振るう速さが最も需要と言えるだろう。
それと範囲が広く、地面で行うよりも空中で刀を振るう方がたくさんの鬼を殺せる。
「月の呼吸は他の呼吸と違って異次元な速度が必要なんだ。刀を振るう速さも頭の回転もどっちも」
「……月の呼吸を使ってた、継国巌勝って奴は人間を超えてるな」
遠くで刀の手入れをしていた槇寿郎がいつの間にか二人の近くにいた。
「やっぱり先祖様は凄いです……」
「飛鳥、勝炎から聞いたんだが全集中の呼吸が苦手らしいな」
「はい。出来なくはありませんが苦手です。全集中・常中が特に」
「……そうか。まぁ別に出来なくてもいいだろ」
「え?」
「は?何言ってんの?槇寿郎、全集中はめっちゃ大切だよ?どうしたんだ急に」
「気にしなくていい」
「えぇ………………」
「…」
▼
投げ飛ばし修行が終わってからは撃ち合いをした。
槇寿郎の炎の呼吸はとても綺麗で飛鳥は見惚れた。勝炎ですらこんなに綺麗じゃないのに……勝炎は雑だったんだと思った。
「いつもはどんな修行をしているんだ?」
「いつもか……いろいろと変わっちゃうけど、よくするのは大道芸修行と撃ち合い」
「大道芸……?」
「槇寿郎さんが分からないのは仕方ないです。私でもわかっていませんから」
「そうか…………。走り込みとかしないのか? 」
その言葉に飛鳥と勝炎はうーんと唸った。
「前まではしてたんですけどね……」
「最近はやってないな…………じゃ飛鳥、日が暮れる前までには帰ってこい」
「え?」
「今日からやろう」
「え?? 」
勝炎の突然の思いつきが始まった。
大道芸修行の時のように勝炎の思いつきは突然やってきて直ぐに行動に移そうとする。
飛鳥は呆れる。でも、勝炎は飛鳥を強くするためにはいろいろやってみるしかない、だから前やってたことも徹底的に思い出してもっかいやろう、ということになってしまうから仕方ないのだ。
「あと、槇寿郎はもうここには居られないんだろ? 」
「そうなのですか……任務ですか? 」
「あぁ。それもあるし、用事が出来た。だからもう行かなければいけない」
(やっぱり柱は大変なんだな)
飛鳥は体操をして走る準備をする。急に言われたことだがやれと言われればやる、飛鳥はそういう奴なのだ。
「槇寿郎さん、今日はありがとうございました。」
「あぁ。……次会うときは隊服を着てるかもな」
「そうですね…………」
「じゃ槇寿郎よろしくね。またねー」
槇寿郎が見えなくなるまで二人は手を振り続けた。
「では私も走ってきます」
「うん。あ、ちょっと待ってついでに買い物もしてきてくんない? 」
「……わかりました」
勝炎は飛鳥に財布を渡して家の中に入ってしまった。
(めんどくさい……)
今はちょうど三時のおやつの時間。にっこりとお日様が輝いている。
日が暮れる前に帰ってこようと飛鳥は決めて、槇寿郎が行った方向と逆に向かって走って行った。
▼
「ほらぁ早く金出せよォ、持ってんだろぉ?」
━━━━━汚い手で触んな
「俺さっきおっさんの財布スってんの見たよ?」
━━━━うるせぇ
「その勾玉売れば金になるんじゃねぇのか? 貸せよ、俺が綺麗にしてやるから」
━━━━黙れ
「泥水啜ってるとか、やばー」
━━━━━━━生きてさえいれば……
▲
飛鳥が気づいた時には勝炎の家から大分遠いところまで来ていた。
走るのに夢中で気が付かず、知らない場所で、しかももうすぐで日が暮れてしまいそうだった。
(仕方ない……買い物はやめて帰るか)
買い物をしていたら日が暮れてしまい鬼が出てきてしまう。
飛鳥の今の実力はガチでまじで弱い鬼なら倒せるかもしれないが強い鬼は無理だ。それに今は刀を持っていない。
