とあるタクシードライバーの日々   作:サビサビボンプ

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単話
機械の案内


「ミフネさんよ、なんか大変だったみたいだな」

 

タクシードライバーの寄り合い所、そこにあるベンチでミフネは大手のタクシー会社のドライバーと、客待ちを兼ねて将棋を打っていた。

 

「何がだ?」

「噂になってるぞ。どこぞのゴツい機械人が治安局の大捕物に協力してたって」

「ゴツい機械人なんぞ、俺以外にも居るだろ」

「いやいや、治安局に協力出来る機械人なんぞ、あんたくらいなもんだろ。っと」

「んな事あるかよ。ほれ」

「げっ……!」

「んじゃ、次の太客は貰うぞ」

 

新エリー都の各所にあるこの寄り合い所は、タクシードライバーの休憩所兼情報収集の場だ。

新エリー都のタクシードライバーはここで、各街区の情報や最近の傾向。時折、厄介な客の情報を交換したりして過ごしている。

 

「まったく容赦が無いな」

「飛車角両方遊ばせてるのが悪い」

 

ミフネはそう言うと、側に置いてあった缶を呷る。

安物のコーヒーだが、高級だろうがミフネにはあまり関係ない。

 

「しかし、解体屋事件の犯人。裁判延びたみたいだな」

 

同僚が畳んであった新聞を広げ言う。

 

「そりゃまたなんでだ? あれだけの事したんだ。治安局もさっさとムショにぶちこむ筈だろ」

「なんでも記憶に障害があるとか書いてるな」

「元軍人っての、なんか関係あるんかね」

 

不味い不味いと皆が言う缶コーヒーを飲みながら、同僚達の会話を聞く。

流石の司法機関も、フレデリックの状態を正常とは見なかった。もしくは治安局が手を回して、裁判を遅らせたか。

どちらにせよ、ミフネにはもう関係のない話だ。

 

「なあ、ミフネ。あんた、たしか元軍人だろ。なんか知ってたりしないか?」

「元軍人っても、隊が違えば情報なんぞ入ってこん。それに元、だ。軍との縁なんぞ、とっくに切ってる」

 

至極どうでもいい、といった態度でミフネは立ち上がり、空き缶をゴミ箱に捨てる。

 

「それに退役した末端の軍人に話なんざくるかよ」

「それもそうか」

「ミフネは出世出来なさそうだしな」

「うるせえよ。んじゃ、俺は先に出るぞ」

「お、客入ったか」

「まあな」

 

ミフネは手を振ると愛車に乗り込み、バックミラーでハンチング帽とジャケットを正す。

今回の客は良客も良客。気負う必要は無いが、それでも気にはなる相手だ。

 

「さて、行くかね」

 

ハイウェイに乗り、事前に連絡があった場所へ向かう。

カーラジオからはアイリが熱を上げている歌手の声が聞こえてくる。

ミフネにはよく分からないが、最近の若者にはこれがいいのだろう。

 

「何て言ったか……。ア、なんだったか」

 

確かアとラが入っていたのは覚えている。

アラジオではない、アラガキはバカやって建物ごと吹っ飛んだ奴。

はて、なんだったか。信号を待ちつつ考える。

 

「あー、アラマキだったか」

 

赤が青に変わり、アクセルを踏みウインカーを出す。

ハンドルを回して、角を曲がればそこが目的地だ。

 

「お待たせした」

 

ハイウェイの陰、そこに隠れる様にして建つ古めかしい喫茶店。

そこの軒先に立つ人物、白狼のシリオン、〝ヴィクトリア家政〟執行役〝フォン・ライカン〟。

彼が今日の客だ。

 

「ミフネ様、本日は御無理を申しまして……」

「あー、気にすんな。で、あんたが俺を頼るって何があったよ」

「はっ、実は……」

 

後部座席に座り、ライカンは手短にしかし詳細に語る。

 

「つまり、今の雇用主が普段とは違う店に呑みに行きたい。しかも、下々の者が行く様な寂れて汚ねえ店に」

「あ、いや、そこまでは……」

「冗談だ。まあ、金持ちが行かない所でセキュリティもある程度の店を知りたいって話だろ?」

 

いい趣味してるじゃねえか。

カラカラと大口を開けて笑うミフネと、申し訳なさそうに頭を下げるライカン。

しかしまあ、わざわざ市井に降りてくるとは、本当にいい趣味の金持ちがいたものだ。

 

「で、あんたはその店の下見か」

「はい、その通りです」

 

