とあるタクシードライバーの日々 作:サビサビボンプ
一夜明けた三分街。そこにある共生ホロウ内、そこにフレデリックは潜んでいた。
「目標、来たわよ」
物陰に潜むジェーンの声が耳に届く。
セス、朱鷺、青衣は頷き、各員へ合図を送る。
そして、
「連続傷害殺人犯フレデリック・アーシェリー! 治安局だ! 大人しく投降せよ!」
わざわざ大声でこちらの存在を報せ、当てる気の無い射撃を行う。
姿を見せ、射撃を行うのは機械人以外の人やシリオンの治安官のみ。
「なんで……?!」
その姿を見たフレデリックは一目散に逃げ出した。
「ミフネさんの読みが当たった」
「各員、作戦通りに行動を!」
「うむ、各員奮起せよ」
ミフネ曰く、フレデリックは狂っているがまだまともな部分が生きている。
機械人しか襲っていない事が証拠だと。
「俺やリェンの部隊は基本機械人のみで構成されていた。俺の部隊は警護を主としていて装甲の分、警護対象の盾になり易い。リェンの隊も機械人特有の理由だ」
機械人はパーツの交換で身体機能を調整出来る。
故に顔等のパーツをそれ用に交換すれば、表情の読まれない諜報員として活躍しやすい。
身体各部も静音性を重視すれば、潜伏も容易になる。
人間やシリオンには不可能な方法で、機械人はアドバンテージを得やすい。
それ故に、その機能に特化した部隊を作るのに最適と言える。
「だからこそ、奴の周りには機械人しか居なかった。そして、自身の狂った正義を否定しに来たのも機械人。あいつの中じゃ機械人は敵、それ以外は守るべき市民って分類になってる筈だ。だから、そこを揺さぶる」
守るべき市民とした人間とシリオン、それも今回は自身と同じく正義を為す治安官からの攻撃。
あの時、セスがミフネの前に立った瞬間から攻撃の姿勢が緩んだ。
その前もセスだけは拘束を目的とした動きだった。
「奴は混乱する筈だ。同じ正義を為す治安官から攻撃を受け追われる。自身の正義と行い、正気と狂気の間で、取れる行動は一つだけになる」
何故と、フレデリックは問う。
何故、同じ正義の徒である自身を治安官が逮捕しようとするのか。
分からない。理解出来ない。
だがそれでも、相手は同じ正義の徒にして守るべき市民。攻撃をする訳にはいかない。
だから、フレデリックは逃げた。
莫大な多腕を用い銃撃の間を縫い、建物の隙間を這い回り、治安局の包囲網の隙に入り込み、ひたすらに逃げた。
そして、気付いた。
否、思い出した。
この戦法は奴だ。あの日、自身の正義を妨げた男。
敬愛し、妬み憎悪し焦がれた男。
「よう、クソガキ」
「隊長、隊長! ……ミフネ!!」
全身に接続した腕を一斉にミフネに叩き付ける。
通常ならこれだけで粉砕出来る。
しかし、相手はあのミフネ。
この程度であの男が死ぬ筈がない。
「ちったぁましになったか」
その声が聞こえると同時に、腹が爆発したかの様な衝撃が走る。
ミフネの拳、バーニアで加速された鉄塊が射出された勢いのまま、フレデリックの腹に突き刺さる。
「ミフネ!!」
「喚くな。聞こえてる」
射出された右腕を回収するついでに、腕と体を連結するチェーンソーでフレデリックの多腕を切り裂く。
揺さぶられた影響か、表情変化を抑えている筈の表情モジュールには憎悪と怒りの二色に染まっていた。
「何故、邪魔を! 僕は僕の正義を!!」
「クソガキ、俺の言った事も忘れたか」
なら、と、ミフネの両前腕の装甲がリング状に展開し、高速回転を始める。
「俺は言ったぞ。正義は誰のものでもない。誰かのものになった瞬間に、正義はただの個人の思想に成り下がる!」
「うるさい! 僕の、僕が正義なんだ……!!」
ただの腕や工具の様な腕、多種多様な腕が津波の如くミフネに襲い掛かる。
だが、それら全てはミフネの両腕が破砕していく。
「ミフネ!!」
「ああ」
フレデリックの腕、その半数を破砕し、ミフネは真っ直ぐに向かっていく。
あの時もそうだった。あの日、フレデリックを捕縛した時も、同じ様に向かってくる腕を全て破砕して、最後はフレデリックの両手足を破砕して終わらせた。
だが、今回は違う。
「隊長!」
「ああ、俺はここだ」
最後の腕、見覚えのある男女の腕を砕き、フレデリックの両手足を粉砕する。
そして、フレデリックの頭部を破壊しようと右腕を振り抜く。
「ダメです……!」
しかし、それは青い治安局の正義の色をした盾に弾かれた。
「ミフネさん、フレデリックは逮捕します!」
「小僧、まだんな事言ってんのか?!」
「当然です! オレは治安官でミフネさんは一般人、容疑者を裁きの場に送る責任はオレにあります!」
真っ直ぐに感情の見えないミフネの目を見据え、セスは堂々と宣言する。
「それがお前の正義か?」
ミフネは問いかける。
「いいえ、オレの正義じゃありません。これは治安官としての正義です」
「そうか。……好きにしろ」
「はい。フレデリック・アーシェリー、連続傷害致死並びに遺体損壊の容疑で逮捕する!」
四肢を全て失い、ただ地面に倒れ伏す事しか出来ないフレデリックは無言で、セスの言葉を受け入れる。
ミフネはそこで自分の役目が終わったのだと悟った。
「ミフネさん!」
「ああ、婦警さんか」
他の治安官が追い付き、フレデリックを担架に乗せて運んでいく様子を眺めながら、紫煙を吐き出す。
「あと、任せていいか。ちょっとばかり疲れた」
「あ、はい。それは当然ですが、何処へ?」
「帰る。家にな」
「いえ、待ってください」
落ちていたハンチング帽を拾い、現場を後にしようとするミフネを、セスの声が止めた。
「ミフネさんも事情聴取に協力願います」
「は? ここまで協力してんだぞ? 聴取はいいだろ」
「いいえ、フレデリックに正しい裁きを受けさせる為にも、ミフネさん側の証言も必要なんです」
「……頭の固い奴だ。分かった。だが、今日は帰らせろ」
ああ、疲れた。
ミフネは呟き、天を仰いで紫煙を空に漂わせた。
◯◯年後のミフネさん家
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