とあるタクシードライバーの日々   作:サビサビボンプ

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なぁ、店長

ここは新エリー都、十年前に起きた事件により急速に発展せざるを得なかった都市。

人間、動物の身体的特徴を持つシリオン、知的機械の体の機械人を主とした街で、謎の災害〝ホロウ〟の調査、対策技術、〝エーテル〟の資源利用を確立した奇跡の街でもある。

そして、ホロウ災害に伴う治安の低下も名物であり、街区によっては治安維持機構が機能せず、非合法組織が牛耳っている区域もあり、名の知れたアウトローも存在する。

有名な連中だと邪兎屋、最近だとメンバーが一人増えたらしく、前以上に騒がしく動いているらしい。

 

それ以外にも、白祇重工等の正規の企業が正式にホロウ内の再開発に乗り出したり、更なる発展が顔を見せ始めている。

そんな新たな活気と姿を見せない闇が入り交じる新エリー都の六分街にあるレンタルビデオ店の〝RandomPlay〟

兄妹の二人で営むこの店はビデオのレンタル以外にも、ビデオデッキの修理も受けている。

そんなレンタルビデオ店に一人の客が現れた。

 

「なあ、店長」

 

若干のノイズ混じりの太い声、それに似合った太い鋼の手指。そっとカウンターに置かれたビデオの束が入った袋を見て見上げる顔は半球状でボンプの様な画面に丸い光の穴の様な目が二つと、ブリキのロボットのオモチャの様な口。

おおよそ感情の見えない顔だが、店主の一人であるアキラは笑みを浮かべて袋を受けとる。

 

「やあ、ミフネさん。僕のオススメはどうだったかな?」

「ああ、娘も喜んでいたよ。で、次はもう少しコメディ寄りなものを借りたいんだが」

「ああ、それならこれとかどうかな?」

 

アキラはカウンターから立ち上がり、棚からいくつかのタイトルを抜き出し、三船に差し出す。

 

「懐かしいのがあるな」

「ミフネさん、結構マニアックなの知ってますね」

「ああ、昔観たんだ。じゃあ、これを頼む」

 

ミフネが代金を支払い、店を後にしようとした時、ふと思い出した様に口を開いた。

 

「そう言えば、店長」

「ん、何かありました?」

「いや、ちょっと聞きたい事があってな」

 

ミフネはハンチング帽を脱いで、フレキシブルチューブの様な指で黒い装甲の頭を掻く。

 

「あー、なんだ? 最近の娘っ子ってのは、どうして足やら腹やら放り出した格好をするんだ?」

 

液晶の目が細く呆れた様な表情を作る。

この問いにアキラは首を傾げる。

ミフネにしては珍しい質問だ。だが、アキラはすぐに思い当たった。

 

「〝アイリ〟と何かありました?」

「あ、いや、その、……アイリの奴、最近色気ついて妙に露出の多い格好しだしてなぁ……」

 

ミフネが大きい体を曲げて溜め息を吐く。

ミフネには娘が居る。アイリという子で、ミフネが親代わりで守り育てている。

来年にはもう高校生になるのだが、ミフネはどうにも過保護というか、まだ小学生くらいと認識していないかと心配になる。

まあ、アキラとしても心配になるのは理解出来る。

 

「そういう年頃なんでしょうね」

「そういうもんなのか? あれか流行りとかか?」

「んー」

 

流行りかと聞かれると困る。

アキラの周りも露出が激しい格好の異性は沢山居る。

しかし、ミフネの言う露出は少し違う気がする。

 

「ミフネさん、ちなみにアイリのしてた格好って?」

「あ? まさか店長、うちの娘に手ぇ出そうとか考えてるか?」

「いやいや、そうじゃなくてね。僕も知らない仲じゃないから、あんまりに派手な格好なら僕からも注意しとかないとって」

 

拳を構えたミフネに慌てて否定する。

 

「あ、ああ、店長からも何か言ってやってくれ。……で、写真なんだが……」

 

ジャケットからスマホを取り出すが、すぐに首を傾げる。

 

「店長、これ写真はどうやって出すんだ?」

「え? ああ、このファイルに入ってるんじゃないかな」

「ファイル? ああ、これか」

 

ミフネが慣れない手付きで画面を操作し、一つの画像を表示する。

それは友人と思わしき数人と赤髪の利発そうな少女が笑顔でポーズを決めている写真だった。

 

「んー、ミフネさん。僕にはそんなに過激な格好には見えないけど……」

「馬鹿言うな。こんな短いスカート、すっ転びでもしたらどうすんだ?!」

「いやいや、今は大体こんな感じだって」

「ああ?」

 

画面にある写真は学生服。だが、改造しているのかスカートが若干短い。

だが、今の学生はこんなものだろう。現に妹のリンも似た様なものだ。

だが、ミフネにはそれが信じられないらしい。

 

「分からん。分からんなぁ、最近の娘っ子は……」

 

また溜め息を吐くと、時計を確認する。そして、ジャケットのポケットから数枚のチケットを手渡す。

 

「割引券、チェーン店のだが話を聞いてもらった礼だ」

「予約でも入ってた?」

「いや、今日はアイリが迎えに来いってよ」

 

何処か嬉しそうな色を感じる声音、心なしか足取りも入店時より軽い気がする。

 

「じゃあ、今日は映画パーティーかな?」

「ああ、試験勉強で疲れたから笑えるコメディが観たいってよ」

 

笑みを作り、店を後にする。

向かうのは仕事道具の愛車、自身と同じく軋みが目立つがまだ現役だ。

キーを回し、喧しいエンジンに火を入れる。

幾度か唸りを挙げて、発進の合図の雄叫びを聞いてアクセルを踏む。

目的地は娘の学校、運ぶのは学校帰りの娘。

ミフネ・トシゾー、耐久性と出力ばかりが自慢の旧型ボディの元軍属戦闘型知的機械人で、今はしがない子持ちのタクシードライバー。

今日も明日も体と愛車の軋みを聞きながら、この新エリー都で様々な人々を運ぶ。




ミフネ・トシゾー
元軍属、十年前の災害から軍を抜けて娘を養う為に新エリー都でタクシードライバーを始める。
ボディはビリーの様なロストテクノロジーではなく、旧型ボディで耐久性と出力に突出している。
モデルはロボット残党兵の日の丸人

◯◯年後のミフネさん家

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