さて、どうするか。

いくつか候補はあるが、基本はチェーン加盟店。味も安定して、セキュリティも最低限は確保されているが、これはライカンの雇用主の要望から外れるだろう。

となると、味もセキュリティも安定した個人経営の店になる。

そして、ただのタクシードライバーであるミフネにそんな事を聞いてきた事にも意味がある。

 

「ミフネ様、お心当たりは御座いますでしょうか」

「ああ、あるぞ。味もセキュリティも安定して、しかも元軍人の俺の知り合いがやってる店がな」

 

目を見開くライカンに、ミフネはまた大口を開けて笑う。

ライカンとは店長達の裏稼業の関係で知り合い、そこから何度か話をする仲になった。

その中で、ミフネはライカンに自身に近しい面、暴力の世界に生きていた気配を感じ取っていた。

 

「がはは! 俺と二人なんだ。そう固くなるな」

「いえ、そういう訳には……」

「あんたも若いんだ。もうちっとばかり息抜きを覚えな」

「は、はぁ……?」

 

ライカンは語らないが、おそらく裏社会で生きて何かしらあって、今の立場にまで登り詰めたのだろう。

本人は隠しているし、それを表には出さないが、足技に出てくる行儀の悪さは確かに裏社会のそれだ。

 

「まあ、今から行く所もお堅い場所じゃない。素の方でもいいぞ」

「ミフネ様、それは……」

「がはは! これで言い淀む様じゃぁまだまだだな」

 

車を走らせ、狭い路地を縫う様にして迷路の様な街並みを抜ける。

この辺りは新エリー都初期の建設ラッシュで、とにかく住居をとアパートが乱立している区画。

そこと皆が暮らす街を繋ぐ陸橋、そこにお目当ての店はある。

 

「こっからは歩きだ。ついてきな」

「はい」

 

近くの無料駐車場に停め、約数分歩いた先。

陸橋の下に隠れる様にして、その屋台はあった。

 

「森、居るか」

「居るぞ」

 

暖簾を潜ると、ニット帽を被った機械人が仕込みをしていた。

 

「お前……。客を連れて来るなら連絡しろ」

「すまんすまん。で、ライカンさん。こいつは森、俺と同じく元軍人だ」

「ミフネ、お前な……。あー、森だ。よろしく」

「私はヴィクトリア家政執行役のフォン・ライカンと申します。森様、本日は誠に有難う御座います」

「あー、かしこまらなくていい。こいつがここに連れてきたって事は、気を張るなって事だ」

 

まあ、座れ。と、森に促され長椅子に座る。目の前には四角い木蓋が被された鍋。出汁が張られたそこに、森が大根やロールキャベツ等を放り込んでいる。

その手捌きを見ながら、ライカンは元軍人だと言う森の腕前と過去を察した。

ミフネと同じく、人の様な表情の変化は無い。

だが、目の装甲の奥でバイザーが上下し、それで表情を作っているの。おそらく今の表情は笑みなのだろう。

 

「それで、ヴィクトリア家政ってぇ事は金持ちの客でも引っ張って来てくれるのか?」

「おう、味とセキュリティのしっかりした汚ねえ店教えろってよ」

「ミフネ様?!」

「だはは! 味とセキュリティはどうかは知らんが、汚ねえ店は当たりだな!」

 

カラカラと笑う機械人二人。

似た者同士なのか、口さがない言動が目立つ。しかし、これはよく見知った相手だからこその態度なのだろう。

 

「しかし、森様。私共の事をご存知なので?」

「ああ、ヴィクトリア家政って言ったら金持ち、要人御用達の家事代行サービスだ。有名だぞ」

「なんだ、知ってたのか」

「屋台の店主ってのは、耳聡くないとやってけんのだ。で、だ。何食うよ」

 

まだ染みてはないがな。

森が蓋を開けると、ライカンでも驚く程の出汁の香りが鼻を擽る。

これからもまだやる事があるので、軽く大根と竹輪にがんもどきを注文したがやはりというべき味で、雇用主の期待に応えられるだろう。

セキュリティに関しては、あのミフネの知人という事もあり、立ち振舞いに隙が無い。

ここに自分達が加われば、セキュリティも問題は無い。

 

「ミフネ様、本日は誠に有難う御座います」

「お眼鏡にかなったか」

「はい、問題なく御主人様のご期待に添えるかと」

「何時来るかはここに連絡してくれ。人数分仕込んでおく」

「感謝の極みで御座います」

 

後日、ライカンは森の屋台に雇用主を案内し、雇用主もいたく気に入り、度々お忍びで訪れる様になったと、ミフネに嬉しそうに語った。

◯◯年後のミフネさん家

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