とあるタクシードライバーの日々 作:サビサビボンプ
「やあ、ミフネさん」
「おう、店長」
ハンチング帽を軽く上げる。
〝RandomPlay〟の店内、その奥の部屋で店長兄妹に呼び出されたミフネは、一体どうした事かと二人に疑問する。
「ミフネさんにちょっと頼みたい事があってね」
「俺に? 店長達なら乗車賃割引が利くぞ」
タクシー配車依頼かと思い言うが、二人の顔からそれは違う様だ。
「実はちょっと厄介な事になってるの」
「厄介?」
リンから聞く話では、二人はプロキシとしての依頼を受け、その依頼を達成したらしい。
しかし、その依頼で問題が発生した。
「つまり、店長達は郊外の走り屋連中からの依頼を達成したが、その邪魔をしてきた連中が郊外から都市に逃げ込んだ。と」
「そうなんだ。で、なんだけど……」
「なんで俺なんだ? 所詮やくざ者、治安局の婦警さんと小僧共に任せりゃいいだろ」
「そこ、なんだけど……」
リンが気まずそうに、指を合わせながら説明する。
二人が受けた依頼自体は、プロキシ行為以外は違法ではない。しかし、そのプロキシ行為が問題だ。
二人が治安局に通報すれば、何故それを知っていると詰められるだろうし、治安局も郊外までは手が回らない。
そして、もう一つの問題。
「都市に逃げ込んだ。そこまでで、動きを見せてないか」
「うん、一応シーザー達から情報か引き渡しを依頼されてね」
「ああ、郊外は郊外のルールか。しかし、軍用素体の機械人ねぇ」
そのシーザー達が交戦した連中の中に、ミフネと同じく軍用素体の機械人が居た。
どうにか撃退出来たが、そいつの脅威は無視出来るものではなかった。
「ちなみに、そいつの写真とかあるか」
「ああ、イアスの記録にある。これだ」
アキラが一枚の写真を手渡す。
若干ブレているが問題なく見れる。
その写真を見て、ミフネは声を漏らす。
「おお、
「みつはし?」
「お? 店長達は知らんのか? まあ、軍に関わりなければ知らんか。当時の軍関係の研究所じゃ、次世代の軍用素体の研究開発が盛んだった。三觜はその研究所の一つだ」
過去、旧都陥落以前のエリー都ではエーテル技術開発とホロウ研究、そして知能機械人の軍用素体の開発。
これらが盛んだった。
そして軍用素体の開発は軍内で盛んであり、幾つのも研究所が鎬を削っていた。
「アイリの両親の研究所もその一つでな。よくちょっかいをかけてきた」
「ちょっかい? 同じ研究所なんでしょ?」
「正式採用を巡って争っていてな。同じ三觜研のケンリョウとジンザンとはよくやり合った」
「ケンリョウ? ジンザン?」
「写真のこいつと同じ素体の機械人。まあ、素行の悪い連中でな。よく軍人になれたよ」
ミフネが見せる写真にはミフネとは違う素体。人よりも獣、無理に例えるならライカンに似た雰囲気の機械人が写っていた。
「三觜式軽戦闘用素体。まあ、すばしっこい連中でな。手を焼いた」
「でも、軍人なんだよね? なんで、郊外に居たの?」
「んー。大方、軍の再編時のゴタゴタに紛れてそのまま退役したか、逃げ出したか。かねえ」
「逃げ出した?」
「あー、旧都陥落の後、ちょっと色々あってな。戦死したと思ってた奴が実は生きてたみたいな事がな」
まあ、多分その手だろうなぁ。
ミフネもそのゴタゴタに乗じて退役した身、タクシードライバーになれたのは運が良かった。
こいつはそうはなれなかったか、なる気がなかったか。
まあ、どちらにせよ。捕まえなければ良からぬ事になるのは確実。
だからこそ、二人の依頼に違和感がある。
「なら、尚更その走り屋に任せりゃいい。治安局にも、匿名でタレこめばいい。ただのタクシードライバーの俺じゃなくてもいいだろう」
「そこがね、問題なんだ」
「問題?」
アキラの説明によると、その依頼をした走り屋は郊外の覇者代理。郊外の者が起こした問題は郊外の法によって裁かれる。それを都市側に確保されれば、覇者の面目が潰れる形になる上、治安局や新エリー都の介入を郊外に許す事になる。
