とあるタクシードライバーの日々   作:サビサビボンプ

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森の外見はロボット残党兵を


銀の調査

少女は廃棄物13号と名乗った。

まさか本名な筈がないと、ミフネはセスに連絡を入れ、新エリー都の行方不明者リストを当たってもらったが、そこには該当者は居なかった。

 

「では、急いで班長と先輩に連絡します」

「ああ、頼んだぞ」

 

治安局の一室でセスが朱鷺と青衣に連絡するのを見ながら、森にしがみついている子供を観察する。

年の頃は身長から見て十になるかどうかだが、話し方や仕草はそれよりも幼さがある。

ミフネは少しばかりの懐かしさを感じながら、事の流れを整理した。

 

「とりあえず、昨日の夜に拾った。で、いいんだな?」

「ああ。昨晩、店仕舞いをしている途中、ゴミ捨て場で拾った」

「ゴミ捨て場、か。それより前の事は覚えてないのか?」

「何処から来たのか聞いても、あっちとしかな」

 

治安局に来る前、一応問うてみたが曖昧な答えしか返ってこなかった。

だが、少女が指差した方角には共生ホロウがあった。

そして、その辺りから森の様子が少しおかしい。

 

「森」

「なんだ?」

「お前、なんか知ってんだろ。今電話してる小僧は信用も信頼も出来るし、その上司もだ。何か心当たりがあるなら正直に話しとけ」

「そう、だな」

 

やはり、様子がおかしい。

どうにも歯切れが悪すぎる。

こいつがこういう時は決まって、過去の何かが関係している。

 

「ミフネさん。とりあえずですが、班長達からその子は一度、こちらで保護する形になります」

「まあ、そうだろうな。森」

「ああ、そうだな」

 

森は一度、少女をセスに預けようと引き剥がしにかかるが、一向に剥がれない。

椅子に座る森の膝に乗ったまま、がっしりとシャツを掴んで抵抗している。

 

「だ、大丈夫だからな? オレは怖い人じゃないぞ」

「待て待て待て、小僧。こういう時は気を逸らせ」

「待ってくれ。このシャツ、わりと気に入ってるから勘弁してくれないか」

「言ってる場合か!」

 

本当に気に入ってるシャツなのか、森は早々に引き剥がすのを諦めた。

しかし、セスはそうはいかない。住所不明の児童の保護は職務として当然であり、遂行すべき使命の一つだ。

だが、それと同時に市民の財産を守るのも治安官の役目。今回はあまり気にする必要は無いのだが、森のシャツと少女の安全を最大限に気にかけて、どうにか少女を引き剥がそうとする。

 

「ダメです。ミフネさん、全然離れてくれません」

「なんかぬいぐるみみたいなのは無いのか?」

「にゃんきち長官のぬいぐるみなら」

「よし、それで気を引け」

「了解しました!」

 

セスが治安局のマスコットのぬいぐるみを持ってきて、少女の気を引こうと裏声で話し掛けるが、少女は森の腹に顔を埋めてまるで反応しない。

そこで、セスはもう少し距離を詰めれば反応があるのではと、にゃんきち長官を盾に少女ににじり寄る。

 

「ヤァ、ボクハニャンキチチョウカンダヨ」

「んっ!」

 

しかし、セスの努力は叶わず、振り払う少女の手に握られていた物によりにゃんきち長官は床に叩き付けられ壁まで転がった。

 

「わっ! ミフネさん、凶器です!」

「スプーンだろ」

「なんでスプーン?!」

「こいつの屋台でモツ煮喰ってたから、その時のだな」

「いや、だからなんで?」

「いいか、小僧。こんくらいのガキは気に入った物は離さん。アイリも俺の油差しを気に入って、あちこち持ち回った挙げ句、布団を油塗れにしたからな」

「いや、それよりどうするんだ?」

 

少女は既に森の膝の上から頭に移動していた。

どうするかと、考える男二人を床に転がるにゃんきち長官が見つめている。

頑として離れない少女。先程の力から、無理に引っ張れば抱える様に掴まれている森の顎が外れるか、頚部の接合部がイカれるかの二択だろう。

 

「……と、とりあえず、その子を保護した経緯をもう一度お願いします」

「そうだな。もう少し詳しく説明するか」

 

森の屋台は六分街と七分街の境にある。

そこで昨夜遅くに、この少女が共用のゴミ捨て場に倒れていたところを、森が保護した形になる。

その際に身元が分かりそうな所持品は無し、コミュニケーションも一応は取れるが、見た目よりも能力は低い。

そして、全員が気にしている事がある。

 

「その服ですよね」

「病院着にしちゃ、えらく布が厚い。軍が使う拘束衣に近いな」

「拘束って……、こんな子供ですよ!」

「小僧、例えだ例え。ほれ、拘束具の類いがねえだろ」

 

ミフネは考える。

少女、廃棄物13号は明らかに厄ネタの塊。森の反応からほぼ確実に過去、それも軍関係だろう。

森は元特務憲兵隊、その一部隊長だった。警護隊のミフネや情報部のリェンより、軍の暗部に関わってきた男だ。

他部隊では噂話程度のものでも、森達はそれを実際に見てきた。

オブシディアン、ダイヤモンド、クリソベリル。各大隊それぞれに黒い噂はあった。

クローン兵士、遺伝子操作、ホロウ研究。数えたらキリがない。

その中の一つに心当たりがあると見ていいだろう。

 

「噂程度なら少年兵の線もあるが、あれは反乱軍だしな」

「しかし、反乱軍がこんな子供を?」

「あの連中ならやりかねん。だが、こんなガキが逃げられるとも思えん」

 

それに、この少女は誰かに似ている気がする。

そこに何かが引っ掛かる。

 

「……仕方ない、か」

「森、どうした?」

 

森の降りていたバイザーが上がり、カメラアイが露になる。

そこを覗き込む少女の顔は、無邪気そのものだ。

あの日、あの時に遭遇し軍人森悟を絶望させた者達とは違う。

もし、この少女が同じなら、あの絶望を斬り捨ててしまった森悟が出来る事、やるべき事はこれだろう。

 

「……この子の面倒は、俺が見る」

「はぁ?!」

 

自身の顔を触る小さな手に、恐る恐ると触れる。

きょとんとした顔でこちらを見る少女は、満面の笑みで森の手を掴んだ。

ああ、これは償いだ。

あの日、あの絶望を斬り捨てるしかなかった愚か者の。

◯◯年後のミフネさん家

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