しょぼんという雰囲気を出して帰路に着こうとしたその時だった。
「いいから金出せよっ!」
という暴言共にバシャンと水が飛び散る音がした。
「そんなに嫌なら体で払ってもいいんだぜ? まぁ誰もお前と相手してくれねぇだろうけど」
またいくつかの罵声と、殴る音まで聞こえた。
飛鳥は吃驚して立ち止まってキョロキョロと辺りを見回すが、人はあんまいないしその人達もその声や音に反応せずただ歩いている。
段々と声が大きくなっていき喧嘩らしきことをしている場所がわかった。汚い路地裏で二対一でボコっていた。
背丈が高い二人はサラサラな黒髪の子の胸ぐらを掴んだり蹴ったりして暴力を振るっている。
黒髪の子は抵抗はしているが、ノッポ暴力達とは違い背が低くちゃんとした抵抗は出来ずにいた。
飛鳥は思う
(私にもこんなことがあった)
と懐かしんでいた。
(私は村の人達に嫌われていたから暴力を受けることもあったな……よし、悪人滅殺だ)
飛鳥は黒髪を虐めている人達を葬ろうとしたが、そこで一歩歩いて止まってしまった。
『貴方の手は人を守るためにあるの。人を傷つけるためのものじゃない……わかった?』
継国
暴力でないなら……
『威圧よ!! 』
手を出さなくても目で伝えればいい、それでも駄目なら言葉で抑える。
飛鳥は路地裏を歩き出して、サラサラ黒髪の胸ぐらを掴んでいるノッポの腕を軽く掴んだ。
「あ?なんだお前」
「知り合いか?」
「知らねぇよ。どけよお前」
ちゃんと目を合わせ、飛鳥は心の中で唱える。
(今すぐここから消えてくれ、じゃないと……)
殺すというような目がノッポ達を貫いた。
これは殺気に近いもので、百合と勝炎がよく使うものだった。
説教をされている時に話を聞いていなかったら殺気で脅してくる。修行の時に刀に殺気が纏わりついて恐怖で震えることもあった。
身近な殺気があるから、飛鳥は簡単に覚えてしまったのだ。
「っ腕を離してくれ! 」
「もう行こう!」
ノッポ達はバタバタとどこかに消えてしまった。
さらさら黒髪の子は顔面に痣ができていたり服がボロボロで乱れている。
「大丈夫?……じゃないか。済まないすぐ助けてやれなくて」
「……」
飛鳥は黒髪に向けて深くお辞儀した。
飛鳥はもう少し早く助けてやれただろうという確信があった。でも、早く助けた場合はノッポ達の顔面が脹れ上がっていたので仕方がない。手を出さなかっただけマシだ。
「……」
「えっと、痛いのか? 」
黒髪はずっと黙って俯いている。
「あ……どうしたんですか?」
飛鳥は敬語を使う。だが、なんの意味もない。
(敬語の方が印象が柔らかいだろうか……? )
「━━━腹、減った…………」
「……あ」
腹が減った。黒髪の子はそれだけ言って倒れてしまった。
飛鳥は体を支えてやるとあまり肉が付いていないことがわかった。きっと満足なご飯が食べられなかったのだろう、と飛鳥は思い近くの木陰プラス雑草が生えてて気持ちよさそうな所に黒髪を寝かせた。
(お腹が減ってるならいっぱい食わせてやろ)
飛鳥は勝炎の財布を持って、魚の干物とか日持ちしそうな物と果物を買う。
人は少ないが店はちゃんとやっていた。
それらを両腕に抱えて、黒髪の子の方に向かう。
黒髪の子は起きてはいるが空腹で動けず、涎を垂らしていた。
「お腹がすいているんですよね。これ全部あなたにあげますから食べてください」
ずい、と目の前に差し出す。
知らない人から貰ったら食べないかもしれない、これ全部嫌いな物だったらどうしようと、飛鳥は心配したがそんなことはなかった。