「面倒な話だな」
「シーザー達も自分達が動くべきだと言ってたけど、郊外も郊外で色々と問題があるみたいなんだ」
「ねぇ、ミフネさん。無茶は承知でお願い!」
リンに拝まれ、ミフネは悩む。
フレデリックの件は自身の尻拭いもあった。だが正直な話、軍に関係する事に関わりたくない。
しかし、アイリの事で店長達には世話になっている。
この依頼を断ったからと、店長達がアイリのバイトを中断させたりする人物ではないと理解している。
ミフネは溜め息を吐いて、二人の依頼を受ける事にした。
そして、新エリー都にある共生ホロウ内部。
何も変化の無いホロウだが、二人曰くこのホロウに逃げ込んで、ここで物資を集めているらしい。
「で、リン店長。ここら辺か?」
『うん、この近くみたい』
イアスと同期したリンが答える。
場所は何かしらの工場地帯、エーテル関係の物資を求めているならこれ以上ない場所だろう。
『そう言えばさ、ミフネさん』
「なんだ、リン店長」
『ケンリョウとジンザンだっけ? その人達に話とかってしないの?』
「あの二人はもう死んでる。旧都陥落の日にな」
『そうなんだ……』
「気にするな。軍人だからそういう事もある」
顎を撫で、ハンチング帽をイアスの頭に乗せる。
そして、アッパー気味に左腕を振り上げる。
「お? 随分軽いな」
「けっ、んだよお仲間か。しかも高羽式かよ」
ミフネが弾き飛ばした三觜式機械人は、獣めいた外見で唾を吐き捨てる様な仕草で溜め息を吐く。
「まあ、いいか。なあ、同じ機械人で多分元軍人だろ? ちょっと仕事でヘマしただけなんだ。見逃してくれよ」
「ああ? 三觜式にお前みたいな趣味悪い奴知らんぞ」
ミフネの言う通り、素体は弄っていない様だが、その装甲には趣味の悪いペイントが刻まれている。
「おいおい、遊び心ってのが無いのか? それとも、上官みたくお堅い年寄りなのか?」
なあ、と言い終わる前に男はミフネの眼前に迫っていた。
武器は持っていない。だが、その鋭利な指先から更に鋭利で湾曲した鉤爪が飛び出し、ミフネの脇腹を削る。
「かっ、てぇな! これだから高羽式は嫌なんだ!」
「…………」
しかし、男の鉤爪はミフネの身体に傷一つ与えられていない。
「……ふむ」
「なんだよ?」
ミフネは少し考える仕草で頭を掻くと、ジャケットから煙草を取り出し、紫煙を吐き出す。
「爺、煙草吸いながら余裕アピールか? これでも俺は三觜研の……」
「……思い出した。お前、ケンリョウとジンザンの腰巾着だった奴だろ。名前は確か……、エンカイだったか?」
「は? なんでお前それを?! ってか待て! 隊長達を呼び捨てに出来る高羽式……。まさか?!」
「なぁにやってんだガキ。もういっぺん、頭凹まされてえか」
「ミ、ミフネ大尉!」
「元だ。クソガキ」
ミフネの振り下ろした右拳の一撃で、三觜式機械人エンカイは簡単に沈黙した。
「はー……、ジャケット破きやがって。これ、どう言い訳するか」
『ミフネさん、終わった?』
「ああ、終わった終わった」
リンはミフネにハンチング帽を返すと、地面にめり込む様に倒れたエンカイに目を向ける。
『知り合いだったの?』
「昔馴染みの腰巾着だった奴だ。威勢と立ち回りだけは上等な奴だったが、まさか郊外で生きてたか」
で、どうするんだ。
ミフネはエンカイを拘束しながら問うた。
『後でシーザー達が回収に来るよ』
「そうか。なら、今日は帰る。報酬は後日頼む」
『うん! シーザー達からも貰ってるからいつもよりたっぷりだよ!』
「それは楽しみだ」
携帯灰皿に吸殻を押し込み、ミフネは事前に指示された裂け目に入る。
仕事は終わった。後はこの破けたジャケットをどうするか。
溜め息を吐きながら、少し疲れた足取りで夕焼けの街中を帰路に着く。
「………」
その後ろ姿を、長身の女性が見つめていた。
◯◯年後のミフネさん家
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