とあるタクシードライバーの日々   作:サビサビボンプ

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今回よりシルバー編に入りますが、少々オリジナル要素を入れます。


銀の終焉
銀の廃棄物


その男、森悟は一日の仕事の片付けの大半を終え、あとは明日の買い出しのリストアップと、愛用の包丁の手入れを残すだけだった。

 

「ふっ、穏やかなものだな」

 

静かな月夜、月は不穏な影に蝕まれているが月明かりは至極穏やかで、屋台の明かりと僅かな街灯がおまけと人里の暖かさの様なものも足してくれる。

軍に居た頃では考えられなかった時間、常日頃から血で血を洗い、誰かの命を奪い続けた毎日。

あの男、ミフネも同様に今の時間を穏やかだと思っているだろうか。

 

「さて、あとは……。ん?」

 

森の視覚素子が、夜闇になにかを捉えた。

野良猫か野良犬の類いかと思ったが、それにしては大きい。

ここはホロウも近く、ホロウレイダーかとも思うが連中にしては動きが妙だ。

動きが素人過ぎる。それに視覚素子が捉えた影から推測する大きさは、大人のそれとは思えない。

 

「誰だ?」

 

声を掛けるが返事は無い。

森の視線の先は共用のゴミ捨て場。気の早い婦人達が早くもごみ袋を積み上げている。

そこに埋もれる様にして動かない。

まさか、あれで隠れているつもりなのだろうか。

 

「おい」

 

念の為、鍋を持ち包丁を隠して近づく。

ホロウレイダーの囮役とも考えたが、その日暮らしのおでん屋のオヤジなんぞ襲っても二束三文にもなりはしない。

頭の軽い荒くれ物でも、その程度の理性と知性は持ち合わせている筈だ。

 

「おい、喋れるなら返事をしろ」

 

やはり返事は無い。

森は溜め息を吐き、ゴミ捨て場へ歩む。

そして、見た。ゴミ捨て場、そこに潜む者の正体を。

 

「なっ……!?」

 

森は驚愕するが、すぐに行動を開始した。

そして翌日、ミフネのスマホが鳴る。

 

「はい、もしもし……」

『お父さん!! なんで森さんからの電話出てないの!?』

「電話? 森から?」

 

車内で取った電話、アイリからの連絡ではなにやら森から連絡があったらしい。

 

『返事が無いからって、私にかかってきたんだよ!』

「おう、そうか。で、森はなんて?」

『もう! なんか手を貸してほしいから屋台まで来てってさ』

「手を? あいつなにしやがった」

『分かんない。でも、あの森さんがかなり困ってたよ』

「森が?」

 

とりあえず分かった。

ミフネは二言三言アイリと言葉を交わし、森の屋台へと車を走らせる。

森は軍属時代から冷静で、滅多に他人を頼らない男だった。その森が他人を頼る時は決まってかなりの厄介事で、放っておくと更に手がつけられない事態になる。

だから、話が来た時点で介入する。

 

「森、来たぞ」

 

ハンチング帽の位置を直しながら、屋台の暖簾を潜る。そこは普段と変わらないニット帽の森が、最近始めたモツ煮の鍋を混ぜていた。

 

「来たか、ミフネ」

「来たかって、お前。何があった? アイリにまで電話してまで」

「いや、なぁ……」

 

珍しく歯切れが悪い。目のバイザーが降り、どう説明したものかと円筒形の顎を撫でている。

ミフネは何があったのかを考えるが、森本人や屋台にも問題は無さそうだ。

では、何があったのか。疑問しながら、森の答えを待ちつつ長椅子に座った。

 

「実は、……ちょっと困った、事になってな」

「それは聞いてる。何が困った事なんだ?」

「それがなぁ……」

 

森が答えようとした時、屋台の下から空の椀が出てきた。

 

「あ? ガキ?」

「そうなんだ……」

 

少し身を乗り出す形で見ると、森の足元から空の椀を掲げていたのは白に近い銀髪の少女だった。

 

「何処のガキだ?」

「分からん。一応、治安局に連絡も考えたが、妙に引っ掛かってな」

「で、俺か?」

「ああ、人間の子供と関わりの深い機械人の知り合いとなると、お前くらいしか知らんでな」

 

言われてもな。と、ミフネは森が出してきた茶を飲む。

確かに、ミフネはアイリを今まで育ててきたが、アイリの場合はあまり参考にはならない。引き取る前から、妙に物分かりが良すぎた娘だ。

それこそ、両親の死を歯を喰い縛りながら受け入れる程には、アイリは通常から外れている。

それに、この子供。何処かで見た事がある。

 

「俺の話は参考にならん。それより、そのガキが何処から来たのかだ」

「それなんだが……」

「……分からない」

「……だそうだ」

 

二人で頭を抱える。

問題の子供はモツ煮を鍋からよそい、スプーンで掬い食べている。

格好は病院着に近い雰囲気の服で、所々汚れが目立つ。肌色は不健康とは言い難いが、健康とも言い難い。

食欲は人並み以上にある様で、また椀を空にして森にかわりをねだっている。

そして、元の居場所が分からないというのも、恐らくは嘘か場所の位置が分からないのどちらかだろう。

 

「で、どうすんだ? 大人しく治安局に任せるのか?」

「いや、そうするべきなんだが、な……。さっきも言ったが、妙に引っ掛かってなぁ」

 

何が引っ掛かるのか森は言わないが、軍属時代の話だろうと予想は出来る。

森は元特務憲兵隊、軍内における犯罪行為を取り締まる立場だった。表舞台に出てくる事は少なかったが、それでも森が現れた部隊は恐れ戦いていた。

その森があの子供に違和感を覚えている。しかし、こんな人畜無害を表した様な子供が軍にどんな関係があるのか。

 

「例えばなんだよ? オブシディアンかダイヤモンドの噂話か?」

「いや、まだ引っ掛かっているだけだ。やはり、治安局に知らせるか」

「なら、信用できる治安官が居る。まだ若い小僧だが、話が分かる奴だ」

「そうだな。しかしその前に、少女よ。名前は思い出せたか?」

「…………」

 

少女は何も言わない。ミフネ側からでは頭くらいしか見えないが、森はその目に迷いの様なものを見た。

 

「安心しろ。とまでは言わん。だが、俺もこいつも子供を売る様な真似はせん」

「………う」

 

ぽつりと、少女の口が動いた。

森はしゃがみ少女に目線を合わせ、ミフネはガラスのコップの中身を啜りながら、その言葉を待った。

 

「すまない。もう一度、頼めるか」

「……13号…私、……廃棄物13号」

 

その名乗りに古兵二人は目を見開いた。

◯◯年後のミフネさん家

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