目を輝かせて何度もこちらを見たと思ったら、飛鳥の腕から全部掻っ攫いてガツガツと食っていく。
喉に詰まらせないか心配で水も差し出す。
(いい食べっぷりだ。何日食べていないんだろうか……)
飛鳥は黒髪の横に座りながら木陰で涼む。ちょうどいい影の大きさで暑くも寒くもなかった。
それと、雑草が気持ちいい。
「あの、ありがとうございます……。食べ物も……お金返します」
「いや、いいんだ気にしなくて。後敬語じゃなくていいその方が楽だろう? 」
「でも…………」
「私は別に見返りが欲しくて助けてやったんじゃない。だからいらない」
(元々この金師匠の物だし)
「どうして……なんで助けたんだ。普通は見返りが欲しくて助けるだろ。」
気味悪いと言いたそうな黒髪の少年は飛鳥を疑問に思った。
助けてくれるやつは助けたから金くれと要求したり、そもそも助けなんてしてくれず見過ごされる。だから、飛鳥のことがおかしいと思ったのだ。
「私は……暴力沙汰になった時こうして助けられたかった。食べ物も自分の金じゃなく他人の金で食べるご飯が一番上手いし。だから私がして欲しかったことをお前にしただけだ」
「はぁ……?やっぱあんたおかしい奴だ」
「そうか…………」
▼
「あんたも泥水啜ったことあんのか!? 」
「ある。だがクソまずいな」
「わかる、生きるためには飲むしかないけど絶対飲みたくない。不味い」
「私は鼠も食べたことあるぞ」
「ガチかよ……」
「だが三日間嘔吐が止まらなかった」
「だろうな」
話す度に仲良くなっていく。同じ境遇だからか話せば共感出来ることも多く、黒髪の少年の顔は最初よりも柔らかくなっていた。
「……私はそろそろ帰らなければいけない。暗いし、鬼…………じゃなくて悪い奴が出る。お前も帰った方がいい」
「あぁ、そうだな……」
黒髪の少年は少し悲しんだ。帰る家はないし今日もどうせ野宿だろう、またあの生活に戻ってしまう。
少しの時間お話したけだなのに、その少しの時間が寂しくなってしまうほど楽しかった。
もう会えないかもしれないと思うと悲しいのだり
「━━━そんな顔するなよ……いつかまた会えるだろ。この国は狭いんだ、必ず会える」
「そうだな…………」
「そうだ、この財布あげる。好きに使っていい。また会った時にでも返してくれ」
「え?」
「うん」
「は?」
「…」
飛鳥は無理やり財布を押し込んで少し遠くへ離れる。
黒髪の少年は動きが固まって、脳の働きも停止した。意味がわからなかった。
普通あって一日も経ってないやつに財布を渡すか? いや、渡さない。だがこれは普通であれば。
飛鳥は普通ではない。
「じゃあ、返すまで死なないでくれ」
「…は、ちょっ」
飛鳥は止まらずどんどん走っていってしまう。
声は届かないし、きっと聞こうともしない。
(━━━━あぁ、名前言ってない)
(━━━━━━━名前…………聞いてない)
獪岳という名を持つ少年は後悔した。
▼
(帰ったら師匠に怒られてしまう…………財布は持ってないし買い物もしてない。それに帰ってきた時は夜)
(私は馬鹿か? )
飛鳥はしょぼんと落ち込んだ。
人物紹介〜
継国飛鳥(つぎくに あすか)
主人公
鼠だけじゃなく蚯蚓も食べた
一心勝炎(いっしん しょうえん)
育手
財布は……?
煉獄槇寿郎(れんごく しんじゅろう)
友達
急な任務 急な用事
特別出演〜
獪岳
左手には桃の乾燥したやつ、右手には飛鳥の財布
明治コソコソ噂話〜
飛鳥の身長は小さいので、獪岳は同じ歳くらいかな? と勘違いしているかもしれませんね。
次会うときは、二人とも隊服を着ているはずです。
次回・助けて欲しいなんて言ってない